裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

279話



ラフィリアの東門が見えたところで、そういえば使い魔紋のチェックをされるんだったなと思い出し、デュセスとリスミナが俺を見ていないときにしれっとアントラゴートに『使い魔契約』をしたおかげで、止められることなく門を通過して冒険者ギルドまで来れた。

門を通ったときにリスミナが首を傾げていたが、無視してたら何もいわれなかった。まぁもし聞かれたところで、SPで取れるスキルだし、なんの問題もないけどな。

早く服屋に行くためにとっとと報告を終わらせようと冒険者ギルドに入ろうとしたところで、デュセスがアントラゴートとともに立ち止まった。
どうしたのかと思い、立ち止まってデュセスを見ると、デュセスは無表情でアントラゴートをひと撫でしてから俺を見た。

「私は冒険者ギルドに入っても何も出来ることはないから、ここでアントラゴートを見ている。」

そのまま連れていくつもりだったが、たしかにこのサイズの四足歩行の魔物を連れていったら邪魔だな。それ以前にもしかしたら魔物を連れていったらいけない的な暗黙の了解がある可能性もあるし、見ててくれるんならありがたい。

デュセスが首筋を撫でてもアントラゴートはおとなしくしているし、任せても問題なさそうだな。

「ありがとう。それじゃあ俺たちは達成報告と素材の換金を済ませてきちゃうから、アントラゴートをよろしくね。」

デュセスが頷いて答えたのを見て、俺とリスミナは冒険者ギルドの中へと入った。

まだ夕方にもなっていないからか、そこまで人が多くない。多くないといっても受付に並んでいるやつらやテーブルの方で談笑しているやつらはそれなりにいる。

受付の列の最後尾にリスミナと並び、なんとなしに見回しただけなんだが、テーブルのところにいるクレハとユリアと目が合って会釈されたから会釈で返すと、2人と一緒にいたジャンヌが振り向いたから咄嗟に顔を逸らした。
あいつはすぐに人に絡んでくるから面倒だ。今はテキーラだから目をつけられたらいつも以上に面倒だからな。

それにしてもあいつらはこんなところで何してんだ?いや、冒険者なんだからいてもおかしくはねぇのか。
そういやデ…じゃなくてピグレや新しいメンバーは一緒じゃないみたいだな。

もしかして、ジャンヌが2人に稽古をつけてやってたのか?
あいつはちょいちょいウザいけど、人の意見はわりと素直に聞き入れられるタイプだから、アリアにいわれた通りに2人の相手をする時間を作ったのかもな。知らんけど。

「おい、聞いてんのか?」

さっきから後ろのやつらがうるせえなと思いながら我慢してたら、俺に話していたらしく肩を引かれて強制的に振り向かせられた。

「なに?」

興味がないやつの顔を覚えるのは得意じゃない自覚はあるが、たぶん知り合いじゃねぇと思う男2人組だった。
というかテキーラとしての知り合いはめちゃくちゃ限られてるから、さすがに俺が忘れてるとかじゃなくて、本当に知らないやつだと思うんだよな。いや、でもよく見たら見たことあるような気がしなくもねぇ。もしかして学校にいたとかか?

「親切に教えてやってんのに聞いてなかったのかよ。そいつとパーティー組むのはやめた方がいいぞ。」

「そいつはカテヒムロでは有名だからな。あんたのためにいってんだから、素直に聞いておけ。」

こいつらは何いってんだ?

「この人たちってリスミナの知り合い?」

急に話しかけてきたうえにわけわからんことをいってきたから、無視でいいかと思ったが、もしかしたらリスミナの知り合いな可能性もあるのかと思い、確認をとった。
だが、俯いたリスミナは答えなかった。

…え?無視?

もしかして、元カレとかで気まずいとか?それともこいつらの知り合いが現在進行形の彼氏なのに俺といるからヤバいと思って黙ってるとか?

