根暗勇者の異世界英雄譚Ⅲ 〜闇魔法を操る最弱な少年の話〜

雨猫

Ep1/act.3 もう一人の転移者


「お前、魔族じゃなくて人間だな」

魔族らしき彼が来るなりレオンは話し始めた。

「黒髪に黒い瞳、ヒョロい体型、日本人か」
「そうです。そう言うあなたは外人の方ですね…どうして日本語が話せるんですか?」
「いや、俺の耳にはこの世界の住人の声もお前の声も全て英語に聞こえる。理由はわからないが、全ての人種と言語が通じ合えるようだ」

レオンは元の身体へ戻して話を進める。

「お前はどこの国に降臨したんだ。そして何故この国を襲ったりした」
「国に降臨…?僕が扉をくぐった先にあったのは死体の山で、村とかさっきの城とかってものは周辺にはなくて…」

(俺が聞いた話と違うな…しかしこいつが嘘をついているようには思えない…)

レオンは、獣人ビーストに聞いたこの世界の全てのことを彼に伝えた。

「それじゃあ…僕はなんなんだ…?」
「ふむ、この世界では例外だろうな。お前が災厄をもたらす存在の可能性もあるかも知れんが、本当に何も知らなそうだし、魔族と会ったわけでもなさそうだ。なら何故さっきは城を襲ったりしたんだ?」

少し考えた後、黒髪の少年は答えた。

「僕はただこの世界のことを知りたくて…城に行けば何かしら情報を得られると思ったんですけど城門の警備に抑えられて…『自分は転移してやってきた』って説明したんですけど、どこの国から転移した?とか能力は?とかよく分からないことを言われて、取り敢えず僕がここに来るまでに覚えた魔法を使ったら魔族のものだと攻撃を受けて、身を守るために襲って来る方達は戦闘不能にしていました。でも、命を奪ったりなんかはしてません!!すぐに目を覚ますはずです!」

納得したレオンは、まず自分たちが敵同士になることを避ける為に自分の能力の説明をした。

獣人ビーストに変身する能力…!すごい!カッコいいですね!!」
「まだ扱いは上手く出来ないがな。他にも力が隠されてそうだ。それよりお前の能力も教えてくれよ」
「僕の能力は…」

黒髪の少年は一度躊躇ったが、続けた。

「…死者を喰らう能力のようです」

「死者を喰らう能力…?」
「自分でもあまり理解できてはいないのですが、死体の山にいた時に、何故かこうするといい、みたいなイメージが身体に出てきて、試しに1つの死体に手をかざしてみたら死体の周りにさっきのよりも小さい紫色の円が現れて、死体とか周りの血とかを吸い込んで、その後すぐに身体が身震いして全身が軽くなった気がしたんです」

「死体を吸収することによる身体強化…?」
「多分…。死体を吸収したあと数分だけ、ジャンプ力も足の速さも僕の限界を遥かに超えたものでした」
「でも待て、そしたらさっきの戦闘はおかしくないか?身体強化をしたなら物理的な攻撃をするはずだし、お前は明らかにあの円で彼らを攻撃していた。あれはお前の他の能力になるのか?」

「別…と言うよりかはこの能力としての二次スキルに当たるものだと思います」

「二次スキル…?」

「はい。死体を吸収することによる身体強化以前に、死体が放置されてしまっているのがなんだか可哀想で全てを失くそうと思ったんです。僕の自己満足になりますけど…やっぱり放置されているのは可哀想で…。死体の数が100、200、もっとかな…でも数え切れないほどの死体を吸収した後でした。急に身体にまた、こうするといい、みたいなイメージが出てきて、イメージ通りに念じたらさっきのような大きい紫色の円が地面に現れたんです」

「あれの効果はなんなんだ?」

「あれに囲まれた対象は、僕の意思により最悪死に至るまで精力を奪います」

レオンは唖然とした。こいつの能力は変身する俺なんかよりも遥かに強いと、そう思った。
しかし、驚きは次第に希望に変わり、レオンは声を上げて笑った。
そう、同じ転移者なのだから敵対することはないのだ。怯える必要なんかない。

「いつまでもお前呼ばわりは嫌だな。名前を教えてくれ。俺はシルヴァ・レオン。気軽にレオンと呼んでくれ」
「レオンさんですね。僕は……」

少年はまた躊躇い、ハッとしたように続けた。

「サクラです。サクラ」
「サクラ?苗字か?まあいいか。サクラ、同じ転移者として今後ともよろしく頼む」
「はい!」

レオンとサクラは互いに握手をし、希望に溢れた互いの顔を見合った。
この世界で初めて、同じ境遇に出会った。

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