裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

314話



街道に出るまでは馬の歩き方に変な力が入っているように見えたが、街道に出てからはスムーズに進み、空が完全に暗くなって少しした頃には町に着くことが出来た。

もう夜だからか、それともこの町はあまり馬車でくるやつがいないからなのかはわからないが、2台ほどしか並んでいない馬車の列の後ろに並んだ。

列が進み、俺らの番となったところで、門番は人力で持ち上げている馬車を引いている俺らを訝しむように見てきたが、いつも通り冒険者カードを見せたら、とくにステータスチェックもされずに通してくれた。

この後は金の回収だが、この女たちの家がわからん。
ヒトミに馬を止めさせ、俺が馬車の扉を開けると、女とメイドがビクッとした。いや、そんな勢いよく扉を開けたり、音を立てたりはしてないんだが。

「窓から見えてる通り、町についた。だが、お前らの家を知らんから、メイドは御者台で案内役を頼む。」

「…はい。」

「わ、私も…。」

メイドが返事をして立ち上がったところで、女が便乗しようとしてきた。

「俺が受けたのは護衛依頼だ。だからお前は家に着くまで死なれたら困るからそこにいろ。文句があるなら今すぐ金を払って依頼を終わらせろ。」

「…わがままをいってしまい申し訳ありません。」

「わかってくれればいい。もう町についてるから何もないとは思うが、サーシャは引き続きこいつの護衛を頼むぞ。」

「任せておくがよい。」

俺が扉を閉め、ヒトミに進むように指示をして、メイドの案内のもとこいつらの家へと向かった。

まぁ女の格好や報酬からして金持ちなのは確定として、もしかしたらなんて思っていたら、やっぱり貴族のようだ。

馬車はいかにも貴族街というような整えられた庭付きの家が集まるところをさらに奥へと進んでいく。方向的にはさっきから見えてるこの町で一番でかい建物の方に向かってる感じだな。
たぶんあれはこの国の王族が住んでる城だろう。

徐々に家が大きくなってきていることからして、城に近づくほど金持ちというか、貴族位の高いやつらの住居なんだろう。
そんな奥まで進んでいるのにまだ家に着かないってことはこいつらの家ってかなり位の高い貴族か?いや、興味がなかったから考えてもいなかったが、貴族の女が護衛も付けずに町の外にいるとは思えないから、さっき殺したやつらはこいつらを護衛していて、途中で裏切ったってパターンだよな?ってことは騎士を護衛につけてたってことか。つまりあの女は王族か?

確認のつもりでアリアを見てみたが、さすがに通じなかったようで、首を傾げられた。

「…何かありましたか?」

「いや、もしかしてあの女って王族なのかと思ってな。」

「…騎士を護衛につけていたようなので、わたしも最初はそう思っていたのですが、王城に向かっているわけではなさそうなので違うかと思います。」

ん?俺は王城に近づいていると思ったんだが、違うのか?
というか、メイドに聞くのが早そうだな。

「なぁ、馬車に乗ってる女は王族なのか?」

俺が御者台に座るメイドに振り向きながら確認をとったら、メイドは目を瞬いた。

「…お嬢様はアルバート侯爵家の長女、レガリア・アルバート様です。」

「なんで王族じゃないのに騎士が護衛についてたんだ?それともあいつらは護衛じゃなくて、2人旅のところを襲われたのか?」

「いえ、彼らは護衛でした。レガリアお嬢様の婚約者であられるダカーバ第一王子が手配してくださったのですが、まさかこんなことになるとは…。」

…ん?王子の婚約者?ってことは王子の恋人?
ヒトミの話が本当なら、自作自演?

