裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

305話



雨のせいで魔寄せの香の煙が広がらなかったのか、最初に集まってきた魔物を皆殺しにしたところで一区切りついた。
その頃には溶岩も完全に固まったようだったから嵐を止め、走って奥へと向かうことにした。

近くに魔物がいないかと集中して広げた俺の察知範囲内にアリアたちが入ってきてたからちょっと急がねぇとな。

雨風が止んで魔寄せの香の効果が再発したのか、察知範囲に入った魔物は俺たちの方に向かってきているようだ。
こっちから向かわずに済むのは楽でいいが、この香は効果時間が長いから、使いどころを間違えたら体力がもたずに死ぬ危険があるな。

近づいてくる魔物を殴って処理しながらだいぶ奥へと進んだところで、セリナが隣に並んで肩を叩いてきたから止まった。

「範囲内に今までより強い気配が入ったよ。多分メデューサだと思う。少し離れたところに複数の人族の子どもの匂いがするから、生き残りがいるみたい。」

生き残りがいるのか。
一度に食べずに1人ずつ味わって食べてでもいるのかね。

俺も集中して察知範囲を広げてみたが、俺の察知範囲にはそんな魔物はいない。つまりはまだ距離があるってことだろうし、ここで止まっていればそうそう気づかれないだろう。

魔寄せの香の入れ物の蓋を開けて中を覗いてみたら、もう火は消えてるっぽいから、この煙が霧散したら終わりっぽいな。

入れ物を逆さにして中の灰を捨て、火種が残っている可能性を考慮し、念のため踏みつけた。

入れ物を振って中の煙を完全に抜いてから蓋をし、アイテムボックスに放り込んだ。

「さっきはアリアたちに追いつかれそうだったから急いで奥に向かったが、距離も十分稼げたし、服を乾かしてから向かうぞ。」

『上級魔法:風』

『上級魔法:熱』

残りMPは心許ないが、こんな濡れた状態で戦って、万が一があったら困る。それにセリナは馬鹿みたいに薄着だから、放置したら体調を崩しかねない。

業務用扇風機のような強さの温風を一方向に流し続け、その風に当たりながらチェインメイルを脱いで水を切る。
力強く振ると、パンッとかなりいい音がなるほどに水を吸ってるみたいだ。軽量の加護がなければけっこう重いんだろうな。

セリナたちも各々風に当たって乾かしているみたいだ。さすがに服は脱いでいないが、風に当たってるだけでもある程度は乾くだろ。



まだ半乾きではあるが、これ以上MPを使うといざというときに回復魔法が使えなくなるからと諦め、セリナの案内のもとメデューサのところへと向かうことにした。

「セリナはその格好で寒くねぇのか?」

「動いていにゃいと寒いよ〜。でも、動きの邪魔ににゃるのは困るから、どうしようか考えてるところ〜。」

ふと思ったことを聞いてみたら即答だった。
そりゃあ胸タイ短パンベストだけじゃ寒くて当たり前だよな。
動きを阻害する服は着れないっていっているが、セリナならどうとでもなりそうだけどな。

それにしてもこれから強敵といわれてるやつの討伐に行くっていうのに緊張感がねぇな。

まぁセリナは早い段階で相手の気配がわかっていたからだろうけど、サーシャは最初から一切緊張してねぇし、ヒトミもずっとニコニコしてやがる。
俺の察知範囲内にメデューサらしき気配が入ったことで、だいたいの実力はわかったし、たしかに緊張するほどの相手じゃねぇが、気が緩みすぎだろ。…人のことはいえねぇかもしれんが。

もともと今回は危険なスキルを持つ敵ってことだから、個体自体が弱くても気が緩んでいい理由にはならないんだが、そのスキルが効かない可能性が高いらしいからな。
相手には悪いが、魔族だからそれなりの経験値がもらえるだろうし、魔眼も手に入るかもしれないから、これがゲームならボーナスみたいなものだろう。
もちろん強敵に挑むにしては気が緩んでいるというだけで、普通に警戒はしているがな。

