裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

296話



思った以上に羞恥プレイと化したサラへの読み聞かせだったが、なんとか第1章を読み終え、サラが満足してくれたことで終了となった。

このサイズの本1冊で1章にもかかわらず、まさか第1章がマリナを助けてイーラが仲間に加わるところまでしか書かれていないとは思わなかった。
現時点で第何章まで書いてんのかはわからないが、最近のことまで書いてるんだとしたら、けっこうな巻数書いてんじゃねぇか?俺の本が何冊あるのかなんて知りたかねぇが。
それにあんなに細かく書かれているとか、間違いなくアリアは手伝ってやがるな。

しかもいろいろと脚色されているからなかなかに恥ずかしかった。
アリアやマリナの心情描写に関してはわからんが、少なくとも俺の心情描写は事実と異なる部分が多々あった。
だが、本当のことも混ぜてありやがるから、違うともいい切れず、けっきょくサラに訂正を求めることが出来なかった。

いや、もういい。
どうせ変な噂がいっぱいあるんだ。
俺が読むのはなんかムズムズしてくるからさすがにもう遠慮したいが、サラが作って仲間内で読むのは好きにすればいい。
俺はもう気にしないことにした。



そんな一晩を過ごした翌日の今日は、朝食後にアリアに付き合ってラフィリアに行くことになった。

てっきり買い物に行くのかと思ったら、装備をするように頼まれたから、奴隷狩り組織とやらの残党狩りでもするのかね。

スミノフを奴隷商に渡したんなら、残りも奴隷商がなんとかしろよと思ったが、どうやらラフィリアに行くのは俺とアリアと新しく使い魔になった狐の獣人みたいなやつの3人だけらしいから、全く別の用事なのかもしれん。

「どこに行くんだ?」

「…ヤイザウ侯爵家です。」

予想外の名前が出てきた。
最近よく聞く名前ではあったが、まさか俺が関わることになるとは思わなかったわ。

「何しに行くんだ?」

「…少しお話し合いに行くつもりです。」

もしかして、昨日ローウィンスがいっていたやる気満々のやつってアリアのことだったのか?
村にちょっかい出されたことがそこまでアリアの逆鱗に触れたのか?
だとしたら、一応村の責任者である俺が決着つけなきゃだよな。

妥当なところで、今後関わらないことを約束させて金銭で解決ってところか。
いや、昨日のローウィンスの話からするに殺しちまった方が楽かもしれねぇな。俺の村にちょっかい出すだけでなく、仲間まで傷つけたんだ。死ぬ程度の覚悟は出来てるだろうしな。

「話し合いについてはわかったが、なんでこいつがいる?こいつじゃ戦力にもならないだろ。」

「…。」

確か種族が仙狐だったやつが、何かいいたげにしながらも口を開きはしなかった。

「…わたしの予想が正しければ、確認に必要になるからです。そろそろ姿を変えておいてください。」

「はい。」

アリアにいわれた仙狐はスキルでも使ったのか、髪が徐々に黒くなっていき、狐耳と尻尾が引っ込んでいった。
観察眼で凝視してもわからねぇから、幻覚ではなく体の形そのものが変わってるんだろう。

そういや姿を変えられるようなことを最初にアリアがいっていたな。だが、なんでわざわざ姿を変えるんだ?
…あぁ、そういやこいつはラフィリアで悪さしてるところを捕まったんだったな。そりゃ顔出せるわけねぇか。

準備が整った俺らはヤイザウ侯爵の家へと向かった。





アリアの案内のもと、ゆっくりと歩いて向かったから、結構時間がかかったな。

やっと到着したヤイザウ侯爵の家はさすが侯爵という偉い立場のやつの家というだけあって、デカい。
個人の家が高い壁で囲われているというだけでも凄えと思うが、格子状の門の隙間から見える庭は金をかけているのが一目でわかるほど綺麗に整えられている。

庭の奥に見える屋敷も立派過ぎる。

正直個人の家にこんなデカさは必要ないだろと思うが、権力を示す意味もあるんだろうな。

この辺りの家はヤイザウ侯爵の家に限らずデカいからな。

ちなみにデカい家が集まっている辺りに来たくらいから、歩行者を1人も見かけていない。
家から馬車が出てくるのとかは見かけたが、馬車に乗ってるやつに不思議そうな顔で見られたし、たぶんこの辺りは移動に馬車を使うのが当たり前だというくらいに地位の高い金持ちの家が並んでるんだろうな。

