裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

350話



昨日の晩飯は予想通りあの宿屋だった。
あそこは飯の種類がこの世界では多い方だったが、酒も種類が多く、周りの雰囲気に流されて飲んでいたら帰るのがかなり遅くなった。

二日酔いするほどの量を飲んだわけではないが、アリアたちが気を利かせて朝に起こしに来なかったから、昼飯がもうすぐ出来ると知らされるまで爆睡していた。

腕時計を確認しなかったから時間がわからねぇが、帰ってきたのはわりと明け方近かったのかもな。昼まで寝てたのに体が怠い…。

朝ならまだしも昼飯を俺の寝坊で遅らせるのはさすがに悪いと思い、急いで顔を洗ったりしているうちに目が覚め、昼飯を食い終わる頃には体の調子も戻ってきた。といってもとくにやることがあるわけではないんだがな。

本当は今日の朝にでもカリンに会っておこうかと思っていたが、べつに今日の夕方でも明日の朝でも問題ないだろう。

「ねぇ、リキくん。」

昼飯を食い終わって食堂から出ようとしたところで横山から声をかけられた。
横山はこれから学校だろうに俺になんか急ぎの用でもあるのか?

「どうした?」

「今日の学校が終わったらカリンたちを連れてきてもいいかな?カリンがリキくんに会いたがってたから昨日連れてこようかと思ったんだけど、偉い人に会うのにいきなり屋敷に行っちゃいけないらしくてさ。だから先に確認をと思ったんだけど、どうかな?」

べつに俺は偉くもなんともないから勝手に連れてくればいいんじゃねぇかと思ったが、昨日連れてこられていても俺が帰ってこなかったし、ちょうど良かったかもな。
俺も横山が加わる予定のカリンパーティーがどの程度なのかは見ておきたかったしな。

「俺はただの村長だから偉くはねぇし、勝手に連れてきてかまわねぇよ。まぁ屋敷にいないことは多々あるけど。俺もカリンパーティーは確認しておきたかったし、今日は晩飯のときには屋敷にいるようにしとくよ。晩飯の時間をカリンたちに別部屋で待たせとくのもあれだし、カリンたちもここで晩飯食うようにいっといてくれ。アリアには俺からいっておく。」

「ありがとう。カリンは喜ぶだろうね。」

「まぁ食費が浮くしな。」

「そういうことじゃないんだけどね。それじゃあ学校に行ってくるね。」

横山が苦笑していたが、時間がないからか詳しく説明はしてこなかった。
まぁカリンが俺に会いたがってるとかいってたから、横山の反応的に俺に会えることに喜ぶってことなのかもしれないが、それはそれで普通に意味がわからん。

「あぁ、いってらっしゃい。」

まぁ会えばわかるだろうと俺もとくに確認はせずに横山を送り出した。







まだ食堂に残っていたアリアにカリンたちの飯の用意を頼んだら、泊まる部屋の準備までするようだ。
アリアにいわれるまで考えてもいなかったが、晩飯食って話し合いまでしたら、帰り道は真っ暗だわな。俺なら真っ暗でも問題ないが、あのカリンじゃ月明かりがあっても町まで行くのは無理そうだし。

他にも魔王討伐に連れていく魔族についてもどうするか聞かれたが、今日は夕方まで暇だし、俺がこれから確認しにいく予定だといっておいた。まぁアリアにいわれるまで忘れてたんだけどな。

アリアと別れて、面倒になる前にさっさと確認しに行こうと思って気づいたが、魔族のやつらってどこにいるんだ?
ドライアドとトレントの魔族たちは山の向こう側に行けば1人くらいはいるだろうから残りのやつらに伝えといてもらうことは出来るだろうが、それ以外の魔族がどこにいるかわかんねぇ。そもそも魔族が何人いるのかすら把握してねぇじゃん。

