裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

284話



日が暮れるまでそんなに時間があるわけではないが、受ける依頼も決まったことだし、とりあえず即席パーティーで慣らし討伐をしようということで、ラフィリアの東にあるダンジョンに来ている。

デュセスとリスミナが選んだ依頼には高くて5点のものしかなかった。

近場で出来る依頼ということを優先したから仕方ないことだが、その代わり全てを1つのダンジョン内で達成出来るように調整してくれたらしい。
数をこなさなきゃならなくはなったが、階層によって出てくる魔物が決まっているから、そこまで時間がかからずに終わるだろう。

今日はゴブリンソルジャーの剣集めだ。

なぜかこいつらは生まれるときに兜と剣とネックレスがセットで生まれてくるらしく、これらの装備は鉄製とのことだ。しかも魔鉄とまではいかないが、わずかに魔力もこもっているらしい。それがなんの役に立つかは知らんが、サラ曰くそれなりに使い道があるんだとさ。ちなみに冒険者ギルドでは討伐証明以外の価値はないらしくて、リスミナが不思議がっていた。

ゴブリンソルジャーの剣は1本1点と稼ぎやすいんだが、この前クレハたちと通るときに邪魔なやつらは殺しちまったから、どのくらい増えているか次第なんだよな。
そこそこ広いダンジョンを走り回って2.3体しかいなかったら時間の無駄になっちまうし。

地下15階を歩いて奥に進んでいくと、さっそく1体いる気配がした。

「奥に1体いるみたいだけど、誰が行く?」

「連携をするためにもリスミナかアインがいい。私やテキーラ、スミノフは支援するまでもなく倒してしまうから。」

「それでは私が行きます。」

俺が後ろを向いて確認したら、デュセスが意見を述べ、ローウィンスが答えながら前に出てきた。

それにしてもこのパーティーは緊張感がねぇな。

まだ雑魚しか出てこねぇけど、デュセスとスミノフは自信ありすぎだろ。
ローウィンスは今から戦闘するってことで緊張し始めたが、さっきまでリスミナと同じく気が緩んでるように見えた。まぁこの2人は自信があるとかよりも周りが強いから油断してるだけっぽいが。

正直ゴブリンソルジャー程度なら油断してても負ける気はしないが、確か前に死にかけの女戦士っぽいやつに会ったのがここだった気がする。つまり、死人も出始める階なんだから、この2人は油断するべきではないと思うんだが。そういや女戦士から金の回収してなかったな。…わざわざ回収に行くのはめんどいから、気が向いたときでいいや。

ローウィンスを先頭に歩いているとゴブリンソルジャーを見つけた。

「アインは思うように動けばいい。危なそうになれば私たちが手伝う。リスミナは邪魔にならないように援護。」

「はい。」

デュセスが指示を出し、ローウィンスが返事をして剣をかまえた。

どうやら俺はダンジョン内ですらリーダーっぽいことをする必要はないみたいだ。

ローウィンスが駆け出すと、少し距離を取りながらリスミナとデュセスが続き、そのさらに後ろにスミノフが続いた。

デュセスとスミノフがフォローするなら問題ないだろうから、歩いてついていく俺の横をサラも歩いている。

「テキーラさんは参加しないのですか?」

サラはもう俺がリキだと気づいているだろうが、他のやつらと距離があっても、ちゃんとテキーラとして接してくれている。

「ゴブリンソルジャー1体に近接戦闘タイプが5人も集まったらむしろ邪魔だからね。デュセスが指揮を取ってくれてる間は任せるつもりだよ。」

決して面倒ごとを押しつけてるわけではない。デュセスが勝手にやってくれてるから、信じて任せてるだけだ。

サラに答えてからローウィンスたちに目を向けたタイミングで戦闘が始まった。

ローウィンスが間合いに入って上段に構えたときにはゴブリンソルジャーが片手で力任せに剣を振り下ろし始めていたが、ローウィンスは剣で受け流し、そのままゴブリンソルジャーの横を通り過ぎながらの胴切りをしていた。

さすがに真っ二つとはいかなかったが、脇腹を深く抉ったようで、ゴブリンソルジャーは傷口に手を当てて隙だらけになった。その隙を狙ったリスミナがゴブリンソルジャーの首を剣で斬りつけた。

リスミナの斬撃も首の切断とはいかなかったが、脇腹と首からの出血に耐えられなかったゴブリンソルジャーがゆっくりと膝を折り、うつ伏せに倒れた。間違いなく死んだとは思うが、念のためにかローウィンスが剣をゴブリンソルジャーの首裏に突き刺して捻ってトドメを刺していた。

ローウィンスもゴブリンソルジャー程度なら問題なさそうだな。今だって、べつにリスミナの援護がなくても倒せていただろうし。

そういや、ローウィンスの技のレパートリーが増えているようだ。前は上段からの振り下ろし以外は拙い印象だったが、今の胴切りはけっこう綺麗だった。あくまで俺が見た感じではってだけだが、剣を使い慣れてるんだなと思えるくらいには見えた。ローウィンスも努力してんだな。

「次はリスミナにメインで戦ってもらう。テキーラは次のゴブリンソルジャー探しをお願い。リスミナはゴブリンソルジャーの剣の回収を任せた。」

デュセスがリーダーをやれば良かったんじゃねぇか?と思うくらいに指示出しをしてくれている。
まぁ俺は今までやりたいように冒険してきただけだから、みんなをうまく使うみたいな采配は出来ねぇし助かるんだが、俺にリーダーを押しつける必要はなかったと思うんだよな。まぁいいけど。

