裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

273話



とりあえず6人で輪になったけど、誰も喋ろうとしない。まぁあの戦闘結果じゃ気持ちはわからんでもないけど。
だからといってこのまま無駄に時間を過ごすつもりはねぇから、今回はとりあえず俺が仕切るか。

「今やってみてわかったと思うけど、セリナ先生を1人で抑えるのは無理だし、2人でも厳しいと思うんだよね。」

「テキーラくんは相手出来るんじゃないかな?」

俺が話し始めたら、スミノフが探るような視線を向けて質問してきた。
たしかに剣を使わなければギリギリ対応出来るだろうけど、それじゃあ俺の剣の練習にならねぇから意味がない。

「無理だよ。さっきはすぐに魔法を発動してくれたからなんとかなったけど、速さに無理やりついていこうとして失敗して、剣を吹っ飛ばしちゃったし。」

「そもそもあの威力の魔法をくらってなんともないのが意味わかんないけどな。まぁそれは置いておくとして、じゃあどうすんだ?」

俺がスミノフの意見を否定したら、今度は槍使いのモヒートが質問してきた。

「あくまで俺の意見だけど、この中で一番速く動けるクレハがセリナ先生を引きつけつつ、デュセスが積極的に攻撃を加えて、スミノフが状況を見ながら攻撃するのがいいんじゃないかと思う。残りはさっきと同じかな。」

「僕では技量が足りないって意味かな?」

珍しくスミノフが怒りを隠しきれていない声色で確認してきた。もしかしたら戦闘に関しては自信があったのかもな。

「いや、スミノフに足りないのは速度だけだと思うよ。技量はこの中で一番だと思うからこそのフォロー役だ。一番速いクレハは周りを考えずに全力で攻めた方がいいと思うし、デュセスは人に合わせるのに慣れてないだろうから、クレハの動きに合わせるので限界だと思う。だから、技量が優れているスミノフに2人の動きを見ながら合わせてもらうのが一番いいかなって思っただけだよ。無理強いする気はないから、みんなも意見があればいってくれると助かる。」

俺がいい終えると、他の5人が考え始めた。やっと話し合いになりそうだな。

少しスミノフのことを持ち上げすぎたかもしれないが、話し合いの中で無駄ないい争いをするのは面倒だから、わざわざプライドを傷つけるようなことをいう必要はねぇからな。

「たぶんこの次の戦闘後も話し合いの時間をもらえるだろうから、他の人が戦ってるのを見てから考えるでもいいんじゃないかな?」

「…そうだね。」

すぐには決まらなそうだからと提案したところ、とりあえずは納得してくれたみたいだ。

全部で6パーティーいるから、順番通りなら俺らが次に戦うまでに2回戦闘を見れるはずだ。

次の戦闘はセリナとの方を見て、その次はヴェルの方を見てから作戦を立て直すということで決まり、俺らはセリナに呼ばれたパーティーへと視線を向けた。







全パーティーが1度目の戦闘を終え、話し合いの時間になった。
順番通りなら次が俺らだろう。

「セリナ先生が相手だったときはクレハさんとデュセスさんが積極的に攻めるのを僕がフォローするでいいんだよね?」

最終確認をするようにスミノフが全員を見回しながら声をかけてきた。

俺らは待ち時間の間に他のパーティーの戦闘を観戦したが、たいした参考にならなかった。
チームワーク自体は上手いなって思う場面もあったが、セリナの実力が圧倒的過ぎて勝つための方法を見つけられなかった。だから、作戦は最初に俺が出した意見が採用となった。

「そうだね。ヴェル先生が相手だったらアドニス以外の総攻撃でいいと思うよ。ただ、アドニスは俺らごと魔法を撃つつもりなら、さっき使ったのより威力は弱めた方がいいと思う。」

今さっきの戦闘を見た感じだと、ヴェルはセリナほどの速度がないから、けっこう相手の攻撃を受けていた。避けようとしているのは見ててわかるが、さすがに6人相手に完璧に避けることは出来ていない。まぁでも無傷なんだけどな。ただ、今までみたいに防御力に任せた捨て身の攻撃はしていないから、成長したなと思う。

