裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

354話



シャワーを浴びながらボーッとしていたら、湯船に浸かっていたカリンたちより遅かったらしい。
というか、時間をかけ過ぎたせいで村の子どもが呼びにきた。
俺がいるのがシャワー室だったから、異性のアリアたちじゃなくて同性のこの子どもが呼びに行く役目を任されたんだろう。かなり恐る恐るといった感じでみんな食堂に集まってると伝えたあとに急ぐ必要があるわけではなく一応知らせるべきかと思ったから伝えただけで、というかアリアさんにいわれただけで僕の意思というより…という感じでめっちゃ言い訳してて、なんだか申し訳なくなってきたからすぐに向かうと伝えて子どもには先に行かせた。





食堂に入るといくつかの集団が立ちながら会話をしているみたいだが、誰も皿を手にしていないように見える。
テーブルの配置を見た感じ、いつもの夕食ではなく、立食パーティーみたいにしたみたいだが、まだ始めていないってことか?

なんとなく周りに置かれた料理を見回してみたが、たしかにご馳走だ。

「あっ!リキさん、遅いですよ!」

カリンが俺を見つけて笑顔で近寄りながら声をかけてきた瞬間、食堂の空気が張り詰めた気がした。

「あぁ、悪い。ちょっとボーッとしてたわ。」

まぁ気のせいだろうと俺がカリンに答えたら、空気が和らいだ。ってことはやっぱり張り詰めてたのか。カリンの口調が俺を非難してるっぽかったからか?顔はめっちゃ笑顔だったけどな。

「疲れてるんですか?」

「いや、そういうわけじゃないから気にすんな。早く飯食おうぜ。」

「はい!リキさんが私たちを歓迎してくれて嬉しいです!」

ん?話が微妙に噛み合ってない気がするが、まぁいいか。実際、歓迎はしてるしな。

「…リキ様、ご挨拶をお願いします。」

いつのまにか近くに来ていたアリアに挨拶をするよう促された。
やっぱり俺を待っていたせいでまだパーティーは始められていないみたいだな。
べつに待ってなくて良かったのにと思うが、さすがにそうはいかねぇか。

「あぁ、わかった。……カリン、ラスケル、パトラ、ピリカール、リッシーだったか?わざわざこんななんもない村まで来てくれてありがとな。ウチの村のご馳走を用意したから遠慮なく食ってくれ。部屋も用意してあるから、時間は気にせず楽しんでくれればいい。それじゃあ、いただきます。」

「いただきます!!!!!」

いつもの夕食の癖で「いただきます」といっちまったが、こういうときは各自グラスを持たせて「乾杯」とかの方が良かったかもしれねぇと後悔したら、元気な「いただきます」が返ってきた。
この村では「いただきます」で間違いなかったみたいだ。

「これ、クローノストで聞きました!確かカテヒムロで流行ってた勇者流の挨拶ですよね?」

「そうらしいな。」

詳しく知らんけど。
たしかそんなようなことをリスミナが前にいってた気がする。
実際はただ単に俺が子どもの頃からしてる食前の挨拶ってだけで、癖みたいなもんだけどな。

「らしいって、もしかしてリキさんが勇者流を流行らせたとかですか!?」

「いや、ちげぇよ。勇者が使う挨拶ってのは知ってたが、流行ってたってのは最近聞いて知ったってだけだ。」

「な〜んだ。」

何がそこまで面白いのか、カリンは楽しそうに笑いだした。

「というか、料理を取りに行くぞ。せっかく作ったのに冷めたらもったいないからな。」

「そうですね!」

誰も料理に手をつけられなかったのは俺が遅れたせいということは棚に上げ、俺が壁際の料理に向かうとカリンが隣に並んでついてきて、ラスケルたちは少し迷ったようだが横山が動き出したら一緒についてきた。
そういやカリンたちはこっちの住民用の区画に入るのは初めてだから、知り合いがほとんどいないんだったな。だからどうしていいかわからない状態なんだろう。
招いた側が気を使うべきなのはわかってるが、横山がなんとかしてくれるだろう。まぁ横山もまだここをアウェイと思ってるかもしれないけど。

