裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

349話



冒険者ギルドを出たところで立ち止まり、さっき装備したガントレットを外して腰につけた。
オーブモたちは俺に敵意は本当に持ってなかったみたいだから装備しとく必要もないし、町中で装備してるせいでこの後の買い物で余計な警戒をされても面倒だしな。

「それで、リスミナが行きたいのは城門通りの店だったか?」

「うん。リキくんはもういいの?」

「とりあえず今回はこれで十分だ。これでも同じことを繰り返すならまた会いに行けばいい。あいつの顔は覚えたしな。」

「ハハ…。じゃあアクセサリー屋に行こうか。」

苦笑気味に話を流したリスミナが、歩き始めたから俺もリスミナの隣に並んで進んだ。

「…でも、ちゃんと話し合いで終わらせてくれてよかったよ。それなのにリキくんを疑うような行動をしちゃってごめんね。」

冒険者ギルドからけっこう離れたところでリスミナがさっきのことを謝ってきた。
べつに謝られるようなことはされてはいないが、やっぱり俺が話し合いで終わらせるとは信じてくれてなかったみたいだな。実際、途中で敵対するだろうと思ってガントレットをハメたし、そんな短気なやつを信じろって方が難しいか。だが、敵は早めに潰しておかなきゃ面倒になるから短気と思われようと考えを変える気はないけどな。

「べつに謝る必要はないと思うぞ。あくまで極力話し合いでって思ってただけで、相手の出方次第では殺し合いになってただろうしな。それに今後はどうなるかわからんし。」

「やっぱりその可能性もあったんだね…。でも、オーブモさんの周りはたぶんもう大丈夫だと思うよ。オーブモさんの反応には少しヒヤヒヤしたけど、最終的には理解してくれたみたいだし、オーブモさんはリキくんのこと知ってるからね。」

俺を知ってるってのは俺の噂を知ってるってことか?だとしたら確かに大丈夫かもな。俺は一部しか知らんが、あんな脚色された噂の人物となんか普通は関わりたくないし、知り合いに注意くらいはするだろう。そういやなんか関わりたくない三大人物扱いされてた気がするし。

「リスミナは関わりたくない三大人物って聞いたことあるか?」

「え?んー…ど、どうかなー。」

リスミナがあからさまに目をそらしやがった。
俺が嘘を見抜くスキルを持ってるのが話の流れでわかってるだろうから、嘘をつかずに誤魔化そうとしたのか?

「オーブモがいってたから、それに俺が含まれてるのはなんとなくわかってる。だから知ってたら教えてくれないか?」

リスミナは少し迷っているかのように口をもにょもにょしていたが、諦めたようだ。

「えっと、リキくんが聞きたいのはオーブモさんがいってたアラフミナの関わりたくない三大人物っていわれてる人たちでいいんだよね?」

なぜかリスミナがあらためて確認を取ってきた。どうしてかはわからんけど、まぁいいか。

「あぁ。そもそも普通に知られてるのかを知りたかったのもあるが、リスミナの反応からして周知されてるっぽいし、あとはどんなやつと一緒にされてるのかを知っておきたいからさ。」

リスミナが失敗したといった顔をしたが、俺から聞いてるんだから気にしなくていいと思うんだけどな。

「二つ名でいわれてるから私は噂程度しか知らない人たちなんだけど、アラフミナ王国で不用意に関わってはいけないっていわれてるのは『笑う影』と『コレクター』と『歩く災厄』だよ。まぁ普通に生きてたら『笑う影』と『コレクター』に関わることはまずないらしいんだけどね。」

「つまりは普通に生きてるだけで関わる可能性がある俺はアラフミナ王国民にとってかなりタチの悪い存在ってことか?」

「…………そんなことはないと思うよ?私はリキくんに会えたおかげで今を楽しめてるし、他の人もきっとたぶんそこまで気にしてないんじゃないかなって私は思うな。実際リキくんの村って知ってて学校に通う人もいっぱいいるしさ!ね?」

べつに気にしてるとかではなく思ったことを聞いただけなんだが、最初の濁し具合からしてかなり気を使わせたようだ。

「いや、冗談だから気にするな。べつに他人にどう思われようが、害されない限りはそこまで気にしないしな。それにしてもそんな扱いされてる俺の村の学校に来るやつらは頭イかれてんのかね。」

