ハルバード使いは異世界を謳歌するそうですよ

超究極キグルミ

7 デート、聖木様

 騎士団の詰所から出てきたムラサキさんはいつもと違う格好だった。白いワンピースに白いバンダナを巻いていた。てっきり全身紫色かと思った。

「その、似合ってます?」
「ええ、とても良く似合っていますよ」
「はぅ…」

 顔を赤らめて、手で顔を隠すムラサキさん。そういえばムラサキさんってまだ十四歳なんだっけ。いつもは気が引き締まっているけどたまには息抜きも必要だ。

「そろそろ行きましょうか」
「は、はい!」
「とは言ったものの、この辺はあまり詳しくないし…行きたいところあります?」
「あ、じゃあ大通りにある喫茶店に行ってみたいです!…ただ、場所がわからなくて」「それなら問題ないです。店名わかります?」
「えっと…紅玉ってお店だと思います」
「マップ、コネクトルート センス」
 
 早速複合魔法を使ってみる。今回は、自分の周囲の地図を生成するマップと、目的地への道標を出すルートの複合魔法だ。名前はまぁ、適当に。

「この辺ですか。では行きましょうか」
「ふぁう…」
「どうかしました?」

 ただ手を繋いだだけなのに。ただ、今の声ちょっと面白かった。

「いや、あの、その…」
「行きますよ」
「あ、引っ張らないで…でも、ちょっと嬉しい…」

 ?。


「美味しいですね。ここのコーヒー」
「こっちのパンケーキも中々ですよ。一口食べます?」
「ではお言葉に甘えて。…あ、美味しい」

 噂通りの美味しさだ。コーヒーも苦味が抑えられているにも関わらず風味が感じられる。パンケーキも凝った飾り付けでもないのに素材の味が光っている。

「それにしても、今日はやけに人が多くないですか?」
「今日は聖木祭の前夜祭ですからね。屋台も夜になったら出るでしょう」
「聖木祭ですか?何ですかそれ」
「この国に代々伝わっているお祭りですよ。良ければその童話、聞きます?」
「お願いします」


 聖木様と八人の悪魔

 遥か昔、それこそまだ神様が大地にいた頃の話です。その時にはもう草木が生い茂り、虫や植物が楽しく暮らしていました。さて、とある森に一本の木がたっていました。そこは細長い木ばかりが立つ森なのにその木だけは広葉樹でした。その木は回りと違うということにある日気づいてしまいました。回りの木達は「気にしなくていい」とか「同じ大地に根を降ろす者だから仲良くしよう」とその木に優しくしていました。その木はとても喜びました。けれど、その一方では悲しく思っていました。自分の葉っぱが大きいばかりに、回りの木達が日光を充分に行き届かない。ずっとその事ばかり考えて夜な夜な泣いていました。一方空の上の神様は困っていました。新しく生まれた八人の悪魔が騒ぎを起こしていたのです。そこで神様達は八人の悪魔を地上に落としました。八人の悪魔はとても悲しみました。自分達はただ自分の力を認めて欲しいだけだったのに。八人の悪魔は道に迷い、やっとの思いで広いところに出ました。そこはあの木が作ってしまった場所でした。回りの木達は日光を浴びれずに枯れてしまい孤独でした。そんな木と八人の悪魔は意気投合し何百年も一緒に暮らしました。いつしかその木は回りの者に幸せと不幸を与える聖木様に、八人の悪魔は幸せと不幸を運ぶ精霊となり自分達をトランペッターと呼ぶようになりましたとさ。

「これが聖木様の物語です」
「いいお話ですね」

 聖木様とトランペッターか。幸せと不幸を司る…。

「ってもうこんな時間じゃないですか!?お祭り始まっちゃいますよ!」
「…嫌な予感がする」
「なにか言いました?」
「何でもないです。さぁ、お祭り行きましょうか」

 この不安が杞憂ならいいんだけど…。危機感知の魔法、覚えておくか。


「コウヨウさん!あっちで綿菓子売ってますよ!」
「買いましょうか」
「やった!」

 お祭りが始まって数時間。ムラサキさんはお祭りを満喫しているようだ。

「コウヨウさん、何でさっきから私の方を見てるんですか?」
「いや、無邪気で可愛いなと」
「そんな…可愛いだなんて…」
「…にしても、本当に嫌な予感がするなぁ」

 さっきから危機感知魔法を使っているが、常に何かが反応している。トランペッターか。キリスト教における数々の災害を起こす天使。そこまではいいのだ。ただ心配なのは数だ。こっちの世界だと一匹多い。本当は七匹なのだ。まぁ多少の誤差は仕方ないかもしれない。人類の三分の一消す奴が一匹増えたら厄介なことこの上ないが。

「コウヨウさん、大丈夫ですか?」
「…すいません。ちょっと考え事をしていたので」

 突如ムラサキさんは俺の手を強く握った。

「何か不安な事があるなら相談してください。その…今日一日はコウヨウさんのか、彼女ですからね」
「…ありがとうございます。依頼主に慰められるなんて…情けないです。でも、ちょっと嬉しかったです」
「はふぅ…」
「あははは」

 この時間がずっと続いて欲しい。と、思ったのはこの時からだっけ。なんてことはすぐに終わってしまったが。

ゴゴゴコゴゴ…

「地震か?」

 いや違う。危機感知魔法が最高潮まで反応している。

「コウヨウさん、あれって!」

 ムラサキさんが指差した先にはまだ見たことのないものがあった。それは大きな枝と葉を開いていた。それは、まるで星光を吸収しているかのように光っていた。

「…聖木様。ってことはまさか!?」

 その推測は正しかった。なぜなら、聖木様の回りを漂っている精霊は確かにラッパを持っていた。トランペッターと聖木様。童話の中の者達は突如この世界に現れたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品