煙草の彼女

イチノセイツキ

煙草の彼女

「タバコ吸っていい?」
薄暗い部屋。一人掛けのソファーに座る女性と
「うん」
広いベッドの上。脱力感。小さく答える僕。
「・・・・・・(ふぅー)」
シャンッ。オイルライターの石が鳴り、彼女の口から煙が天井に向かい流れた。
甘ったるいチョコレートの香りが部屋に広がる。
これが彼女の匂い。
BGM代わりに流していた映画はもうエンディングに差し掛かっていた。
「・・・・・・あの」
「ん?どうしたの」
スマホから目を離さなず彼女は答える。
「いや、何でもない」
ソファーの上で膝を抱える彼女の姿を見て、僕は言葉を続けることを躊躇った。
これ以上話しかけてはいけない。
話しかけたら「キモい」「ウザい」そんなことを思われてしまうんじゃないか? とか考えたりして。
「もう少し一緒にいたい」なんて言えなくて。
僕はそのまま黙ってタバコに火をつける。
 寂しさと虚しさの混ざった溜息を誤魔化す様にに煙を吐いた。       

それからどれくらい黙っていたのかは分からない。
各々でシャワーを浴び、服を着た。
二本目のタバコに火をつけてスマホを弄りながらただ時間だけが過ぎて。
「そろそろ出ようか」
細い声がそう言った。
「わかった」
短くなったタバコを灰皿にしつけ僕は立ち上がる。
何を話すわけでもなく黙ったまま靴を履き部屋を出た。
エレベーターの前で立ち止まる。
ちょうど一つ下の階でとまっていた。
ボタンを押し上がってくるのを待つ。
数秒で上がってきた。ドアが開くとキツい香水の匂いが鼻をついた。
飲み屋の女性だろうか。
そんなことを考えながら狭いエレベーターに乗り込む。
4階から1階まで少しずつゆっくりと降りていく。
その間も2人は無言だった。 
受付に鍵を返して出入口へとむかった。
外に出るとすっかり明るくて。 
朝の澄んだ空気がぼやけていた頭をシャキッとさせてくれる。
自動ドアが静かに閉じ、
「ありがとう。またね。」
「ありがとう。また連絡する」
いつもの味気ないやり取りをする。
その後で彼女と別れた。
姿が見えなくなるまで見送り、タバコに火をつける。
今日も天気は良さそうだ。
「・・・・・・寒っ」
呟きながら煙を吐き、僕はゆっくりと帰路につく。
空は雲ひとつない晴天なのに。
今別れたばかりの彼女・・・・・・竜崎怜奈の希薄で儚げな姿が頭に浮かび。
いつまでこの関係が続くのか。
感傷に浸るのを邪魔してくる朝日に感謝しなければ。
僕は晴れない気持ちを深く吸い込んだ煙草の煙で誤魔化した。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品