裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

282話



誰かが近づいてくる気配がして目が覚め、咄嗟にベッドから起き上がった。
敵意とは違うが、やけに嫌な予感がしたせいか、意識が一瞬で覚醒した。

「にゃはっ。起きちゃった。」

ベッドと扉の中間あたりでセリナが笑っているが、勝手に部屋に入ってきてそれはねぇだろ。

昨日はけっこう遅くまで話し合っていたから、まだ眠いってのに起こすんじゃねぇよ。

「なんのようだ?」

「朝食の時間だから起こしにきたよ!」

「もうそんな時間か。今日はアリアじゃないんだな。」

「アリアはジャンヌさんの相手をしてるよ〜。」

「…は?」

「アリアはジャンヌさんの相手をしてるよ〜。」

聞き間違いじゃなかったんだな…。

「なんであいつが来てんだよ。」

「リキ様に話があるんだってさ。これから朝食だから、待合室で待ってもらうことにしたみたいだよ。」

いや、俺の予定を誰も確認してこないのはなんでだ?ジャンヌは俺にようがあるんだよな?

まぁ、昼までは暇っちゃ暇だからいいけどよ。

「ジャンヌは飯は食ったのか?」

「2人とももう食べたってさ。だから早くご飯食べに行こう。」

「2人とも?」

「そうだよ。ピグレさんもいるよ。」

ジャンヌはちゃんと忠告を聞き入れてんだな。素直なのか、それほどまでにアリアに嫌われたくないのか。

「わかった。ジャンヌの件と朝食の件は了解だ。それで、セリナはなんで勝手に俺の部屋に入って来てんだ?」

「ノックしても起きにゃいから、まだ眠いのかにゃ〜と思って、ギリギリまで寝てもらうために?」

「いや、意味がわからねぇから。」

「私の耳にゃら食堂に全員が揃ったかがここからでもわかるし、一緒に寝てればすぐに起こせるじゃん?」

なるほど。たしかに合理的っちゃ合理的か。…いや、違うな。部屋に勝手に入っていい理由にはならねぇな。

「屁理屈こねてねぇで、次からは普通に起こせ。起きなきゃ放置でいいからよ。じゃあ、俺は準備してから行くから、先に食堂に行っててくれ。」

「は〜い。ごめんにゃさ〜い。」

セリナが微塵も悪いと思っていないような謝罪をして、部屋から出ていった。

待たせるのも悪いし、眠いがさっさと準備するか。






朝食を済ませてからアリアと2人で待合室に向かうと、ピグレがソファーに座って丁寧な仕草で紅茶を飲んでいた。

「あら、遅かったじゃない。」

横から声がして顔を向けた。
ジャンヌがいねぇと思ったら、部屋の物色をしていたせいで、俺の視界の外にいたみたいだ。

「勝手に漁ってんじゃねぇよ。」

「ちゃんとアリアちゃんに許可をもらったわよ。」

ジャンヌが文句をたれながら、待合室の隅にあった本棚に本を戻してから、ソファーまで戻ってきてピグレの隣に座った。

待合室に本棚とかずいぶん客に気を使ってんだな。客なんて滅多にこねぇのに。

俺がジャンヌの対面に座り、アリアを隣に座らせた。

「で、何のようだよ。」

「あんたは自伝なんて書いてるのね。」

「…は?」

ジャンヌがいった意味がわからず、端的に聞き返したんだが、ジャンヌは首を傾げただけで何もいってこなかった。

自伝を書いてる?俺が?

残しておくほどの偉業なんてなしてねぇし、そもそも自分の人生を綴れるほど生きてねぇと思うんだが。

俺は書いた記憶がねぇが、アリアが脚色しまくって書いてる可能性もないとはいえねぇかと思い、アリアを見た。

「…わたし書いていません。」

アリアも知らないなら、ジャンヌの勘違いかなんかだろ。どこで読んだのか知らねぇが、噂を脚色して面白おかしく本にしたやつがいただけなんじゃねぇの。

「俺は書いてねぇし、存在自体知らねぇよ。」

「え?でもその本…。」

「…ジャンヌさん、リキ様は午後に授業があるので、話を進めてもらえますか?」

ジャンヌが話しているのをアリアが遮った。

アリアが人の話を遮るのは珍しい気がするが、たしかに余計な話をしていたせいで本題をまた後日に、とかなったら面倒だからありがたい。

「そうね。」

ジャンヌはアリアにニコリと微笑みかけ、居住まいを正した。といっても、こいつはもともと姿勢がいいから、少し座り位置をずらして話す空気を作ったって感じだな。

黙ってたら綺麗なんだけどな……こいつといい、デュセスといい、なんだかな…。

「えっと…何から話したらいいのかしら。…あんたが前におじさんと1対1で戦ったのは昨日おじさんから聞いたわ。おじさんに身代わりの加護を使わせるなんて、凄いじゃない。運もあったとは思うけど、私だってまだおじさんに傷を負わせたことすらないのに…。」

