裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
289話
今日も早朝から集まり、さっそくダンジョンに入るかとなったところで、リスミナに大盾を渡された。
「何これ?」
「大盾だよ。」
いや、それは見ればわかるんだが。
いきなり何?って意味で聞いたつもりだったんだが、デュセスならまだしもまさかリスミナに伝わらないとは思わなかった。
「今日のアーマーラットの討伐では一番力のあるテキーラに盾役をしてもらおうと思って、リスミナのを貸してもらうことにした。テキーラが自分のを持っているならそっちを使ってくれて構わない。」
とりあえず大盾を受け取ったはいいが、意味がわからないと思っていたら、デュセスが補足してきた。
そういや今日の敵はそんな名前だったな。
盾で受け止めて、止まったところを刺し殺すとかなんとか説明していた気がしなくもない。
その受け止める役がいつのまにか俺に決まってたってわけか。
「そういうことね。ありがとう。」
「今日は地下50階のアーマーラットだけを討伐する予定。アーマーラットの攻撃を受け止めるテキーラに一番負担がかかると思うから、疲れたらいってほしい。昨日思った以上に点数を稼げたから、10体の討伐で足りる。だから、休憩を挟んでも時間の余裕は十分にある。」
役割を勝手に決めたからか、だいぶ気を使ってくれてるみたいだな。
だが、終わらせられるなら早く終わらせてしまいたいから、出来る限り休憩はとらないようにしよう。まぁ、盾役なんか昨日のバーニングベア戦くらいでしかやったことないから、実際に受けてみなきゃわからねぇけどな。しかもあんときは剣を盾代わりにしてたし。
「ありがとね。出来るだけ頑張るよ。」
デュセスに礼をしつつ、さっそくダンジョンに入るという話になった。
アーマーラットといわれてもどの魔物だったかいまいちピンとこなかったが、今日の俺の役目は盾で防げばいいだけだからと思い出すのは早々に諦めて地下50階まで最短距離で向かった。
地下50階に下りたところで使った気配察知でわりと近くに1体の魔物を見つけた。
把握した形的には四足歩行っぽいけど、まだ思い出せないままに気配の方に進み、目視出来るところに来た瞬間、向こうにも気づかれた。
アーマーラットってあのデカいアルマジロみたいなやつのことか。
こいつは硬い皮膚をしてるうえに転がってきやがるから、スキルを使ってかなり力を込めないと殺せなかったやつだ。
防御力特化っぽい魔物だから、セリナも苦戦するだろうと思ったら、わりと簡単に切り殺してたけどな。
俺が前に来たときのことを思い出しているうちにアーマーラットが丸まり、転がって向かってきた。
こいつらは俺らを見つけ次第すぐに丸まって転がってきやがるから、殴るときはコツと力が必要だったが、今日は盾で受け止めるだけだし、弾き飛ばされないようにだけ気をつければいいだろ。
俺が受け止めるために大盾を構えたところで、デュセスとスミノフが俺の左右斜め後ろの位置についた。
俺が受け止めた瞬間に攻撃するためだろう。
転がった勢いそのままに突進してきたアーマーラットを大盾で受け止めたんだが、思ったより攻撃が重いな。
力を入れていたつもりなんだが、危なく弾かれそうになった。咄嗟にテンコが身体強化をしてくれたようで、無様な姿を晒さずにすんだみたいだ。ちょっと相手をナメすぎたな。
少しの間耐え続けていたら、勢いが完全に止まったところでアーマーラットが丸まりを解いた。
その瞬間、デュセスが動き、アーマーラットの首あたりの硬そうな皮膚と皮膚の間に短剣をぶっ刺してから掻き回すように動かした。
一瞬ジタバタともがくようにアーマーラットは動いたが、すぐに動かなくなった。
俺やセリナはカウンターで殺していたが、こうやればスキルや技術がそこまでなくても簡単に殺せるんだな。もちろんアーマーラットの突進に耐えられる盾役は必須になるが。
デュセスがアーマーラットが動かなくなったのを確認してから退くと、ローウィンスとリスミナが近づき、デュセスに指示されながら解体を始めた。
授業ということで組んでるだけの臨時パーティーにしてはいい感じに役割分担できてるよな。
誰も任された仕事に文句をいわないから、空気も悪くないし。
スミノフは力に自信があるっぽいから、戦闘に参加出来ないと文句をいうかと思ってたが、嫌々感も全くなくフォローに徹してるのが意外だ。
セリナとの模擬戦闘のときはけっこう積極的だったのにな。
臨時パーティーメンバーを眺めながら考えごとをしていたら、もう解体が終わったようだ。
アーマーラットからは背中の硬そうな部分しか取らないようで、残りはその場に放置して次へと向かった。
アーマーラットは単体でしかいなかったから、まだ6体しか倒せていないが、これの解体が終わったら昼飯にするということになった。
昼までに終わるかもとかいってた気がするが、休憩なしでやってたにもかかわらず予定の半分程度しかいかなかったな。
まぁ移動が徒歩だったり小走りだったりといった遅めの速度だったから、しゃーないとは思うが。
「おかしい。」
リスミナに解体を任せたデュセスが俺に近づいてきてから呟いた。
デュセスはまた俺にやらせておいて、それ通りにやったらおかしいとかいうのかよと思いながら顔を向けたんだが、どうやら今のは俺に対してではなかったようだ。
デュセスの視線は俺ではなく、ダンジョンの先を見ていた。
「何がおかしいの?」
「私が得た情報ではこのダンジョンの最高到達階層は地下50階。リスミナとも情報のすり合わせはしたし、この階の魔物はほとんど手つかずという話だった。なのに魔物が少なすぎる。強い魔物は初期段階の数自体が少ないというのもあるとは思うけど、それにしても遠くの魔物の位置がわかるテキーラがいてまだ6体にしか出会わないのはおかしい。」
…。
「ほとんど手つかずってことはあんま倒さずに帰還したってことでしょ?よくそんな魔物の倒し方なんて知ってるね?」
「アーマーラットはべつにこのダンジョンにしかいない魔物というわけではない。歴の長い冒険者なら倒せるかは別として倒し方くらいは知っているだろうし、私は冒険者ではないけど、先輩に実戦で教わっている。」
「そうなんだ。」
とりあえず話題は逸らせたな。
俺がついこの前一度全滅させたせいで授業が終わらないとかなったら、さすがにほんの少しだけ申し訳ないからな。
余計なことをいってやる気が削がれてペースが落ちたら面倒だし、なんとか今日中に10体倒したい。
事情は終わってから話せばいいだろう。
「そう。それで、テキーラはアーマーラットが異常に少ない理由を何か知らない?」
話を戻された。
さて、なんと答えようかと思っていたところで、解体を眺めていたサラが俺らの方に近づいてきた。
いきなり近づいてきたサラを見ていたら、デュセスも不思議に思ったのか視線を向けた。
いつもなら解体が終わるまでジッと見ているのに、今はまだ解体途中にもかかわらず近づいてくるってことは何かあったのか?