成長してはいても速度が足りないのは事実だ。だから今回は総攻撃を選択した。モヒートの実力がイマイチわからないが、他のやつはヴェルの攻撃を避けながら攻撃を加えることが出来ると判断したからだ。みんなも賛成してくれたようで、作戦が決定した。

「…さっきの『エクスプロージョン』は加減なんてしていないんだけど、どうやって防いだの?」

他のパーティーはまだ話し合いが終わっていないために、早々に話し合いを終えた俺らが暇になったからかアドニスが話しかけてきた。

「あれは防具がいいだけで、無傷だったのはたまたまだよ。」

「本当に無傷だったのか…。でも、いくら防具が良くてもあの威力の魔法攻撃を受けて微動だにしないのはおかしいと思うんだけど…。」

少し悲しそうな微苦笑を浮かべたアドニスがさらに質問してきた。もしかしてあれがアドニスが使える中での最強の魔法だったのか?

「動かなかったのはスキルを使ったからだよ。何のスキルかは秘密だけどね。」

俺が笑顔で答えると、アドニスはそれ以上の質問はしてこなかった。
周りを見回すとデュセス以外から目をそらされたから、他のやつらも気にして聞き耳を立ててたっぽいな。まぁいいけど。

「そろそろ次を始めるよ〜。順番はさっきと同じで、相手は私とヴェルちゃんで交代ね。あにゃたたちが私とで、あにゃたたちがヴェルちゃんだよ。」

話し合いの時間は終わりのようで、俺らのパーティーはヴェルと戦うように指示され、ヴェルのところまで移動した。

ヴェルはぱっと見では少し筋肉質なだけの女の子だが、光の当たり具合で表皮が半透明の淡い緑色に見えることで、ただの人ではないことを主張しているかのようだ。どうやら鱗をちゃんと纏っているみたいだな。これなら遠慮せずに攻撃しても問題ないだろう。

俺らが武器を構えたところでヴェルが何かを纏った。そういやヴェルは武闘家だったし、たぶん『気纏』のスキルだな。
ヴェルの構えは左足を少し前に出した半身の状態で、左手も少し前に出し、右手は顎付近で緩く拳を握っている。
構えが俺の喧嘩スタイルに似てる気もするが、なんか違うな。

「僕の準備は出来たから、君たちの準備が終わり次第、いつでもいいよ。」

ヴェルが喋り終わると、クレハとデュセスとスミノフが同時に動いた。3人に少し遅れて俺とモヒートもヴェルに向かった。

1番最初に攻撃を仕掛けたのはクレハだ。クレハは何の加減もなくヴェルの鳩尾目がけてレイピアで突きを放った。

ヴェルが少し前に出していた左手を肘を中心にレイピアを巻き込むように外に払って軌道をずらし、腰をひねりながら右手でクレハの顔を狙った。

クレハの反応が一瞬遅れたように見えたが、無理やり仰け反るようにヴェルのパンチを避け、バランスを崩して転がっていった。2回転くらいですぐに立ち上がったが、勢いのまま変な姿勢で転がったから地味に痛そうだな。

ヴェルが視線だけでクレハが転がった方向を確認し、次に到達したデュセスの対応を優先した。

デュセスが右手の短剣で切りかかろうとしたタイミングでヴェルが右手でデュセスの右手首を掴み、手前に引いたときにはヴェルの左手のひらがデュセスの右脇腹に添えられていた。見えないほどの速い動きではなかったのに、流れがスムーズ過ぎて全然見てなかった。
動きを見逃していたのは俺だけじゃなかったようで、モロにダメージを受けたっぽいデュセスは驚愕の顔で息を吐いた。それだけでは解放されず、ヴェルがその場で左足を軸に半回転してデュセスをスミノフに放り投げた。デュセスはあの一撃で戦闘不能になったのか、抵抗するそぶりがねぇな。

