裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

256話



優男はサラ狙いなのかと思っていたんだが、魔力の流し方を教えてもらいにサラじゃなくてアリアの方に行きやがった。しかもこれで2回目だ。というか優男は回復魔法はもともと使えるんだよな?なら教えてもらう必要なくねぇか?
サラはサラで気になるのか、1度目の時も今もさり気なく優男を見たりしている。

これは本当にあの優男に惚れたのか?

まぁ優男は見た目はいいからな。ロリコンってところでアウトだが。

優男はいろいろとアリアに話しかけているみたいだが、アリアは淡々と答えながら魔力を流して、さっさと終わらせていた。

取りつく島もないとはこのことだな。

その後、優男は席に戻ってしばらくは大人しく自分で練習しているようだったが、上手く発動できなかったのかまた席を立ち、今度はサラの方の列に並んだ。

アリアが相手してくんなかったからサラでいいやとかいう考えだったら、ぶん殴るぞ。

「テキーラくん、さっきから怖い顔してどうしたの?」

リスミナに声をかけられて、俺が練習もせずにずっと優男を見ていたことを気づかされた。

恋愛は本人の自由なんだから、あんまり気にするのはよくねぇな。
それに俺は自分の意思で学校に参加してんだから、人のことばっか気にしてないで勉強をちゃんとしなきゃ周りに悪いだろう。

「短縮詠唱が上手くいかなかったから、眉間にシワが寄っちゃってたかな。」

誤魔化すように眉間を揉んでから、リスミナに笑顔を向けた。

「そしたらテキーラくんも先生に教えてもらいに行ってきたら?体に魔力を通されるのは不思議な感覚だったけど、おかげで私はヒールはすぐに覚えられたし!短縮詠唱の方はちょっと難しくて、今日中に覚えられる気がしないけど…。」

まだ感覚的に1時間も経ってないだろうに、既にスキルに頼らないヒールを覚えられているのは、サラの教え方がうまいってのもあるかもだが、リスミナ自身が優秀なんだと思うけどな。

「そうしようかな。あと、周りを見た感じ、まだ原文の方も覚えられてない人がけっこういるし、リスミナは十分習得早いと思うから、短縮詠唱もすぐ覚えられるよ。」

「ハイヒールまで覚えてる人は余裕そうでいいですね〜。」

べつに上からいったつもりはなかったが、唇を尖らせたリスミナから嫌味で返されたってことはいい方が良くなかったかもな。

「べつに余裕じゃないよ。それに魔法ができる分、剣とかの武器をあまり使ったことないし、この後の授業が心配だよ。」

俺自身は近接戦闘タイプといっても、武器はほとんど使ったことがないからな。この機会に覚えようかと思ったのも冒険者コースを選んだ理由の1つだ。

ニコッと笑顔をリスミナに向けてから席を立ち、サラの列の方が人が少なそうだったから、そっちに並んだ。

ちょうど優男がサラと話しているところだったが、べつに近くで聞こうと思ったわけじゃない。アリアの方は5人も並んでいるから、2人しか並んでいないこっちを選んだだけだ。
優男のせいで時間がかかりそうではあるが、人数的にこっちの方が早く順番がくるだろうしな。

「サラ先生は本当に凄いですね。その若さで人に教えられるほどの技能を身につけているなんて。」

「自分は凄くなんてないのです。このくらいはリキ様といるためには必須なことなのです。」

「それでも自分で出来るのと人に教えるのは違った才能が必要だと僕は思うから、その歳でそこまで出来るのは凄いですよ。」

「ありがとうなのです。でも、自分は戦闘で役に立たない分、こういうことを頑張ってるだけなのです。だから、褒められても困るのです。」

後ろに並んでいるやつがいることを気にしてないのか、優男がサラに話しかけている。

こいつは話すために出来ないフリしてんじゃねぇのか?

