根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep2/act.3 覚悟
「お〜、起きるの早いねぇ」
ヘラヘラとエドさんが部屋に入ってくる。
ミカエルとガゼルも一緒に縛られていて身動きが取れないようだ。
エドさんはミカエルの頭に手を置いて話す。
「お前が何かしようとしたらこの子殺すから」
エドさんはずっとヘラヘラしている。
ミカエルは何も返さなかった。怯えてるのか?
ふと、牢屋に入れられた獣人たちのことを思い出して、拳に力が入った。
ふむ、と僕の顔色を伺いながら話を進めた。
「さっき話してたレオンって奴の言ってること、なかなか面白いね。サタンの代わりにこの世界を支配か…元殺し屋としてはそそられるね。彼は失敗したみたいだけど、俺はしっかりとお前を説得させてみよう。お前は使えそうだ」
少し間を空けてからまたニヤニヤとする。
「どうだ?協力する気はないか?」
僕の答えは決まっていた。もう動じない。
「絶対にしない!僕はどうなっても構わないから、ミカエルとガゼルは解放してやってくれ!」
上がっていく心拍数の中、なんとか捻り出した言葉だった。慕ってくれる彼らに対する、僕なりの、全力の応え方だった。
「じゃあ、ミカエルくんを殺そうか」
「や、やめてくれ!!」
震える身体。恐怖と焦り。
「頼むから…!」
自分をようやく認めてくれた存在。
「この子たちだけはやめてくれ…!!」
自分が死んでしまうかも知れない、そんな恐怖心よりも、認めてくれた彼らを目の前で殺されることの方が、何よりも怖かった。
「何故そこまでこいつらの命にこだわる」
焦っていた僕を他所に、エドさんは変な質問を向けた。なんでそんなことを聞くんだろう?そんな問いに頭を使う余裕はなかった。
「今までの人生で、僕のことを慕ってくれる人なんていなかった。どこに行っても僕のことを見てみんな笑う。どこに行ってもイジメられる。そんな中この世界に来て、やっと出来ることがあるかも知れないと思った。初めて僕を慕ってくれたこの子たちを失いたくない!彼らの為に出来ることをしたいんだ!」
真面目な顔でエドさんは問いかけた。
「サタンを倒すのか?」
真面目な顔でエドさんは続ける。
「お前一人になったとしても、こいつらの為にサタンと戦えるのか?」
僕は悩んだ。きっぱりとは言えなかった。
「分からないけど、僕一人じゃ敵わないかも知れないけど、この子たちの為に強くなるんだ!」
バーン!とドラマで聞いたような銃声の音が洞窟内に響いた。僕は思わず目を瞑った。
目を開けるとエドさんが壁に向かって電撃を放ったようで、壁がジューっと焼けていた。
「雷の音ってのはうるさいんだ」
なんのことだ?思考が追いつかない。
「こんな音にビビってるようじゃ、まだまだサタンを倒す度胸はなさそうだな」
思考が追いつかないことすら見透かしてるような顔でエドさんは僕を見て話している。
「でも合格だ。お前はいい奴だな」
縛られているはずのミカエルとガゼルは、うわぁ〜っと泣きながら飛びついてきた。
「騙すようなことしてすみませんサクラ〜!」
僕は状況についていくことが出来なかった。
拘束器具を外してもらい、さっきの部屋に戻ると、エドさんは事情を話した。
「お前をテストしたんだ。本当に信頼できる奴なのか。まあ、こいつらを見ていれば分かるが、ちゃんとお前の口から聞きたかったんだ」
呆然としていると、エドさんは少しだけ笑いながら続けた。
「実はな、俺のところにもレオンが来て同じ誘いをしてきたんだ。城内だったから頷いてレオンと一緒に町を出た。だからお前は『城内に俺はいない』って厳重な警備さんに言われた。レオンが俺に気を許したタイミングで気絶させて俺は奴の前から姿を消した。セルヴィアに戻っちまったら、奴が何をするか分からないから、俺はこうやって身を隠して他の転移者を待っていた、って訳」
話が簡潔すぎて僕の頭でもすぐに理解できた。
でも、一つだけ疑問に思った。
「エドさんは、レオンさんのように支配してやろうとは思わなかったんですか?」
「俺は殺し屋だからこそ、誰かの命を弄んだりはしたくない。誰かの命を犠牲にしてまでのし上がろうとは思ってない。義賊のようだが、俺は卑劣な権力者にしか銃口を向けたことはない」
エドさんのことを信頼した瞬間だった。
コメント
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この後どうなっていくのか楽しみです!頑張ってください!