しばらく歩いていて気づいたが、相手は既に俺らに気づいてるっぽいな。さっきから何をするわけでもなく同じ場所に立っているし、俺らが来るのを待ってる気がする。相手は結構な範囲を察知できるっぽいな。
やっぱり雑魚ではねぇらしい。

「メデューサっぽいやつの位置はもう俺でもわかるから、セリナは念のため隠れておいてくれるか?俺らが石化しちまったらアリアを呼んできてほしいからな。」

「は〜い。」

セリナが影に入ったうえで気配を消したせいで、どこにいるのかわからねぇ。
影に目を向けると、不思議とセリナがいる影がどれかわかるが、それは観察眼のおかげだろうから、普通の相手ならバレずにすみそうだな。

しばらくメデューサっぽいやつの気配に向かって歩いていたら、チラホラと石像を見かけるようになってきた。
森の中に石像とか置いても誰も見るやつなんていないだろうに、やけに丁寧に作られている。

進むにつれて石像が増えていくことで、さすがに気づいた。
こいつらはメデューサに石化させられたやつらだろ。むしろなんですぐに気づかなかったんだと不思議で仕方ない。

石化した人間の感触にちょっと興味が出たからと、なんとなしにガントレットを外して1番近くのやつの腕を掴んだ。

ツルツルの中に少しザラつきが混ざった石だな。硬さも完全に石……。

そんなに力を入れたつもりはなかったんだが、肩の位置で折れやがった。

ちょっと焦ったが、中まで完全に石になっちまってるし、鑑定してみても石と出てきてるから問題ないはずだ。
ちょっと強めに鑑定をかければもともとが人間であったと出てくるから、間違いなく石化された人間だろう。

こいつらの内のいくらかは討伐目的で来たんだよな?
なのになんで全員裸なんだ?
武器防具どころか服も着てない。ただ、石だからとくに思うところもねぇけど。
大半が男だが、特に不快感もない。

そろそろ俺の視力なら目視出来る距離かなとメデューサっぽいやつの気配の方に顔を向けた瞬間、何かが俺の中に入ってくるような感覚がした。だが、いつも通り何かに弾かれた。

『超級…』

いきなり攻撃してきたってことは敵で間違いないからと『超級魔法:雷』をぶち込もうとしたが、すんでのところでやめた。

さっき火事になりかけたばかりだったからな。
半乾きではあるが、せっかく服を乾かしたのにまた消火のためにずぶ濡れになるのも嫌だし、そもそもそんなにMPが残ってねぇからと、物理で殺すためにメデューサのもとへと走りだした。

距離があるし、木々が邪魔だから、さすがに一歩で距離を詰めることは出来なかったが、木々を避けながら最短距離でメデューサの懐に入る。
メデューサは目で追うのがやっとだったのか、攻撃姿勢にも防御姿勢にも入りきれてない。だが、頭から生えている細い蛇どもは別の意思でも持っているのか、俺の攻撃と同時に噛みつけるだろう位置まで動いていた。
それに、ずっと見られているとたしかに少し動きづらくなってくるな。あの眼は厄介だ。

毒持ちの蛇との相討ちなんて馬鹿なことをする気はないから、殴るのをやめて一度距離を取った。

『上級魔法:土』

地面を盛り上げて壁を作り、一度メデューサの視線を遮った。そしてすぐに壁を本気で殴りつけてぶち壊した。

メデューサは壁を壊そうとしていたのか、腕を振りかぶっていたところに、俺の攻撃でぶっ壊れた壁の破片が勢いよくぶつかっていく。だが、この程度ではほとんどダメージを与えられていないようで、好機と見たメデューサがさらに距離を詰めながら振り上げた右手で引っ掻くように振り下ろしてきた。

メデューサと目が合うたびに何かが俺の中に入ってこようとして拒まれているような不快感を受けつつも、左腕のガントレットで攻撃を受け止めた。

そこそこの衝撃が左腕に響いた。
受け流さずに受け止めちまったせいもあるが、攻撃にこれだけの重さがあるってことはスキルだけでなく個体の能力も悪くないのかもな。
それに毒持ちの蛇がそれぞれの意思を持っているかのように攻撃を仕掛けてくるから、接近戦ならむしろ強い部類に入るのかもしれねぇな。

