裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

292話



予選が終わってから休憩に入るということもなく、顔以外の全身を金属っぽい鎧で固めた男が舞台に上がってきた。
カミエルより弱いと決めつけていたが、見た感じではそこまで悪くはなさそうだな。
左腕部分だけ他よりも分厚くなっている変わった形の鎧を着ているが、あれだとバランスを崩しそうだな。だが、鎧の男の重心がブレてるようには見えないから、体幹がしっかりしてるのかもな。もしくは鎧が分厚いんじゃなくて、左腕だけ異様に太いだけかもしれん。
利き腕だけ太くなるやつがたまにいるからな。

鎧の男が舞台の上に上がってから少ししたところで、一部で歓声が上がった。
男に対しての歓声にしては遅すぎねぇかと思ったら、どうやらヴェルが入場してきたみたいだな。

気に入ってくれてるのかはわからねぇが、俺が前に渡したビキニアーマーを着て、緑髪のポニーテールを揺らしながら舞台へと歩いている。

観客が増えたのって露出の高いヴェルを見たかったとかじゃねぇよな?

ヴェルはけっこう筋肉質ではあるが、ちゃんと女性らしいしなやかさをもったスタイルをしている。胸も年のわりにあるしな。だから気持ちはわからなくないが、朝からわざわざ見に来るほどではねぇだろ。

いや、歓声の中には女の声もあるから、そんな下心的な理由ではないはずだ。

歓声の中、舞台へと上がったヴェルは余裕そうな表情で口を動かした。
距離があるから声までは聞こえないが、ヴェルが話し終えたときには対戦相手の顔にわずかだが怒りが浮かんでいたから挑発でもしたのだろう。
本人にそのつもりはなくても、ヴェルはもともと人間を見下してる感じがあるから、いわれた方はイラッときたのかもな。

なんであんなに自信満々でいられるのかは不思議……ではねぇのか。
サラでAランクの実力があるってのが本当なら、ヴェルはけっこう強い部類に入るんだよな。それなら自信を持ってもおかしくはねぇか。
まぁヴェルは自信過剰な気がするが。

「おい、ライツがあんな鎧着てんの初めて見たんだが、変な形してんな。」

「知り合いに聞いたんだが、特注品らしいぞ。ヴェルデナーガ対策でわざわざ作ったらしい。」

「この大会のためだけに新調するとかかなり本気じゃねぇか。最初は記念に参加してみるとかいってたのによ。あんな鎧を作っちまったらヴェルデナーガに勝てても元が取れねぇんじゃねぇか?」

「今のライツは賞金目当てじゃなくてヴェルデナーガに勝つことが目当てだからいいんじゃないか?」

「たしかに『歩く災厄』の戦闘奴隷に1対1で勝ったとなれば、強さの証明としては十分だろうし、仕事の依頼が増えれば金なんていくらでも貯まるだろうしな。先を見越しての防具の新調か。ライツも考えるようになったんだな。」

「いや、ただ、子どもに負けたのが悔しいってだけだと思うぞ。」

「…。」

近くのやつらが話している内容が少し気になって聞き耳を立てちまったんだが、どうやらあの鎧はこの時のために買ったみたいだな。
ということはあの鎧の男はヴェルと初めての対戦ってわけじゃねぇってことか。

カミエルも毎回大会に参加してるみたいだし、参加してみるとハマる何かがあるのかもな。まぁ、俺も昔は喧嘩にハマってたから、気持ちはわからなくないけどな。
ただ、参加費がかかるなら何度も出たいと思うかはわからねぇけど。

意識を舞台へと向けたところで、ちょうど審判が開始の合図をした。

開始とともに鎧の男が間合いを詰め、ヴェルは構えたまま動かない。
油断はしてないが相手をナメてる雰囲気があるな。まぁ、見た感じヴェルの方が強そうだから、多少余裕をもって戦うくらいでちょうどいいのかもしんねぇけど。

そういや男は武器を持っていないと思ったら、両手のガントレットの拳部分が太くて短い棘状になってやがる。
刺さっても表面に穴が空く程度の長さだから死にはしないだろうが、めちゃくちゃ痛そうだな。

男が右手でフックのように殴りかかるのをヴェルが触れないように体を逸らして避け、カウンターのために踏み込みながら腹を殴りにかかった。
だが、鎧の男は左腕でヴェルの拳を受け止め、また右手を引いてから殴りかかった。