スミノフは近づいてくるヴェルから視線を外さないようにしながら、デュセスに触れずにサイドステップで避けた。

武器を持つスミノフの方が間合いが広いから、先に攻撃を仕掛けた。スミノフの左手のククリナイフでの胴切りをチラリと確認したヴェルが回避行動を取らずにさらに間合いを詰めた。そのせいでククリナイフの斬撃をモロに受けたはずなのに、全くダメージがないようだ。
スミノフの2撃目を左腕で払ったヴェルがスミノフに殴りかかったが、ヴェルの攻撃はセリナ程のスピードがないから、スミノフはヴェルの攻撃を避けて反撃した。だが、スミノフの攻撃はヴェルに全くダメージを与えられていないから、2人だけなら決着のつかない攻防が続いただろう。でも、起き上がったクレハが攻撃体勢に入ったし、俺とモヒートも間合いに入ったから一気に終わらせる。

俺が剣を上段に構えたところでヴェルと目が合った。いや、こいつ俺に視線を固定しやがった。他の攻撃は無視かよ。

クレハ、スミノフが切りかかったが、ヴェルは無傷どころか微動だにしなかった。

そのあとすぐにモヒートの槍が腹に当たったように見えたが、これも無反応で受けたのに無傷だ。間違いなくヴェルは俺の攻撃以外の警戒を捨てやがった。

正直、他の3人が隙を作るだろうと思ったから威力重視で上段に大きく構えちまったから、ここまでガッツリ待ち構えられたら当たる気がしねぇ。

だが今さらやめられねぇから、力の限り剣を振り下ろしたら、予想通りに避けられた。

やべぇ、今の俺、隙だらけじゃねぇか。

近づいてくるヴェルに対応するため、振り下ろしていた剣を無理やり振り上げた。
両腕がミシミシといっている気がしたが、気にせず振り上げたことで、ヴェルが警戒したのか後ろに退がって距離をとったおかげでことなきを得た。というか、ヴェルが退がったところにはクレハがいるんだが、全くダメージを与えられていないせいでヴェルに敵認定されてねぇのか?

『マングリンスペース』

ヴェルが俺しか警戒してないなら、俺が引きつけた方がいいだろうと思って踏み出そうとしたところで、アドニスの声が聞こえた。
魔法名を聞いても何の魔法かわからなかったが、ヴェルを中心とした球状に危険が視覚化された気がして、咄嗟に退がった。俺の判断は間違っていなかったようで、クレハ、スミノフも退がり、それを見たモヒートとやっと起き上がれたデュセスが慌てて範囲外に出た瞬間に危険と感じた範囲内に暴力的な風が吹き荒れた。

ヴェルは目を瞑り、わずかに前傾姿勢になって両腕を胸の前でクロスし、顔を伏せて耐えるつもりみたいだ。

たまに金属同士が当たるような甲高い音が聞こえるから攻撃魔法なのだろうとわかるが、ヴェルが着ているビキニアーマーが壊れることもなく、ヴェル自身もノーダメージっぽいな。

しばらく続いた魔法の効果が途切れたところで、ヴェルがわずかに顔を上げた。

楽しそうに口角が上がっているヴェルは1番近くにいたモヒートに狙いを定めたようで、動き出した。
モヒートは迫ってくるヴェルに対応するために槍を構えたが、途中で急加速したヴェルに反応出来ず、ほぼ無防備状態で脇腹にヴェルの拳をめり込ませて転がっていった。

モヒートの近くにいたデュセスはすぐにヴェルを切りつけて脇腹に浅い傷を与えたが、まだ本調子じゃないのかヴェルの反撃に反応が遅れて片腕でのガードごと殴り飛ばされた。

次にヴェルが狙いを定めたのはアドニスのようだ。

ヴェルが動き出すのと同時に俺は動いたが、間に合わねぇな。視界の隅に映ったスミノフも厳しいだろうからアドニスは諦めるしかねぇかと思ったら、クレハが風のように高速でヴェルに追いつき、一撃加えながらアドニスとヴェルの間に入った。だが、クレハでは攻撃力が足りないようで、かすり傷すらつけられず、ヴェルの行動の阻害をするどころか、払うように振られたヴェルの腕に当たって転がされた。

