裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

325話



けっきょく朝早くに起きることが出来ず、太陽の位置的に時間でいえば10時くらいだろう頃に起きた俺は、ソフィアをカンノ村に帰してから出かける準備をした。

せっかくだからソフィアも連れていこうかと思ったんだが、凄く丁寧に遠回りにやんわりと拒否された。
ソフィアはもう自衛できる程度の強さはあるようだし、もともと予定していた戦闘要員としての対応をソフィアにはもう求めていないから、べつに無理強いするつもりはなかったんだが、かなり俺の反応を伺うような言葉選びだった。そこまで気を使うなら今日だけでもついてきた方が楽だろうに、それでも拒否する姿勢を変えなかったところを見るによほど戦闘が嫌いなのかもな。
昔は序列を決めようとかいっていたくせに戦闘嫌いとか意味不明だ。

ちょっと早めの昼飯を食ってから、今日は全員で近場のダンジョンへと向かうことにした。

この辺りは土地の魔力濃度が高いだかなんだかで、発生する魔物が強いらしい。そんでその魔力の影響はダンジョンにもあるらしく、浅い階層からなかなか強い魔物がいるらしい。

なんせあの4人組が階層更新を優先させたのに1日かけて15階までしか行けなかったらしいからな。階段を見つけるのに苦労したというのもあるかもしれんが、それでも他のダンジョンならもっと深くまで潜れているはずだ。つまりは本当にそんな浅い階層から手こずる相手が出てきたってことだろう。

そのダンジョンは北門から出てわりとすぐのところにあるらしく、過去に魔物がダンジョンから溢れたことがあるからと、この門だけは警備が厳重みたいだ。

門を通るときになんとなしに騎士っぽいやつらを見てみたが、見るからに昨日の王子の護衛より強そうなやつばかりなんだが。それほどに重要視されてるところなのか?
いや、まぁたしかにここは戦力を用意すべき場所なのは間違いないだろうが、だからといって王族の護衛を弱くしていい理由にはならんから、やっぱり王子は頭がおかしいんだろう。

俺らが門の騎士に身分証を見せてから通り抜け、少し歩いたところでセリナが近づいてきた。

「どうしたの?とくに敵意は向けられていにゃかったと思うけど?」

セリナは俺が騎士を見ていたことに気づいていたみたいだな。

「いや、さっきの門にいた門番たちは格好からして全員騎士っぽいのに、王子の護衛や城にいた騎士たちより強そうだなと思っただけだ。」

「あぁ〜…それについてはニアちゃんが調べてくれたみたいだよ。」

「ニアが?」

「そう。ニアちゃんも昨日あの門を通ったときにここの門番だけやけに強い人が集まってるから気ににゃったらしくてね〜。前にダンジョンから魔物が溢れたことがあるって話もニアちゃんが調べてくれたんだよ〜。」

気になったからすぐに調べるとか、ニアも行動力があるんだな。
この世界にはネットがないし、自力で調べなきゃだから大変だったろうに。

後ろを歩くニアを振り向くとニアが俺らを見ていたようで目が合い、歩く速度を上げて近づいてきた。
たぶん話が聞こえていたんだろう。

「そうなのか?」

「はい。少し気になったので話を聞いてみたというだけで、調べたというほどではありませんが、あの門に強い騎士が集まっている理由はお聞きしました。」

セリナが場所を譲ったことで俺の隣に並んだニアにいきなり確認を取ったんだが、ちゃんと通じたみたいだ。

「それがダンジョンから魔物が溢れることを危惧してってやつか?」

「はい。もともとそういった理由で強い騎士があそこの門番に選ばれていたようですが、それでも騎士の強さに順位をつけるのであれば、専属近衛騎士隊、近衛騎士団、北門専属騎士隊、騎士団となっていたそうです。ですが、1年ほど前から第一王子が北門に強い騎士を配置するべきだといい始め、数ヶ月前に提案が通ったそうです。どうして提案が通ったのかまでは正確にはわかりませんが、もしかしたら北東の森にも強力な魔物が増え始めたのが原因かもしれないとのことです。ですが、理由があったにせよ、急な異動に納得出来ずに辞めてしまった騎士も多くいるようで、今では北門専属騎士以外の質がだいぶ下がっていると嘆いていました。」

「嘆いていたって誰がだよ。」

「名前は聞いていませんが、騎士団の6番隊副隊長です。」

いや、誰だよ。

「なんでそんなやつと知り合いになってんだよ。」

「昨夜、情報収集のために足を運んだ酒場にたまたま騎士の方々がいたため、ちょうどいいと思い、相席させていただきました。もちろん身体には指1本触れさせていません。」

俺らが城に侵入している間にそんなことをしていたのか。
まぁニアは見た目年齢は俺とほとんど変わらんからこの世界では成人に見えるし、もし暴漢に襲われても返り討ちに出来る力もあるから特に問題はねぇな。

