裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

301話



朝食後にそれぞれが準備を終わらせ、屋敷の前に集まってるんだが、ついてくる予定のやつ以外も集まっていた。

仕事とかあるだろうに、わざわざ見送りをしてくれるらしい。

今回一緒に向かうのはアリアとイーラとセリナとテンコとヒトミとサーシャとウサギとヴェルとニア…けっこうな人数だ。
ソロは厳しいからと奴隷を仲間にし始めたんだが、気づけば戦闘が得意なやつだけで1パーティーを作れるようになってんだよな。

「イーラ、そろそろ向かうから頼んだ。」

「は〜い。」

今回向かう先は今まで行ったことがない場所だから、イーラに乗っていく予定だ。
だからイーラに頼んだんだが、なぜかヴェルまで龍の姿になりやがった。

まだイーラの背中に乗ることに抵抗があるわけね。まぁ、ちゃんとついてこれんならべつにいいけど。

俺がイーラの背中に飛び乗ると、他のついてくるメンツも飛び乗った。
着地とともにズブズブと下半身が埋まる感覚にももう慣れ、全員が向き合うように円形でイーラの背中に乗った。

話し合いを出来るようにこの形で乗ってはいるが、俺は基本的に寝ているから、あまり関係ないんだがな。

「道案内はアリアに任せるわ。」

「…はい。ではイーラ、昨日話した方向に全速力で進んでください。進路がズレたら都度伝えるので、気にせず前進してください。」

「は〜い。」

イーラが念話ではなく、龍形態での野太い声で返事をし、羽ばたき始めた。

徐々に高度を上げていくと、村をドーム状に塞ぐような膜が見えた。
ガラスにしては透明度が高すぎるし、そもそも雨で村の中が濡れたりしてんだから、ガラスのわけがないか。
じゃあなんなんだ?と訝しみながら見ていたんだが、イーラがそのまま高度を上げたことで膜を通り抜けた。膜には特に触れた感触もなく、身を乗り出して下を見てみても膜は破れていたりせずにそのままある。

なんなんだ?

首を傾げたところで、膜よりさらに下、村の学校区画の中で何人かがこっちを見てるのが見えた。

向こうからは俺までは見えていないだろうが、俺の目はかなりいいから、目が合っているような錯覚を受ける。

というか、普通に村から出発しちまったな。
まぁ、ヴェルが龍族だってのはバレてるからいいか。…いや、ヴェルも龍形態で飛んでいるし、ヴェル以外にも龍がいるって思われるわけか。

「ねぇ?今龍が村から飛び立ってるのが見えるんだけど、どこかに行くの?」

急にジャンヌの声が頭に響いた。
どうやら以心伝心の加護で連絡を取ってきたみたいだな。

「しばらく出かける予定だ。」

「聞いてないんだけど?」

俺が端的に答えたら、よくわからない返答をされた。

学校終わったら出かけるって話はした気がするんだが…そもそも、俺の予定をジャンヌに教えなきゃならない意味がわからねぇ。

「依頼を受けちまったからな。その後行きたい場所もあるから、しばらく帰ってこねぇ。俺がいなくても気にせず、気がすむまで村にいていいぞ。」

そもそもウチの村は出入りがほぼ自由だから、俺の許可なんか必要ないけどな。

俺がジャンヌに答えたところで、イーラが進み始めた。
徐々に速度が増していく。

「私ももう少ししたら帰らなきゃだけど、出かけるなら、見送りくらいって、あれ?なんでMPがこんなに勢いよくなくなっ………。」

なんか話の途中で加護の繋がりが途絶えた。

繋がった状態で距離を取るとMPが勝手に吸われるんだな。
俺も喋ってないタイミングで少し減ったみたいだし。

「移動が始まったから切れたんだろ。またな。」

一応MPを多めに使ってジャンヌに最後の連絡を取り、返事はこないだろうからとそこで意識を外した。

「…ジャンヌさんからですか?」

以心伝心の加護から意識を外してすぐにアリアが質問してきた。
口に出して話してたわけじゃねぇのによくわかるな。

「あぁ。たいした話じゃなかったから気にすんな。」

「…はい。では、これから向かう先にいる魔族について話を始めてもいいですか?」

もしかしてこんな短時間で調べてくれたのか?