なんかジャンヌが急に1人で話し始めたんだが、おじさんってのは『ケモーナ最強の戦士』とかいうおっさんのことだよな。

おっさんとの戦いってのは間違いなく戦争のときのことだろうが、あんなのはなんも凄くなんてねぇよ。
自分の命と引き換えの攻撃なんて単なる悪あがきでしかねぇし、そもそもマナドールの人形がなければ俺の拳が届く前に真っ二つにされておっさんを殺せなかった可能性もある。いや、おっさんが避けるよりも切ることを優先したってことは人形に邪魔されなければ俺はただただ殺されていたんだろうな。

だから、ジャンヌがいうように運が良かっただけだ。まぁ、今ならもっとくらいつけるだろうけどな。

「ジャンヌ、違うでしょ。」

ピグレが呆れた顔でジャンヌを見ると、ジャンヌはそっぽを向いた。

何が違うんだ?

…。

ジャンヌがチラチラと俺を見ては俯いてを繰り返すから、何かを喋ろうとしてるんだろうと思って待っていたんだが、全然話しやがらねぇ。

「なんだよ?」

「違うの。」

「なにがだよ。」

「いや、えっと…本当はお礼をいいにきたの。」

やっという気になったのか、真っ直ぐに俺を見てきた。だが、俺はジャンヌにお礼をいわれるようなことはしてねぇんだが。

…もしかして昨日のあれか?あの2人組を殺さなかったことか?
だとしたら、おっさんにお礼をいうべきだろ。おっさんがいなけりゃジャンヌが戻ってくるまでに間違いなく1人は殺せてたし。

「昨日のことならおっさんにお礼をいえばいい。俺はなんもしてねぇからな。」

「そのことじゃなくて、おじさんのこと。おじさんにやる気を出させてくれてありがとう。」

「おっさんにもいったと思うが、俺はなんもしてねぇから、お礼をいわれても困るんだが。そもそも、なんでジャンヌがお礼をいってくんのかも意味わかんねぇし。」

「それはね、えっと…。」

今日のジャンヌは歯切れが悪いな。

「アリアちゃん、ピグレ、悪いんだけど、リキと2人で話をさせてもらえないかな?」

やっと口を開いたかと思えば、話とは関係ないことだった。
俺にしか話せないことなのか?というか、俺に確認はなしなのか?

「わかったわ。余計なことばかりいわずに、ちゃんと話さなきゃダメよ。」

ピグレが少し困った顔をしながらジャンヌに助言をして立ち上がった。

アリアはどうするべきか迷っているのか俺を見ている。

「なんの話かはわかんねぇけど、このままじゃ時間の無駄だ。だから悪いけど、アリアも下がってろ。俺らのことは気にしなくていい。一応、ピグレだけは外まで案内してやってくれ。」

「…はい。」

「それでは、私はお先に失礼しますね。」

ピグレが一礼してから、アリアとともに部屋を出ていった。
2人の足音が遠ざかるのを聞きながら、ジャンヌに視線を戻すと、ジャンヌが短パンのポケットから引き抜いた右拳を突き出してきた。

ジャンヌが着てるのは少し丈の短いワンピースなのかと思ったら、中に短パンを履いていたのか。腰につけたベルトや部分的な防具でスカートが捲れにくくなっているとはいえ、乙女とかいってるくせに恥ずかしくないのかと思っていたら、対策されてたわけね。

そんなどうでもいいことを考えていたんだが、その間もジャンヌは拳を突き出したままだ。

もしかして何かを受け取れってことか?

訝しみながら手のひらを差し出すと、ジャンヌが拳を俺の手のひらの上で開き、何かが俺の手の上に乗った。

ぱっと見は指輪だな。
プロポーズ……なわけねぇか。

「これはなんだ?」

「以心伝心の加護のついた指輪よ。」

そこまで秘密にしたいような話なのか?
まぁMPは十分にあるからいいけどさ。

せっかくだからちょっと試してみようかと既に指輪をはめている指につけてみた。

「それで、話ってのはなんだ?」

俺の指輪とジャンヌの指輪が魔力で繋がったのがわかったから、これでも効果があるみたいだな。
そういや武器の加護は腰につけてるだけでも効果があるんだから、同じ指に2種類アクセサリーをつけても効果があるのは当たり前っちゃ当たり前か。

「私がおじさんのことでお礼をいうのは、おじさんが私の憧れであり、目標だったからなの。」

以心伝心の加護を使うことで、ジャンヌがやっと話し始めたが、ここまで秘密にすることではないんじゃないかと思うのは俺だけか?