メデューサの頭の蛇に噛まれる前に距離を取り、周りを軽く確認した。

ヒトミとサーシャは近くまでは来てるみたいだが、見ているだけで手を出すそぶりもない。
セリナは影の中にいるのか、どこにも見当たらん。

せっかく一度メデューサの視界を遮ったのに、また体がわずかに重くなってきやがった。

どうするか。

俺が周りを見たのを逃げ道を探してると勘違いしたのか、メデューサがさらに攻めてきた。

本体の攻撃方法は引っ掻くだけなのか、また腕を振りかぶって振り下ろしてきた。
個体としてはそこそこ強いのに、戦闘経験がほとんどなさそうな感じだな。…あぁ、見ただけで相手を殺せるなら、戦うこと自体があまりないんだろうな。

『中級魔法:電』

電気を纏わせた左腕でメデューサの攻撃を受け止め、そのまま腕を滑らせてメデューサの右手を左手で掴んだ。

遅れてくる蛇の噛みつきを警戒したが、どうやら一緒に固まってくれたみたいだ。

魔族がこの程度で麻痺してくれるかは疑問だったが、うまくいったな。

こうなっちまえば、多少丈夫なだけの動かない的だ。

「…わた……し…の……だ……わ…たさ………ない…。」

カタコトではあるが、喋れるってことは魔族に昇格してるってことか。いや、麻痺してるせいでカタコトなだけかもしれん。
まぁ、敵だからどうせ殺すし関係ねぇけど。

俺がかけっぱなしにしていた全身の『会心の一撃』を解き、あらためて『一撃の極み』を右腕に纏わせた。
少しだけ時間をかけてタメ、黒い靄が濃くなったのを確認してから体を引き、構えた。
もちろん左手ではメデューサの右腕を掴んだままだ。

「…魔ぞ……く…だ…から……と……人…。」

「魔族とか人間とかは関係ねぇよ。敵だから殺すだけだ。」

何かをいおうとしていたメデューサの言葉を遮り、思いっきり振り抜いてメデューサの胴体を吹き飛ばした。

肉片が飛び散り、風圧に耐えられなかったメデューサの下半身も転がっていった。

胸上は支えを失い、重力に従うように落ちそうになったが、俺が右手を握っているせいで振り子のようになり、左腕だけを地面に勢いよく打ちつけた。

魔法を切ったところで、メデューサの頭の蛇が動き出したから、咄嗟に手を離して距離をとった。

さすが魔族というか、これでも生きてやがるのか。

そういやサーシャは首を落とされても生きていたしな。

「私がなにをした!お前ら人間が襲ってくるから返り討ちにしているだけだろ!ほっといてくれればいいじゃないか!」

腹がないのにどうやって発しているのかわからないが、メデューサが叫び始めた。
やっぱり普通に話せるんだな。

これは頭を潰すしかないか?
だが、蛇が地味に邪魔だな。

どうすっかなと考えていたら、サーシャが俺とメデューサの間に割り込んできた。まさか仲間にとかいう気じゃねぇよな?

「敵対を選んだのはウヌなのだから、そう吠えるでない。みっともない。媚びる気がないのなら潔く死を受け入れれば良いのではないか?」

サーシャはメデューサに話しかけながら近づいてしゃがみこみ、流れる動作でメデューサの眼を抉った。

メデューサ本体はいきなり眼球を抉られるのは予想外だったのか、呆けた顔をしているが、蛇たちはしっかりとサーシャの腕に噛みついていた。だが、サーシャは気にしたそぶりもなく、無理やりに腕を引き抜いた。

蛇の牙にサーシャの右腕の表皮が引っかかって傷だらけになっていたが、数的血を地面に滴らせたところで傷口が塞がった。

毒は平気なのか?
いや、血を操れるから侵入しようとした毒を拒めるのかもしれねぇな。
サーシャがあの程度の傷で血を流すのも珍しいし、もしかしたら毒が混じった部分を捨てただけなのかもな。わからんけど。

サーシャが立ち上がったところで状況を飲み込めたのか、メデューサが声にならない叫びを上げた。だが、サーシャは気にした様子もなく自身の左眼を抉り抜き、メデューサから奪った眼を自身の眼孔に入れた。

しばらく片目を閉じて黙っていたが、ニヤリと笑って目を開いた。

メデューサの眼は赤かったはずなんだが、サーシャの眼は金色へと変わっていた。こんなすぐに馴染んだってことか?