大きめの皿にてきとうに何種類かの料理を盛り付け、とりあえずクリーム系のパスタをフォークで巻きつけて口いっぱいに詰め込んだ。
咀嚼しながら目についたローストビーフっぽい薄い肉をトングでガッツリ掴み、パスタを食べたことで少しだけ空いたスペースに追加で盛り付けてから、フォークでぶっ刺して頬張った。
なんの肉かわからんがうめぇな。

俺が無言で食っていたからか、カリンも話しかけてこないで食べることに集中し始めたみたいだ。
カリンは野菜から食べる派か。そのサニーレタスみたいなやつでこのローストビーフっぽい肉を挟んだら美味そうだな。いや、他の肉でもありか。



1皿目を空けたところで子どもが空いた皿を受け取りにきたから渡し、新しい皿にまだ食べてない肉料理と野菜類を乗せてからカリンに向き直った。
カリンは俺がひとまず落ち着いたことに気づいたのか、口の中のものを飲み込んだあとは食べるのをやめて微笑みかけてきた。

「まずは俺が食べないと遠慮するやつもいるし、実際かなり腹減ってたから、まずはガッツリ食ったけど、立食形式なら食べながら理由を聞けそうだな。…で、何があったんだ?」

「え?」

俺が質問した瞬間、カリンの黒目がブレた。
やっぱり仲間が死んだとかで話したくないことだったとかか?

「無理に話す必要はねぇけど、話すことで頭が情報を整理できて受け入れられたりするってこともあるらしいからな。まぁ話したくなかったら普通にここまでの冒険譚でも聞かせてくれ。」

厚切りのカットステーキと野菜をまとめて口に含んで噛みしめると、野菜の甘みと歯ごたえ、肉の旨味と弾力、ソースの香りと塩気が絡まって俺の味覚を蹂躙する。
この肉いつも食ってる肉より美味くねぇか?もともと気になるほどの臭みがあったわけではないが、この肉は獣臭さというか魔物臭さがほとんどない気がする。野菜と調和して感じなくなっただけか?

「恋愛って一緒に旅した仲間から離れてでも求めたくなるものなんですか?それとも私との冒険が面白くなかったってだけですかね?」

カリンが話し出しそうな気配に合わせて咀嚼中だったものを飲み込んだんだが、いざ話し出した内容が予想と違っていたせいか理解するのに少し時間がかかった。

てっきり仲間の死を受け入れられないとかかと思っていたんだが、私たち付き合うことになったんで冒険者辞めます系か。そんなん好きにさせればいいんじゃねぇか?そこで無理やり引き止めても邪魔にしかならなそうだし、そんな自分勝手なやつらとかどうでもいいだろ。そんなことで元気がなくなるほどカリンは繊細なやつだったか?さすがに俺みたいにすぐにどうでもいいとなるタイプではないとは思うが、最終的にはお幸せにと送り出しつつ友だちは継続するタイプかと思ってたわ。

「カリンと冒険やら旅やらがつまらないなら、他のやつも抜けてるだろうから、そんなことないんじゃねぇの?カリンよりランク上なのに残ってるのが2人もいるんだから、つまらなさが原因ってことはないと思うけどな。あと恋愛の価値観は人それぞれだからなんともいえないが、恋人が出来たら死ぬ可能性が高い冒険者は辞めたいって思うやつはそれなりにいるかもな。」

「それなら話してくれてもいいと思うんですけど、クルルくんとハイゼちゃんはクローノストに着いた翌日の早朝には書き置きもなくいなくなっていたんですよ。1ヶ月以上も一緒に旅して仲良くなれたと思っていたのに、恋愛ってそこまで人を変えちゃうものなんですか?」

カリンが悲しそうな顔を向けてきたが、それは恋のチカラとかではなく、単にそいつらがクズなだけだろ?

「恋は人を変えるってのはよくある話だが、単にそいつらに問題があっただけだと思うがな。もしかしたら黙って付き合ってるのが気まずくて逃げたのかもしれないが、どっちにしろ変わんねぇか。」

「えっと…2人がそういう関係なのは知ってました。その…2人は野営中でも構わず…あの……なので、音や声でさすがに……わかりました。」

カリンは何かを思い出したのか顔を赤らめて目を逸らした。
場所やタイミングもおかまいなしにクルルのクルルが勃ったわけね。
そこで受け入れる方も頭おかしいし、やっぱりただのクズどもなだけじゃねぇか。
むしろよくカリンたちは追い出さなかったな。

「一応聞いておくが、そいつらは獣人族だったりするか?」

「?…いえ、人族ですよ?…もしかしたら、それで疲れてか見張り番中に2人して寝ていたことがあって、その時に強く怒ったせいで私のパーティーにいるのが嫌になったのかもしれないです。」

獣人族なら繁殖期があるらしいから仕方ない部分もあると思ったが、違うらしい。
しかもやり疲れて見張りをサボるとか、何考えてんだ?