ヴェルが一度距離をとって攻撃をかわし、勢いよく近づきながらの回し蹴りで男の顔を狙った。
鎧の男は避ける余裕はなかったみたいだが、なんとか左腕をあげて受け止めた。

その後も似たような攻防が続いていたが、徐々に鎧の男の攻撃をヴェルが手を使って受け流すようになってきた。

気のせいでなければ鎧の男の攻撃速度が上がってきているような気がする。
といっても、まだヴェルには攻撃を当てられてないんだけどな。逆に鎧の男はヴェルの攻撃を全て左腕で受け止めている。

鎧の男の左腕が太くなってるのはそこを盾がわりにするためっぽいな。
それなら盾をつければいいと思うんだが、よく見ると男は左腕のいろんな箇所でヴェルの攻撃を受けてるみたいだ。
防具が壊れないように狙って当たる位置をずらしている可能性もあるが、たぶん同じ場所で受け止めるほどの技術がないから盾を選ばなかったんだろうな。

鎧の男の攻撃速度が上がってきているとはいっても、右手だけで攻撃するのは変に疲れるだろうし、全ての攻撃を受け止めてたら余計に疲れるだろうから、このままだと先に体力が尽きるのは男の方だろう。
鎧の男もそれをわかっているからか、途中から防御をほぼ捨てやがった。
ヴェルが顔を狙った時だけ咄嗟に左腕で防いでいるが、それ以外は特にガードせずに攻撃重視に切り替えやがった。

ヴェルは出来るだけ受け流したり避けたりするように心がけていたみたいだが、途中から少しずつ受け止めたり、場合によっては普通に殴られたりし始めた。
さっきヴェルは棘付きガントレットで腹を殴られたはずなのに、わずかに血が滲み出てる程度の傷しかおってないとか、鱗が高性能すぎるだろ。

もう技も何もない殴り合いと化し始めた頃、ヴェルが楽しそうに笑った。

殴られすぎてハイになったのか?

殴り合いに楽しさを見出す気持ちはわからなくはないがと思ったところで、ヴェルの体を何かが纏った。
そういや、ヴェルも武闘家のジョブを持っているから『気纏』が使えるんだったな。

…ん?

鱗を纏ってるだけでもあの防御力があるのにさらに『気纏』で防御力を上げれるのか?
カミエルは人間の体で『気纏』を使ってスミノフのククリナイフを受け止められていたっていうのに、ヴェルが龍の鱗で『気纏』なんて使ったら反則級じゃねぇか。

やっと本気を出したといわんばかりに、ヴェルが『気纏』を使ってからは一方的な展開となった。

『気纏』は出力に耐えられるように肉体を補強する程度の認識だったんだが、カミエルやヴェルを見る限りでは防御力はもちろん、攻撃力に速度までもけっこう上がってるみたいだな。男はほとんどヴェルの攻撃に反応できなくなっているし、殴られるたびに鎧が歪んでいっている。それでも太くなってる左腕の部分だけは歪んでいないように見えるから、よっぽど硬くしてあるのかもな。

ヴェルが仕掛けたアッパー気味の左パンチを鎧の腹にくらった男が体をのけぞらせた。
そのせいで、殴ってくださいといわんばかりの隙が生じ、ヴェルの口角が思いっきり吊り上がった。

誰もが次で終わることを確信した。

鎧の男も次の一撃を受けたら終わるとわかっているからか、左腕を無理やり体の前に持ってこようとしている。

ヴェルは思いきり右腕を引いたと思ったら、右肩から先が肥大化し、はっきりと緑の鱗が浮かんだ龍の腕へと変化させやがった。

審判の村人が目を見開いているから、ヴェルが殺す気の一撃を打つのは予想外だったのかもな。咄嗟に止めに入ろうと審判が動き始めたが、既にヴェルは攻撃動作に入っているから間に合わないだろう。

鎧の男の左腕が防御に間に合ったみたいだから、それで耐えられることを祈るしかねぇな。俺は止めに入るつもりがなかったから、今から本気で動いたところで間に合わねぇし、仮に挑戦者が死んだとしても覚悟のうえだろ。…きっと。

まるで瞬間移動でもするかのように鎧の男がヴェルの目の前から壁まで吹っ飛んだ。
壁が崩れたから、多少は衝撃を緩和してくれたかもな。いや、壁にめり込んでる時点で死んでる可能性高いだろうけど。

男が殴られたのが舞台の真ん中あたりで、舞台の端までそこそこ距離があり、壁はさらに少し離れているのに、人間って殴られただけであんなに飛ぶんだな。

俺は人をそこまで吹っ飛ばせたことはなかった気がするし、ヴェルの方がパンチ力高いのか?
これでも喧嘩は結構自信があったんだが、さすがは龍族ってとこか。地力が違うな。
もちろん努力あってのことだとは思うが。

