根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep(3)/act.3 両親と小説


サクラ視点


小学生のパンチをバカにしてはいけない。
大人の身体で受ければ大した痛みはないかも知れないが、小学生のパンチを同等の体格の小学生が受ければ想像を絶する恐怖となる。

「おいチビ太、悪者は早く倒れろよ」
「そうだぞ!ヒーロー山ちゃんのパンチは一撃必殺なんだ!」

ヒーロー番組と言うのは良い子のみんなの味方と言うことでもない。
僕が小学生の頃に流行っていたヒーロー番組にみんな夢中で、僕は悪役として毎日毎日殴り倒されていた。
家で唯一楽しめる漫画やアニメを好きになれなくなったのもこの頃だった気がする。
そんな時、父親が買ってきてくれた冒険小説を読んでから、小説に夢中になった。

今日も、悪役の僕は、ヒーロー山ちゃんとその仲間たちにボコボコに殴られて帰宅する。
家では母親が迎えてくれるが、傷を見られたくなくてすぐに自室へと向かっていた。

ああ、そうだ。今日がこの日だった。

父親と母親が失踪する日。

温かい食事が並ぶ。計算したかのように帰ってくる父親。いつも楽しそうな父だ。

「今日も小説買ってきたぞ!ほら!」

僕の為に時間を見つけて小説を買ってきてくれる。優しい父親だと思っていた。

「ほら、チーズの入ってるハンバーグ好きでしょ?残さず食べなさいよー」

定期的に僕の為に僕の好きな料理を食卓に並べてくれる。優しい母親だと思っていた。

冷めないうちにと用意されたご飯。
父親はササっと着替えて食卓に着く。

今日も美味しいご飯だった。
母親は料理が本当に上手だった。

ご飯を食べた。父親と母親は何やら支度をしているみたいだったけど、僕は気にせずに買ってきてくれた小説を読んでいたんだ。

「ちょっといいか」

小説の世界から引き離した父の一言。

「父さんたち、少し出掛けて来なくちゃいけないんだ。すぐに戻れる。きっと、すぐに戻ってくるから。まあなんとかやってくれや」

笑い飛ばしたような言い方。
当時の僕に言葉の意味は理解できなかった。

両親が出て少しして、父親の鞄にオモチャの虫でも入れて驚かせてやろうと父親の鞄を開く。

中には、僕の好きそうな冒険小説、今読んでる続編と、見たこともないような本の束が入りきる限りに入っていた。

父親も小説が好きで、こんな大人買いしてきたのかと当時は笑っていた。
この本当の意味に気付くのは、僕がもう少し成長してからのことだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品