べつに俺らは恋人でもなんでもないただのクラスメイトなんだから、気まずくなる必要はねぇと思うんだけどな。

「あんたらが何を心配してるのかはわからないけど、俺らはただの友だちだし、学校の授業以外でパーティー組むのは今日だけだよ。」

「こいつと友だち?フッ。」

なんか鼻で笑われたんだが。

「既に虜にされてんのかよ。おい、親切に忠告してやってんのにその目はなんだ?」

鼻で笑われたことにイラつき、無意識に睨んじまっていたらしい。

…めんどくせえな。

テキーラだし、リスミナの前だから極力おとなしくしてようと思ったが、早くもどうでもよくなりそうだ。

いや、まだ学校の授業があるんだから我慢だ。

「鼻で笑われた意味がわからなかったので。」

無理やり笑顔を作って話を続けたら、可哀想なものを見るような目を向けられた。

「アラフミナではまだ有名じゃねぇから知らねぇのも仕方ねぇのか。それでも『不和』って二つ名くらいは聞いたことあんだろ?」

この世界では二つ名を当たり前に知られてることとして話されるが、テレビも新聞もないのにどうやって知れっていうんだ?
そういやリスミナは情報収集とかしてるっていってた気がするから知ってるかもな。ただ、さっきから俯いて一言も話さないから聞くに聞けねぇ。あと5日は学校に通うのに空気読まずに確認して、リスミナと仲違いなんてしたら気まずくなるからな。

「聞いたことないね。それが俺となんの関係があるの?」

「マジかよ?…あぁなるほど。知らないからこそ狙われたわけか。さすが二つ名をつけられるだけのことはあってずいぶんうまく取り入ったんだな。」

さっきから可哀想なやつを見るような目を向けられてんのがイラつくんだが。そのせいで無理やり作ってる笑顔が引きつる。

「『不和』ってのはこの女の二つ名だよ。二つ名っつっても、パーティーに不和を招くことからつけられた蔑称だけどな。」

「こいつがぶち壊してきたパーティーは俺が知ってるだけでも3つある。中には冒険者をやめちまったやつもいたな。」

「パーティー内の男を誑かして、仲違いさせたら全員ポイだからな。その人でなしな趣味のせいでカテヒムロじゃもうそいつの居場所がねぇよ。」

「だからアラフミナに狩場を変えたんだろうが、こっちでも十分噂は広まってるから無駄だ。他の国だってすぐに二つ名が広まるだろうから、お前に居場所なんてもうねぇよ。」

「ざまぁ。」

なんか2人で話が盛り上がってるんだが、だからどうした?俺には関係なくねぇか?
というか、そんなことを聞かせるために俺らが受付に並んでるところを邪魔したのか?
こいつらに呼び止められなきゃ、俺らの番になってたはずなんだが?

「そんなどうでもいいことで俺らを呼び止めたんですか?」

「…は?」

「俺らは外で人を待たしているし、この後の予定もあるのにそんなどうでもいいことで邪魔してるのかと聞いたんですが、理解できませんでした?」

「てめぇ…。」

1人が胸ぐらを掴もうとしてきたから、その前に腕を払い、一歩引いて距離をとった。

「俺に関係ない他人の話をされても困りますし、本当に俺のことを心配してくれているのだとしたら、リスミナに恋愛感情なんてないので大丈夫です。ありがとうございます。これでいいですか?」

「親切に忠告してやってんのにふざけやがって。」

だからお礼をいったというのに、2人ともが剣の柄に手をおいた。

こっちだってイラついてんのを我慢してやってんだから、余計な一言、二言くらいは聞き流せよ。

というかお前らが剣に手なんておくから、ジャンヌがこっちに歩いて向かってきちまったじゃねぇか。

面倒なことになる前に話を終わらせなきゃな。

「親切にご忠告ありがとうございました。とてもタメになるお話のおかげで余計な時間を取られてしまったので、この辺りで失礼します。リスミナ、さっさと依頼の達成報告しちゃおうか。」

「…え?」

本音が少し漏れたが、穏便に終わらせるために2人にしっかりとお礼を述べてからリスミナの腕を引いたら驚かれた。だが、これ以上ここにいるとジャンヌに絡まれる可能性があるから、リスミナの腕を無理やり引いて受付に向かった。

その瞬間、背後の男2人が剣を抜いたのが気配でわかったが、まぁジャンヌが止めるだろうから大丈夫だろ。

…。

…え?止めねぇのかよ!?

