裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

308話



昨日は猿軍団の後にもチラホラ現れる魔物たちを倒しながら歩いていたから、コヤハキについたのは日が完全に落ちてからだった。
コヤハキの門から入ってすぐのところで、団体用の部屋がある宿を見つけ、念のため5日分を先払いしてから泊まった。
今回はオーガキングを討伐した後もこの辺りでレベル上げをする予定だからな。

昨日はこの国の騎士から喧嘩を売られたから、絶対なにかしら面倒なことになるだろうなんて思っていたが、何事もなく朝を迎えた。
予想外ではあったが、何もないに越したことはない。

日が昇り始めたばかりのまだ薄暗い時間に門を出て、アリアの案内でオーガキングがいるという場所に走って向かった。
イーラに乗るほどの距離ではないが、歩いていくには微妙に遠いらしいからな。昨日の近場の山ではないみたいだ。

早朝だからか人の気配はないが、魔物は普通に活動しているようで、森に入ってからはそれなりに遭遇している。
道中で襲いかかってくる魔物は1番近いやつが殺して、最後尾のイーラが回収という形を取っているから、進行速度は変わらず走り続けている。

先頭を走っている俺も何体か殴り殺したが、『気纏』を使ってもそこそこ手応えのある魔物だった。森に入って間もない魔物でこれだけの殴り心地ってことは奥にいるオーガキングはけっこう強い可能性があるな。

オーガキングについてはスキルの危険についての話を聞いてねぇし、純粋にパワータイプなのかね。
だとしたらヒトミで倒せるのか?
まぁ最悪めちゃくちゃ弱らせてからヒトミにトドメを刺させればいいか。

「リキ様!今度の魔物はちょっと強いから気をつけて!」

流れ作業のように魔物退治をしながら進んでいたら、セリナが声をかけてきた。

今は察知範囲を狭めて精度を上げていたから俺には察知出来なかったが、目を凝らせばだいぶ先に何かいるな。
それはこっちに向かってきているようだ。けっこう速い。

俺らは迎え討つために減速したが、向こうはけっこうな速度のまま近づいてくるからすぐに接敵するだろう。

右腕に『一撃の極み』を纏わせ、相手の動きを見逃さないようにしながら近づき、最後に歩幅を合わせながら殴る体勢に入った。

ぱっと見は人間だが、こめかみの少し上あたりから捻れた角が上向きに生えている。
俺に向けられている赤い目は本来白いはずの部分が黒くなっていて、薄っすらと笑っている口元からは牙が覗いていた。

雰囲気が本気の戦闘時のニアに少し似ている気がするし、悪魔系の魔物か?

その悪魔っぽいやつが爪を伸ばした右手を引いた。

「進にゆっ……」

最後まで怪しい動きがなかったから、敵に爪で引っかかれる前に顔面を殴ったんだが、直前で何かを喋ろうとしたらしい。
だが、『一撃の極み』を纏った拳が綺麗に顔面に決まっちまったから、首から上が破裂しちまって、言葉が途中で切れちまったせいで、何をいおうとしたのかはわからん。

あまりに予想外だったから、自然と足が止まった。

「…喋りましたね。」

「なんかいおうとしてたな。」

「魔族だったみたいだね〜。こんなところでにゃにしてたんだろ。」

アリアの呟きに答えたら、セリナが疑問の声をもらした。だが、それに答えられるやつはこの中にはいないから、静かになった。

「まぁ殺しちまったものはどうにもならんし、進むか。こいつも殺る気だったんだから、たいした話ではないだろ。」

べつに急いでいるわけではないが、どうにもならないことに時間を使うのは無駄でしかないからな。

「…リキ様、ごめんなさい。少し待ってもらえますか?」

俺が進み出そうとしたところでアリアに声をかけられた。

「かまわないが、どうした?」

「…念のため確認させてください。…ニアさん、これは魔族ですか?人間ですか?」

「もともとがということであればわかりませんが、魔族でした。」

そういやニアは魔族か人間かがわかるのか。
まぁそれを確認したところで、けっきょく何も変わらないとは思うんだが、アリアは考える仕草をとった。
しばらく口もとに手を当てて目を瞑っていたアリアが、ゆっくりと目を開けた。

「…魔族でしたら、問題ないかと思います。止めてしまってごめんなさい。進みましょう。」

アリアの中では納得がいったようだが、けっきょく何だったんだ?

