根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep1/act.6 絶望
レオンは笑っていた。
信じられないほど顔が歪んでいた。
僕は声が出せなかった。
「サクラ、どうだろう。ここまでしてしまっては取り返しがつかないな。昨日の言葉にお前が耳を傾けないのであれば、この仕業はサクラがやったと王に話してもらおう。そうしたらお前はもう英雄様ではない。魔族の使いか、はたまた災厄をもたらす転移者の完成だ」
「どうしてここまで…」
警備隊は何人か殺されていて、マルコや王にまで目立つ外傷が突き立てられていた。
「簡単なことだ。お前の力は強大すぎる。昨日の話で意見が割れてしまったのならお前と俺は争わなければならない。しかし俺はお前の能力には劣ると確信した。だから脅しをかけている」
「なら、僕がここであなたを倒して皆さんを解放するとは思わなかったんですか」
「考えてみろ。俺の能力は獣人へ自由に変身できるんだ。牢屋の鍵を飲み込むくらい容易い話だ。君は、俺を倒した後に俺を解体して鍵を取り出せるほど肝が据わっているか?」
完敗だった。能力が強くても彼に敵うことはないだろう。生まれ持った知力の差だった。
それでも、レオンを許せなかった。
ヒーローらしい正義感とか、彼らに対する偽善的な同情なんかでもない。
昔の僕と彼らを、照らし合わせてしまったのだ。
僕にもイジメられて付いてしまった、一生消えない傷がある。
その傷は一生僕に付き纏い、弱い自分を、情けない自分を、怖い思い出を、いつだって蘇らせる。
当時、僕に傷を付けた同級生たちは、問い詰められた先生に「遊んでたら出来た」と答えた。
あの日ほど苦しくて悔しかった日はなかった。
それ以上の傷を、僕らを慕ってくれていた彼らに突き立て、尚笑っているのだ。
僕がレオンに従う理由なんてなかった。
手を伸ばす。もういっそ殺す勢いで巨大な円をレオンの周りに広げた。
しかしレオンは身体から羽を生やし、軽々しく円から抜け出てしまった。
「そうか、残念だ。もう少し頭の回る奴だと思っていたのだが」
「それでも僕の能力には勝てないんでしょ。こんなことはもうやめて、本気で行くよ」
レオンは飛びながらまたも声を上げて笑った。
「ああ、勝てない。昨日の時点では」
ニヤニヤと僕のことを見下げながら、レオンは話を続けた。
「お前から二次スキルの話を聞いていてよかったよ。俺はただお前を脅すためだけにこんなことをしたわけではない。彼らを痛めつけ、閉じ込めることで、俺も二次スキルを取得したのだ」
獣人の二次スキル。
想像すらできなかった。しかし、僕の能力に勝てると確信するほどの力なのだろう。
一瞬にしてさっきまでの怒りは恐怖に変わった。
「獣人の二次スキルはこれだ!」
手を下に向けると地面には光る模様が現れ、そこからは大きいトラが現れた。
「猛獣の召喚魔法…?」
「そう。獣人の二次スキルは召喚。猛獣だけではなく、様々な生物を召喚できる」
「こんなことで僕を倒せると思ったの?」
僕は警備隊との戦闘での経験を活かし、トラをあっと言う間に戦闘不能にした。
「トラの一匹、今の僕には敵じゃないよ」
すると、レオンはまた大きな声で笑い出す。
そんなこと計算済みだと言わんばかりに。
レオンはまた手を下に向けた。
今度は、見たこともない生物が現れた。ケンタウロスのような足が4本に腕が1本。
模様での判断になるが、足は多分トラで、腕はゴリラだろう。顔はライオンだった。背中からは恐竜のような羽が生えている悍ましい姿だった。
「俺自身が身体の箇所を別の動物に変身させることが出来るんだ。ならば召喚した猛獣だって色々な組み合わせが可能なはず。飛べればお前の攻撃は避けられるのに対し、お前は足だろうと手だろうと顔だろうと、猛獣から一撃でも食らえば致命傷だろうなぁ?」
僕は、猛獣にやられる未来しか見えず、成功者に逆らってしまった自分に、絶望した。
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