比翼の鳥

百合根遼介

二度目の春

「俺と、付き合ってください」
 高校に入って二度目の春に諏訪賢人は、幼馴染で同じ弓道部の喜多村夏海に告白した。「嫌か?」と、少し不安げな声で諏訪が言うと、耳を林檎より真っ赤にした喜多村が、少し照れ臭そうに「遅いよ」と応えた。語尾が少し涙声になっていた。
 2人は住んでいた家がすぐ近くにあったので、幼稚園から高校まで同じところに通っていた。諏訪が何か新しいことを始めるたびに、喜多村は「けんちゃんがするなら、わたしもする!」と言って、いつも同じものをしはじめていた。今の部活、弓道もそうだった。
 中学に入った時、喜多村は「ねー、けんちゃん。部活何するか決めた?」と、いつものように明るい声で諏訪に聞いてきた。「弓道をすることにしたよ」と、諏訪は細かいことを言わずに答えた。「弓道かー。かっこいいなー」と、弓道以外の文字を当てはめても成り立ちそうな言い方で、喜多村は相槌を打った。それから少しして、諏訪が学校の道場に行くと、そこにはもう喜多村の姿があった。「だって、けんちゃんがすることだもん、きっと楽しいに決まってるよ」と曇りを知らない目で諏訪を見て、喜多村は入部理由を伝えた。弓道部は2人が思っていた以上にハードな部活だった。毎日ある練習は筋トレの日々で、弓をまともに持って練習をするのは、入部をして2ヶ月が経ってからの日だった。入部後半年程して、「けんちゃん、部活楽しい?」と、何気なく喜多村が訊いた時があった。「部活?もちろん楽しいよ。最近は的に向かって引き始めたし、たまにあたりはじめたしね」と言うと、「けんちゃんはブレないね...私も頑張んないと」と、何かを決心したような目で答えた。その日から、夏海の部活に対する態度が変わったように諏訪は感じた。毎日部活に来るようになり、真面目に練習をしはじめた。2年になると、2人は大会でそこそこの成績を残せるようになった。お互いがお互いを意識しあい、互いに練習をしたからだ、と諏訪は思った。性別が違うせいで公式の大会では同じチームを組めないことを、惜しいと思った。
 この頃から「お前ら、いいコンビじゃん」と、部活の同級生に言われはじめた。最初はなんだかモヤモヤするものを感じていたが、中3になる頃には慣れていた。6月の大会で中学弓道に別れを告げ、高校入試を終えた後「全く、どこまで付いて来るのやら」と内心思いながら、合格表示を見て諏訪は笑って呟いた。視界のギリギリの場所で、人一倍大きい声を出して喜ぶ喜多村の姿が見えた気がした。
 高校での部活は、中学のそれとは桁違いに厳しかった。練習時間が伸びたこともあったが、何より縦社会がより顕著になっていたのが一番の違いに思えた。そんな時でも、諏訪と喜多村はお互いを励まし合いながら部活を乗り越えていった。しばらくして諏訪は、喜多村の引く姿をよく見ている自分がいることに気がついた。ここ最近は、ずっと喜多村の射型が気になってばかりいると思いはじめていた。それから「喜多村のことが好きだ」と理解するのに、時間はそうかからなかった。

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