「ヴェルさんがとても凄いのは事実ですが、相手を破裂させる方が異じょ…凄いことですよ。相手の防御力を大幅に上回らなければ破裂させることなどまず出来ませんから。」

俺が考えていることを見透かしたかのようにローウィンスが声をかけてきた。

じゃあ俺も硬い相手を本気で殴ればあれと似たようなことが出来るのかね?
でもたしかにあの距離なら、本気を出せば人間の胸ぐら掴んで投げ飛ばせそうだし、殴り飛ばすのも不可能ではねぇかもな。そう考えるとヴェルにはまだまだ負けてはなさそうだ。

「ありがとう。今度硬いけど弱いって敵がいたら試してみるよ。」

お礼をいったんだが、ローウィンスのいつもの微笑みになぜか一瞬だけ苦味が混じったように見えた。

あぁ、返答としてちょっとおかしかったな。まぁいいか。

あらためて視線を鎧の男に向けたら、どうやら生きてはいるみたいだ。村人が必死に魔法を使っているな。
いや、あの太かった左腕のガントレットが変な方向にひん曲がってんだから、鎧を脱がせてから回復させてやらねえと悲惨なことになるんじゃねぇか?でも審判役だった村人はテンパっちまってんのか、脱がすそぶりがねぇ。
さすがにこれは伝えた方がいいかと思ったら、アリアが入場してきて、鎧の男のところへと近づいていった。
アリアも観戦していたのは意外だったが、アリアがいるなら問題ないだろうということで、試合も終わったし、俺らは帰ることにした。

リスミナから昼飯に誘われたが、この後は予定があるからといって断った。

けっきょくスミノフは俺らのところには来なかったけど、大丈夫だったのか?
さすがにあれで死ぬことはないと思うが、この後の待ち合わせにはちゃんと来るのかが心配だ。

まぁ約束しちまってるから、俺に行かないって選択肢はねぇんだけどな。

スミノフが来ていることを信じて、俺はラフィリアへと向かった。







待ち合わせ場所に行くとスミノフは既に待っていて、用意してくれていた馬車での移動となった。
町の中を馬車で移動すんのなんて初めてなんだが、もしかして違う町にでも行く気か?
それにしてはこの馬車の移動速度はかなりゆったりだが。

「今日は恥ずかしいところを見せちゃったね。」

特にすることもねぇからと町を眺めようかと思ったら、スミノフが話しかけてきた。

ゆっくりとスミノフに向き直りながら考えてみたが、たぶんカミエルに負けたことをいってんだよな?

「闘技大会のことをいってるなら、べつに恥ずかしがることでもないと思うけど?スミノフが負けるのは意外だったけど、カミエルは対人戦に特化してるような感じだったから、戦いにくい相手だったと思うし。それにククリナイフで足が切れないってことには俺も驚いたからさ。」

「そういってもらえると少しは心が楽になるよ。油断したつもりはなかったけど、Bランク冒険者になら負けることはないと慢心していたんだろうね。カンノ村の学校に行ってからいろいろと気づかされてばかりだな。」

スミノフは苦笑いを浮かべながら、窓の外へと視線を向けた。

スミノフは負けたのが恥ずかしかったから戻ってこなかったのか。
ヘタしたら今日で会うのが最後になるかもしれないってのにな。

本当なら明日も集まる予定だったが、リスミナが今日の予選と本戦を見て、明日の参加を見送ることにしたから、明日の闘技大会の観戦は中止になった。
そんで新たに予定を立てる前に俺が時間だからと別れちまったから、次の予定は決まってない。というかヘタしたらもうこの臨時パーティーで集まることはないかもしれない。

明日の集まりが中止になったことは既にスミノフに伝えてあるが、悲しんでいる感じはなかったから、スミノフも期間限定パーティーだと割り切っていたんだろうし、べつにいいのか。

その後はスミノフと戦った後のデュセスの様子やヴェル戦の話なんかをしているうちに予定の店とやらに到着した。

俺の記憶が確かなら、ここは前にローウィンスと来たことがあるな。
どう考えても冒険者が来るようなところじゃねぇよ。

スミノフってもしかして貴族なのか?
いや、ローウィンスがスミノフは貴族と協力関係にあるっていい方をしていたから、貴族ではないだろ。

「個室を予約してあるから、周りの目は気にしないで大丈夫だよ。」

いわれて気づいたが、スミノフは普段着ている革鎧の上からコートを着ているだけで、全くもって貴族っぽい格好ではない。
その格好で抵抗なくこんな高級そうな店に入れるんなら、貴族ではなさそうだ。貴族って外面を気にする奴らなイメージだからな。