「カリンの元仲間ってことで言葉を選んでいたけど、もう無理だわ。というか、カリンが悲しむ必要ねぇと思うぞ。そいつらがただのクズだったってだけだからな。集団行動に男女がいればよくある話だとは思うが、それでも普通はやるタイミングくらいは考えるからな。命がかかわる冒険者なら危機的状況を一緒に乗り越えたりして恋愛感情が生まれることは仕方ないにしてもその2人はありえねぇだろ。恋が人を狂わせることもあるが、そいつらはそもそも狂ってたんじゃねぇか?じゃなきゃいつ襲われてもおかしくない野営中にやらねぇから。しかもその後の見張り番で寝るとか下手したら全滅してたからな。それは恋じゃなくてただの性欲だ。性欲を自制出来ない病気もあるにはあるが、黙って逃げた時点で直す気もないクズだろ。むしろ1人を取り合いになってパーティー崩壊にならなかっただけマシなんじゃねぇか?だからパーティーとかには自制出来ないやつを入れないか、同性だけにするか、諦めるかってのを最初に考えておくべきだと思うが…………その辺もパーティー組ませたときに教えておいてやるべきだったな。あと、あえてカリンが責任を感じるべきことをあげるとしたら、2人が逃げるまで放置したことだ。ありえないレベルの迷惑をかけてるんだから、すぐに改善させるか、無理ならリーダーであるカリンの意思で脱退させるべきだったと思うぞ。そいつらのせいで他のやつに迷惑がかかっているのに我慢させてたってことだからな。完全な平等なんて無理だが、あからさまな不平等はパーティーとしてまずいだろ。」

他人事なのになんか変にイラついちまったせいで言葉が止まらなかった。
途中で気づいてそれっぽい感じでまとめてみたんだが、カリンの驚いた顔を見る限りミスったっぽいな。

ふと、静かなことに気づいて周りを見たら、食堂内にいる全員が黙って俺たちの方を見ていた。
表情は様々だったが、俺が周りを見たことで目が合ったやつから順にビクッとして俺から目を逸らし始めた。

「…………。」

「まぁ端的にいえば、カリンが責任を感じるべきところは無理やりにでも改善させるか、カリンが脱退させるべきだったってだけで、頭がおかしいやつらの行動に対して悲しんだり責任感じたりする必要はねぇってことだ。だからといって悲しんじゃいけないってわけでもねぇからな。俺はムカついたけど、裏切られて悲しいって思うのもおかしなことじゃないし。」

「リキさんも同じことがあったんですか?」

「は?あぁ、俺がムカついたってのはカリンの話を聞いてって意味……いや、なんでこんなにイラついてんのかわかったわ。そういや俺も性欲を自制出来ないやつに殺されたんだったな。しかも俺はそいつを親友だと思っていたからか、普通に殺されかける以上にイラついてたんだよ。カリンの話を聞いてそれと重なったんだろう。悪いな。」

よっぽどイラついていたせいか、周りの状態に気づくのが遅れたが、さっきのなんて比にならないレベルで食堂の空気が張り詰めていた。いや、凍ってるって表現した方がいいかもしれねぇな。
目の前のカリンが普通に心配そうな目を向けてくるから気づかなかったが、周りの反応からして無意識に威圧しちまってたかもしれん。
ラスケルとたぶんパトラだろう女が俺の背後で警戒態勢を取ってるしな。その2人をアリアたちが警戒しちまってるから、何かの拍子に殺し合いが始まりかねない空気だ。まぁ実際に始まったら殺し合いなんかじゃなくて、ラスケルとパトラが一方的に殺されるだけだろうけど。