「あの3人の騎士は王子の婚約者からの紹介で入ったんじゃねぇの?」

「…?私たちは彼らとは今回の護衛で初めてお会いしました。殺されてしまった騎士の方とは以前にも何度かお会いしたことはあるのですが、他の3人はまだ騎士になりたてということ以外はなにも知らない方々でした。」

「いや、なんでそんなやつらに護衛なんかさせてんだよ。侯爵ってかなり偉いやつじゃないのか?しかも王子の婚約者だろ?」

「学園からコヤハキまでの道は比較的安全なため、騎士の方々の護衛の訓練にちょうどいいということで、長期休暇のさいの帰省時と学園に向かう際の護衛はダカーバ第一王子に手配していただいた騎士の方にお願いしていました。なので、ベテラン騎士の方以外が初対面ということはよくあるため、なんの警戒もしていませんでした…お恥ずかしい限りです。」

まぁ、ただのメイドが上の人間が用意した人を警戒なんてするわけねぇか。怪しいと思ったところで立場的に文句なんていえるわけがねぇんだし。

というか、話がズレたな。もしかして意図的に話を逸らされたか?

「リキ様♪王子の恋人と婚約者は別だよ♪あの騎士たちは恋人の仲間で、王子は頭が悪いだけだね♪仲間っていっても大元が同じだけで、直接の繋がりはないみたいだけど♪理由までは読み取れなかったけど、レガリアって女が邪魔だから、事故にあってもらう予定だったみたいだよ♪」

俺とメイドの話が噛み合っていないからか、ヒトミが話に加わってきた。

どうやら自作自演ではなかったみたいだな。

今聞いた話から推測できる範囲での女が邪魔な理由は、その恋人とやらを正妻にしたいからってところだろうな。
もっと詳しく調べれば別の理由がわかるかもしれないが、正直どうでもいい。
だから俺はこれ以上話を続けるつもりはなかったんだが、メイドは違ったようだ。

「私たちが襲われたのはあの男たちの独断ではなかったということですか!?」

メイドが顔を青くしながらヒトミに質問したが、対するヒトミはニコニコしたままメイドを見た。

「君を殺さなかったのはあれらの独断だったけど、襲ったこと自体は独断じゃないよ♪今回の事故は手段の1つってだけで、まだこれからも面白いことがあるみたいだよ♪何が起こるかはあたしも知らないから、楽しみだね♪」

当事者であるメイドは全く楽しみではないようで、死にそうな顔のまま黙ってしまった。
だが、道については既にヒトミが聞いていたようで、迷うことなくめちゃくちゃでかい家の門の前で馬車が止まった。

門番が訝しむような視線を向けながら近づいてきて、少し距離を置いたところで立ち止まった。

「メアリー、何があったんだ?」

メイドのことは知ってるみたいだな。余計な面倒ごとにならなそうでよかった。

「襲われたところを彼らに助けていただきました。私は旦那様にお話があるので、彼らを丁寧にご案内願います。お嬢様は中にいらっしゃいますので、他の侍女も呼んでおいていただけると助かります。」

いうだけいったメイドが御者台から飛び降り、走って門の横の扉から中へと入っていった。
鍛えていないわりにはなかなかの速度で走っているのに上品に見えるのは凄えななんて見ているうちに、門番の指示で馬車が動き出したみたいだから、俺もそれについていった。

庭も無駄に広いから、玄関に行くまでが地味に遠いな。
走ればすぐだが、壊れてる馬車のせいでそういうわけにもいかないから、仕方なく時間をかけて玄関へと向かった。

玄関に着くと、かなりの数の使用人らしき奴らと上品で高価そうな服に身を包んだ夫婦っぽいやつらがいた。ぱっと見かなり若いし、ともに40歳いかないくらいか?
女の方が馬車の中にいる女に似ている気がするから、こいつらが侯爵夫妻っぽいな。

俺らが止まると、さっきのメアリーとかいうメイドが馬車に近づいて扉を開け、中にいる女を下ろした。
他の侍女を呼べとかいっておいて、けっきょく自分で世話するんだな。

馬車から降りた女は一度俺らに深く頭を下げた後、走って母親だと思う女に近づいて抱きついていた。感動の再会パート2ってところか。これが身内なら熱いものがこみ上げてきたりするのかもしれないが、完全なる他人のせいか冷めた目で見ていたら、女の父親だと思われるやつが近づいてきた。

「娘を助けてくれて本当にありがとう。私はレガリアの父、メノウ・アルバートだ。侍女から話は聞いている。まずは報酬を受け取ってほしい。」

そういって布袋を渡してきたから受け取り、その場で布の口を開いて確認した。
中に入っていた金貨を軽く数えただけで50枚は超えている。たぶん倍は入っていると思うんだが、本当に話を聞いたのか?