「頼んだ。」

「…はい。これから向かう先にいるのはメデューサと聞いているので、わたしが知っている特徴だけ説明しておきたいと思います。」

アリアが確認を取るように全体を見回したが、全員が既に聞く姿勢を取れていた。

「…本に記載されていた情報では、髪の毛が毒を持つポイッシャーのような生き物となっている人型の魔物です。毒の強度は個体により異なるようですが、髪の長さ以上に伸びることはないので、接近する場合だけ気をつければ問題ありません。一番気をつけるべきなのはメデューサの眼です。メデューサの視界に入ってしまうと体の動きが鈍くなるそうです。そして、目を合わせてしまうと石化の状態異常にかかるといわれています。」

俺が漫画知識で知ってるメデューサとあまり変わらなそうだな。違いといえば目が合わなくても見られてるだけでバッドステータスを受けるってところか。

「魔物?辺境伯は魔族っていってなかったか?」

「…おおまかに魔族と括っていましたが、たぶん相手が話せるかを確認する時間すらなく殺されているので、どちらかの判別はついていないかと思います。メデューサは魔物の場合も昇格した魔族の場合もあるので、見た目だけでは判別できないはずです。昇格後だった場合は全ての能力が数段階高くなっている可能性が高いので、遠くから高火力の魔法をわたしとリキ様とイーラで放ち、巣ごと破壊するのが一番安全だと思います。」

そういや魔物も魔族なんだったな、ややこしい。

というか、ずいぶんと過激なことをいうな。
たしか子どもがいる可能性があるんじゃなかったか?まぁ魔物相手に捕まったんなら食われてる可能性が高いと思うし、アリアたちが危険に晒されるくらいならいるかいないかわからないやつごと吹き飛ばすのも1つの手だとは思うが。

「アリアは石化は解けないのか?」

「…石化も状態異常らしいので治せるとは思います。ただ、生きている場合に限るので、どの程度まで石化が進行しているかによっては間に合わない可能性もあります。」

「話を聞く限りメデューサの石化とやらは魔眼によるものじゃろ?なら、リキ様なら気にせんで良いと思うがのぅ。」

アリアと話していたら、珍しくサーシャが意見を述べてきた。

「どういうことだ?」

「我の魅了をはね除ける眼を持っとるリキ様なのだから、石化の効果もなかろうということよ。動きが鈍くなる効果はあるかもしれぬが、リキ様が多少鈍くなったところで、魔王でもない魔族が勝てるとは思えんしのぅ。」

サーシャがいいたいことはなんとなくわかったが、サーシャの魅了の効果を無効にしてるのって観察眼のスキルなのか?
今まで勝手に防いでくれていたから気にしてなかったが、観察眼ならその可能性もあるかもしれん。観察眼にはいつも助けられてるからな。

…ん?だが、サーシャに魅了をかけられたときって目と目によるものじゃなかった気もするが、まぁ結果防げてんだから、石化も防げる可能性はあるのか。

「じゃあ、いざというときのためにアリアたちには後方で待機してもらって、俺が乗り込むって形でいいかもな。俺が失敗したら巣ごとイーラが破壊してくれりゃいいし。石化してすぐにアリアが治してくれりゃたぶん死なずに済むだろうしな。イーラには俺が死なない程度の加減はしてもらわなきゃだが。」

「でしたら自分が盾となります。魔眼に対する耐性でしたらある程度あると思いますので。」

「我も共に行こうかのぅ。我も魔眼持ちじゃから効かぬと思うし。その代わりにメデューサの眼を欲しいのだが、良いか?少し試したいことがあってのぅ。」

ニアとサーシャがついてくるといい、サーシャが対価を求めたところで、隣にいたセリナが急に少し離れた。
いきなり何かと思ったら、俺とセリナの間ににゅるっとイーラの上半身が生えてきた。

「頭はイーラのだよ!イーラは耐性持ってるからついてくもん!」

龍形態で空を飛びながら、背中から人型のイーラを生やすなんて、ずいぶん器用なことをするな。
しかもわざわざセリナを退けて間に割り込んでくるとか、こいつらの中で座る位置が決まってんのか?

