根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep3/act.11 精霊人の魔術
「まあいいや。君たちはどうして精霊族の国へ来たんだい?」
アルさんは言った。
すると、シンスケさんが答えた。
「出来れば、この国の転移者であるお前を仲間にしたかったが、エドとのやり取りを見た感じ、すぐにそうなるのは難しいだろう。一先ず、俺たちは城へ向かっていたんだ。よかったら案内して欲しい」
「そうかそうか〜。エドくんは関係ないけど、君たちの力量で着いて行ったらいつ死ぬか分からないから、仲間になるのは遠慮するよ。城までならここから簡単な道のりだから案内してあげる」
「それはありがたい。ただ、ひどく警戒してるのはどっちなんだろうな」
「あれれ、君にはバレてたみたいだね」
すると、ずっと話していたアルさんの姿はどこかに消えた。
僕は何がなんだかわからなかった。
「これが本体だ。嘘じゃない」
少し離れた木陰からアルさんが出てきた。
「サクラとエドが気付けないのは仕方ない。こう言った魔術は初めてだもんな」
「こう言うのも今後気を付けないとだね、サクラくんにエドくん。君たちがずっと話していたのは僕の幻影だったんだ。まあ幻影に何かすることは出来ない。サクラくんに触れた時点でも気付けなかった点、サクラくんはもう少し頭を使ったほうがいい」
確かに、よくよく考えたら声がした方に振り向いただけで、触れられた感覚がなかったことに気が付いた。
「まあいいよ。城へ向かおうか」
少し不服そうなエドさんを他所に、僕たちはアルさんに連れられて城へと向かった。
城までは思ったほど距離もなかった。
木々に覆われて最初は見えなかったが、森を超えると目の前に雄大な城があった。
僕らは、アルさんに案内されるままに王室へと向かった。
「転移者たちだな。よくぞ参られた」
今までも威厳のある王様を沢山見てきたが、一際威厳のあるような王様だった。
「久しぶりだなマーベラ。流石は精霊族、しぶとく生き凌いでるみたいだな」
シンスケさんが王様に話しかける。
いや、失礼にも程があるよ…。
「シンスケ兄さん!ご一緒だったんだな!」
あれ…打って変わって笑顔になった…。
威厳のあった王様の顔は一瞬で何処かに消えた。
「えっと…どう言うご関係で…」
エドさんも驚いたのかシンスケさんに尋ねた。
「すまん、説明してなかったな。俺は1000年もこの世界で生きてるだろ?他の国なら何代も変わって行くんだが、精霊族は元より他の国の五倍は生きられる。中でも優れた魔術師は若返ることも出来るんだ。今の王マーベラは、当時12歳の頃に俺と会って少し稽古を付けてやってたんだ」
「え、若返ることが…?それじゃあ不死身じゃないですか!」
僕は思わずシンスケさんに言った。
「いや、そう言うわけでもない。若返ると言っても限界があるんだ。精霊族でも二回が限界だろう。精霊族は約500歳まで生きられる。マーベラが1012歳だから、既に二回使ってる計算になる。この状態で若返りの魔術を使えば、使用した時点で命を落とす」
僕はゴクリと息を飲んだ。
この世界では、魔法で色んなことができる。
知識を広げないといちいち驚いてしまう。
「無駄話が過ぎたな。マーベラ、魔力婆さんはまだ生きてるか?」
「残念ながら魔力婆さんは300年前に死んでしまった。だが、娘が魔力婆さんの代わりを務めている。会ってみるといいよ」
「そうか、どこにいるんだ」
「魔力婆さんが元々住んでいた山小屋に今も住んでるはずだよ。覚えてる?」
「ああ、少し距離があったよな。空間移動の術者がいたら助かるんだが」
「それならアル殿が使えるよ」
「それは助かるな。じゃあ期日も迫っている。早速向かおうか」
空間移動とか魔力婆さんとか分からないことが多すぎるけど、いちいち質問もしてられないほど早く話がまとまった。
アルさんも断れない空気に流されるまま頷いた。
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