速度重視で攻撃力がイマイチなクレハは誰かを護りながら戦うのにはむいてないからしゃーない。

クレハが簡単に転がされているのにアドニスがヴェルとやり合えるわけもなく、ガードすらまともに出来ずに一撃で吹っ飛ばされた。

ヴェルが次に狙いを定めたのはスミノフのようで、俺に背中を向けた。

これはチャンスだと思ってまた剣を上段に大きく構えながら間合いに入った瞬間。ヴェルがスミノフの攻撃を無視して振り向きやがった。しかもヴェルは振り向きざまに殴るつもりのようで、右腕が淡く光っていやがった。こいつは俺を殺す気なのか、なんかのスキルを使っていやがる。

咄嗟に剣を下げ、なんとか剣の腹でヴェルの攻撃を受けたんだが、ヴェルのパンチの威力に耐えきれずに剣が砕けた。

魔鉄を砕く攻撃を向けるとかバカじゃねぇのか!?

「イーラ耐えろ!」

「はい!」

咄嗟だったから、念話を使わずにいっちまったがしゃーない。

ヴェルのパンチが俺の腹に当たるタイミングで腹筋に力を入れたんだが、なぜかヴェルは俺への攻撃を中断して振り向きざまに腕を上げた。

一瞬意味がわからなかったが、次の瞬間にはスミノフのククリナイフがヴェルの腕に食い込んだ。どうやら首を狙ったスミノフの攻撃に気づいてガードしたみたいだ。

遅れて反対側にもスミノフのククリナイフが迫ってきたが、それもヴェルが上げたもう一つの腕に食い込ませて受け止めた。

スミノフはククリナイフをヴェルの腕から抜けなかったのか驚いた顔をしたが、次の瞬間にはヴェルの前蹴りを鳩尾に受けたようで、蹲るように倒れた。
スミノフが倒れたところでヴェルの両腕に食い込んでいたククリナイフがヴェルの血とともに音を立てて地面に落ちた。

まだ立っているのは剣が折れた俺と両腕に深い傷を負ったヴェルだけのようだ。クレハはまだ戦闘継続可能のようだが、どう見ても勝負ありだろう。それなのにヴェルはまだ続ける気なのか、俺を見て笑みを深めた。

「いや、降参だ。俺は武器が壊れちゃったからね。これじゃあ剣の練習が出来ないし。」

ヴェルが動き出す前に両手を上げて降参すると、ヴェルはつまらなそうに鼻を鳴らしてから、血の滴る腕の傷を撫で始めた。
けっこう深い傷なのに血が吹き出ないことを不思議に思っていたら、ヴェルが撫でていた手をどかしたあとの腕には傷がなくなっていた。
魔法名をいった様子はなかったから、ヴェルもイーラみたいな完全に無詠唱で魔法が使えるのか?それとも再生させるようなスキルがあるとか?

いや、今はそれどころじゃねぇな。寝転がってるやつをなんとかしねぇと。

「ヴェルちゃん、さすがに魔鉄の武器破壊はやりすぎだよ…。アリアに怒られるよ。」

既に終わっていたらしいセリナが近づいてきて、呆れた声を出しながら俺の剣の破片を拾い始めた。
アリアに怒られるという部分は小声だったが、ヴェルにはちゃんと聞こえたようで露骨に目を逸らした。

そういやこの剣は借り物だったな。やっちまったわ。
セリナが破片を集めてるってことはまた作り直せるのかもしれねぇとわずかな希望に縋るように俺も破片を拾うことにした。

「イーラ、また『ハイヒール』を倒れてるやつらに頼む。」

「は〜い。」

魔鉄の剣の破片を拾いながら、今度はちゃんと念話でイーラに頼むと、イーラはすぐにデュセスたちに『ハイヒール』を使ってくれたようで、みんながゆっくりと立ち上がり始めた。

今回もセリナがやってくれたことにしてくれと念話を送る前にセリナを見たら頷かれた。なんか伝わったっぽいから念話はいいか。

セリナが集めた分の破片を革袋に入れて渡してくれたから、俺もその革袋に自分で拾った分の破片を入れてからアイテムボックスにしまった。革袋に入らなかった大きな破片や柄はそのままアイテムボックスにしまってから、次の練習の邪魔にならないようにヴェルから離れた。