とりあえずは門の横にある小窓のところに向かおうかと思ったら、アリアと目が合った。

「…リキ様。門を壊してもらってもいいですか?」

「…は?なんで?」

「…この辺りの方々にカンノ村に干渉する気を持たせないためです。」

「ヤイザウ侯爵家を見せしめとして利用するってことか?たしかにヤイザウ侯爵は罪を犯したんだろうが、俺がここで無駄に暴れたら間違いなく面倒なことになるよな?」

「…無駄ではありません。それにローウィンス様には許可を取っているので、ヤイザウ侯爵家の敷地内でなら何をしても罪になることはありません。なので、門は極力敷地内に向かって吹き飛ばすようにお願いします。」

壊すって鍵を壊すとかじゃなくて、門を吹き飛ばせってことだったのか。
いや、絶対におかしいと思うが、アリアがここまで自信満々にいうってことは本当に大丈夫なんだとは思う。

まぁ、先に手を出してきたのは向こうなんだし、門の1つや2つで文句なんかいってこねぇか。

俺は『気纏』のスキルを使ったうえで、右手に『一撃の極み』を発動させた。

今回は動かない門に対してだから、じっくりとタメる時間があるのはいいんだが、格子状の門のどこを殴ればうまく飛んでいくだろうか。

鍵部分を殴れば勢いよく両開きに開くかもしれないが、一度開いたものがその勢いのまま戻ってきたら、笑えない状態になるだろうし、確実に破壊できるところを狙わねぇとな。

右側の門の少し蝶番側の格子を狙うことに決め、右拳を振り抜いた。

思ったより脆かった門は俺の拳が触れた部分が粉砕し、全体的に捻れながら吹っ飛び、庭の草木を巻き込んで騒音を奏でた。
呼び鈴代わりにしてはうるさ過ぎたな。

「…ありがとうございます。それでは、部屋の位置は覚えていますので、行きましょう。」

「あぁ。」

アリアも仙狐も何事もなかったように進むから、俺も諦めてついていくことにした。

さすがにあんな音が鳴ったのに気づかれないわけもなく、俺らが庭をゆっくり歩いているうちに武装したやつらが集まってきた。

屋敷から出てきたやつと門の横にいたやつらに挟まれる形に陣取られたな。

『ルモンドアヌウドゥ』

アリアと仙狐が透明な膜に包まれた。

俺だけ外ってことは俺が処理しろってことか?

「止まれ!ここがどこだかわかっているのか!?」

集まってきたうちの1人が声を張り上げて警告してきた。

まぁ当たり前だよな。
こいつらからしたら俺が侵入者だし。

だが、ローウィンスに許可を得ているらしいし、見せしめとして利用するっていうんなら、遠慮をする必要はねぇよな。

「ヤイザウ侯爵が俺の村にちょっかいを出してきやがったから、売られた喧嘩を買いに来ただけだ。お前らは雇われてるだけだろうから退くなら見逃してやるが、邪魔するなら殺すぞ。」

軽く『威圧』を放つと、俺の正面にいるやつらは静かになりやがった。

後ろのやつらは俺の『威圧』の効果範囲外だったんだが、屋敷側のやつらが一斉に顔を引きつらせて静かになったことで、何かを感じたのか全体的に距離を取ったようだ。

しばらく待ったが誰も攻撃してこないようだから、あらためて屋敷へと歩き始めると、前にいたやつらが少しずつ俺から離れるように道を開けてくれた。

話がわかるやつらでよかったと思ったところで、何かが飛んできた。

咄嗟に右手で掴んだんだが、石?

飛んできた方に目を向けると右手に紐を握っている男がいた。
あの紐で飛ばしてきたのか?
あんなんでよく人の頭なんていう小さい的を狙えるな。

敵対してきたのなら、約束通り殺すしかねぇなと踏み出そうとしたところで、気配が1つ近づいてきた。

チラッと目を向けて確認したら、毛皮のようなものを被ったやつが近づいてきてやがる。

毛皮野郎が短剣を取り出して、真っ直ぐに首を狙ってきやがったから、短剣を左手で掴んでガラ空きの腹を殴り飛ばした。だが、感触が軽かったから、たいしたダメージは与えられなかったかもしれん。

「チッ。見えてやがるのかよ。ならこれはもう意味ねぇな。」

毛皮野郎は悪態をつきながら、毛皮を脱いで放り投げた。

中は金属っぽい…いや、あれは俺の予備にしてる龍のガントレットに感じが似てる気がするから、もしかしたら龍の鱗で作った部分鎧かもしれん。鎧のない部分には革が使われていたりと統一性はないが、冒険者っぽい格好と思えばしっくりくるな。

他のやつらが金属っぽい鎧で全身固めているのに対し、こいつとさっき石を飛ばしてきたやつの2人だけ格好が違うから、別で雇われた用心棒みたいな感じか?