「やはり魔眼は奪えるのだな。」

満足そうに呟いたサーシャが、右手に持っていた自分のもともとの左眼を口に入れて噛み潰した。

サーシャの意味不明な行動に若干引いている俺らのことは気にしていないのか、サーシャは何度か咀嚼した後にゴクリと飲み込み、手のひらを上にして右手を前に出した。

今度は何をするのかと思ったら、手のひらがパクリと開き、中から血が浮き上がってきて球体を作り、徐々に白く変わっていく。
ビリヤードの玉のように真っ白かと思ったら、一部分には金色の模様がある。…いや、あれはどう見ても眼球だな。血から眼球を作り出すとか意味がわからん。

サーシャが作り出した眼球が重力に逆らうように上昇していき、クルリと360度回ってからサーシャの手のひらの傷口へと戻っていった。

「いや、何がしたかったんだ?」

「我は魔眼を3つ所持しておるからの。眼孔にない眼も効果があるのかを試して見たのじゃよ。」

自由に操れる魔眼とかかなり有能そうなスキルだな。

「それは視覚はあるのか?」

「もちろんあるが、前しか見えぬからの。不意に破壊されたらスキルを失う可能性があるうえ、あまり遠くに飛ばしたくはないのぅ。」

それでも十分に使えるスキルだとは思うが、偵察とかには向かねぇわけか。
いや、サーシャは眷属で周りの情報とか集めてたし、偵察能力はもともとあるから、わざわざ魔眼を飛ばす必要がねぇんだな。

ん?よくよく考えたら、サーシャってけっこう有能なんじゃねぇか?

ふと意外な事実に気づいたとき、視界の隅で動きがあった。

徐々に弱ってるっぽいメデューサを放置して話をしていたら、最後の力を振り絞ったのか、胸上だけのメデューサが腕の力だけで飛びかかってきたみたいだ。

まぁ、最後の足掻きだからかたいした速度もないし、慌てるようなことではないが。

「それはそれで悪くはないのぅ。」

もうイーラに渡す眼球を壊さず殺すとかを考えるのが面倒だったから、普通に殴ろうかとしたところで、サーシャが口角を上げて呟いた。

何に対していっているのかがわからず、一瞬サーシャに意識を向けた隙に、サーシャが作った血の弾丸がメデューサの額に直撃した。

飛びかかってきていたメデューサは額をかるく弾けさせ、ひっくり返るように落ちた。

綺麗に貫通とはいかなかったみたいだが、俺が殴るよりは原型をとどめているから、まぁいいか。

念のため気配を探ってみたが、メデューサから生きている反応はないな。

戦闘を終えたのを察したセリナが影からニュルッと出てきた。

「そういや人間の気配があるんだったか?」

「そうだね。匂いがこもってるから正確にゃ人数まではわからにゃいけど、ちょっと行った洞窟の中に6人くらいいるみたいだよ。」

けっこう残ってるな。
魔族は飯を食わなくても平気だって話だし、少しずつ食べていたのかもな。
そのせいで騎士たちを待たなきゃならなくなったが、思った以上に魔物退治に時間がかかったのか既に昼だし、今日中にオーガキング討伐は無理そうだから、まぁいいか。

