根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep2/act.2 雷の転移者
渓谷には綺麗な水が流れていた。
入り口付近には浅瀬が広がり、小さな魚も泳いでるのが見えるほど透き通っていた。
ミカエルとガゼルはピチャピチャと楽しそうに河川の水を飲んでいた。
いや、城で水を貰ったんだからそっちを飲めばいいのに…。もうそんなツッコミはしない。
僕は浅瀬付近の岩肌に腰下ろし、今後のことを考えていると、100cmくらいの小さいおじさんが話しかけて来た。
しかも、小さいおじさんは驚くことを言った。
「おい、お前、転移者だな」
驚きを隠せないままに小さいおじさんに着いていくと、小さな洞窟に辿り着いた。
渓谷の上流、小さな滝の裏に、誰も気がつかないような場所にその洞窟はあった。
洞窟に入るなり小さいおじさんは叫んだ。
「おーーい!転移者を連れて来たぞ!!」
声は洞窟中に響き渡り、しばらくすると一人の男の人が出てきた。
「お〜、早かったな」
掻き上げた茶色い髪に茶色い瞳。腕はゴツく、それでいてスラっとした男性だった。
「その後ろの黒髪坊主が転移者か?」
「そうです!もしかしてあなたも…」
「そうだ。イギリス人32歳。エドだ。よろしく」
エドさんは、何事にも動じないような態度で自己紹介をした。
「僕は日本人17歳、サクラです」
似たような返しで自己紹介をした。
まあ中入れよ、という彼の誘いに応じて僕たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は、トンネルのように電気が設置されていて、コウモリのような生物もいなかった。
「サクラ、お前の名前、偽名だな」
歩きながらエドさんは僕に聞いてきた。
「そうです。自分の本名、嫌な思い出があるし、この世界では前の自分に戻りたくなくて」
「いいな、それ。実は俺のエドってのも、本名じゃないんだ」
「あ、そうだったんですね!?」
「職種柄、本名は晒さないようにしているんだ。まあ、こっちの世界じゃ関係ないんだけど」
本名を晒さない職業。恐る恐る聞いてみた。
「なんのお仕事をされてたんですか…?」
「あ〜、えっとね」
少し間が空き、手を拳銃のように構え、銃口を僕に向けてこう言い放った。
「殺し屋。Code name Mr.Edo. バーン」
銃口を上に傾けて笑いながら答えた。
全身が震え上がった。しかしエドさんは続けた。
「心配するな。殺しも趣味じゃない。仕事で仕方なくやってたんだ。お前を殺す理由もない」
信じていいのか不安だったが、せっかく出会えた転移者を逃すのも惜しく、そのまま歩き続けた。
明るい広間に着いた。元々小さいおじさんの住処なのか、小さい椅子と機械が散乱としていた。
「よーし、まずお前の能力を教えてくれ」
僕は能力を話してまたイザコザが起こらないか心配したが、今までの事を全て話した。
「そのレオンって奴のせいで大変だったみたいだな。お前の力も面白そうだ!」
エドさんはケラケラと笑っていた。
続いて、エドさんも自分の能力の説明を始めた。
「俺はそこのセルヴィアで降臨した。俺の能力は雷魔法を扱う力。相手に触れることで命を奪えるほどの電撃を相手に流せる。もちろん加減も出来て、自由に気絶状態にも出来る。お前の言う二次スキルがそれかは分からんが、ある時から電撃を放てるようになった。ただ、モンスターは倒せても少し強い魔族なんかには太刀打ちできない微弱な電撃だな。離れれば離れるだけ威力は弱まる」
エドさんは、独自に付近のモンスターと戦闘して自分の能力を分析したようだった。
エドさんはそんじゃあ…と言って立ち上がり、僕の肩に手を置いた。
ピリッとした衝撃が走り、僕は意識を失った。
目が覚めると、両手両足を拘束された薄暗い部屋に監禁されていた。
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