用心棒が腰を低く落としたところで、周りにいたやつらが一斉に距離をとった。
範囲攻撃か?

用心棒が祈るように両手の指を組み、それを前に突き出した。

何をするつもりかはわからねぇが、用心棒の両手に魔力が集まってやがる。しかも観察眼が危険を知らせてきやがった。

『上級魔法:土』

「龍の息吹!」

俺が地面を盛り上げさせて即席の壁を作ろうとしたのと同時に、用心棒が叫びながら開いた手の間から、炎が吹き出てきたのが見えた。

炎が届くよりも先に壁を作ることができたおかげで、直撃は避けられた。しかも、思ったより威力がたいしたことなかったのか、土壁が崩れることはなかった。まぁ多めに魔力をブッ込んだおかげかもしれないが。

今のは魔法か?だとしたら、あいつは詠唱しているようには見えなかったし、やっぱり無詠唱のスキルを知ってるやつは他にもいるんだな。

固定概念に囚われずに有用なスキルを見つけられたのは才能があるからかもしれないが、つく側を間違えたな。
雇い主がヤイザウ侯爵でなければ才能を開花させることも出来たかもしれないが、現時点でスミノフに劣っているこいつが助かる道はないだろう。

攻撃してきた時点でこいつと石を飛ばしてきたやつは見せしめに殺すからな。

せめてもの情けというか、雇われてる身だからということを考慮して、痛みを感じる間もなく死ねるように本気で殺してやるよ。

まぁ、こいつの実力次第では簡単に殺してやれないかもしれないけどな。

土壁越しに気配を探るが、2人ともまだ動いていないみたいだ。

自分より強い相手と戦うなら準備をする時間を与えるべきじゃねぇと思うんだが、こいつらは俺との実力差がわかってねぇのか?
それとも特殊なスキル持ちか?

念には念をだな。

俺は『気纏』を発動したうえで全身に『会心の一撃』をタメ、土壁を崩してすぐに本気で睨むように『威圧』を使ったが、用心棒は顔をしかめて数歩距離を取っただけだった。

昨日集まっていたやつらより弱そうだと思ったんだが、そうでもないのか?
それとも耐性持ちか?

まぁいい。これで殺せるとは思っちゃいないしな。

『超級魔法:雷』

ズドンッと雷が落ちる瞬間に用心棒が避けようとしたのが見えた。
あれに反応するってことは雑魚じゃねぇのかもな。だが、反応しただけで避けれず直撃してたけど。

これで終わりだとは思うが、俺は念のため用心棒に近づき、表皮を焦がして硬直している用心棒の顔を、タメていた右手の『会心の一撃』を消費させながら殴り、弾けさせた。

最初に石を飛ばしてきたやつも雷の巻き添えを食らって麻痺になってるっぽいから、ちょうどいいやと近づいて、左手にタメてた『会心の一撃』で首から上を消失させた。

これならこいつらは痛みをそこまで感じずに済んだだろうし、周りのやつらの戦意を喪失させることも出来ただろう。

首から下くらいは墓にでも埋めてもらえるように、ここに置いていくか。多少焦げているとはいえ服装でどっちがどっちかわかるだろうしな。
装備は…血まみれだから置いていくか。

なんか、作業のように殺しちまったな…すまん。

周りを見回してみたが、ちゃんと効果はあったみたいで、もう誰も戦う気はなさそうだ。
俺としては楽で助かるが、雇われてる身で雇い主を護らねぇってのはアウトだと思うけどな。

「アリア、邪魔はいなくなったから行くぞ。」

「…はい。」

感電したのか腰を抜かしているだけかは知らんが、ちょうどいいから俺らは屋敷の中にお邪魔させてもらうことにした。

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