幼馴染を悪魔から救う3つの方法

ももも

ベルの好物

 翌日、ぐっすり眠った俺は昨日のことが夢でないことを確認し、それから慌てて朝の支度をした。
 寝癖のついた髪を必死こいて直すこと数分、ネクタイを締め直し、上着を羽織り、カバンを手にした俺は「いってきます」とだけ言って玄関を飛び出した。
 向かう先は三軒隣にあるコノカの家だ。
 小走りで向かえば、そこには見覚えのある姿があった。
 肩に掛かるくらいの長さの亜麻色の髪は朝日を浴びて一層キラキラと輝いていた。
 コノカ、と名前を呼べば、コノカはゆっくりとこちらを振り返った。
 貼り付けたのは、能面のような無表情。
 やはり、そう簡単に笑顔を向けてもらえることはないのだろう。
 それも仕方ないのかもしれない、悪魔に感情という感情を食い尽くされたあとなのだから。


「……なんの用?」


 おはよう、と歓迎してもらえるとは期待していなかった。
 コノカは切り捨てるような物言いをするようになった。
 それは俺に対してだけではない。


「なんのっていうか、その……昨日のことなんだけど……」

「……ベルなら部屋にいるけど」

「そ、……だけど、そうじゃなくて……その、俺はコノカと話したいことがあって……それで……」


 どうも、コノカを前にするとどう話していいのかわからなくなる。
 真っ直ぐにこちらを捉えるその目のせいもあるだろう。
 心の底の不安まで見透かされてるようで、一人で焦って一人で恐れてしまうのだ。


「……わかった」

「……え?」

「……けど、歩きながらがいい。 ……時間が勿体無い」


 そう言って、コノカは腕時計にちらりと目を向けた。
 俺は、正直驚いた。
 以前のコノカなら「嫌だ」といって早々に立ち去るか、無視だっただろう。
 そう考えると、コノカもコノカで思うことがあるのかもしれない。
 そこはかとなく緊張しながらも、俺とコノカは並んで登校することになる。

 昨日、コノカと会ったら何話そうかとかそういうことを考えていたのだが、いざこうして歩いていると言葉が見当たらないものだ。
 沈黙、沈黙、沈黙。
 靴の音だけが響く。


「それで、話って何」


 そんな沈黙すらもあっさりと破ったのはコノカだった。
 じとりと睨まれ、心臓が跳ね上がる。 
 つい条件反射で俺はコノカから目を反らした。


「えーと、それはその……ジュエルのことなんだけど……」

「ベルが言った通り。 私から言うことは何もない」

「……それはそうかもだけど、あの、コノカは、今までずっと一人でジュエル集めてきてたのか?」

「……だとしたら何? ……軽蔑する?」


 そのコノカの言葉に、俺は少しだけ息を呑む。
 コノカがこんな反応するとは思わなかった。
 自嘲的なコノカの言葉に、慌てて俺は首を横に振った。
 嘘ではない、寧ろ、すごいと思った。


「そんなことしない。 けど、すごい大変だっただろって思って……その、今までどうやって集めたんだ?」

「…………」

「コノカ?」

「……なんでもした」

「……へ?」

「なんでもした、怒られたのも泣かれたこもも殺されかけたことだってあった」

「殺され……って……」

「……なんでもした。 私はそれしかやり方わからなかったから」

「…………」


 何も言い返せなかった。
 何をしてきたのか、なんて、もっての外だ。
 コノカが触れられたくないと思ってることが手に取れるようにわかった。
 それは、ベルからもらった能力に関係ないだろう。
 「そうか」とだけ答えるのが精一杯で、押し黙る俺にコノカは小さく口にした。


「けど、ベルはそういう汚いジュエルよりも、もっと暖かくて、ぽかぽかするジュエルが好き」

「……ぽかぽか?」

「人を好きになる気持ち」

「え」

「それを結晶化したものが、すごく美味しいとベルは言ってた」

「好きになる気持ち……」


 わかりやすくはあるが、難題だ。
 考え込んでいると、あっという間に学校が見えてくる。
 俺とコノカの短い逢瀬もあっという間に終わった。

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