「不用意に関わってはいけないといっても、変な関わり方さえしなければ何かをされるわけでもないからじゃないかな?それに多少のリスクがあっても学校には通う価値があることが噂で広まってるからっていうのもあるかもね。あとはこれだけ人がいれば自分だけ目をつけられるなんてことはないだろうって思うからかも。」

「そういうもんか。まぁ平民が通える学校はあんまないらしいから、リスクがあっても通う価値があるってのはわからなくはないか。それに俺の村っていっても俺は村にいないことも多いしな。先生としては一度も参加してないし。」

俺以外の関わっちゃいけないやつらの二つ名をどこかで聞いたことがある気がして、話していれば思い出すかななんて思っていたが、けっきょく思い出せないまま城門通りについてしまった。
まぁ普通に生活してたら会わないやつららしいし、べつに知らなくてもいいか。

「そういえばリキくんは先生やらないんだね。まぁリキくんが先生やったらみんな緊張して、授業の内容が頭に入らないかもだけどね。」

生徒全員が緊張して固まってる教室の中で俺が誰も聞いていない授業をしている虚しい姿でも思い浮かべたのか、リスミナがクスクスと笑っていた。
わりと失礼な妄想だと思うが、俺の変な噂が広まってるなら実際になりかねないからなんともいえん。

「まぁ俺が先生をやることはないから大丈夫だ。それより、リスミナがいっていた店はどれだ?」

俺が無理やり話を変えると、リスミナは笑顔のまま少し先に目を向けて指をさした。

「あそこにあるアクセサリー屋さんだよ。まだやってるみたいで良かった。」

リスミナが示したアクセサリー屋は外からでは中がよくわからないようになっていた。
外観は綺麗だし、洒落た雰囲気を醸し出しているが、1人じゃ入りづらいってほどじゃない気がする。

店に近づきながら外から見える範囲を眺めていたら、リスミナは躊躇なく扉を開けて中へと入っていった。
店の雰囲気にビビってる感じもないし、本当は1人でこれたんじゃねぇか?と思いながら後について入るとすぐに店員の男が近づいてきた。

店員はサッとリスミナの全身を見て、遅れて入ってきた俺をチラ見した瞬間、リスミナに笑顔を向けて頭を下げた。

「いらっしゃいませ。本日、商品のご案内をさせていただきます、カトルフと申します。本日はどのようなものをお探しでしょうか。」

男の視線の動きはそこまで不自然ではなかったから気のせいかもしれないが、リスミナに対しては値踏みするような視線を向けていたように見えた。それなのに俺に対してはチラ見だけだったんだが、付き添いなのが一目でわかったから省略したのかね。

まぁいいかと店内を見回すと目の前に受付っぽいカウンターが5つあり、その後ろに奥に続く道がある。入り口付近にはこの男以外にも待機してる店員っぽいやつらがいて、それ以外にも武装したやつらが壁沿いに間隔をあけて立っている。

見える部分はそれだけで、ここには商品は何も置かれていないみたいだ。

「えっと…指輪かブレスレットで鑑定対策用の加護が欲しいんですけど……。」

「かしこまりました。それではこちらへどうぞ。」

男の案内についていくと男は受付から何かを受け取ってから奥へと入っていった。
てっきり受付に案内されていくつか該当する商品を見せられたりカタログみたいなのを見せられて決めるタイプかと思ったんだが違うみたいだな。

男に案内されたのは奥にある個室だった。
俺らが2人組だから受付じゃなくこっちに案内したのかもな。
俺らが椅子に座ると男はリスミナの向かいの椅子に座り、さっき受付からもらっていた3つの箱と2つの革の何かをテーブルに置いて、革の何かを1つ開いた。
表面が革っぽかったから何かと思ったが、加護と値段が書かれたメニューみたいだな。
男は何ページかめくったところで手を止めた。

「こちらのページが鑑定対策に使用できる加護の一覧となります。簡易の説明が記載されていますが、詳しく確認したい場合はご質問ください。装飾品の金額は別となってしまいますが、どの加護でもお好きな装飾品をお選びいただけます。」