「…え?サラ先生で役に立たない?いや、そんな謙遜しなくても、十分に強いのは知ってますよ。今日の戦闘は2回とも見てましたから。」

「戦闘?戦闘なんてしてないのです。何を見て自分を強いといっているのかわからないのですが、自分は戦闘要員でソフィアさんの次に弱いのです。でもソフィアさんのような特技もないので、勉強を頑張ってるだけなのです。後ろに並んでいる方がいるので、あとは自分で練習してから、また分からなかったら来てほしいのです。」

「知らないのに余計なことをいっちゃったみたいだね。申し訳ない。また練習してわからなかったら来るので、よろしくお願いします。」

優男は最後に笑顔を作って離れていった。

サラはさっきから優男を気にしていたように思ったんだが、ずいぶんと素っ気ない対応だった。
6歳でも既にわけわからん女心が芽生えちまってるのかもな。

俺の前のやつは魔力の流し方だけ一度サラにやってもらって、すぐに退いていったから思いのほか早く俺の番がきた。

俺の後ろには今のところ誰もいないが、せっかく変装しているのにサラの知り合いだと思われるのも良くないだろうし、余計な会話はしないようにしておこう。

「どれを覚えるのですか?」

「とりあえず魔力を自力調整する感覚を知りたいので、短縮詠唱を教えてください。」

「…はい。」

一応今の俺は生徒だから言葉遣いに気をつけたんだが、サラは反応に困ったのか、返事に間があった。

「他の生徒と同じ扱いでお願いします。」

「…わかったのです。」

やっぱり俺だと気づいてるみたいだな。まぁ、もういいけど。

サラが両手を差し出してきたから、俺がそれぞれを握った。

「我願う。………?」

「くすぐったいよ。」

サラが詠唱しながら俺に何かを流してこようとしたのはわかったんだが、俺の中の何かが邪魔して流れてこず、それがイーラの方に流れたのか、イーラが悶えたせいで俺の体表が若干蠢き、念話で文句をいわれた。

今まで精神攻撃を何かが勝手に防ぐことはあったが、攻撃じゃなくても邪魔するのか?

回復魔法は普通にかけてもらえるし、テンコは体内に入れているのにわけがわからん。

「もう一度お願いします。」

「わかったのです。」

今度は詠唱する前に、サラがゆっくりと何かを流してきた。ほのかに温かい何かがゆっくりと体に入ってくるのがわかる。これが魔力なんだろうな。それになぜか今度は邪魔されなかったようだ。

その後、サラが詠唱を始めながら、急に強めに魔力を流したり弱めたりと、強弱の激しい流し方をしてきた。

痛いわけじゃねぇんだが、急にやられたからビックリしたわ。これは攻撃だと勘違いしても仕方ない気がする。何が勘違いして邪魔したのかは知らんけど。

「試しに流してみてもいいですか?」

「はい。どうぞなのです。」

今度は俺がサラの真似して魔力を流そうとするんだが、むずくねぇか?
強くするために一気に流そうとしたらサラがビクッとして、なんか申し訳なくなったし、慎重に強くしたあとに急に弱めようとしたら魔力を切っちまうし、できる気がしないんだが。

「自分が右手から流すので、リ…テキーラさんは左手で受け取ったまま、右手から自分に流してみてほしいのです。」

俺が全く上手くいっていないからか、サラが別のアドバイスをしてくれて、サラから一定の魔力が流れてきた。

左手側から流れてきた魔力が肩を通って右手からサラに返っていくイメージをしながら、同じ量になるように意識して返していく。

すると今度は強弱が波打つように流されたのをそのまま返す。緩やかな強弱なのに難しくはあるが、少しずつコツが掴めてきた。ヘタに意識するより、流れに任せて返す方が上手くいくな。

俺がわかってきたと思ったタイミングで、徐々に強弱が激しくなってきた。
やってることは送る量を増やしたり減らしたりといった強弱に変わりないんだが、全くの別もんだっていいたくなるくらいに急に難しくなった。

