裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

283話



ジャンヌを見送った後はすぐにテキーラになって出かけようと思ってたんだが、けっきょく昼飯を食ってからデュセスとリスミナとローウィンスまで一緒に門から出ることになった。
まぁ、もし村民区画に入ったのを誰かに見られていたら、出てこなかったらおかしいしな。


今日から掲示板には案内が貼られていなかった冒険者実践とかいう授業が始まるんだが、その前に受付で集合場所の確認をしなきゃいけないということで、まずは学校区画の総合受付に4人できた。

受付に座っていた村人に確認を取ると、手慣れた感じで向かう教室を教えられ、地図で確認してから向かった。

地図で見た感じだと結構広そうな教室だったが、参加者が多いのかね?
受けられる人間を選んでるっぽかったから、もっと少人数なのかと思っていた。

そんなことを考えているうちに教室へと着いた。

少し早めに来たと思うんだが、中には既に30人くらいいるっぽいな。

この教室は机や椅子がなく教壇すらない。
あるものといえば、数ヶ所の壁に紙が貼ってあるくらいか。ぱっと見は冒険者ギルドにあった依頼書のように見えるが、なんでこんなところにあるんだ?

既に教室にいたやつらもその紙が気になっているのか、近づいて確認してるやつらもいる。

俺も気にはなるが、あの人だかりの中に入りたいとは思わないから、紙の貼られていない壁のところによりかかり、先生が来るまで待つことにした。

俺が壁によりかかると、デュセスとリスミナとローウィンスも近づいて来たんだが、こいつらといると目立つな。
まぁこいつらの見た目が整ってるからというのもあるが、ここの授業を受けてるやつらは男の方が多いから余計に目立ってるんだろうな。チラチラと視線が飛んでくるのが地味にウザい。
クレハたちがくれば多少は和らぐだろうから、少しの辛抱か。

「テキーラとアインはこの授業の内容を知ってるの?」

依頼書の方をチラチラと見ていたデュセスが俺とローウィンスに確認を取ってきたが、そういやなんも聞いてねぇな。

「俺は知らん…ないよ。」

「5人パーティーを作り、依頼を達成するという授業だと聞いています。」

このメンツのせいか、テキーラであることを一瞬忘れちまった。
俺が無理やり取り繕ったところで、ローウィンスが答えたんだが、なんで知ってんだよ。いや、事前に情報を集めるのはおかしいことではねぇか。

「そうなの?じゃああと1人はどうしようか?カルアさんたちは乙女の集いで4人一緒にパーティーを組むと思うから誘えないと思うし。」

リスミナが困った顔で確認をしてきた。

本来ならどんな授業内容かによって、選ぶべき相手が変わると思うんだが、パーティーを組まなきゃならないと考えると、知ってるやつの方がまだいいよな。
そうなると前回組んだあの男たち3人の内の誰かか?それなら1番使えそうな優男が良さそうだな。

「スミノフがいいんじゃない?相手が組んでくれるかはわからないけど。」

「そういえばテキーラくん1人だけ男性なのも悪いし、そうしようか。」

リスミナが変な気を使ってきたが、そこはどうでもいいんだけどな。ただ、知ってるやつが他にいねぇだけだ。

「べつに性別はどうでもいいんだけど、話したことある相手の方がいいかなって思ってさ。」

「スミノフはけっこう強かったから、私はいいと思う。」

「私も賛成です。」

デュセスは一度一緒に戦っているからか即座に賛成し、ローウィンスはなぜか探るような目で俺を見てから賛成した。

「みんながそれでいいなら、私も問題ないよ。じゃあ、他の人に誘われちゃう前に声をかけてくるね。」

いうが早いか、リスミナは人だかりの方に歩いていった。

俺は気にしてなかったから気づかなかったが、どうやらあの中にスミノフがいたらしい。
リスミナはよく見てんな。

その後、リスミナ1人で戻ってきたから失敗したのかと思ったら、どうやら交渉はうまくいったらしい。
今できそうな前準備は終わったから、先生が来るまで雑談をしながら時間を潰すことになった。






教室が広いと思ったら、最終的に集まった生徒の人数が多く、先生役の村人の数まで多かった。しかも先生役にはアリアたちまでいる。
アリアとセリナとサラはずっといたから意外でもなんでもないし、ヴェルは前回いたから今回もなんだなくらいしか思わない。だが、ヒトミとサーシャとウサギとニアまで増えてやがる。
それほど人手が必要な授業なのか?
だとしても、先生役にサーシャはダメだろ。