男たちのことは無視して受付に向かって歩いていたんだが、予想外なことにジャンヌが動かなかった。

仕方ないからリスミナの腕をさらに強く引いたあとに背中を押して受付の方に向かわせ、俺はその場で振り向いて2人の剣を掴んだ。

いつものガントレットの感覚でやっちまったと一瞬焦ったが、さすがイーラだ。見た目はただの革のガントレットなのになんの痛みもなかった。

まぁ、今はそんなことよりこの2人だよな。

攻撃をされて許せるほど、俺はできた人間じゃねぇ。

もうテキーラとかどうでもいいや。

「そこまでよ。」

俺が2人の剣を握り砕き、足に力を入れたところでジャンヌのレイピアが俺と男2人の間に入ってきた。

いや、止めに入るタイミングがおかしいだろ!?

「こちらは攻撃されたのに仕返しする前に止められらるのは納得いかないのですが。」

無視して攻撃を続けたらしつこく邪魔されそうな気がしたから、退いてくれという意味を込めた笑顔をジャンヌに向けると、笑顔を返された。

「ダメよ。あなたが仕返しなんてしたらこの人たちが死んじゃうじゃない。」

だからなんだというんだ?
先に殺しにきたのはこいつらだろ?

「殺しにきたんだから、殺される覚悟くらいあるでしょう?むしろ、先に殺そうとしたのに反撃されそうなところを助けられるとかそこの2人が惨めすぎません?それじゃあその2人がFランクの素手の男1人に勝てないような弱い生き物だってことをみんなに教えてしまうことになってしまいますし、冒険者ギルド職員にも知られてしまったじゃないですか。そしたらこの2人はもう依頼なんて受けられないでしょうし、お金を稼げないならどうせ死ぬんですから、ここで殺してもいいんじゃないですか?そもそも新人冒険者に切りかかるようなやつは殺した方が世の中のためなんじゃないですか?だから、次は邪魔しないでくださいね。」

いい切るとともに右側の男の顔に殴りかかると、俺と男の間にあったジャンヌのレイピアが振り上げられた。

ジャンヌを敵に回さないためにわざわざ言葉を重ねたっていうのに無駄だったのかよ。なら、最初から止めに入られたのを無視して殺しちまえばよかった。

ジャンヌが振り上げたレイピアが俺の右手に当たる前に腕を引き、その反動で捻れた腰の勢いで左フックをしようとするが、ジャンヌの空振ったはずのレイピアが俺の左腕を打ち払うために既に振り下ろされていた。いや、この振り下ろしの勢いはそのまま俺の左腕を切るつもりだろ。