隼人に対する怒りはいまだにあるが、感謝の気持ちもあるから、会わない限りは平気だと思ってたんだがな。

「辛いことを思い出させてしまってごめんなさい……。」

意識的に自身を落ち着かせていたら、カリンが悲しそうな顔で謝ってきた。

「カリンが謝ることじゃねぇよ。俺がいまだに感情の整理が出来てないってだけだからな。まぁそいつのおかげで今の俺があるってのも事実だし、そのうち気にしなくなるとは思うから、もうちょい時間が必要ってだけだ。カリンの場合は時間で忘れるのが嫌なら2人を探し出して会うって手も取れるし、俺と同じ手段を取る必要はないからな。俺はその2人のことを知らんし、カリンや他のパーティーメンバーがその2人に対してどう思っているかもわからないから、どういう手段を取るかはよく考えて決めればいい。あくまで俺の意見としてはそいつらのことなんて忘れて、同じことにならないように気をつける方に時間を使った方がいいとは思うけどな。それでも探したいんだったら手伝ってやるよ。」

カリンは困った顔で周りのパーティーメンバーを見た。この反応はカリン的には会いたいけど、他のパーティーメンバーはどう思ってるんだろうっていう確認か?

「僕はあの2人とはもう会うべきではないと思う。リキさんほどじゃないけど、僕もあの2人にはムカついているから、たぶん会っても話し合いなんてできる気がしない。そもそもあいつらとまともな会話なんて無理だと思う。それでも最近のカリンに元気がないのはわかってるから、どうしても会いたいなら一緒にあいつらを探すよ。」

最初に答えたのは1番付き合いの長いラスケルか。
カリンが悲しそうにしていたから、てっきりパーティーメンバー全員がショックを受けているのかと思っていたが、ラスケルの意見を聞いた感じ全員がってわけではないっぽいな。

「あたしもあいつらのことは気にしない方がいいと思うな。カリンだって何度かクルルに誘われたんだからわかるでしょ?クルルは誰でもいいからやりたかっただけで、最初から周りのことなんて何も考えてないクズだったんだよ。あたしたちは男としてのクルルになんて興味ないっていうのにハイゼの嫉妬も面倒だったしさ。あたしとしては2人が消えてくれて良かったとすら思ってるけどね。ただ、カリンの気持ちの整理のために話し合いが必要っていうならあたしも付き合うから、カリンがしたいようにして大丈夫だよ。」

ぱっと見の実力から判断したらこいつがパトラだろうな。さっきはちゃんと警戒態勢を取っていたし、たぶんカリンパーティーで1番強そうだし。

パトラも2人を否定しつつもカリンの意見を尊重するつもりのようだ。
ってかクルルってやつは他のパーティーメンバーにまで手を出そうとしてたのかよ。もしクルルがモテるタイプだったらパーティー崩壊待ったなしだったじゃねぇか。というかジョブが巫女のカリンまで誘うとか何考えてんだ?いや、何も考えてねぇのか。

「私もあの2人にはもう会いたくないかな〜……。1番付き合いが短かった私でも不快だったし、カリンが2人を追い出さないのが不思議だと思ってたくらいだもん。クルルは拒否ってるのにしつこいし、ハイゼは思い込み激しくてネチネチとうるさいかったしさ〜。でもあの2人がいないこのパーティーは居心地いいし、カリンがどうしても会いたいっていうならしょうがないから一緒に行くよ〜。私もリキさんと一緒でカリンが悲しむ必要なんてないと思ってるけど、カリンの気持ちはカリンのものだから、カリンの好きにしたらいいと思うな〜。」

1番気の弱そうなローブのやつがリッシーだったはずだから、この語尾を伸ばした気の抜けた喋り方をしてるやつがピリカールか。デカい盾を背負ってるから勝手にしっかりしたというか堅いイメージを持っていたが、勘違いだったみたいだ。
ピリカールは途中でメンバーに加わったらしいが、勝手にやめた2人と時期は被ってるんだな。
どの程度期間が被ってたのかは知らないが、だいたいはラスケルやパトラと同じ意見のようだ。というか、カリン以外はいなくなってくれてむしろありがたいくらいに思ってるってことじゃねぇか。