今回もサラが代表らしく、先生の中から1人だけ前に出てきた。

生徒側もさすがに慣れたのか、サラが前に出てきたら、顔を向けて静かになった。

「これから冒険者実践を始めるのです。冒険者実践を受ける資格があるかを確認するので、通行証を出してほしいのです。」

いわれるがままに通行証を出すと、先生役の村人たちやアリアたちが確認に回り始めた。

俺のところにきた村人に渡すと、なんか板みたいたものを使ってささっと確認して返され、それで終わりのようだ。一瞬板が光ったから、それを確認して回ってるのかもな。

全員が終わったようで、先生役が元の位置へと戻った。

「確認が終わったのです。それでは、説明するのです。この授業ではパーティーを組んで依頼を達成してもらうのです。みなさんはもう見たかもしれないのですが、壁に貼ってあるのがこの授業で使う依頼書なのです。達成報酬はお金でも冒険者ギルドの評価でもなく、点数なのです。この点数が5日間の合計で100点になれば合格なのです。先に注意しておくのですが、納品依頼などは実際に納品してもらうのです。でも、一切お金にはならないのです。もしお金にもならない仕事をするのが嫌だというのなら、授業を受けるのをやめてもらってもいいのです。」

サラはそこまでいってから、教室を見回した。

たしかに普通に冒険者ギルドで依頼を受ければ金になるのに、無償で依頼を受けるのは嫌だな。そもそも依頼が出来るなら、もう授業を受ける必要がないだろうし。まぁ、俺は自分の村に納品しても損することはねぇから受けるけど。

サラはしばらく生徒の反応を見ていたみたいだが、意外にも誰も帰ろうとしなかった。
もしかして、この世界ではそんな無駄に働いてでも教えてもらえるのは貴重だったりするのか?
いや、最初の授業とかで文句いってるやつとかいた気がするし、ここにいるやつらが真面目に勉強をしにきてるってだけかもな。

「それでは、5人パーティーを作ってほしいのですが、その前にまずは少し時間を取るので、壁に貼られている依頼書を確認してほしいのです。理由は、どんな依頼を受けるのかによってパーティーの組み方が変わるかもしれないからなのです。ただ、依頼書は剥がさないようにしてほしいのです。」

サラがそこそこ大きい砂時計を逆さにすると、生徒たちが壁際の依頼書を確認し始めた。

面倒だが、俺も一通り見といた方がいいだろうと、仕方なく人だかりへと入っていった。






依頼書は討伐依頼や納品依頼などいろいろな種類があった。中には情報提供なんてのもあったが、正しいかどうかの判断はどうするつもりなんだろうな。

一通り依頼書を確認はしたが、けっきょくスミノフを含めた5人パーティーとなった。
全員が近接系とバランスは良くないが、この授業で習うのはほとんどが近接系の戦闘方法なのだから、誰を選んでも大差ないだろう。

周りを見てみるとほとんどがパーティーを組み終えているようだ。人数の関係で5人に満たないところがあるみたいだが、そこは村人がパーティーに入ってるみたいだな。

そういや、紅一点パーティーはないんだな。今回も女の方が少ないから、女1人だけでチヤホヤされるパーティーができてもおかしくないと思ったが、ほとんどが男は男、女は女で分かれている。混ざってるところもあるにはあるが、それでも2人と3人といった感じで、1人だけってところはないな。
まぁ、既知の仲ならまだしも初めてあった相手とのパーティーで異性しかいないとストレス溜まりそうだしな。

「みなさんパーティーが組めたようなので、話を進めるのです。」

砂時計はまだ落ち切ってはいないが、教室内を見回したサラが話し始めた。

「まず、今の5人パーティーに1人ずつ先生が入って、6人パーティーとして5日間の授業を受けてもらうのです。」

サラの言葉に従うように、アリアたちを含む村人がそれぞれの5人パーティーに1人ずつ加わっていった。だが、俺らのところだけ誰も来ないんだが…。

「この教室内にある依頼書から好きなものを選んでもらうのですが、依頼書は剥がさずに内容だけパーティー内の先生に伝えてほしいのです。今だけ、他のパーティーが受けたのと同じ依頼を受けることが出来るのです。ただ、依頼を受けすぎて達成出来なければ減点があるので、気をつけてほしいのです。今ある依頼と同じものをいつでも総合受付から受けられるようになっているので、無理して最初にたくさん受けない方がいいのです。ただ、総合受付で受ける依頼の常時依頼以外は早い者勝ちなので、良い依頼は早めに確保をすることをお勧めするのです。どう依頼をこなすかはそれぞれのパーティー内で自由にしてかまわないのです。達成報告はパーティー内の先生にしてほしいのですが、納品依頼だけは総合受付でしてほしいのです。それでは、今日を含めた5日間、頑張ってくださいなのです。」

説明を終えたサラはペコリとお辞儀をし、歩いて俺らのパーティーのところに向かってきた。

「ここのパーティーは自分と一緒にパーティーを組んでもらうのです。リーダーは誰なのです?」

どうやらサラがこのパーティーの先生みたいだな。

というか、リーダーは誰かと聞きながら、なんでサラは俺を見る?