どう答えればいいのかと考えていたら、ジャンヌが言葉を続けた。

「私はね、いろいろあっておじさんに育てられたの。あのかっこいいおじさんの背中を見ながら育ったからか、おじさんみたいに強くなることが私の目標だったの。」

話しながら昔のことを思い出しているのか、俺を見ながらも別の何かを見ているようにジャンヌが微笑んだ。

「おじさんは昔から強かったのよ。私と出会ったときには既にSランクだったけど、一緒に依頼をしていれば周りの同ランクの人たちより強いのが幼かった私ですらわかるくらいだった。だからおじさんは私の面倒を見ながらでも簡単に依頼をこなしていたし、とてもかっこよかったわ。」

SSランクのジャンヌから見ても別格なのか。そりゃ俺が現時点でおっさんに勝てるわけがねぇな。いや、これは昔の話か。
なぜ俺に昔のおっさん自慢をしてくるのかはよくわからんが、周りに秘密にしてまで話すことのようだから、黙って続きを聞くことにした。

「おかげで私も強くなった。10歳を過ぎた頃にはBランク冒険者になっていたわ。おじさんは拠点を作らず気ままに世界を回る人だったから、いろいろなものを見ることが出来て本当に楽しかったし、様々な敵を倒すことで確実に強くなっているのが実感できた。このままずっと一緒に冒険出来ると思っていた。」

思ったよりも昔の話だった…。
それなら、ジャンヌからしたらおっさんは親みたいなもんだろうし、ジャンヌがお礼をいってくる理由はわからなくない。

「でも、それは私の望みでしかなかった。おじさんと最後に一緒に受けた依頼は5年くらい前だったかな。大災害関係の討伐依頼だったのだけど、そこで初めて『人類最強』と一緒になったの。そのとき私はAランクになっていて、恥ずかしい話なんだけど周りを見下していた時期だったし、おじさんが最強だって疑ってなかったから、『人類最強』なんて自分で名乗って恥ずかしい人って思っていたわ。おじさんはその依頼で『人類最強』よりも成果を出して、二つ名を奪おうと思っていたんだと思う。すごく張り切っていたから。」

…。

「だけど、その依頼で『人類最強』という二つ名が事実だと思い知らされた。一緒に討伐依頼を受けたことで、自分が無力だと見せつけられた気分になったわ。低ランクの冒険者からしたら大災害時の希望の光に見えるのかもしれないけれど、強くなったと調子に乗っていた私からしたら越えるのに何年かかるかわからないほどの圧倒的な壁でしかなかったわ。それでも、私はまだ子どもで、成長途中だったから越えられないとまでは思わなかったけど、おじさんは違ったみたい。その依頼が終わったあと、故郷に帰るからといって突然一緒にいられなくなってしまったの。おじさんの故郷はケモーナだから、人族の私は一緒に住むわけにもいかないからね。」

ジャンヌが悲しそうに苦笑した。

「私はまだ成人してなかったけど、1人で生きていけるくらいには強くなっていたから、次におじさんに会うときに胸を張れるよう、もっと強くなろうと頑張った。そのあとピグレやゼノビアと出会えたこともあって、成人になるとともにSランクになれたわ。それを報告しにおじさんに会いに行ったら、凄く褒めてもらえて嬉しかった。でも、何か違ったの。その頃から私がなんで強くなりたかったのかがよくわからなくなっていた気がする。しばらくは理由もわからず強くなるために頑張ったのだけど、いつからか頑張るのが苦痛になって、上を目指すのをやめた。でも、その頃には仲間も増えていて、私がリーダーのようになっていたから、その中では1番であり続ける努力だけはしていたわ。」

…。

「しばらくは頑張っていたのだけれど、何も目標を持たずに苦痛な努力を続けるのが嫌になってしまった私は、自身の訓練より仲間を増やして育てることに力を入れることにしたの。おじさんみたいに子どもの面倒を見ていれば、何かが変わるかなって思って。でも何も変わらなかった。ただ、純粋な子どもは可愛いと気づけただけ。」

……。

「最近になってやっと気づいたの。おじさんと別れたところから、私は進めなくなってるんだなって。もちろん成長とともに強くはなったと思う。でも、おじさんという目標がなくなってしまったことで、いろいろなことがどうでもよくなってしまってたんだなって。そう気づいてからは少し楽になったし、日々の生活を楽しく感じられるようになった。無理に強くなる必要はないし、好きに生きればいいんだって思えるようになった。何かが足りないけど、それなりに満たされていたから。」