……アリアにはさっき大丈夫だっていっちまったし、アリア以外の誰かに手伝ってもらうか。

気配察知の範囲を広げて屋敷内にいるやつらを確認する。範囲を広げるとそれぞれの気配がどんな形かはわからなくなるが、気配の位置はなんとなくわかる。
食堂やキッチンにいるのは食事係で、廊下にいるのは掃除係とかだろう。シャワー室や大浴場にいるやつらは除外するとして、それ以外にいる気配は1つだけか。そういや前にイーラは常に休みにしてるようなことをいっていた気がするし、この気配はイーラかもな。
イーラなら同じ魔族だし、居場所を知っているかもしれないな。

気配がいる部屋まで近づくにつれて気配察知の範囲を狭めたことでシルエットがなんとなくわかってきたが、これはイーラじゃなくてサーシャっぽいな。今日は休みなのか?

気配がある部屋の前に着いたところで、そういや前にサーシャの休みを潰しちまったことがあったことを思い出した。ただでさえ俺に同行するやつらは休みが少ないのに何度も潰したら悪いかとほんの一瞬考えたが、まぁサーシャだしいいかとドアをノックした。
サーシャは嫌なら嫌だと断るだろうしな。

「……今日は我は休みだったと思うのじゃが、間違えておったかのぅ?」

サーシャも気配で俺だとわかっていたのか、ドアを開けてすぐに恐る恐るといった感じで確認してきた。
サーシャは俺がサボりを注意しに来たと勘違いしてるみたいだが、俺はシフトを知らないから本当に休みなのか間違えてるのかすらわからん。
まぁサーシャは今日は休みっていってるから、勘違いだったら午前をサボったことをアリアとかに注意されてるはずだし、それがないみたいだから休みで間違いないだろう。

「いや、ちょっと手伝ってほしいことがあってな。」

「お?これはとうとう我の番ということかの?アリアの予想通りじゃな。我は鬼島に行ってみたいぞ。」

「……は?」

こいつはいきなり何をいってるんだ?
俺がここに来ることをアリアが予想していたのか?さっきアリアに話したばかりだから、その予想はありえなくないかもしれないが、そうだとしたらサーシャの発言の意味がわからん。鬼島ってなんだよ。

「ぬ?違ったかの?褒美は何がいいかを聞きに来たのではないのかのぅ?」

「何の話をしてるんだ?たしかにサーシャにもいろいろやってもらってるから褒美が欲しいなら考えなくもないが、今は別件だ。アリアから話を聞いてるんじゃないのか?」

「なんだ、違うのか。別件なら何も聞いておらん。アリアからは奴隷にした順に褒美が与えられておるかもと聞いただけじゃよ。」

今まで何度か褒美として何かを渡したことはあるが、思いつきで渡しているからそんなことを気にしたこともなかった。
あらためて考えてみたら、最初に褒美らしい褒美をやったのはアリアへの神薬かもしれないが、その後はアオイに体として人形を与えた気がするし、順番でもなければ渡してないやつもいる気がするんだが。

「アリアがそういってたのか?」

「そうじゃよ。あっ……そういえば、あくまで推測だからリキ様には余計なことをいうなといわれておったな。だから内緒にしておいてくれんかの……。」

俺に伝えちまったことをアリアにはいうなってことだろうが、サーシャの口が軽いってことはアリアに伝えておいた方がいいかもな。いや、さすがにアリアもそのくらいは把握してるか。

「俺に伝えちまった時点で秘密にする意味がない気がするが、まぁアリアにはいわないでやるよ。ただ、俺はべつに入った順に褒美なんてあげてねぇと思うけどな。」

「そうかの?アリアには一生そばにいることを許し、イーラにはリキ様に近い体を与えて、セリナには復讐の機会を用意し、カレンには家族を作り、アオイには元の体を与えて、テンコには同化を許し、サラにはリキ様についての本を書く許可を与え、ヒトミには朽ちない手鏡を送り、ソフィアには貴重な本をわざわざ書き写してやったと聞いておるぞ。アリアが覚え間違えることはまずないと思うから、これらは実際にリキ様が与えた順であり、奴隷や使い魔となった順なのであろう?だから次はヒトミの後に使い魔となった我の番かと思うのだが。」