「わ、わたしはみなさんに合わせます!」

リッシーはクルルとハイゼのことは知らないみたいだから、他のパーティーメンバーが決めたことに従うつもりのようだ。
リッシー以外は思ったことを伝えはしたが、結局はカリンに合わせるつもりみたいだから、カリン次第ってことだな。

カリンに視線を戻すと、カリンは目を瞑っていた。
こいつ……もともと人の話を聞かないやつだとは思っていたが、さすがにこれはと思っていたら、カリンが目を開けて、決意を固めた表情を俺に向けてきた。どうやら聞いていなかったわけではなかったようだ。危なく余計なことをいうところだった。

「リキさん、ありがとうございます。みんなもありがとう。私は初めてパーティーメンバーがいなくなったことが悲しくて、でも私が動揺してるせいで何かあったらいけないと思って普通にするために考えるのをやめていたから勘違いしちゃっていたし、みんなに余計に迷惑をかけちゃっていたことに今まで気づけなかった。……ごめんなさい。それでも私と一緒のパーティーでいてくれて、これからもいてくれるっていってくれてありがとう。おかげでちゃんと考えて、気持ちを整理出来たと思う。私はパーティーメンバーが辞めたことが悲しかっただけで、2人と仲直りがしたいわけじゃないから、2人のことは探さないし、話し合いもしようと思わない。本当は私がもっと早く2人に注意して、直す気がないならリーダーとして2人を脱退させるべきだったのに、その勇気がなくてみんなに迷惑をかけてごめんなさい。……これからは何かあったらみんなでちゃんと話し合いをして決めたいと思うんだけど……いいかな?」

カリンとは思えないくらいにしっかりとしてんじゃんと思っていたら、最後は自信なさげにパーティーメンバーへと確認を取っていた。
本人は自信がなくて不安になったのかもしれないが、側から見るとちゃんとリーダーやってんだな。

「そうだね。今まで不満に思いながら何もいわなかった僕も悪かったよ。」

「もちろんだよ。あたしも面倒だからって2人から距離をおいてないで、話し合うべきだったし、ごめんね。」

「そうだね〜。私は後から入ったからなんて遠慮しないでもっと話し合うべきだったね〜。ごめんなさい。」

「は、はい!」

ラスケルたちがそれぞれ答えたことで一件落着したようだ。横山だけはまだ正式にパーティーメンバーではないからなのか、カリンの質問に返事をするかしないか迷ったうえで答えずに聞く側に回ってたみたいだ。
そんな葛藤に気づいていないカリンは横山にも笑顔を向けていたが、向けられた横山は申し訳なさが混じった笑顔だった。

けっきょく俺の意見は必要なかったみたいだな。まぁいいけど。そもそもパーティーメンバーでちゃんと話し合っていなかったことに驚いたわ。
ウチみたいに俺以外が奴隷ってことならわかるが、普通のパーティーで話し合いなしとかよく崩壊しなかったな。

話もまとまって、カリンの変な雰囲気もなくなったからと、食事を再開したことで気づいたが、どうやら周りのやつらまで手を止めて話を聞いていたみたいだ。
そういや今思い返すとカリンの話をしている間、やけに静かだったな。
どうやら周りに気を使わせちまったようだ。気を使わせたというより飯が食えるような雰囲気ではなかっただけかもしれんが。

「リキさん!この肉巻きおいしいですよ!リキさんも食べてください!」

「既に食ったし。たしかに美味かったけどな。そういやカリンのためにドライアドベリーとかいうのを取ってきたみたいだから、あとで食べてやってくれ。」

「ドライアドベリー!?そんな高級食材まであるんですか!?って、え?取ってきた?この辺りにドライアドがいたんですか!?それに毒抜きとかって専門知識がなくても出来るものなんですか?」

悩みが解決してもテンションは変わんねぇんだな。むしろ解決したからこそか?
まぁ不安定ではなくてテンション高いだけならいいか。

「ドライアドベリーって毒があんのか?」

毒なんて初耳だったから、挨拶のときからずっと近くにいたアリアに聞いてみた。

「…ドライアドがドライアドベリーを作るのは麻痺や毒にして、動けなくなった相手から養分を吸収するといった方法を取るためなので、普通に採取しようとしたら何かしらの毒が含まれている場合が多いのは確かです。ですが、今回はリキ様の客人に提供する旨を伝えたうえで分けてもらっているので、毒を混ぜるなんていう愚かな行為はしていないと思います。」