考えは人それぞれだからな。諦めることが悪いとは俺は思わない。目標を失っちまったら、好きでもないことは続けらんねぇからな。
だからといって、諦める自分を認めるのは難しいから、人に話して同意してほしいという気持ちもわからなくはない。

まぁ、俺が勝手にそう解釈しただけで、ジャンヌがいいたいことは違うかもしれないから、俺は頷くこともなくただ聞いていた。

「周りからの期待を苦しく感じることはあったけれど、支えてくれる人もいたし、少しだけど遠慮なしに話せる相手もいたから、今までやってこれた。ただ、やってこれただけ。みんなに失望されないようにそれなりの強者でい続けただけ。いつまでそうしてればいいかなんて考えもせずに、ただただ楽しいことだけに目を向けて日々を過ごしていただけ。」

ジャンヌも自分で何がいいたいのかわかっていないのか、わずかに目を伏せて、愚痴をこぼすように話していた。

こういうときは何か言葉をかけてやるべきなんだろうが、最適な言葉をかけられるほどジャンヌのことを俺は知らん。
少なくともまだ俺の意見は求められてないだろうから、けっきょく何もいわずに次の言葉を待った。

「でもね、昨日おじさんと話したらわかったの。私はべつに最強になりたかったわけじゃない。強くなるのは目的じゃなくて手段だったんだって。私はおじさんともっと冒険がしたかっただけなんだって。だから、おじさんの隣に立つために強くなりたかったんだって。」

微笑んだジャンヌを見るに、ただ誰かに話したかっただけみたいだな。その相手がなんで俺なのかはよくわからねぇけど。

「だから、あなたに対しての感謝はおじさんをまた冒険する気にさせてくれたことと、私にやりたかったことを気づかせてくれたことなの。本当にありがとう。」

ジャンヌは座ったままで深く頭を下げた。

そういや、ジャンヌが話し始めたのはおっさんのことに感謝してる理由についてだったな。
内容が予想外だったから忘れてた。

「何度もいってると思うが、おっさんがやる気になったのはあくまでおっさんの気分の問題であって、俺は関係ねぇ。だが、何度も問答するのは面倒だから、感謝の気持ちは受け取っておくよ。それで、ジャンヌもおっさんと行くのか?」

「今はまだ行かないわよ。」

「今はってことは『乙女の集い』を解散させてから合流するってことか?」

「違うわ。あなたは知らないかもしれないけれど、『乙女の集い』ってけっこう大きなグループなの。今さら私の一存で解散なんてさせられないわよ。それに保護した女の子たちもいるのだから、『乙女の集い』がなくなると困る子もいるのよ。」

「じゃあ引き継ぎか?」

「そんなに私にリーダーをやめさせたいの?」

ジャンヌにジト目を向けられたが、自分でおっさんと冒険がしたいっていったんじゃねぇか。

「べつにジャンヌがリーダーをやめるかやめないかはどうでもいいんだが、おっさんと冒険がしたいんじゃなかったのか?」

「えぇそうよ。だからといって、私がリーダーをやめる必要はないじゃない。」

「それもそうか。べつに同じグループに所属してなきゃいけないなんて決まりはねぇしな。」

「そうよ。おじさんは鈍った感覚を取り戻したら連絡をくれるって約束してくれたから、そのあと一緒にダンジョン島に行くことになったの。だから私もそれまでにもっと強くならなきゃいけないわけ。」

「そうか、頑張れ。」

「だから、私と本気で戦ってもらえないかしら?」

「だからの意味がわからねぇし、普通に嫌だよ。」

「いいじゃない。ちゃんと身代わりの加護付きの額当ては用意しておくから。」

「なんで額当て?」

「額当てなら壊れたのがすぐにわかるから、2度殺してしまう心配がないじゃない。まぁ、あまり本気の殺し合いを仲間とすることなんてないだろうから、知らなくても当たり前よね。」

たしかに見えない部分に加護付きのアクセサリーがあったら、加護を消費したことに気づかず追撃しちまう可能性があったわけか。
今までそんな事故が起きずに本当によかった。