「アリアたちってもう近くまで来てんのか?」

「ん〜…音は聞こえるけど、まだもうちょっと時間がかかりそうだね。」

音なんて何も聞こえないが、セリナの察知範囲内には入ってるわけか。

「ならいったん生き残りを確認しておくか。もしかしたらメデューサが金を蓄えてるかもしれねぇしな。」

「そうだね〜。本来は討伐したリキ様のものでも、騎士たちが来ちゃうと国のものににゃっちゃうもんね〜。」

セリナは気の抜けた返事をしながらクルリと方向転換をし、歩き始めた。

たぶん生き残りのところへ案内するつもりなのだろうから、俺らもセリナの後に続いた。



洞窟はダンジョンと違うらしく、奥の方は暗いようだ。といっても今のメンツなら見えるから関係ないが。

入り口の途中から外の明かりが届かなくなり、ぱっと見行き止まりのところを右に曲がると、奥にいくつかの灯りとそれに集まる数人の子どもが見えた。
セリナがいっていた通り6人だな。

俺らの足音に気づいたのか全員がこちらを向いたが、俺らはまだ光が届かない位置だからか、俺らと微妙にずれた位置に視線を向けているやつもいた。
5人は怖がっているようで見ているだけだが、1人だけ警戒した様子もなく灯りを持って立ち上がり、俺らの方に走って近づいて来た。

ある程度近づいたところで俺らが見えるようになったのか、近づいてきた子どもが驚いた顔をしたんだが、すぐに笑顔に変わった。

「新しい人だ!いらっしゃい!」

まるでこいつにとってここがホームのような言葉に聞こえたから、一瞬こいつも魔族なのかと思ったが、鑑定で確認したかぎりでは人間だな。
もしかして、俺らがメデューサに新たに捕らえられたとでも勘違いして安心させようとでもしてんのか?
それにしてもいらっしゃいは違うと思うが…もしかしたら皮肉でいってんのかもしれねぇな。

「俺はここの住人になるつもりはねぇよ。魔族討伐の依頼できただけだ。」

挨拶してきたやつに返答しながら周りを確認するが、今すぐ死にそうなやつはいないから放置でいいか。
というか、服は汚れてたりしているが、健康状態に問題がありそうなやつすらいねぇな。

「魔族討伐?」

「あぁ、それが終わったから立ち寄っただけだ。俺らはすぐに帰る。」

奥の灯りのそばにいた1人が急に立ち上がり、走って近づいてきやがった。
いきなり何かと見ていたら、躓いて転がった。

…なかなか痛々しい転がり方をしたが、何がしたいんだ?

わけがわかんねぇと思っていたら、すぐに立ち上がり、顔の擦り傷を気にすることもなくさらに近づいて俺にしがみついてきやがった。

敵意がなかったから、最後までただただ見ちまっていたわ。

「お願いします!私も連れていってください!」

俺の腹に顔を埋めながら叫んできやがった。

それだけの声量が出るなら、べつに近づいてくる必要はなかったんじゃねぇか?

…あぁ、逃さないために近づいてきたわけか。
子どもにしてはかなり力強くしがみついてるしな。まぁこの程度なら簡単に振りほどけるが。

「悪いが、お前らを助ける依頼は受けてねぇから、連れてく気はねぇよ。」

俺の返事に顔を上げた子どもが泣きそうな顔をしてやがる。

他のやつらも近づこうとした足を止めたようだ。

「な、なら、依頼するのでお願いします…。今は払えませんが、家に帰ったら必ず払いますから…。」

泣きそうな顔にはなっているが、泣くのを我慢して交渉してきた。
見た目の割にしっかりしてやがんな。もしかして、こいつが辺境伯がいっていた貴族の子どもなのかもしれねぇな。

「悪いが、俺らは次の予定があるんだよ。もう少ししたら騎士がくるから、そいつらに助けてもらえ。」

「…え?騎士が来てくれるのですか?」

「あぁ、そういう話になってるな。だからそれまではここでおとなしくして待ってろ。外はまだ魔物がいるだろうからな。」

「ありがとうございます!ありがとう…ございます……。」

話は終わったんだが、なぜかこいつはしがみついたまま泣き始めやがった。
次の予定があるっていってんのに離す気がねぇなこいつ。
まぁ、どうせ騎士が来るまで待つって約束しちまってるからいいけどさ。

他のやつらも助けが来るとわかったからか、近くにいる者どうしで喜んでいるみたいだ。

ただ、最初に挨拶してきたやつだけが、不思議そうな顔で俺らを見ていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品