避けるために一度後ろに下がり、ジャンヌとは逆サイドから男たちの方に回り込もうとしたら、ジャンヌが間合いを詰めてきた。

やべぇ、ジャンヌが2本目のレイピアを抜きやがった。ふざけんな。

「テンコ!」

「はい!」

俺が身体強化で加速して男たちの後ろに回り込もうとしたのに、ジャンヌも俺に合わせて加速しやがったせいでぶつかりそうになり、渋々距離をとった。

だが、なぜかジャンヌはさらに近づいてきやがった。
こいつ、完全に攻めにきてるじゃねぇか。まぁその方が都合がいいか。

ジャンヌが右手のレイピアで突きを放ってきたから、俺は右肩を引いて剣の外側に避け、全力で男たちの方に跳んだ。

これならさすがのジャンヌでも止めようがないだろうと思ったんだが、ジャンヌは左足を軸にして反時計回りで回りながら、左のレイピアで切りかかってきた。

一息に男たちに近づこうとして跳んでいたせいで避けられねぇ。

「イーラ!」

「はい!」

ガードが間に合わず、腹にモロにレイピアを受けたせいで、少し腹が切れたような痛みが走った。いや、イーラのおかげでかすり傷だけですんだというべきか。
というか、イーラ製の防具はこれでもかと硬い素材で作られてるはずだし、今はさらにイーラが力を入れてるはずなのに切れるってどんだけだよ。
武器がいいのか、腕がいいのか…いや、両方か。化け物め。

浮いた状態で切られたから踏ん張ることが出来ずに少し後ろに吹っ飛んだが、2メートルくらいだからたいしたことはない。

「イーラ、大丈夫か?」

「イーラは物理無効があるから大丈夫だけど、止めきれなかった。ごめんなさい。」

「イーラが大丈夫なら問題ない。ただ、回復してくれると助かる。」

「はい!」

それにしても念話で伝わるのはマジで助かる。もし声に出さなきゃだと、ジャンヌみたいな速いやつとの戦闘中じゃ伝達が間に合わねぇどころか名前すら呼ぶ時間がないだろうからな。

腹の痛みが消えるのと同時に背中から着地し、勢いのままに後ろに一回転して立ち上がると、目の前にジャンヌがいた。

おまっ、追撃とか本気じゃねぇか。

即座にサイドステップで躱すと、ジャンヌが直角移動で間合いを詰めてきやがった。セリナといい、こいつといい、その速度で直角移動とかおかしいだろ。

一度仕切り直すためにジャンヌに体当たりをしようとしたら、タイミングを合わせて退がられた。しかも退がりながらに切りつけてくるとかマジでやっかいだ。

イーラ自身は斬撃でのダメージがないといっても切れないわけじゃねぇから、イーラ頼りでジャンヌの剣を受けるのは危険か。普通のやつなら攻撃無視で突っ込めるってのに、これだから化け物相手は面倒だ。

まぁ、嫌いじゃねぇがな。

左腕に力を入れて切られる覚悟で盾にし、右手フックでジャンヌの脇腹に殴りかかるが、さらに退がったジャンヌに避けられた。

おかげで距離が取れたから、男たちの方に近づこうとするとジャンヌがすぐに間合いを詰めてきやがる。

もういい。

こいつを敵に回すのは面倒だと思ったが、邪魔すんならまずはこいつからだ。

近づいてきたジャンヌに俺からも近づいて右手で殴りかかると、ジャンヌが左手のレイピアですくい上げて逸らしやがった。
そのせいでガラ空きになった俺の胴体を右手のレイピアで突き刺しにきたが、左手のひらでレイピアの腹を押して軌道をズラして避けた。

その流れで左中段回し蹴りをするが、退がって避けられた。

その瞬間、イーラが魔力を使ったのが感覚でわかった。…何をする気だ?

いや、他のことを気にするほどの余裕があるわけじゃないと意識をジャンヌに集中すると、踏み込もうとしたジャンヌの足が床に沈んでバランスを崩したみたいだ。そのせいか、めちゃくちゃ驚いた顔をしてやがる。そしてすぐさまジャンヌが顔を歪めた。

一瞬ジャンヌが床を踏み抜いたのかと思ったら、影に足が飲まれてるっぽいな。

よくわからねぇが、このチャンスを活かさない手はないだろ。

隙ができたジャンヌは無視し、男どもの目の前まで一息に跳び、その勢いを全て乗せた右手でまずは左側の男の顔面を吹き飛ばそうとしたら、今度は大剣が間に入ってきやがった。