「よくこんなところの予約が出来たね。」

「知り合いがたまに使う店でね。今日は大事な話のために使いたいっていったら、店の方に話を通しておいてくれたから、僕たちみたいな冒険者でも大丈夫だよ。」

「なら良かったよ。」

俺はてきとうに返事をしてから、店に入っていくスミノフについていき、店員に何かを見せてるスミノフの後ろ姿を眺めていた。

コネか。

スミノフは俺と歳がそんなに変わらなそうなのに、頼んだらこんな店を予約してくれるほどの関係を築けてるってのは純粋に凄えな。

サラが見せてきたリストが正しければヤイザウ侯爵だったか?
この世界の貴族の上下関係をよく知らんが、たぶん俺が知ってる通り高い地位のやつだろう。

それだけの地位がありながら、平民を私兵ではなく協力関係として付き合うんだから、器のでかいやつなのかもしれないが、そんな相手とコネを築けるスミノフもやっぱり凄え。

俺には無理だ。と思ったが、ヤイザウ侯爵よりも上のローウィンスと知り合いだったな。
どっちも『こうしゃく』だから実は同じかもしれないが、元王族の方が下ってことはないだろうから、俺もなかなか凄えじゃん。
いや、俺はなんもしてないから運が良かっただけだけどな。

ローウィンスが夢見がちなのと、ローウィンスに行動力があったのと、ローウィンスが盲目的に好意を向けるタイプだったことが噛み合ったから関係を築けただけで…俺の要素が全くねぇから、本当にただ運が良かっただけだな。

店員の案内についていくスミノフの後ろを歩いていると店内の客がチラチラと視線を送ってくる。

今回は陰口のようなのは聞こえないから、単純にこんな格好して来るやつが珍しいとかだろう。
いくらスミノフが問題ないといっても、周りが着飾ってる中で革鎧は浮くわな。

結構歩くなと思ったら、だいぶ奥の個室に案内された。

個室は4人用のテーブルがあるだけのシンプルな部屋だ。
前回あった店員を呼ぶベルすらなく、メニューが置いてあるだけだ。

「ご注文がお決まりの際はこちらの指輪でお呼びください。」

店員がスミノフに指輪を渡してから、一礼して部屋を出ていった。
前回は入口あたりに店員が待機してるっぽかったが、今回は店員の気配が離れていった。
声が届きそうな範囲には他の気配も一切ない。
ここは密談用の部屋って感じか?
思った以上に真面目な話なのかもしれないな。

「好きなものを頼んでくれていいよ。ここの代金は僕が払うから」

「ありがとう。」

せっかく奢ってくれるっていうのに断る理由もないから、礼をいいながらスミノフが渡してきたメニューを受け取った。

前回は全部頼んだ気がするが、さすがに今回はやめておこう。
イーラがいるから残すことはないが、さすがに奢りだからって人1人が食う量を大幅に超えた注文をするのは悪い気がする。
ローウィンスは王族だったから金があるだろって遠慮なんかしなかったが、スミノフは貴族ではないみたいだしな。
話の内容が面倒ごとだったら、その分あとで追加注文するかもしれないが。

前回食って美味かったものを頼むために思い出そうとしながらメニューを眺めていたら、たぶん前回はなかったメニューが数種類あるな。
今日はこれらを頼もう。4品くらいなら許容範囲のはずだ。

スミノフに選んだものを伝えたが、とくに何もいわれなかったから、もしかしたら全品頼んでも問題なかったかもな。

「話はご飯を食べ終えてからにするから、先に食事を楽しもうか。」

「ゴチになります。」

「?」

スミノフには伝わらなかったが、べつにたいした意味ではないから笑って誤魔化し、馬車での他愛のない話の続きをしながら、飯がくるのを待った。








やっぱり高級店だけあって美味かった。

村の飯も美味いが、美味さのベクトルが違うっていうか、たまに食う高級店の飯はいいな。

俺らが食い終わった食器類を店員が全て下げ、テーブルには飲み物が入ったグラスとメニューだけとなったところで、スミノフの空気が変わった。
どうやら本題に入るつもりみたいだな。

「今日は時間を作ってくれてありがとう。」

「こっちこそご飯ご馳走さま。それで、話って何?」

スミノフが真っ直ぐに俺の目を見てくる。まるで真意を探るかのように。嘘を見抜くスキルでも使ってるのかもな。

「先に確認をしたいんだけど、テキーラくんはサラ先生やアリア先生のことをどう思う?」

初っ端からぶっ込んできたな。
残念ながら、2人はスミノフのことを恋愛対象には見てないぞ。というか、2人はまだ恋愛自体を理解してないかもな。

だが、今聞かれてるのは俺のことだから、余計なことをいうべきではねぇか。

「あんな子どもなのに凄く頑張ってるってのは素直に凄いと思うよ。」

「そうだね。確かに頑張ってる。だけど、あれはあの子たちが本来あるべき姿ではないと僕は思うんだ。」

…ん?なんか話がずれたか?