「その情報には納得したが、戦う気はねぇからな。強くなりたいならおっさんと戦えばいいじゃねぇか。」

「嫌よ!今まで怠けていたのがバレちゃうじゃない。」

「知らねぇよ。自業自得じゃねぇか。」

「そうだけど、嫌なものは嫌なの!いいじゃない。あなただって私の気持ちがわかるでしょ?」

「身内に怠けてたことがバレるのが嫌なのはわかるが、そんなん自業自得なんだから諦めろ。」

「違う!違くないけど、そっちじゃない!リーダーって立場になってしまうと情けない姿は下の者に見せられないじゃない。でも、自分より強い相手との戦闘を避けてたら、強くなれない。いえ、なれなくはないけど、時間がかかってしまう。だから、負けるかもしれない相手と本気で戦いたいけど、秘密にしてくれる相手じゃないと困るの。あなただって同じでしょう?」

立場は似ているかもしれないが、うちは奴隷と村人のグループだからか、俺はジャンヌほど悩んではいねぇと思う。

「同じかはわからねぇが、気持ちはある程度理解できる。たしかに俺もあまりアリアたちの前で負ける姿は見せたくねぇな。だが、アリアたちが見てないとしても負けるとわかっている相手と戦いたくはねぇよ。」

「大丈夫よ。私は冒険者ギルドからSSランクなんてもらってはいるけど、実力だけなら私より強いSランクの人もいるもの。あなただって私とそこまで実力は変わらないと思うわ。クレハがあそこまで怯える相手なのだから、少なくとも勝負する前から結果がわかるほどの差はないと思う。自分でいっていて悲しいけれど、上を目指すのをやめてしまった自分が悪いのだから、現時点での事実はちゃんと認識してるわ。これからまた上を目指すからいいの。だから、付き合ってほしい。あなたが面倒なことを嫌いなのは短い付き合いでもわかってる。それでも、こんなことを頼める友だちはあなたしかいないの。お願い…。」

…。

…………。

…………………。

俺より強いやつのことなんか知ったこっちゃねぇといいてぇのに、頑張ろうとするやつを見るとダメだな…。
ちょっと前のジャンヌにいわれてれば考えるまでもなく断っただろうに、この短期間で俺の中でのこいつの印象がここまで変わるとはな。

残念なことに俺も友だちって存在に弱いみたいだ。

「わかったよ。俺にとっても悪い話じゃねぇし、俺でよければ手伝ってやるよ。だが、テキーラでのやることが全部終わってからでいいか?」

「ありがとう!まだしばらくはラフィリアを拠点にするつもりだから大丈夫だけど、どのくらいかかりそう?」

ローウィンスがいってたのは6日間だった気がするから、余裕をみて10日あれば問題ないだろう。

「10日くらいだと思う。そのあとしばらく出かける予定だから、相手をするのは1日だけだ。」

「わかったわ。その代わり朝から夜まで付き合ってもらうから。いえ、その日は寝かせないからね。」

「ざっけんな。眠くなったら終わりだ。」

「冗談よ。そういうことをいわれると男の人は喜ぶって聞いたからいってみただけ。」

「使いどころが違うから。」

「そうなの?」

本当にわかっていないのか、ジャンヌがキョトンとした顔をしやがった。
自称乙女なら知らない方がいいのかもな。

「詳しくは仲間に聞け。そろそろ学校の準備があるから、話し合いは終わりにしたい。他に話す予定だったこととかねぇよな?」

「そうね。いいたいことはいえたし、約束も出来たから、特にはないわね。あっ!ダンジョン島におじさんと行くことになったら、あなたも一緒に行く?」

当たり前のようにいわれてもダンジョン島がわからねぇよ。

「俺はいいから、2人で行ってこいよ。」

「また実際に行くときに誘うから、考えておいて。」

ん?今断ったと思うんだが、なんか保留になった?
まぁいい。

話が終わったから、渡された指輪を外してジャンヌに渡そうとしたら、ジャンヌは受け取ろうとしなかった。

こいつ、俺は時間がねぇっていってんのを聞いてなかったのか?

「もう話は終わりだろ?これは返す。」

「それは持っておいて。いざというときに連絡できないのは不便でしょう?」

べつにジャンヌと連絡を取ることなんてほとんどないと思うが、まぁこの世界の指輪はつけててもほとんど邪魔にならないからいいか。

なんとなく左手の親指につけてから立ち上がると、ジャンヌも立ち上がった。

「一応もらっとく。じゃあな。」

「門まで送ってくれないの?」

「ジャンヌは村民区画の通行証も持ってんだから、1人で帰れんだろ。」

「今日はリキに会いに来たのだから、門まで見送りくらいしてくれたっていいじゃない。」

めんどくせぇな…。
だが、ここで問答すんのも面倒だ。

「わかったわかった。門まで送りゃあいいんだろ。」

「えぇ。よろしくね。」

こんなやり取りの何が楽しいのか、俺が外に向かって行くとジャンヌがやけにいい笑顔で俺の横についてきた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品