だが、今度は無視して大剣ごとぶっ壊そうとそのまま殴りかかった。

…嘘だろ。

テンコの身体強化まで乗せた全力だ。スキルを使わなかったといっても全く加減はしてねぇ。

なのに、大剣にヒビどころか動かすことすらできなかった。

「おいおい、冒険者ギルド内で殺し合いかよ。ラフィリアの冒険者ギルドはおもしれぇな。」

すぐ横から声がして、大剣で邪魔したやつを見た瞬間、俺は全力で距離をとった。

いやいや、SSランク1人でもイーラが手伝ってくれてなんとか一瞬の隙を作れたってだけなのに、2人は無理だ。というかなんでこいつがいるんだよ。

「なんでお前がこんなところにいるんだ?」

「おじさん!そいつを止めて!」

俺の言葉に被せるようにジャンヌが叫んだ。

知り合いかよ…ジャンヌを敵に回す覚悟をしたら、まさかの強敵追加かよ。

…死んだわ。

「ん?お前、あん時と見た目が違うし、だいぶ匂いが薄れてるけど、声も似てるし、リキだよな?…へぇ、ジャンヌに勝ったのか。やっぱただ者じゃなかったんだな。」

ジャンヌの叫びは聞き流すつもりなのか、ケモーナ最強の戦士とかいわれていたおっさんが普通に話しかけてきた。
話している最中に一度ジャンヌの方を見てから、俺に楽しそうな笑みを向けてきやがった。

このおっさん、イーラを纏ってる俺の匂いがわかんのかよ。本当だとしたら、獣人の嗅覚をナメてたわ。

それに声?…そういや声を変えることは思いつきすらしなかったが、声でわからねぇだろ普通。それも獣人ゆえか?

というか、名前を出すのはやめてほしいんだが、おっさんがそんなことまで考慮してくれるわけねぇよな。まぁ、周りの反応的にちゃんと聞いてなかったっぽいからまだセーフだろ。

「あんたは俺を殺しにきたのか?」

「は?何いってんだよ。お前に恨みなんてねぇのに殺すわけねぇじゃん。むしろ俺はお前に感謝してんだよ。だからお前にお礼をしとこうと思って家の場所を誰かに聞くつもりでここに寄ったら、ジャンヌがお前と戦ってるからビックリしたわ。しかも殺気はなかったけど、わりと本気で相手してたしよ。」

「感謝されるようなことなんかした記憶がねぇ…ないんだけど。あと、俺はテキーラ・・・・だよ。」

「ん?…あぁ、そういうことか。余計なこといっちまったかもな。まぁ知らなかったんだ、許せ。」

ダメ元でいってみたら、おっさんは悪びれた感じはないが、テキーラとして接してくれるみたいだ。予想外だが助かる。

「それで、俺にようってのはなにかな?」

本当は余計なことを話されたくないから後でにしてほしいんだが、こんなことをいったあとにこいつが俺ん家の場所を調べ始めたら、同一人物だとバレる危険性があるから仕方ない。

せっかくそこの男2人のことをどうでもよくなる程度に落ち着けたんだから、俺がもうちょいテキーラとしているためにマジで余計なことをいってくれるなよ。

「いやな、お前のおかげで、がむしゃらに強さを求めていた頃のことを思い出せてな。圧倒的強者に会ってから、いろいろどうでもよくなっちまってたけど、お前を見てたら『人類最強』が死ぬ前に最強を目指したくなっちまったんだよ。俺がもう若くないのはわかってるけど、『人類最強』なんて60過ぎてんだから、俺だってまだまだいけんだろ。つーことで、旅にでる挨拶をしとこうと思ってな。初心を思い出させてくれてありがとう。」

やっぱり感謝されるようなことはしてねぇと思うんだが。
こいつが勝手に俺を見て何かを思い出しただけだろ?まぁ敵対しないならありがてぇけど。

「国はいいのか?なんか今は大変なんじゃなかったか?」

「まぁな。それが心配で旅立ちが少し遅れちまったが、クルムナの統治者はケモーナの元王より国民のことを考えてくれてるし、新しいケモーナの王もいるから大丈夫だ。そもそも俺は冒険者だしな。国のことは国のやつらがなんとかするさ。」