「リキ様が判断して殺したんだよ♪それなのに魔人だったら問題があったっていうの?」

まぁいいかと気にせず進もうかと思ったら、笑顔のヒトミがアリアに近づいた。
いつもと変わらない笑顔だが、なんか怒っているようにも見えるな。もし怒っているんだとしたら、ヒトミが怒る意味がわからん。

「…そういう意味ではないです。ただ、魔人だとしたら集落などが近くにある可能性を視野に入れなければならないと思っただけです。魔族であれば単独だとしても、仲間がいたとしても、この森に魔王が生まれた原因だったとしても、やることに変更が必要ないので問題ないといっただけです。」

アリアもいつもの無表情のはずなんだが、少しムッとしてるように見えるな。まぁ、アリアがイラつく理由はわからなくないが。

それにしてもあの一瞬でいろいろと考えてたんだな。さすがアリアではあるが、ちょっと考えすぎじゃねぇか?
正直、この森に魔族が1体いただけで、そこまで思いつかねぇから。

「そういうことか♪勘違いしてごめんね♪」

さっきと変わらないニコニコとしたまま、ヒトミが謝罪した。

ヒトミから発せられていた不機嫌な空気は霧散しているが、もしかしてヒトミもけっこう危ういのか?

ヒトミは最初がおとなしい印象が強かったうえにいつもニコニコしてるから、まさかアリアに文句をいうとは思わなかった。しかも俺が判断したんだから間違えるわけないっていう謎の超理論で…。
いや、この世界の奴隷としては正しいのか?正確には使い魔だが、この世界の奴隷や使い魔は主が絶対だから、主に異論を唱えるのはおかしいと思っちまってるのかもな。
だとしたら俺のせいだが、俺はヒトミを使い魔から解放する気がないのだから、余計なことをいうべきではねぇな。逆らわれるようになっても困るし。そもそも人間と魔族では価値観が違うのだから、ヘタなことをいってもヒトミが混乱するだけだろう。

ヒトミがすぐに謝ったからかアリアもたいして気にしてないっぽいし、2人がこれでいいならいいか。

なんとなくヒトミを見ていたら、視線に気づいたのかこっちを向いたヒトミと目があった。

「どうしたの♪」

ニコニコしているヒトミが近づきながら質問してきたが、なんていえばいいかがわからなかったから、誤魔化すように目の前にきたヒトミの頭をかるく撫でた。

なんか最近誤魔化すときに頭を撫でてる気がするな。
なぜか頭を撫でられるのが好きなやつが多いからってやっていたが、ワンパターンだと気づかれるだろうから気をつけねぇとな。まぁ気づかれたところで問題ないっちゃないんだが。

「なんでもねぇよ。問題ないなら進むぞ。」

全員の返事を聞きつつ、森の奥へと向けて走った。





この森は道という道がないから、俺がてきとうに先頭を走り、殿をイーラ。残りはアリアを囲むような陣形を維持しながら奥へと向かっている。
ただの俺の勘で奥へと進みつつ、セリナが気配を探り、強敵を見つけたら知らせるという形を取っているが、けっこう奥まできたのにまだ見つからないらしい。
というか、顔を弾けさせた魔族以降はセリナからは何も声をかけられていない。つまりはセリナ基準では強い魔物は出ていないということだ。だが、俺は少し前からずっと『会心の一撃』を全身に纏っているし、『気纏』と『会心の一撃』を合わせた一撃でも魔物を弾けさせることができなくなっている。
まぁまだ一撃で殺せてはいるけどさ。

「いた!右斜め前にまっすぐ!」

そういやオーガにすら出会っていないんだがと思ったら、セリナが声をあげた。

セリナの指示に従って進路をズラしたが、道があるわけではないから俺の感覚だ。
しばらく走ってみたが、セリナから方向修正されないってことはこっちでいいんだろう。

「どのくらいいるんだ?」

「今向かってるところの集団は45体かにゃ?一際強いのが1体とサラと同程度が5体、フレドくらいが10体であとはアラフミナの勇者くらいだと思う。」

セリナが俺にわかるように強さを例えてくれたんだろうが、馬鹿島はウチの村人のフレドより弱いのか?
たしかにフレドは年を考慮しなかったとしてもけっこう強いとは思うが、国を代表する勇者が村人以下でいいのか?
ん?というか、俺らが最後に馬鹿島に会ったのってサキュバス討伐のときだったか?いや、俺はそのときに見かけたが、セリナはもっと前だな。
そん時と比較してんなら、そりゃフレドより弱いわな。俺にカカト落としをさせてくれるくらいに弱かったからな。