短縮詠唱でこんなに難しく思っちまうんじゃ、セリナが使ってた詠唱は俺には自力取得はむずそうだ。

それでも強弱の切り替わりは激しいが、強いときと弱いときの振り幅はほぼ一定の状態をサラが続けてくれたからか、わずかにだが、形になってきた。

不可能だと思ったことがちょっと出来るようになったことで一息ついたときに、後ろに2人並んでいることに気づいた。
どうやらめちゃくちゃ集中しちまってたみたいだな。

もうちょい続ければ短縮詠唱なら習得出来そうな気はしてきたが、他のやつらの勉強の邪魔をするのも悪いから、ここまでにしておくか。

「サラ先生、ありがとうございました。あとは席で試してみます。」

「…はい。もう少しで覚えられると思うので、頑張るのです。」

もう少しで覚えられそうだというところでやめたからか、サラに一瞬名残惜しそうな顔をされたが、サラはすぐにニコッとした顔に戻った。

サラから手を離し、今の感覚を忘れないためにその両手を合わせて、自分の右手から左手に魔力を流しながら席へと戻った。

「ずいぶん長かったね。」

やっぱりけっこう長い時間、サラを占領しちまってたみたいだな。
話しながら魔力の強弱を意識して流すのはまだ出来そうにないから、一度魔力を止め、席に座りながらリスミナに顔を向けた。

「俺が全然上手く出来なかったから、サラ先生がわかりやすく教えてくれただけだよ。」

「そうなんだ。てっきりサラ先生が可愛いから独占したくなっちゃったのかと思ったよ。」

「独占なんてしたら迷惑になっちゃうからしないよ。」

リスミナの冗談に対して、俺は微笑みながら答えたら、なんかリスミナが少し驚いた顔をした。

「あれ?もしかして本当にサラ先生みたいな人が好きなの?」

これは冗談とかじゃなくて本気で聞かれてるっぽいな。なんでいきなりそんな確認をしてくるのかはわからんが、俺がサラを嫌いなわけがない。

「本当にってのがよくわからないけど、サラ先生みたいに努力出来る人は好きだよ。」

「あっ…そ、そうなんだ。気持ちはわかるよ?わかるんだけど…なんていえばいいのかな。」

なぜかリスミナが慌て始めた。まさかとは思うが、俺がサラを恋愛対象として好きだっていったと勘違いしてるわけじゃねぇよな?
この世界だと男が幼女に惚れるとかよくあることなのか?

さすがにそんな勘違いをリスミナがするとは思わないから、わざわざ訂正する必要はないと思うが、なんか嫌な予感がするからハッキリいっておこう。

「わかってると思うけど、サラ先生に対して恋愛感情はないからね。サラ先生に限らず、俺は努力出来る人が好きってだけだよ。」

「え?…あれ?でもさっきサラ先生と結婚できるかって聞いてきたよね?」

ん?この反応は本気で勘違いしてたのか?
というか、なんか話が噛み合ってねぇな。

「それは俺のことじゃないよ。単純に世間的な常識を知りたかっただけなんだけど、なんか勘違いさせちゃったみたいだね。」

「そうなの?こっちこそ勘違いしちゃってごめんね。そうだよね。さすがにサラ先生は若すぎるもんね。結婚できるか聞かれた時はビックリしちゃってなんて答えたらいいかわからなかったけど、勘違いでよかった。」

失礼なことにリスミナは本気で勘違いしていたみたいだ。考えればわかるだろといいたくなったが、そういやカンツィアや優男といったガチなロリコンが普通に存在するのだから、勘違いされる可能性はあるわけか。あんときどんな聞き方をしたかはよく覚えてねぇが、俺の聞き方が悪かった可能性もあるし、気を付けねぇとな。

「むしろ俺は年上の方が好きなんじゃないかな。最近いいなって思った人は、俺と歳が近い子どもがいる人だったし。」

「それはそれでどうかと思うよ…。」

リスミナが苦笑いを浮かべた。

あぁ、今のは間違いなく失言だったな。

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