リスミナに向けられたメニューを横から確認しようとしたら、男がもう一冊のメニューを俺の前に置いて同じページを開いた。

「よろしければこちらをどうぞ。」

「あぁ、ありがとう。」

真剣にメニュー表を見ているリスミナをチラッと確認してから、渡されたメニュー表に目を向けた。

加護の価値とか知らなかったけど、加護1つで金貨が必要とか普通に高いな。しかも装飾品代は別なんだろ。

今まで加護付きは中古品しか買ってなかったからイマイチわかってなかったが、自分で好きな加護を選んでアクセサリーに付与してもらおうとしたらこんなにかかるのか。

鑑定対策用で1番高いのは『鑑定反撃の加護』ってやつで金貨5枚だ。
効果は鑑定されたさいに反撃をするって書いてあるが、これだけじゃよくわからないな。

「この『鑑定反撃の加護』ってやつの反撃ってのはどの程度なんだ?」

「そちらは鑑定に込めた力次第なのですが、普通に見ようとした場合で鑑定失敗したうえに頭が割れるような痛みがするそうです。より詳しく見ようと鑑定をかけた場合はむしろ痛みを感じることはなかったと、神薬で一命を取り留めた方がおっしゃっていたそうです。」

鑑定限定効果だが、かなり強力みたいだ。しかも黙って鑑定しようとしたやつがわかるのもいいな。まぁ目の前でいきなり死なれたらビビるけど。ただ、それでも鑑定に対してしか効果がないのに金貨5枚は高いよな?
最近は金銭感覚狂ってきてるから、自信がなくなってきた。
このくらいなら普通に買えるしな。

というか俺は最初の頃はちょいちょい鑑定してたが、この加護持ちを鑑定してたら死んでた可能性もあるのか。取り返しがつかなくなる前に知れてよかったわ。

「なかなか効果はあるんだな。それじゃあこの『鑑定阻害の加護』と『認識阻害の加護』と『隠蔽』はどう違うんだ?」

鑑定阻害が銀貨20枚なのに認識阻害は金貨2枚もする。阻害より隠蔽の方が効果ありそうなのに隠蔽は銀貨10枚しかしない。いや、加護一つで銀貨10枚もなかなか高いとは思うがな。
説明には名前そのまんまのことしか書いてないからよくわからん。

「『鑑定阻害の加護』は鑑定をされたさいに見られないように抵抗することが出来るのですが、強めな鑑定を使用されると見られてしまうことがあります。『認識阻害の加護』は鑑定に限らず相手から認識されづらくなります。少し扱いが難しい加護なのですが、慣れますとステータスのみを認識させづらくするなど応用が効く加護になります。本来の効果は着用者を他者から認識させづらくする加護ですので、本来の効果が必要な場合はとくに慣れなどは必要ありません。ただ、『認識阻害の加護』も『鑑定阻害の加護』と同じく相手によっては効果がない場合もありますのでお気をつけください。『隠蔽の加護』はステータスの一部を隠せる加護になります。スキルを1つ2つ隠したいということであれば『隠蔽の加護』がオススメなのですが、『隠蔽の加護』は複数所持しても効果が増えませんので2つ以上を隠したい場合には使用できません。阻害系の加護は複数所持することで効果が強くなりますが、5つ以上は効果の強化が出来ているかの確認が取れていません。」

そういや加護じゃないがソフィアが認識阻害のスキルを使ってたな。だがこの前は認識阻害を使ってるソフィアが黒ずくめの男に狙われていたし、阻害系は看破できるやつもいるのか。

「5つ以上は確認出来てないってのは試してないってことか?」

「はい。5つの時点で鑑定で見ることが出来ませんでしたので、それ以上は確認不可能として試験は行なっておりません。」

さっきの反撃は命に関わるから聞いた話っぽかったけど、阻害系は店で試してるんだな。
隠蔽は使えそうだが、1つ2つしか隠せないんじゃ微妙だよな。

「最初の反撃は何度でも出来るのか?」

「はい。壊れない限りですが、何度でも効果を発します。ですが、あまりに強い鑑定を向けられたさいは相応の反撃を行うかと思いますので、その反動で壊れてしまうかもしれません。」