「イーラは脳を食べれば良いではないか。」

「脳だけじゃダメかもしれないじゃん!サーシャだってべつにスキルを得られるわけじゃないんだから、眼じゃなくてもいいじゃん!」

「だから試したいことがあるっていっておるのではないか。たまには我に譲ってくれても良かろう。」

なんか取り分で2人がもめ始めた。
そもそもまだ手に入れてねぇし、2人が争うほど有用な素材なら、どっちにもやらない可能性があることを理解してないのか?

「…眼は2つあるのですから、1つずつわけてください。そんなことで無駄ないい争いをするくらいなら、ソフィアさんへのお土産にしますよ。」

「ゔ…そうじゃの。我は1つもらえれば十分じゃ。」

「は〜い…。」

最終的にはアリアが勝手に決めやがった。

2人を宥めるためとはいえ、俺の目の前で勝手に素材の取り分を決めるなんて珍しいな。

「…メデューサの眼球は一般的には使い道がないので、売れません。一部で欲しがる方もいるかもしれませんが、わたしにはそのコネがないので、イーラとサーシャが魔眼のスキルを得られるかを試した方がいいかと思ったために勝手な判断をしてしまいました。ごめんなさい。」

俺がアリアに視線を向けたら、理由を述べたうえで謝罪をされた。
俺自身に眼球を集める趣味なんかねぇから、売れないならいらねぇな。それに2人が新しいスキルを得られるかもしれねぇっていうなら、わざわざ買い取る相手を探すよりも2人に使った方がいいだろ。

「売れないならいらねぇから、好きにすればいい。」

「…ありがとうございます。…では、話を戻しますが、全員で正面から向かおうと思います。」

アリアが俺に礼をしてから、あらためて他のやつらを見回し、さっきと全く違うことをいい始めた。

「危険なんじゃなかったのか?」

「…わたしたちはリキ様のおかげで状態異常に対するある程度の耐性があります。だから、即死はしないはずです。即死さえしなければわたしが治すので、多少の危険はありますが、正面からで問題ないと思います。先ほどのはあくまで安全策というだけで、正面からでは不可能というわけではないので。それに、状態異常をあえて受けて耐えれば、耐性の効果が上がる可能性もあるので、訓練にもなるかと思います。」

死なずに耐性を上げられる可能性があるなら、断る理由はねぇか。

他のやつらを見ても嫌がってるやつはいねぇみたいだしな。

「わかった。」

「…このまま向かうと到着が夕方から夜にかけてになると思いますが、そのまま向かいますか?一度最寄りの町に寄りますか?」

夜は魔物が強くなるんだったか?

わざわざ相手の有利になる状況で戦う必要はねぇし、朝になってからの方がいいか。
一晩遅らせたせいで犠牲になるやつもいるかもしれねぇが、他人のために無理をするほど善人じゃねぇからな。

「一度町に寄ってから、翌朝向かうことにする。町からメデューサのいるところまでは遠いか?」

「…距離はそこまで離れていませんが、少し探すことになると思うので時間がかかってしまうかもしれません。それでも朝食を食べてから歩いて向かっても昼前には討伐を終えられると思います。」

じゃあ移動時間は2時間くらいか?そっから探して討伐でプラス1時間とかだろう…たぶん。

「そこからオーガキングとやらがいるところまではどのくらいだ?」

「隣の国なので、龍になったイーラに乗って行くのでしたら、昼過ぎに向かっても日の色が変わる前には着くと思います。」

それなら町で一泊して早朝に走って向かって、とっととメデューサ退治を終わらせて、オーガキングとやらの討伐に向かうのもありかもな。

急ぐ必要は全くないが、時間をかける必要もないしな。
いや、オーガキングを他のやつらに討伐されるわけにはいかねぇから、一応急ぐ必要はあるのか。

「じゃあ、明日は早朝にメデューサ討伐に向かう。そんで、時間によってはそのままオーガキングを討伐に行くから、そのつもりでいてくれ。」

「「「「「「「「はい。」」」」」」」」

全員の返事を受け、話し合いは終了した。

暇になったところで、オーガキングについても話をするべきかと思ったが、なんかアリアたちがメデューサ戦の話や町についてからするべきことなんかを話していたから、オーガキングのことは後でにすることにした。
まずはメデューサを倒してからにした方がいいだろうしな。

アリアたちの会話を聞き流しながら、イーラの体内に沈むように横になり、目をつぶった。

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