「剣だけでいいのかな?」

リスミナがデュセスにいわれた通りにゴブリンソルジャーの装備品を回収しようとしたところで、振り向いて確認をしてきた。

確認されたデュセスは無言のままサラに視線を向けた。

「剣だけで大丈夫なのですが、兜とネックレスも一緒だと嬉しいのです。でも、点数は変わらないのです。」

「アイテムボックスに余裕があったら全部拾って。死体はそのままでいい。」

「わかった。」

サラの返事を聞いたデュセスがリスミナに答え、リスミナは手慣れた様子でゴブリンソルジャーから装備品を外していく。

俺はそれを横目で見ながら通り過ぎ、歩いて先に進んだ。

俺は索敵役だから、装備品の回収を見てないで、先を歩いて次のゴブリンソルジャーを見つけなきゃだからな。

「いかがでしたか?」

小走りで近づいてきて横に並んだローウィンスが訪ねてきた。

「今の戦闘のことか?だとしたら、ずいぶん成長したんだな。上段からの振り下ろしが上手いのは前に手合わせしたときに知ってたけど、さっきの胴切りも上手かったぞ。といっても、俺は素人だから、たいした参考にはならんと思うがな。」

「いえ、褒めていただけて嬉しく思います。」

俺なんかに褒められただけで、そんなはにかんだ笑顔を向けんな。反応に困んだろ。
こういうときはスルーだなと思ったところで、さっきまで隣にいたサラがついてきていないことに気づいた。

どうしたのかと振り向くと、サラはリスミナたちがゴブリンソルジャーの装備品を回収しているのを見ていたみたいだ。納品依頼の素材の扱い方とかもチェックしているのかね。仕事熱心で偉いことだ。

ふと視線を感じて目を向けたら、なぜかスミノフが俺を見ていたらしく、目が合った。そしてなぜか微笑まれた。

今のがアイコンタクトだとしたら全く意味がわからんし、目が合った気まずさからの笑顔だったら反応する必要はないから、どっちにしろスルーでいいだろ。

「やっぱりテキーラさんも気づいているのですね。」

前に向き直って気配察知をしながら歩いていたら、隣のローウィンスが声をかけてきた。だが、意味がわからん。

「何がだ?」

「いえ、なんでもありません。」

俺の質問にローウィンスがわずかに首を傾げたが、すぐに意味ありげな微笑みを浮かべて誤魔化してきた。

なんでもないことはないだろうと思うが、いう気はないみたいだから気にするだけ無駄だろう。察しろという意味だとしたら、俺には無理だ。

あらためて思うが、目が合うだけで俺のいいたいことがわかるアリアって凄えな。

それとも俺がわかりやすいだけなのだろうか?







5体目のゴブリンソルジャーを倒し、リスミナが装備品を回収するのをなんとなしに眺めていた。

今日はこれで終わりの予定だ。
パーティーメンバーの戦い方や実力をかるく確認するという意味ではちょうどいい相手だったな。といっても、戦ったのはほとんどローウィンスとリスミナだけだけどな。
俺はゴブリンソルジャー探ししかしてないし、デュセスとスミノフはローウィンスとリスミナがミスったときにフォロー出来るような位置取りをしていただけで、手は出していない。

それでも2人の戦闘を見れたから、初日の少ない時間の有効活用にはなっただろ。

ローウィンスは人型の魔物相手の1対1ならもうちょい強い魔物でも問題はなさそうだったし、リスミナはローウィンスより全体的に上手いというか慣れている感じがあって危なげがなかった。だから、2人とも俺らのフォローがあればもっと深い階層に行ってもなんとかなりそうではある。

スミノフとデュセスに関しては前の授業で一緒に戦ってるから、ここのダンジョンなら相当下まで行かなきゃなんの問題もないのはわかってるからな。

ゴブリンソルジャーの装備品の回収を終えてから、リスミナの『リスタート』を使って1階に移動して外へと出ると、思いのほか時間がかかっていたようで日が暮れていた。

今日はもう時間が遅いということで回収したゴブリンソルジャーの装備セットはこのままリスミナに預けて後日納品するということになり、この場で解散することになった。

明日はこのダンジョン前に早朝集合となったことで、デュセスとスミノフは近くの村に泊まるといってダンジョン前で別れた。
まぁ持ち家がなくて定宿を決めてるわけじゃないならラフィリアやカンノ村より近いし安いだろうからな。わざわざ遠い方に行く必要がねぇか。

「私も今度から宿代はまとめて払わない方がいいのかな?」

俺とサラとローウィンスとリスミナでラフィリアの方に帰ろうとしたところで、リスミナが話しかけてきた。
日が暮れているからか周りに誰もいねぇけど、一応テキーラでいた方がいいか。

「スミノフはわからないけど、デュセスは急な仕事が入るかもしれないから身軽にしてるだけだろうし、真似する必要はないんじゃないかな?むしろ、1日ごとだとタイミングによっては違う人に取られて泊まるところがなくなる可能性があるし、いる期間が決まってるならまとめて取った方がいいと思うよ。でも、初日は宿の質を確認するためにも1日だけにした方がいいのかもしれないけど。」

俺が真面目に答えたのが予想外だったのか、リスミナがキョトンとした顔を向けてきた。

聞かれたことに答えただけなのにそんなに驚くことか?

「あ、ごめん。…でも、そうだね。せっかく見つけた安い宿だから、このままの方がいいね。」

リスミナは納得したみたいだな。
いろいろな場所を冒険するっていうなら、戻ってくるかわからないから無駄に金を払う必要はねぇけど、今は学校に通ってるだけなんだから、いいとこ見つけたなら確保しといた方がいいだろう。

街灯も何もない道ではあるが、月明かりだけでも案外見える夜道を雑談しながら歩いていく。

まぁ、今の俺には真っ暗だろうが見えちまうんだけどな。なんて思ったせいで感慨も何もなくなりながら、ラフィリアへと続く街道を進んでいった。

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