リスミナが買いに来たのに俺ばっか質問しちまってることに気づいてリスミナを見たが、まだメニューと睨めっこしていた。
たぶん値段と相談してるんだろうな。

「詳しい説明ありがとう。他のページを見てもいいか?」

「もちろんです。」

リスミナはまだ時間がかかりそうだからとてきとうにページをめくっていると、最近聞いた名前が目に入った。

『見識の加護』

効果は本質を見極める加護と書いているが、これは嘘がわかるだけじゃなくて他のこともわかりそうだな。値段も金貨50枚だし、嘘を見抜くだけでこの金額はあり得ないだろ。

「この見識の加護ってどんなことがわかるんだ?」

「日常で効果があるものでしたら、会話をしている相手の嘘を見抜くこと、物の質を見分けることが出来ます。嘘だけではなく相手の善意や悪意を見分けることもあるそうです。他にも人間と魔族を見分けたり、偽りの姿を見抜いたりと効果は多岐にわたります。戦闘面では幻惑系の攻撃を無効化するようです。」

ん?これって俺の観察眼の上位互換じゃねぇか?
いや、俺の観察眼は違和感を教えてくれたり動体視力が異常だったりするから完全に上位互換ってわけではねぇか。だが、こんな加護があるなら、俺の持ってるスキルは探せば加護でも補えそうだ。もちろんそんなことをしたら金がかなり必要になるだろうが、やっぱり俺限定のチート能力ではなかったんだな。

「そりゃこの値段も納得だ。むしろ安いくらいだな。」

「慣れるまでは頭への負担がありますので、常時使用するためには訓練が必要かと思います。ご使用する場合はお気をつけください。」

「なるほど。副作用があるからこの値段なわけか。」

店員に答えながらそのページの他の加護を確認した感じ、ここは相手の嘘を見抜くスキルっぽいな。
どうやらスキルじゃなくて加護でも嘘を見抜くものはいくつかあるみたいだ。
『虚言察知の加護』ってのを見て思い出したが、そういや前にデュセスにこの加護を使われたことがあったな。すっかり忘れてたわ。

「この『虚言察知の加護』も嘘を見抜くスキルか?」

「はい。虚言を察知するだけのため、会話のどの部分が嘘なのかまではわかりませんが、相手が真実と思っていること以外には全て反応します。お世辞や冗談にも反応してしまうため、扱いが難しい加護になります。」

今までただつけるだけでメリットのある加護しか使ってこなかったから知らなかったが、加護にも使い手の技術が必要なものとかあるんだな。
そういや以心伝心の加護もMPの込め具合で変わったりするから使い手の技術が必要な加護っていえばそうなのか。

「お世辞にいちいち反応されたら人間不信になりそうだし、普段使いは難しそうだな。」

さっきから静かなリスミナをもう一度確認すると、まだメニューを睨んでやがった。

「さっきから何をそんなに悩んでんだ?鑑定対策用の加護だけならそんなに種類ないだろ。」

「うーん…効果だけ見るなら『鑑定反撃の加護』なんだけど、金貨5枚は所持金が足りないんだよね。でも『鑑定阻害の加護』だと不安だし、『隠蔽の加護』じゃ効果が足りないし……だからといって『鑑定阻害の加護』を5つ重ねがけするのもけっこう金銭的に辛いからどうするべきか決められなくてさ。」

「まぁ5つ重ねたところで見られる可能性もあるしな。」

「!?」

どうやら余計なことをいってしまったせいで、リスミナは驚いた顔をした後にまたメニューをしばらく見て、諦めた顔をしてメニューを閉じた。

俺のせいで今回買うのを諦められるのはなんか悪いし、一応助言くらいはしてやるかとリスミナに念話を送った。

「スキルの念話で話しかけてるから、余計な反応はするなよ。わかったらもう一度メニューを開いてくれ。」

リスミナは少しだけ驚いた顔をしたが、こちらに視線を向けたりせずにメニューを開いた。

「今回教えたスキルは3つだが、セカンドジョブはスキル欄に載ってもジョブ自体はファーストジョブしか他人には見えないと思うから、そこまで気にしなくていいと思うぞ。だから残りの2つを『隠蔽』で隠して、あとはとりあえず『鑑定阻害』を1つ分でいいんじゃねぇか?」

