根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜
Ep1/act.4 魔族の力
マルコは驚いた顔でサクラを見回す。
そして一目散に警備たちと頭を下げた。
「申し訳ありません英雄様!!不躾な我々をどうかお許しください!!」
「いいんですよ。僕も例外みたいだし、戸惑わせちゃってすみませんでした」
サクラの話す通り、戦闘した警備に意識は戻っており、外傷の後すら見られなかった。
「なあマルコ。昨日話していた魔法を使う五国は何の魔法を使うんだ?」
「そうですね…魔法の国も獣人同様に種族が分かれております。例えば、火を扱う魔法使いが水の属性を扱う魔法使いと結ばれた場合、その子供は火と水を扱うことが出来ますが、火や水の強化魔法は使えません。従って、決められた国に決められた魔法のみと言うことはなく、様々な属性の魔法使いが散乱としている国となっております」
「そうか。なら扱える属性の種類は何だ」
「扱える属性は自然の中にあるもののみになります。火、水、雷、風、土ですので…」
「光や闇と言った属性は国にないんだな」
「左様でございます。ですので、サクラ様のように闇の属性を扱えるのは魔族のみとなります」
「魔族の力……」
サクラは自分の掌を見ながら呟いた。
そんなサクラを見て、レオンは肩に手を置きながら話す。
「サクラ、そう落ち込むな。その力どうこうが問題なのか?違う。問題は、その力をお前自身がどう使うか、だろ?」
サクラはレオンを見上げた。レオンは笑っていた。その笑顔にサクラは安心した。
レオンはすごい。レオンのような人がサタンを倒してしまうんだろう。サクラはそう思った。
「夜も更けてまいりました。細かい話はまた明日するとして、今晩はゆっくりお休みください」
空気を読んでマルコは切り出す。
この世界に春夏秋冬が存在するのかは分からないが、パルテナの夜は少し寒かった。
一部の警備の他は皆城内へと戻って行った。
「サクラ様のお部屋はこちらになります。何か御座いましたら、お気軽にお越しください」
そう言ってマルコは部屋から出て行った。
ほんのり明るい部屋の電気に、広い部屋。大きいベッド。部屋の隅には机と椅子。
こんな城に泊まることはもちろん、ちゃんとした部屋で過ごすこともサクラは初めてだった。
部屋に入ったのも束の間、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「サクラ、少しいいか」
部屋に現れたのはレオンだった。
「レオンさん。どうかしました?」
「こんな時間にすまない。今後の話をする前に、君という人間を知っておきたくてな」
「僕という人間?」
「君の性格だ。どんな人間かも分からずに信頼することなど、誰にも出来ないだろう」
なるほど、と頷き、サクラは元の世界での自分の過去や人間関係を話した。
「悲惨な過去だな。そんな人生を歩んでる中でいきなり別世界に飛ばされ、世界を救ってほしいなんて、たまったものではないだろう」
「そうでもないですよ。この世界で僕に何が出来るかは分かりませんが、少し憧れていました。こういう世界に」
そうか。と俯きながらレオンは自分の話をした。
レオンはアメリカ出身で、年は28歳。サクラは聞いたこともないが、大手企業の責任者を務めていたらしい。結婚を控えた彼女もいると言う。
「なあ、一つ提案なんだが」
切り出したレオンの顔は、いつもの落ち着く彼の頼もしい顔ではなかった。
「この世界を俺たちの力で支配しないか」
サクラは言葉の意味を理解できずに、いや、唐突な彼の言葉に、理解が追いつかなかった。
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