いきなり理由を話し始めたから聞き流しちまった部分もあるが、褒美として与えたつもりのないものが混じってた気がするんだが。それに褒美なのか?と思うものもあった気がする。
少なくとも、俺の本を書く許可は出してない。
まぁサラがまじめに書いてたっぽいから書くなともいわなかったが。

「俺が褒美であげたつもりのものともらう側が褒美と思ってるものが違うみたいだし、たまたま順番だと感じてるだけだろ。」

「褒美を複数回与えられておるものもおるから、あくまで最初の褒美についての推測でしかないといっておったの。まぁ我もリキ様の血をもらったことは何度かあるし、既に褒美をもらっておるといえばおるのだがの。だが、またもらえるならアリアの推測を信じようと思うての。」

こいつは何をいってるんだ?
自分に都合のいい占いだけ信じるやつみたいな感じなのかもしれないが、それで俺に催促するとかふざけてんのか?まぁサーシャもいろいろ頑張ってるだろうから、かるい頼みを聞くくらいはいいんだが、なんだかな。

「……はぁ、まぁいいや。そんでどこに行きたいって?」

「鬼島じゃ!」

「どこにあるんだよ。」

「知らん!たぶんアリアなら知っておるはずじゃ。」

「どこにあるかすら知らないのに行きたいのか?」

「場所は知らぬが、あやつが優しい声で語っておった女子の故郷らしいからの。一度は行ってみたいんじゃよ。」

そういやサーシャが魔物時代に好きだった相手が鬼族の女に惚れてたんだったか?前にそんな話をしてた気がするがあんま覚えてねぇな。
俺の記憶通り鬼族の女の故郷なのだとしたら、鬼島はその名前のまんま鬼族が住む島なのかもしれない。それならもしかしたらアオイの故郷でもあったりしてな。

「まぁ観光目的の旅もありか。しばらくは時間もあるし、近場ならすぐに向かってもいいけど、遠いならオークションが終わった後な。」

「本当か!?やはり願いはいってみるものだな。ありがとう!楽しみよのぅ。」

本当に楽しみらしく、珍しくサーシャが少女のように微笑んでいた。
前にその男に愛されたいとかいってた気がするが、この笑顔を見る限り、鬼族の女に嫉妬してるわけではなく純粋にその女の故郷を見たいだけみたいだ。サーシャの考えはよくわかんねぇな。

「代わりにってわけじゃねぇけど、俺の使い魔になってる魔族を探してきてくれねぇか?ドライアドとトレントは俺が直接行くから他のを頼む。」

サーシャに褒美を与える約束をしたんだから、手伝いを頼んでも文句はないだろう。
まぁもともと褒美関係なく頼むつもりで来たんだけどな。

「構わぬが、誰に用があるんじゃ?」

「誰にってわけじゃなく、コヤハキの周辺にいる魔王を討伐するから、魔王を倒したい魔族がいるなら連れていってやろうと思っただけだ。たしか魔王に進化するのに魔王を倒す必要があるんだろ?」

「たしかにそれが1番手っ取り早い魔王のなり方であろうし、部隊の戦力が上がるのはありがたいのぅ。して、魔王は何体おるんじゃ?」

「確認されてるのは6体だ。」

「全員が倒せるわけではないというわけか。では、それも含めて確認しておくとしよう。さすがにこれから探すからすぐにとはいかぬが、いつまでに知らせておけばよいかのぅ?」

「べつに急ぎじゃねぇし、今日中でいいよ。」

「きょ、今日中か…急いで探すとしよう。」

サーシャは驚いた顔をした後、ドアから出てきてそのまま探しに向かったみたいだ。
べつに急いでないから今すぐじゃなくてもいいって意味で今日中っていったんだが、勘違いさせちまったみたいだ。あの感じだと他の魔族がいる場所を知らなかったっぽいから、今日中ってのは急げって意味になっちまったんだろう。
べつに今日中じゃなくても良かったんだが、サーシャはもう探しに向かっちまったからそのまま任せるか。

思いのほかサーシャの部屋のドアのところで長話をしちまったし、俺もさっさとドライアドたちに確認しに行ってくるか。

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