「2人に好意を抱いてるかってことを聞きたかったわけじゃないのか?」

「テキーラくんがよくサラ先生やアリア先生に視線を送っていたのには気づいていたから、さっきの答えでテキーラくんも2人が好きなのは十分伝わってるから大丈夫だよ。」

“も”ってことはスミノフが2人を好んでいるのは間違いないみたいだな。

「いっておくけど、俺は2人に対して恋愛感情は全く持ってないからね。」

俺の言葉を聞いたスミノフが少し驚いた顔をしてから笑顔になった。

「テキーラくんは面白いことをいうね。そんなの当たり前だよ。あぁでも、たまに恋愛だと思い込んじゃう人もいるらしいから、当たり前ではないのか。とりあえず僕も恋愛感情は抱いてないから、気持ちはテキーラくんと同じだと思うよ。」

単純に子どもが好きなだけなのか?
見た感じ嘘をついている感じではないし、念のため『識別』のスキルを使っても本音と出ている。

「じゃあ今日俺を呼んだのはどういう理由なの?」

「テキーラくんには仲間になってもらいたいと思ってね。もちろんすぐになってもらえるとは思ってないよ。いきなり信用を得られるなんて思っていないからね。だから今回は敵対さえしないでもらえたら嬉しいかなって。」

「なんの話だ?」

訝しむように聞き返したら、スミノフが真顔に変わった。
この奥の方まで覗き込まれるような視線はあんま好きじゃねぇな。

「さっきもいったように、僕はサラ先生やアリア先生の今の姿は本来あるべき姿ではないと思うんだ。でも、主人であるリキ・カンノに命令されたら、意に反していても従わなければならない。だから、僕はリキ・カンノと直接話をつけようと思ってね。そのために学校に通っていたんだ。」

スミノフ、お前もか。

そういや今ラフィリアで奴隷反対運動みたいなのがあるとかアリアたちがいっていた気がするな。
スミノフはそこに所属してるのか?

それなら貴族との繋がりがあるのも納得がいく。
王族に対してデモみたいなことをしても罰せられないのは貴族のバックがあるからってことならしっくりくるしな。
その相手が侯爵となればヘタに手を出しにくいって可能性もあるしな。
まぁ政治のことはよくわからんが。

ということは、俺に仲間になってほしいってのは奴隷反対運動を一緒にやってほしいってことか?

嫌に決まってんだろ。

子どもが大人のように働くのが異常だって気持ちは理解できなくはない。
だが、こんな誰がいつ死んでもおかしくない世界で子どもだからって何もしてなければ、保護者に何かあったときに後悔するのは子ども自身だ。
自分にできることを早いうちに見つけておくのは悪いことではねぇと思う。

まぁ子どもの奴隷に思うところがあるっていうのはこの世界でも人としては普通のことなのかもな。だが、俺には必要だから、スミノフの仲間になるつもりはない。

だけど、スミノフが俺に話をしにくるっていうなら、話くらいは聞くつもりだ。

文句ばっかりいって何もしない奴は嫌いだが、まずは話し合いをするために真面目に取り組んでいたやつを邪魔するつもりはねぇ。聞き入れるかは別だが。

「わかった。仲間にはなれないかもしれないけど、俺は俺に迷惑がかからない限りはスミノフの邪魔をしないと約束するよ。」

真剣な目で俺の目を見ていたスミノフが微笑んだ。

「本当は仲間になってほしかったけど、今はまだ詳しいことが話せないのに仲間になってもらうなんて無理だろうから、敵対しないでもらえるだけでも嬉しいよ。テキーラくんには僕じゃ今のところどうあがいても勝てそうにないからね。もしテキーラくんの気が変わったら、僕らはいつでも歓迎するからね。」

スミノフが出してきた手を握り返した。

スミノフが奴隷反対運動をしている組織だとしたら、結果的に敵対関係になるかもしれねぇが、話し合いで互いに干渉しないとかになる可能性もある。

俺は面倒なことや迷惑さえ被らなければ、わざわざ敵対する気はないからな。
スミノフがどんな交渉をしてくるのかを楽しみにしておくよ。

話はこれで終わったようで、最後に追加でデザートを食べてから解散となった。

「裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く