そういや戦争のときも依頼とかいってたな。国に仕えてたわけじゃなくて、冒険者の仕事として働いてたのか。

おっさんと話していたら、ジャンヌが飛びかかってきた。

気配察知で気にしていたからすぐに反応できたが、なかなか動かなかったから諦めてくれたのかと思ったのに違うのかよ。

気持ちを切り替えて避ける体勢をとろうとしたら、おっさんが先にジャンヌのレイピアを大剣で防いだ。

「嬢ちゃん、久しぶりだな。元気そうでなによりだ。」

「おじさん、邪魔しないで!」

ジャンヌが回り込もうとしてもおっさんが立ち位置を変えながら片手で大剣を動かして悉く邪魔している。
こいつら同じSSランクなのにずいぶん実力差があるように見えるんだが…ジャンヌも本気じゃないのか?

「とりあえず落ち着け、こいつに殺気はもうねぇよ。」

おっさんの言葉を聞いたジャンヌが俺をひと睨みしてから、なぜか不貞腐れたように唇を尖らせて、レイピアを2本とも鞘にしまった。

「おじさんはリキと知り合いなの?」

…ん?

「まぁ殺し合った仲だから知ってるけど、嬢ちゃんも知り合いなのか?」

「と、友だちよ…。」

は?なにいってんだ?初耳なんだが…。
それにこいつはなんで恥ずかしがってんだ?……そういやこいつもあんま友だちがいないタイプだから、友だちって言葉を使い慣れてないのか。

「マジかよ!?嬢ちゃんがグループメンバー以外で友だちなんていうの、カンツィア以来じゃねぇか!?」

「あいつは友だちなんかじゃないわよ!」

「というか、ちょっと待て。お前は気づいてんのか?」

2人の会話を遮っちまったが、ジャンヌの話し方はちょっと確認しないわけにはいかないだろ。

「あんたのこと?それなら当たり前じゃない。遠目じゃさすがにわからなかったけど、近くでちゃんと声を聞けばわかるわよ。見た目も気配も違うから戦うまでは確信はもてなかったけど、あんたがイライラし始めたときにクレハが怖がり始めたから、近づく前からもしかしてと思っていたしね。」

いや、普通は声なんかでわからねぇから。
現に前に村の中でジャンヌと会った時にはバレなかったんだから、どう考えてもクレハのせいだが、わざとじゃねぇだろうからなんもいえねぇな。

「じゃあなんで邪魔したの?」

「冒険者ギルドであんたがそいつらを殺したら、私があんたを殺さなきゃいけなくなるかもしれないもの。そんなの嫌よ。」

「ギルド内じゃなければいいんだね?」

「私は目の届かないところで起きたことまでは知らないわ。」

「おいおい、やめてやれよ。その会話だけであいつら死にそうだから。それに職員も対応に困ってんぞ。あと、お前の仲間は腰抜かしてんぞ。」

おっさんにいわれてリスミナに視線を向けると、あひる座りをして呆然と俺たちを見ていた。そのときにチラッと見えて気づいたが、ジャンヌがなぜか裸足だ。

「なんでおま…ジャンヌさんは裸足なの?」

「あんたが奪ったんじゃない!なんのスキルか全くわからなかったけど、足を掴まれたと思ったら激痛とともに溶かされるように足首を切断されたのは本当に怖気が走ったわよ!足首から下が完全になくなったから、仕方なく神薬まで使っちゃったじゃない。最悪よ。」