まぁ『隠蔽』は1つ2つっていい方をされてたから、もしかしたら1つしか隠せないかもしれないが、そのときは金貨5枚貸してもいいしな。

俺の念話はちゃんと届いていたようで、リスミナはメニューを店員に見えるように向けた。

「この『鑑定阻害の加護』と『隠蔽の加護』を付与してもらえますか。」

「かしこまりました。加護は別々の装飾品へと付与いたしますか?」

「同じのに付与して欲しいです。」

「それではこちらの装飾品からお選びください。デザインの注文も承っておりますが、その場合は完成までに数日かかってしまいますことをご了承ください。」

店員は最初に受付から受け取っていた箱を開けて、指輪とブレスレットのサンプルを見せてきた。
サンプルの下には値段と使われてる金属や宝石の名前が書いてあるみたいだ。

「これって全部コーティングってされていますか?」

「はい。全てコーティングとアクセサリー処理済みになります。よろしければお手にとってご確認ください。」

リスミナは少し悩んだ後に魔鉄で出来たシンプルな指輪を取り、試しに指につけて手を握ったり開いたりと感覚を確かめていた。

「この指輪にお願いします。」

「かしこまりました。他にお求めの物はございますか。」

店員に確認されたリスミナは俺を見た。

ちょっと『鑑定反撃の加護』は興味あったが、正直今さらな話だしな。

「俺はいい。」

「大丈夫です。」

俺がリスミナに答えたら、リスミナは店員へと答えた。

「それではお会計は受付でお願いいたします。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ。」

店員は立ち上がって俺らを促してきたから、来るときと同じく店員に案内されるまま部屋を出た。
部屋を出たところで店員が他の店員に何かを渡し、渡された店員は2階へと消えていった。商品を取りに行かせたのかもな。

そのまま俺らは最初の部屋へと戻ってきて、受付に案内された。
そこで返品交換は出来ないとかの説明をされてる間に2階に行ってた店員が商品を持ってきて、物を確認して金を払ってという流れだった。

無料で箱詰めしてくれるらしいが、すぐに使うからとリスミナは商品だけを受け取ったようだ。

「お待たせ。ありがとね。」

「あぁ、役に立ったなら良かったよ。」

会計も終わったからと席を立ち、出口に向かうと店員が扉を開けてくれた。
店員が開けてくれた出口から外に出て、店の扉が閉まったところでリスミナがため息をついた。
そんなに疲れるほど悩んだのか。

「リキくんが凄い有名人なのは知ってたけど、まさか店長が対応するほどだとは思ってなかったから緊張したよ。いや、私の認識が甘かっただけだね。」

あれは店長だったのか。
というか、入り口付近に他の店員も待機してたし、俺らが入った時に入り口近くにいたのが店長だっただけで、たまたま順番だっただけな気がするけどな。

「誰が対応したって変わらないだろ。それより腹減ったんだが、リスミナは宿で食べる感じか?」

「この時間じゃ食堂は片付けられちゃってると思うし、リキくんが食べてから帰るつもりならご一緒させてもらおうかな。」

「じゃあてきとうな酒屋で食べて帰るか。」

「それならちょっといってみたいところがあるんだけどいいかな?」

リスミナはまだ1ヶ月くらいしかラフィリアにいないだろうに店とかまで調べてんだな。
もしかして冒険関係以外の情報収集も冒険者の常識だったりするのかね。

「あぁ、俺は店には詳しくないから任せるよ。」

「ありがとう。そこはちょっと値段がするんだけど、昔王城で料理人として働いていた人がやってる宿屋で、料理が種類もあってどれも本当に美味しいんだってさ。気になってたけど宿代が高いから毎日泊まるのは無理だし、昼は人気だから人がいっぱいいて、1人で入るのは躊躇しちゃったんだよね。楽しみだな。」

リスミナはよっぽど気になっていた店なのか、少しテンションが上がった声色でニコニコしながら俺に店の説明をしてきた。
おかしいな…リスミナの説明にめっちゃ既視感があるんだが。
歩きだしたリスミナが向かってるのも王城の方だから、たぶん北門の方に行こうとしてるんだろうしな。

まぁリスミナが嬉しそうにしてるし、向かってるのがあの宿屋だったとしても飯自体は美味いからいいんだけどさ。

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