ハルバード使いは異世界を謳歌するそうですよ

超究極キグルミ

4 パルテナ王国

「いやぁ負けちゃいました、さすがコウヨウさんです。ハルバードが五十個同時に襲ってくるなんて考えたことないですから」

 床にぐったりと項垂れているムラサキさんはそう言うが、彼女にはまだまだ奥の手があったと思う。

「いえいえ、ムラサキさんも中々強いですよ。結構危ない場面ありましたし」
「うむ、コウヨウ君。騎士団に入るつもりはないかね?」
「うーん…」

 騎士団か。入ってもいいとは思うが面倒なことには首も突っ込みたくないしなぁ。
「お断りします。…ところでムラサキさん、何故蜂蜜を?」

 蜂蜜というワードを聞いたとたん凄い勢いで近づいてきたムラサキさん。でも、ちょっと近くないですか?

「蜂蜜持ってきてくださったんですか!?」
「え、ええ」
「やった!」

 まるで喜びに満ちる子犬のようなムラサキさん。ナポレオンさんに耳打ちする。

「ムラサキさんって蜂蜜の話の時いつもああなるんですか?」
「…彼女は元奴隷だったが実力で使えていた主人を殺し騎士団に入った。蜂蜜が好きなのは奴隷の頃甘いものを食べられなかったからだろう」

 なるほど。人にもいろんな過去があるんだな。ムラサキさんが奴隷…なんだがそいつを一発殴りたくなった。死んでるけど。

「団長!大変です!」

 急に入ってきた騎士に全員が振り向く。歳は二十五歳ぐらいで腰に剣を携えていて肩にざっくりと斬られた痕が残っている。

「どうした!?」
「ま、魔物の群れがこっちに向かってきています!あと五分ほどで!」
「全員出撃体制を整えろ!三分後に出発する!」

 怪我をした騎士の報告が終わると同時にナポレオンさんが叫ぶ。その号令とともに騎士達が動き出す。ムラサキさんはその騎士に近寄り回復魔法をかけているがあまり効いていない。初級の回復魔法では力不足か?

「ムラサキさん、ちょっと退いてください」

 ムラサキさんを退かすと懐から例の本を出してページをめくる。

「回復魔法…あった。ひとまず中級でいいか?フォトンヒール」

 フォトンヒールは回復魔法の初級魔法であるヒールのワンランク上、中級魔法だ。ヒールで力不足ならフォトンヒールならと判断して再開だった。実際、騎士は傷が治っていてすでに動き出している。それよりも魔物の群れだ。

「ムラサキさん、魔物の群れの討伐手伝ってもいいですか?」
「ぜひお願いします」
「わかりました。サーチ 対象:パルテナ王国周辺の魔物」

 ピコンッ!と空に光が昇る。一、十、百…三百体ってところか。

「ムラサキさん、ワープで一気に行きますよ?」
「え?あ、はい」
「ワープ パルテナ王国外壁門」


「団長、遅れて申し訳ありません。魔物は一体どこに?」
「うむ。最初は見えなかったが途中で空に光が昇っていたのですぐにわかったよ。だいたいあと三十秒ぐらいだ」

 光が昇っていた…サーチか。あれ?でもサーチの光は俺以外いないはずなんだがまぁこの際どうでもいい。ひとまず潰すか。

「魔物発見!」
「よし!パルテナ王国騎士団、突撃!」

 団長の号令で騎士が全員魔物の方へ走っていく。こちらは百ちょっと、相手は三百ちょっとだから一人三体がノルマになる。

「行きましょうか。ムラサキさん、背中は任せました」
「了解です。あいつらに吠え面掻かせてやりましょう」

 少し遅れてムラサキさんと俺も魔物に向かって走り出した。



「はぁっ!」

 ムラサキさんが剣を横凪ぎに振る。振られた剣は緑色の軌道を描いて、目の前のスケルトン三体を斬り刻む。群れが来てから十五分たった今、魔物の数は三百体から百体程まで減っている。このまま行けばあと数十分で全滅だろう。

「コウヨウさん、そっちに行きましたよ!」
「了解。それ」

 すぐそこまで近づいてきていたボウ三体にハルバードを軽く当てる。ハルバードに当たったボウは一刀両断されて散っていく。
ちなみに、今はアームコピーとポルガイスターのコンボはしていない。味方に当たったら悪いし。

「騎士団は全員後退しろ!ムラサキ、あれの用意だ!」
「了解!コウヨウさん一度引きましょう」
「いいですけど…何故です?」

 ムラサキさんはにっこりと笑って

「まぁ、あとは任せてください」

 と言った。その目はなぜか黄色に光っていた。


 騎士団が後退してまもなく、ムラサキさんは一人誰よりも前に仁王立ちしていた。騎士団の人達は期待の目でムラサキさんを見るが、俺にはさっぱりわからない。

「そうか、コウヨウ君は知らなかったか。彼女の本気を」
「本気?」
「まぁ見ていればわかる」

 勿体ぶらずに教えてくれよ。と言おうとしだがその前にムラサキさんが動く。彼女が剣を鞘に納め、背中に手を動かす。すると、あるはずのない武器が出てくる。その武器は細長い棒に大きな花の花弁のような刃がついていた。その武器の先端の刃は段々と回り始めた。すると、今までバラバラに動いていた魔物達が全てムラサキさん目掛けて突撃してくる。守ろうと武器をとるがナポレオン団長に止められる。そうしている間に刃はどんどん早く回る。やがて、魔物の一匹が間合いを詰めようとしたその時だった。この戦いを終わらせる技の宣言が轟いたのは。

「…今私がここに居ることの証明最終旋風風車ィッ!」

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