「あきらかに多いんだが?」

「それは私からの気持ちも含めている。遠慮せずに受け取ってほしい。」

「依頼主側がそれでいいっていうんなら、遠慮なくもらうとする。それじゃあ俺らは帰るな。」

「君が良ければだが、ぜひ夕食に招待したい。君と話をしたいのだが、私は明日の早朝からしばらく出かけてしまうから、今晩だけでもどうだろうか?」

「悪いが俺らは食事のマナーを知らないから、互いのためにも遠慮しておく。俺らはしばらくこの町にいるだろうから、話は機会があればな。」

てきとうに話を終わらせ、受け取った金をアイテムボックスにしまったんだが、しまう瞬間をこの男にめっちゃ見られた気がする。なんでだ?

「それは残念だが、無理をいうつもりはない。それで、ちょっとしたお願いなんだが、私が町を離れている間にまた娘に何かあったさいは手を貸してはもらえないだろうか。もちろん君らが滞在している間だけでいい。先ほどの報酬と一緒に渡した依頼の前金は何もなくても返さないでもらってかまわない。そのうえで、何かがあったさいはそれに見合った報酬を上乗せする。頼む!」

男が深く頭を下げた。
さっきの金は気持ちを上乗せしたにしても多すぎるとは思ったが、そういう意味か。
先に金を渡していうことを聞かせようとするやり方は気にくわねぇが、娘のためなら汚い手を使ったうえで頭も下げる潔さは嫌いじゃない。

「いっておくが政治に関することに首を突っ込む気はねぇからな。それ以外でなら出来る範囲で手を貸してやっても構わない。といっても日中は出かけてることが多いだろうから役に立つかはわからんけどな。さっき入ってきた門の近くの宿屋に泊まっているから、なんかあったら伝言でも残しておいてくれ。」

「ありがとう。出来る範囲で構わないからよろしく頼む。門の近くにはいくつか宿屋があったと記憶しているが、なんて宿屋だろうか?」

宿の名前なんて見てなかったわ。

「…木枯らし亭です。」

俺がアリアを見る前に代わりに答えてくれた。

俺としてはいつものことだが、男はいきなりアリアが答えたことに少し驚いたようだったが、すぐに笑顔になり、「ありがとう。」とアリアに答えてから俺を見た。

「今さらで申し訳ないが、君の名前を教えてもらってもいいだろうか?」

「リキ・カ…いや、リキだ。」

冒険者で家名まで名乗ってるやつは少ないことに最近気づいたから、俺も名前だけ名乗ることにした。

俺の名前を聞いた男は再び驚いた顔をしてからアリアたちを見回し、納得した顔でまた俺を見た。
なんなんだこいつ?

「君があの有名な『歩く災厄』か。これは心強い。君と出会えた幸運に感謝するよ。」

男が手を差し出してきたから、握手をした。

俺が誰かをわかったうえでこんな反応するやつは珍しい…いや、もしかしたら初めてかもしれねぇな。

「俺との出会いなんかに感謝する意味はわからねぇが、金払いのいい依頼主に出会えたことは俺からしてもありがたいな。」

その後は女やその母親っぽいやつからもお礼をいわれ、壊れた馬車の引き渡しを済ませてから侯爵家をあとにした。

宿への帰り道で何かをいいたそうにずっとニヤニヤしていたセリナは終始無視してやった。

どうせ俺が普通に依頼を受けたことに何か思うところがあるんだろうが、たまたま気が向いただけだし、そんなことを話題にするつもりはなかったからな。

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