「べつに面倒ごとさえ起こさなきゃ、好きに恋愛してかまわねぇが、その副隊長とやらはよく初対面のやつに内部事情を話してくれたな。」

「自分が好きなのはリキ様ですが、自分と恋愛してくださるという意味でしょうか?」

ニアが悲しそうな顔で微笑を浮かべて見つめてきた。
最近大人しかったから気が変わったかと思っていたが、さすがにこれは少し悪いことをしたな。いくら叶える気がないからとはいえ、好意を向けてくれてる相手に今のは失礼すぎたわ。

「今のは俺が悪かった。だが、俺はニアと恋愛する気はねぇ。もちろんニアだけでなく、奴隷の誰にも手を出す気はない。だから早めに諦めてくれると助かるんだがな。」

「自分は愛してもらえなくてもリキ様が好きなのは変わりません。申し訳ありません。」

久しぶりのニアのどストレートは響くな。なんともいえない気持ちになる。

「いや、まぁ…この話はこれで終わりだ。」

「はい。」

そういや、なんの話からこんな話になったんだったっけか?

「それで、ニアちゃんはどうやって騎士の人たちと仲良くにゃったの?」

セリナが空気を読んでくれたのか、話を戻してくれた。
そういやそんな話をしてたんだったな。

「自分の見た目は男性に好意を向けてもらいやすいようなので、服の胸もとを緩めて微笑みながら相席をお願いしただけで、快く席を空けてくれましたよ。あとは相槌を打つだけで、聞いてもいないことまでいろいろと話してくださいました。セリナさんも人族至上主義の国でもなければ、同じようなことが出来るかと思いますよ。」

「私にはまだ早いかにゃ〜…ハハハ。」

人懐っこくてボディタッチの多いイメージなセリナが、意外にも恥ずかしがってるようだ。案外人見知りなのか?
もしかしたら、慣れてない男と戦闘以外で接するのはトラウマのせいでまだ怖いって可能性もあるな。

「たしかにニアは綺麗だから、飲み屋で出会ったら歓迎されるだろうが、セリナはまだ子どもっぽさが抜けきれてないから、酒場向きではねぇんじゃねぇか?まぁ実際可愛い顔してるから、男ウケしそうなのは間違いないだろうが。」

「ありがとうございます。」

「ニャハハッ。」

ニアは普通に微笑んできたが、セリナはいつもの笑顔よりもニヤついているように見えるな。

「イーラは?」

イーラが後ろから腰に抱きついてきたせいで、腰にそこそこの衝撃を受けて躓きそうになった。
転けずにすんだけど、腰に抱きつかれたままは歩きにくいからとイーラの頭を鷲掴みにして引き剥がそうとしたんだが、腰のホールドがキツくなるだけだった。まぁダンジョンはすぐそこだし、着けば離れるだろう。

「逆にイーラくらい幼い見た目になれば酒場でも人気がでそうだな。」

つっても見た目は歩に似てるんだから、男ウケするのは当たり前か。

「べつにリキ様以外に人気になるとかどうでもいいよ〜。リキ様に可愛いっていってもらいたかったの!」

「あぁ、かわいいかわいい。」

「えへへ〜。」

背後にいるから顔は見えないが、だらしない声からして喜んでるっぽいな。てきとうにあしらっただけなのにイーラ的には満足なのか。

というか、もうダンジョンに着いたのに離れないつもりか?

「そんなことより、もうダンジョンに着いたから離れろ。」

「は〜い。」

さっきは離れなかったくせにいわれたらちゃんと離れるんだな。さすがのイーラでもこれから戦闘だっていう空気は読んだんだろう。

「とりあえず全ての階で一体ずつ倒したいから、案内頼む。」

昨日ダンジョン探索をしていた4人それぞれに視線を向けてみたが、そういやウサギはステータスエラーだからスキルとかねぇし、サーシャは魔族だから冒険者のジョブを持ってないんだな。だからリスタートを頼むとしたらヴェルかニアかと思い、あらためて隣のニアに視線を向けたら微笑まれた。

「では、自分がリスタートを使います。魔物探しはセリナさんにお願いしてもいいですか?」

「もちろん!」

既に装備はしているから、簡単な役割分担だけして、俺らはそのままダンジョンへと入った。

コメント

  • 葉月二三

    わかる!w
    そこまでイーラを好きになってもらえるなんて作者としても嬉しいですね!

    1
  • ボッチ

    なんかイーラ可愛すぎて現実辛くなるなw

    1
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