さすがアリアだな。
俺みたいになんも考えていないわけではなく、毒ありのドライアドベリーがあるのを知ってたうえで大丈夫だと判断したわけか。

ちょうど子どもが皿の回収に来たから、空になった皿を渡して、空いた左手でアリアの頭を撫でておいた。

「そういうことらしいから、安心して食ってくれ。俺も味が気になるし、食うときは先に毒味するから心配するな。」

まぁ俺の身体はもう普通じゃなくなってきてるから、実際に毒が含まれてても反応するかわからねぇから毒味役としては間違ってるかもだけどな。いや、さすがに毒は普通に効くか?

「リキさんは魔物も仲間にしてるんですね。」

「あぁ、気づいたらけっこう増えてたな。カリンに会ったときはイーラとヒトミとサーシャの3人だけだったんだが。」

「……え?」

カリンは数秒固まったあと、なぜか驚きながら後ろを振り返った。
何かあったのかとカリンの視線を追うと、イーラを見てるみたいだ。

あぁ、そういやイーラが魔族だってことはいってなかったか?あの頃はまだイーラの正体は隠してたしな。今も聞かれなきゃわざわざ教えたりはしてないが。

「まぁ魔物も含めた魔族でこのマークをしてるやつらは俺の使い魔だから、危害さえ加えなければ襲ってはこない。だからそこまで心配するな。」

「いえ、怖いとかではなく凄いなと思って…魔物ではなくて魔族、しかも4体も従えているんですね。」

なんで4体?
あぁ、イーラ、ヒトミ、サーシャ、ドライアドの4人だと思ったわけか。ウチにいる魔族は4人ではないんだが、まぁいいか。

「従えてるっていうか、たまたま仲間になったってだけだけどな。そんなことよりあっちの料理も見に行くぞ。」

「そうですね!」

「…え?そんなことで流していい話なの?」

カリンは魔族の話はさほど興味がなかったようでノリノリで俺について来たが、パトラは魔族の話に興味があったのか、話が流れたことに驚いていた。
まぁ興味があるなら魔族の話を広げても構わないが、まだ時間はいっぱいあるし、せっかくの立食パーティーなんだから、飯を楽しみつつ話すべきだろ。だから先に新しい料理を取らなきゃな。

ということでまだ見てない料理を確認するためにカリンと別のテーブルに向かっていると、ふと視線を感じて振り向いた。
敵意とかではなくて視界の隅に違和感があっただけだとは思うが、振り向いた方向にいたのは知った顔だけだ。

振り向いた先におかしなところはなさそうだなと思ったら、ローウィンスが微笑んだまま俺を見ていた。
ただ微笑んでこっちを見ているだけなんだが、しばらくたっても俺から目を離さずに微笑んでいる。目が合い続けているのに何も反応を示さないってことはたまたま見ていたとかでもなさそうだな。
なんかローウィンスに伝え忘れていることでもあったっけか?

そういや、アリアから挨拶を頼まれてなんも考えずに食前の挨拶をして飯を食い始めちまったが、普通に考えたらここの領主のローウィンスにカリンたちを紹介したり、挨拶の場を譲ったりするべきだったな。まぁ挨拶については今さらだが。

まだローウィンスはこっちを見てるだけで何もいってきてはいないが、たぶんカリンたちを紹介してはくれないのかという催促の微笑みだろう。ユリアとクレハのときにも紹介してくれないのかとかいわれた気がするしな。
なら紹介してくれっていえばいいのにと思ったが、ユリアたちのときは後でするつもりだったと答えたんだったか?だから俺からしてくるのを待ってる可能性もあるし、カリンたちの紹介はさっさとした方が良さそうだ。

ローウィンスのいいたいことはわかったと頷くと、ローウィンスは微笑みを少し深くしたから伝わったっぽいな。

「どうしたんですか?」

「ん?あぁ、ちょっと忘れてたことを思い出してな。でも先に飯だ。」

カリンに答えて料理のテーブルに向かったら、視界の隅でローウィンスが目を見開いた気がしたが、無視してカリンとともに次の料理を皿に盛りつけることを優先した。

先に料理を取ったところで数分しか変わらないから、心の広いローウィンスなら大丈夫なはずだ。

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