「ヒトミは魔王と戦うか?それともトドメさえ刺せればいいのか?」

「戦ってみてもいいなら戦ってみたいな♪」

「なら1番強いやつはとりあえずヒトミに任せる。残りは特に決めなくてもどうとでもなりそうだから、好きに戦え。支援をかけるかどうかはアリアの判断に任せるが、俺にはかけなくていい。」

「リキ様♪ありがと♪」

走りながら最終確認をしていたところで、ふと思った。

「今、俺らが向かってるところはっていったか?」

「そうだよ〜。にゃぜか今まで1体もオーガには会ってにゃいけど、魔王が生まれるくらいの数のオーガがこの森にはいるはずにゃんだよね。」

なんでいい切れるんだ?と思ったが、そういや前にアリアが魔王になる条件を教えてくれたな。
たしかその内の1つが手下を大量に作ると魔王に昇格するんだったか?
今回がそれに当てはまるってわけか。

「なんで今回の魔王がそのパターンだってわかるんだ?」

「この森は国からの依頼で上級の冒険者が定期的に調査してるらしいんだけど、今まで魔王はいにゃかったんだって。それにゃのにいきにゃり現れるってことは他から移動してきたのか、手下が増えて昇格したかくらいしかにゃいからね。ってアリアがいってた。」

アリアがいってたのかよ。

「あたしが昨日冒険者ギルドで確認してきたから、毎回依頼が達成されていたのは間違いないよ♪前々回に調査した冒険者たちには会えなかったから、やったことにして嘘をついていたのかまではわからなかったけどね♪」

ん?昨日?
昨日は俺が寝るときには全員が部屋にいたと思うんだが、その後に冒険者ギルドに行ってたのか?

ヒトミの補足に余計に疑問を抱いていたら、一瞬だが魔物が見えた、
木々が邪魔なうえにかなり遠かったから一瞬視界に入っただけだし、あれがオーガたちなのかはわからないが、会話はこのくらいにしておくべきだろうな。

俺が警戒を強めた空気を察したのか、全員が口を閉じた。

そのまま進み続けること数分、少しだけ範囲を広げた俺の気配察知でオーガたちを捉えることが出来た。
全体的にけっこうデカイな。
オーガ=鬼だと思っていたが、この世界の鬼族といわれているアオイとは体格が全く違う。男の鬼族を知らないからなんともいえないが、オーガと鬼族は別物っぽいな。

「正面から行く?奇襲をかける?」

隣に並んだセリナが端的に確認してきた。

気配だけで判断するなら、オーガは雑魚ではなさそうだが、このメンツなら1番強い1体以外は苦もなく倒せるだろう。
1体だけは確かに強そうだ。といっても1対1で戦うなら負けることはない程度だけど。例えるならヴェルくらいか?
今では俺自身が強くなったから確かな比較は出来ないが、感覚的には前に戦ったゴブリンキングと同じくらいかもしれない。もしそうだとしたら、あれだけ驚異だった化け物に対して、負けない程度と思えるようになった俺はだいぶ強くなったんだろうな。

比較対象がいると自身の成長がわかってありがたい。
ただ、ゴブリンキングは特殊なスキルを持っていたから、今あらためて戦っても1人で勝てると確信はできねぇけど、俺の身体能力がかなり成長してるのは確かだろう。

出来れば俺がオーガキングと直接戦ってどの程度成長出来たかを試したいところだが、今回はヒトミのための討伐だからしゃーない。

「そこまで強くなくても数が多いのはキツいからな。俺とセリナとウサギで奇襲を仕掛けて数を減らすか。残りは正面からでいいだろ。ヒトミはオーガキング以外はスルーしてもいいからな。タイミングはアリアの指示に従え。」

若干無茶振りだったかもしれないが、あとはアリアに任せて、返事を聞かずに速度あげた。
オーガキングたちのいる場所を回り込むようにして進んでいると、セリナとウサギも追いついてきたみたいだ。
なんの合図もなしに急に速度を上げたんだが、あとから加速して追いつけるのか。しかも疲れた様子もないし。
さすがにこの2人は速いな。

その速度のまま裏側に回り、念のため『気配察知』の範囲を狭めて精度を上げ、作戦も何もなくオーガの集団に突っ込んだ。

ぱっと見た感じでは姿を現した俺らに気づいているやつはまだいないな。

ならこのまま気づかれる前に数を減らす。

目標は俺ら3人で15体だな。

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