間違いなくイーラの仕業だな。

「イーラ、ジャンヌの靴はどうした?」

「あるけど、途中からしかないよ?」

「途中から?」

イーラに念話で聞いた返事の意味がわからず、ジャンヌがさっき倒れていたところに目を向けたら、ブーツの足首から上の部分だと思われるものが落ちていた。

「ブーツだったのか。それじゃあ使いものにならねぇから、食っちまっていいぞ。」

「は〜い。」

弁償なんかしたくねぇし、靴の話題はやめておこう。

「ごめんね。邪魔されてムカついたからさ。」

「べ、べつにあんたを相手にしてると慢心せずにすむから神薬くらいはいいわよ。」

少し頰を赤らめてそっぽを向いていわれたんだが、なんだこの反応?
いってる意味自体がよくわからねぇが、それ以上に神薬くらいってなんだよ。この金持ちめが。

「じゃあ俺はこの後用事があるから、そろそろ依頼の達成報告とかしてくるね。」

「こいつらはどうすんだ?」

おっさんが親指で指す方に目を向けると顔が青を通り越して真っ白な男2人がいた。

正直もうどうでもいいこいつらの処遇をわざわざ考えるのが面倒だなと思っていたら、ジャンヌが肩をすくめた。

「ギルド内で無防備な相手に剣で攻撃したのだから、職員にちゃんと罰してもらうつもりよ。結果としては誰も殺してないから、冒険者資格を剥奪して、二度と冒険者カードを作れなくなる程度じゃないかしら?」

「じゃあジャンヌさんに任せるよ。」

「えぇ。邪魔したのは私だから、そのくらいはやっておくわ。」

「ありがとう。おっさんも旅を楽しんできてね。」

「あぁ。本当はここで高ランクの依頼を受けるつもりだったんだが、ジャンヌがいるんじゃ残ってないだろうし、すぐに次の町に向かうことになるだろうからな。次会ったときには一杯くらい付き合えよ。」

約束は出来ないから、おっさんに笑顔を返して、リスミナのところに向かった。

リスミナはいまだにあひる座りで呆然と俺らの方を見ていた。俺が近づいても、視線が動かないんだが、何を見てるんだ?

「えっと…大丈夫?」

「…………え?」

声をかけてからしばらくして、やっとリスミナがこっちを向いたんだが、俺の言葉は聞いてなかったみたいだ。

「巻き込んでごめんね。怪我とかしなかった?」

「わ、私は大丈夫だけど…。」

リスミナの言葉が尻すぼみになり、なぜかリスミナは自分の股の間に手を入れた。…何してんの?

「えっと…大丈夫?」

「あ、うん。ちょっと驚いて腰抜けちゃったんだけど、最悪の事態は回避できたから大丈夫。」

最悪の事態?

リスミナが股から手をどかしたことで察した。俺の勘違いの可能性もあるが、漏らしかけたのかもな。
まぁ腰が抜けて動けなくなった目の前で殺し合いなんてしてたら普通に怖いわな。しゃーない。

「肩貸すから、とっとと依頼の達成報告終わらせちゃおう。」

「…なんで、助けてくれるの?」

いきなり何いってんだ?

今までもそれなりに助けた場面はあったような気がするんだが…もしかして男に触られるのが苦手とか?だから遠回しに拒否ってるってことか?

「外でデュセスが待ってるし、早く終わらせたかったからさ。俺に触れられたくないとかなら、ジャンヌにやらせ……ジャンヌさんに手伝ってもらうけど?クレハやユリアでもいいし。」