「じゃあまた話し合いね〜。」

俺らが移動したのを確認したセリナが全員に声をかけて話し合いの時間となったが、また俺らのパーティーの空気が重い。

まぁ子ども1人に6人で完敗したらテンション下がるのもわからなくないが、なんか話さなきゃ話し合いの意味がねぇと思うんだけどな。
といっても、ヴェル相手だと一定以上の攻撃力がなければダメージを与えられないから、作戦も何もない気がしなくもないけどな。

今回ダメージを与えられたのはデュセスのかすり傷とスミノフの斬撃だけなんだよな。
クレハの攻撃は当たっていても全くダメージ与えられてなさそうだったし。

「アドニスは身体強化やステータスアップの魔法はないの?」

「あります。やはりそちらの方がいいですよね。私の攻撃は意味をなしてなさそうでしたし。」

アドニスが苦笑した。

たしかにアドニスの魔法攻撃はヴェルにはダメージを与えられなかったし、セリナには当てることが出来なかったが、べつに攻撃だけが魔法使いの仕事じゃねぇから苦笑するようなことではねぇと思うけどな。

「ヴェル先生にダメージを与えられたのはデュセスとスミノフだけだし、セリナ先生には誰も攻撃を与えられていないんだから、アドニスがそんな悲観的になる必要はないと思うよ。このままじゃ勝ち目がないから色々試そうってだけだし。とりあえず次は俺らにステータスアップ系の魔法をかけてもらって、余裕があったら相手の動きを阻害するような魔法を使ってもらうのがいいんじゃないかな?」

「わかった。」

納得したのか?まぁ他の奴らからの意見も出ないし、俺の意見は間違ってるわけではなさそうだな。

「セリナ先生相手の作戦はアドニス以外は変更しなくていいと思うけど、ヴェル先生のときは少し変えた方がいいかもね。」

「どう変えるの?」

俺の意見にデュセスが質問してきた。周りを見回すと、全員が俺の次の言葉を待っているようだった。

いや、これは話し合いなんだから、俺1人に聞くんじゃなくて、全員で意見を出し合うもんじゃねぇのか?…まぁいいけど。

「ヴェル先生はなぜか俺を警戒していたようだったから、俺が注意を引きつける役をするのがいいかなって思った。あとは傷を与えることができるデュセスとスミノフが隙を見つけ次第全力攻撃って感じが1番いいんじゃないかと思う。クレハとモヒートはアドニスが使うステータスアップ系の魔法次第で俺らのフォローって感じかな?」

「たしかにヴェル先生はあからさまにテキーラくんを警戒していたね。敵意を引きつけるスキルでも使ったのかと思ったけど違うんだ?」

俺の意見にデュセスとアドニスが頷き、スミノフは頷きつつも質問してきた。ただ、クレハとモヒートはなぜか落ち込んでる。めんどくせぇな。
たしかにヴェル戦では2人は役割がねぇけど、そんなん得手不得手があるんだからしゃーねぇだろ。というか、クレハが落ち込むのはまだわかるが、モヒートに関しては落ち込むならもっと実力をつけてからにしろや。得手不得手による出番なしのクレハと違って、単純な実力不足のモヒートは自業自得だろ。
まぁそう思っても口に出す気はねぇけどな。今日含めてあと4日もこのメンバーで練習することになるなら余計な諍いを起こしたくはねぇし。

「とくにスキルは使ってないけど、武器を警戒されていたのかもね。わざわざ壊されたし。」

実際には俺が盾に使ったから壊れただけなんだが、ヴェルが俺のことを知ってるから警戒してきたと教えるつもりがねぇから、そういうことにしておく。

「そういえば武器はどうするの?」

「明日には用意しておくよ。今日まだ練習が続くなら、とりあえず短剣を使うことにするかな。」

デュセスの質問に俺は腰の鋼の短剣をかるく叩いて答えた。
でも心配する必要はねぇだろ。あと2回でちょうど1周だし、時間的にそこで終わりだろうからな。

「話し合い終わり!次始めるよ〜。そこは私とで、そっちはヴェルちゃんとね〜。」

セリナの間の抜けた声で次の戦闘訓練が始まった。

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