この中でリーダーをするなら、コミュニケーション能力の高そうなリスミナかなと視線を向けると目が合った。
なんか嫌な予感がして、次にリーダーに向いてそうな雰囲気のあるスミノフに視線を向けると、また目が合った。
なんでみんな俺を見てやがんだ?

「リーダーはスミノフに任せてもいいかな?」

「いや、このパーティーならテキーラくんがリーダーの方がいいと思うよ。」

流れでリーダーをやらされる前にスミノフに押しつけようと思ったら、さらっと流された。

「でも、俺は魔物の情報とかあまり知らないから、リーダーは向いてないと思うんだよね。」

「べつにリーダーはテキーラくんで、依頼に関する情報はみんなで出し合えばいいんじゃないかな?」

「リーダーは戦闘能力が高く、即座に判断ができ、遠慮せずにものをいえる人がいい。だから、テキーラが適任。」

やんわりと断ったつもりなんだが、リスミナとデュセスまでもが肯定しやがった。

面倒だから断ろうかと思ったんだが、べつに全てを俺がやらなきゃならねぇわけじゃねぇなら、まぁいいか。
スミノフじゃ他のやつとあまり関わりがないから気を使うだろうし、リスミナじゃ実力的にこの中でリーダーやるのはキツいだろう。そんなリーダーに従うのはいざというときに躊躇しかねねぇから嫌だしな。

「全員がそれでいいならリーダーをやるのはかまわないけど、本当にいいの?」

「問題ない。」

最終確認をしたらデュセスが即答し、他のやつらも頷いた。

「サラ先生。俺がリーダーになりました。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いしますなのです。それでは受ける依頼などを決めてほしいのです。自分はいるだけなので、気にしないでくださいなのです。でも、聞きたいことがあれば、聞いてくださいなのです。」

あらためてサラに挨拶をすると、ペコリとお辞儀をされて返された。

「それじゃあどうしようか。個人的には点数が高いのを受けて早く終わらせた方がいいと思うんだけど。」

「私も賛成。このメンバーなら、20点の依頼で問題ない。」

俺の意見に賛成したのはデュセスだ。

20点の依頼は強いらしい魔物の素材の納品だったな。名前だけじゃなんの魔物かはほとんどわからなかったが、デュセスが大丈夫っていうなら大丈夫だろう。この前の仕事ぶりを見るにデュセスは慣れてる感じだったしな。

ちなみに100点の依頼もあったが、さすがにデュセスは選ばなかった。
まぁ、黒龍の鱗だとか、大型以上のダンジョンコアを授業で合格もらうために納品しようと思うやつはいねぇわな。

他にはギルドにもあるらしい常時依頼も1点の依頼としてある。

ゴブリンとかの雑魚を100体倒すのでも合格になるようだが、そんなにいるところを探すのが面倒そうだ。
もし100体以上まとまっている場所があるなら、1日で終わるから楽そうなんだけどな。

「テキーラくんやスミノフくんもいるし、デュセスがいうなら強い魔物でも大丈夫なんだと思うけど、この辺りにいる魔物は限られるよ?」

「私もできましたら遠出せずに済む方が助かるのですが…。」

「それなら、近場でできる中で点数の高い依頼を受けつつ、残りは簡単なので点数稼ぎをする形でいいんじゃないかな。」

リスミナとローウィンスが意見を出したら、スミノフがそれをまとめた。

やっぱりスミノフの方がリーダーに向いてるんじゃねぇか?

…まぁいい。

「それじゃあ、スミノフがいったように近場で済まさせる依頼で100点になるように選ぼうか。依頼選びはデュセスとリスミナに任せていいかな?」

「わかった。」

「いいよ。じゃあ見てくるね。」

2人はすんなり了承し、壁に貼られた依頼書の方へと歩いていった。



スミノフは実力もそこそこあり、話をまとめることも出来るみたいだし、悪いやつではなさそうだな。

もしかしたら猫被ってるだけかもしれねぇけど、状況に合わせた対応が出来てんならいいと思う。いいと思うが……いや、もう少し様子見だな。
サラやアリアを狙うようなロリコンだから、まだ俺の中での印象はマイナスだからな。

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