「そういうことじゃないよ…。さっきの人たちのいってたことを聞いたのに、なんで確認するわけでもなく、態度を変えないでいてくれるの?」

「生きてりゃ隠しごとの1つや2つあるでしょ。それにリスミナが過去にどんなことをしてたとしても、俺に関係ないならどうでもいいし。」

そもそも俺自身が正体を偽ってる状態で、害されたわけでもねぇのに人に文句なんていえねぇだろ。
それにリスミナ程度ならなんかされてからでも対処出来るだろうしな。

「…そっか。本当にデュセスがいってた通りなんだね。」

「デュセスがいってた通り?」

「そう。テキーラくんは人の過去に興味がないし、普通に接しても勘違いしないから、大丈夫って。」

いいたいことがよくわからないから、反応に困るな。こういうときはスルーに限る。

「とりあえず、ジャンヌさんに肩を貸してもらえるようにお願いしてくるね。」

「いや、テキーラくんにお願いしてもいいかな?さすがに喋ったこともないSSランクの人に肩を貸してもらうのはちょっと…。」

俺に触れたくないわけじゃなかったのか。なら、人に頼むより自分でやった方が早えな。

肩を貸すためにリスミナの右横にしゃがみ込んだ。

「俺でいいならとっとと終わらせよう。」

リスミナの右腕を俺の首に回させ、俺の左腕をリスミナの背中から回して脇の下を通し……ん?待て、このままだと俺は左手でリスミナの左胸を鷲掴みにすることになるのでは?

初対面の綺麗な女性が相手なら、役得くらいに思えるかもしれないが、友だち相手にそれはない。わざとじゃないと言い訳はできるかもしれないが、さすがに罪悪感があるわ。

どうする?

俺がなかなか立ち上がらないせいか、リスミナが俺を不思議そうに見ている。
俺を見ているおかげで、俺の左手が所在なさげにしているのは見えてないみたいだ。

胸はアウトだけど、脇はセーフだろ。

俺は左腕の位置をずらし、リスミナの左脇の下を掴んだ。その瞬間リスミナがビクッとしたが、他に思いつかなかったんだ。許せ。

「どこ持てばいいかわからなかったんだけど、もしかして痛かった?」

「あ、いや、だ、大丈夫だよ。予想外のところを掴まれたから、ビックリしただけ。」

「どこ持った方が良かった?」

「脇腹か背中を予想してただけで、むしろ今の方が安定しそうだから助かるかも。本当に足に力が入らなくて…。」

なるほど、脇腹は思いつかなかったな。
まぁリスミナがこの方がいいっていってるからいいだろ。

リスミナが足に力が入らないというから、わりと力ずくで立ち上がらせ、ゆっくりと受付に進んだ。

俺らが戦闘してたせいで、受付前には誰もいないから、まっすぐ進めて助かる。

「リキくん。ありがとね。」

「このくらいは気にしないで。俺たちが驚かせちゃったせいだしね。」

「…やっぱりそうなんだね。」

なんかリスミナが1人で納得したみたいなんだが、ここは互いにそんなことないよって感じで終わるところじゃないのか?

「リキ様、名前で呼ばれてたよ〜。」

リスミナなら間違いなくそんなことないっていってくると思っただけに不思議に思っていると、イーラが念話で話しかけてきた。

「いきなりどうした?名前で呼ばれるなんて今さらな話だろ。」

「そんなことないよ〜。デュセスはたまに読んでるけど、リスミナがリキ様を名前で呼んだのは初めてだよ〜。」

「リスミナ、いつもテキーラくん、いってる。今、リキくん、いってた。」

マジか…普通に返事しちまったよ。

なんでバレた?

このSSランクの化け物どもと知り合いだからってだけで、俺がリキだと思うとは思えない。いや、こいつら2人とも俺の名前を出してたじゃねぇか。
リスミナは呆然としてたわりにはそういうとこは聞いてたんだな…。

ただ、もう受付に着いちまったから、口止めは後回しだな。

受付の人に依頼の納品をし、確認のために少し待つことになったところで、リスミナに視線を向けた。

「俺の話は後でね。」

「してくれるの?」

「もうバレたのなら隠す必要がないからね。むしろ黙っててもらうためにも話し合いは必要かなって。出来れば力ずくで黙らせる手段は取りたくないからさ。」

俺がニコリと笑うと、リスミナの肩がビクッとかるく跳ねて、頰を引きつらせていた。

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