幼馴染を悪魔から救う3つの方法

ももも

甘美なる

「こ、のか……?」


 幼馴染の、それも、見たことのない少女とのキスシーンを目の当たりにして、俺は気が動転していた。
 だから、名前を呼んでしまった。
 コノカは、公園の入り口の前、棒立ちになった俺を見て驚くわけでもなく、ただこちらを見据えていた。


「……どうして」


 そう、形の整った薄い唇が動いた……ような気がした。
 コノカよりも一回り小さなその少女は、こちらを見ると「む」と面白くなさそうに人形のような顔を顰めた。


「おかしいな、結界を張っていたはずだが……」

「……ベル」

「すまん、すまん。 しかしこりゃ驚いた、御土橋少年には我輩の結界が効かぬようだ。 まあ無理もない、少年の体は我輩の一部のようなもの、耐性ができてるのは予測済みだ」

「……いい加減にして」

「まあよい、見られたのが少年でよかった……ーーっと」


 先程までキスをしていた二人の会話とは思えないほどの電波な内容に俺は、わけがわからなかった。
 というか、誰なんだ、この子供は。
 少なくとも俺は、広くはないこの街にこんな子供がいることを知らない。
 固まる俺に、ベルと呼ばれた子供はとととっと駆け寄ってくる。
 喪服にも似た真っ黒のドレスは、ゴシックドールを連想させた。
 こちらを見上げる二つの真っ青な瞳が、月の光を浴びては怪しく光った。


「久しいな、御土橋少年。 しかし、残念だがまたさよなら、だ。 短い会合だったが、立派に成長した君をこうして見れて我輩は嬉しいぞ」


 そう、ベルと呼ばれた少女が宙に手を伸ばした瞬間、何もない空間に影のような黒が集まる。
 そして現れたのは、巨大な首狩り鎌。
 一振りで俺の頭を切断できそうなほどの非現実的な凶器に血の気が引く。
 咄嗟に俺は後ずさり、声をあげた。


「っ、ちょ、ちょっと……待てよ、さっきからなんだよ、お前、コノカのなんなんだよ!」


「ほお、自分のことよりもこの子を心配するか。 ……愛いな、のお木乃香」

「……ベル、遊ばないで」

「おお、怖い怖い。  コノカよ、貴様まだそんな顔をすることができたんだな」


 狼狽える俺なんて関係なしにベルとコノカは勝手な会話を繰り広げていた。
 少女の口ぶりからしてコノカの知人に間違いないようだが、だとしても、なんで俺が鎌を向けられなければならないんだ。


「っ、コノカ、どういうことなんだよ、一体」

「……運が悪かった、それだけ」


 運って、と言いかけた矢先だった。
 いつの間にかに目の前にいたコノカの手が、頰に触れる。
 熱を感じさせない冷たい指先。
 睫毛に縁取られた瞳が俺を捉えた。
 怪しく光る双眼から目をそらす事ができなかった、まるで心臓を握り締められたかのように動けなくなる。
 なんか、変だ。
 そう思ったのは、今にも壊れそうなくらい早鐘打つ心臓のせいか。


「大丈夫、すぐに忘れるから」


 そう、コノカが口にした瞬間、コノカの胸の辺りがキラキラと光りだす。
 ライトとは違う、もっと神秘的で、人為的で、おもちゃ的な光りだ。
 驚いたのは俺だけではなく、コノカ自身もだった。
 コノカの胸の辺りから、無数の水色のジュエルがバラバラと溢れ出す。


「ほお、これは」


 まるで女児向けアニメのジュエルのような、プラスチックの宝石のようなそれは空に浮かび、そして、ベルの手元へと飛んでいく。


「っ、なんだよ、それ、なにして……」


 問いかけるよりも先に、ベルは大きな口を開けて、コノカの胸から溢れたジュエルを食べた。
 そう、まるでキャンディか何かのようにバリバリと食べたのだ。


「……うまい、うまいぞコノカ! 貴様まだこんな甘酸っぱいもの出せたんだな!」

「……そんなの、知らない」

「ああ、そうだろうな、けどやっぱり、お前は変わらないってことだろ。 なあ、御土橋少年」


 真っ赤な舌をべろりと蛇のように覗かせ、唇を舐めとる少女は笑う。
 幼い見た目とは不釣り合いの、邪悪で貪欲な甘い微笑みに、俺は魔女を連想した。


「気が変わった。 貴様、なかなか使えそうだな」


 そして謎の少女、ベルは俺の首に鎌をかけ、静かに続けた。

 訂正しよう、魔女というよりもこいつは、死神のそれだ。

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