根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep3/act.10 冷徹な詐欺師


「お前は……!」

転移者と思われる人物を見るなり、エドさんは声を震わせて言った。

「お前は、詐欺師 Mr.アルだな」

「あれれ、そんな君も殺し屋のエドくんじゃない。この姿でよく分かったね」

「魔法か何かで年齢を変えたのか。それでもすぐに分かった。イギリス人には珍しい白髪に赤い瞳、そして何より頬にある大きな抉れ傷。そこまで一致してたらお前以外あり得ない」

「ど、どういうことですか?前の世界での知り合いなんですか?」

話についていけなくてつい割り込んでしまった。

「知り合いも何も、俺はこいつにそそのかされて殺し屋になったんだ。こいつは、今じゃサクラより若い見た目をしているが、本来なら35歳。小さい頃から大人を欺いてきた生粋の詐欺師だ」

「ひどい言い様だけど、殺し屋になったのは自分の意思だろ?他人のせいにするなよ〜」

何やら、二人には因縁があるらしい。
同じ転移者同士なのに、サタンを倒す責務があるのに、仲間にはなれなそうな気がした。

「あ、あの、それで僕らをこんな足止めしたのはどうしてなんですか?」

僕は限られている時間を思い出し、話を進めようとした。
すると、アルと呼ばれた転移者は少しニヤニヤしながら答えた。

「空から大層な亀が浮遊して来たもんだから、きっと転移者だろうと思って。力量を図ってやろうと思ったんだけど、見込み違いだったね」

僕らは全員、咄嗟の対処が出来なかった事実を叩きつけられた気分だった。
この異世界で、魔族がいつ襲撃してくるかなんて分からない。そんな中で気を許していた、それが全員だったのは事実だった。

「でも……」

そう言いかけてからアルの姿が消え、

「君の目は好きだな。僕の好きな弱い目だ」

僕の後ろで僕の肩に手を回して言った。

僕は恐怖のあまり何も言えなかった。

「サクラ!」

エドさんが僕を突き飛ばした。
何かされると心配してのことだろう。

「ひどい警戒のされ方だね。僕は君たちの敵じゃないってのに」

いつでもニヤリと佇み、それなのに冷徹なその目を見ていると、深い闇に飲まれそうになる。

そんな転移者が、僕らの前に現れた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品