「話が聞こえてしまったのです。」
近づいてきたサラが、俺とデュセスを交互に見てから口を開いた。
わざわざ近づいてきてそんなことをいってくるってことはもしかして私語は減点対象なのか?でも、それは今更すぎる気がするが。
「サラ先生は何か知っているの?」
「はいなのです。最近、リキ様が一度全滅させてしまったので、数が減っているのです。でも、素材は一切採取しなかったようなので、みなさんが予定している10体以上は生まれていると思うのです。」
サラがバラしやがった。
デュセスが俺を見ているのがわかるが、あえて無視だ。
あれは俺が学校に通う前にやったことだから、授業にこの魔物の討伐があるなんて知らねぇし、わざとじゃねぇから見られても困る。
「そう。その情報は誰からも聞けなかったから知らなかった。せっかくだから聞いておきたいのだけど、リキは何階まで行ったの?」
俺が無視し続けたことで視線をサラへと戻したデュセスが質問をした。
さすがのデュセスも俺に質問はしてこなかったな。学習してくれたようでなによりだ。
「詳しくはアリアさんに聞いてほしいのです。でも、デュセスさんが真っ先に想像した階層で合っていると思うのです。正確にいえばその階層の魔物も倒しているのです。」
サラはなぜか答えを濁した。
サラはデュセスが最深階を想像していると思っているみたいだが、デュセスは俺の到達階層のことを考えているようには見えなかったけどな。いや、デュセスはあまり表情に出さないタイプだから、もしかしたら何も考えてなさそうな顔をしててもいろいろ考えているのかもな。
「…そう。」
デュセスが声のトーンを落としてサラに返事をした。
視線ももうサラではなく遠くの方に向いてるっぽいから、自分から聞いておいてそこまで興味があるわけではなかったのかもな。
どうやら解体も終わったみたいだし、一度階段のところまで戻って昼休憩って感じか。
近づいてきたローウィンスとリスミナと一緒に戻ろうとしたところで、視線を感じた。
振り向くとスミノフが見ていたみたいだ。
たまたま見ていたのかと思ったが、立ち止まった俺に近づいてくるってことはなんか用があるっぽいな。
サラたちは気づいていないみたいで先に進んでいるが、すぐに追いつくから声をかける必要はねぇか。
「どうしたの?」
近づいてきたスミノフに声をかけると、スミノフが笑顔を返してきた。
「実はテキーラくんと少し話をしたかったんだけど、あまり人に聞かれたくはなくてね。明日か明後日に少し時間をもらえないかな?」
わざわざ時間を取ってまで話したいってことはけっこう重要なことなのか?
正直スミノフとはほとんど話したことすらねぇから、そんな重要なことを話されるような関係ではねぇと思うんだけどな。
「今なら他の人には聞こえないと思うけど、ここじゃ話せないことなの?」
俺の質問に対して、スミノフは視線を動かした。
視線の先を追うと、サラの方を向いていた気がする。
ほほぅ。
「ちょっとね。」
視線を俺に戻して苦笑で答えたスミノフを見るに、万が一にも聞かれたくないことなのだろう。
残念ながら、サラにその気はねぇみたいだが、話くらいは聞いてやるか。
はっきり教えてやったら落ち込むだろうが、仕方ねぇから一言二言くらいは慰めてやるよ。テキーラとしているのもあと数日だしな。
「わかった。あとで予定が入ると困るから、明日の昼過ぎでいい?」
「ありがとう。ならお店を予約しておくから、昼食を取りながらにしようか。もちろんお金は僕が出すから。待ち合わせは北門からラフィリアに入った辺りでいい?」
この世界にも予約制の店なんてあるんだな。
そういや前にローウィンスと行ったところは貸切がどうとかいってたし、予約ができるってことだよな?つまり、スミノフはあんな感じの高級店で奢ってくれるつもりなのか?
軽い気持ちでOKしたが、ちょっと楽しみになってきたな。
「待ち合わせ場所はいいけど、奢りなんていって大丈夫?俺って結構食べる方だし、遠慮とか出来ないよ?」
「遠慮しないでいいよ。時間をもらうんだから、そのくらいはね。お金ならあるから気にしないで。」
そこまでいわれたら遠慮する必要はねぇか。
「ありがとう。楽しみにしてるよ。」
「こちらこそ時間を作ってくれてありがとう。」
スミノフとの話を終えたときにはサラたちはけっこう先まで歩いていたから、俺とスミノフは少しだけ急いで追いかけた。
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