裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

255話



多すぎた昼飯を食い終えて、まだ半分くらい時間が残っていたが、初日だからと早めに教室に移動した。

たぶんあの砂時計は1時間くらいだろうから、30分くらい前に教室に着いたはずなのに、既に20人くらいの人がいた。
そういや定員数が書かれていなかったが、机は縦横6列の36席しかないし、早い者勝ちだったりするのか?

ここでもみんな前から座っているようだから、誰も座っていない1番後ろの窓際に向かうと、リスミナは俺についてきて、隣に座った。

席に着くまでにクラスメイトになるやつらをチラ見したが、18人が男で女が2人と、やっぱり冒険者になるのは男の方が多いんだな。

でも、今まで出会った冒険者の男女比は同じ程度な気がするから、今回の冒険者基礎コースがたまたま男が多いだけかもしれないけど。

「緊張するね。」

俺がクラス内を席から眺めていたら、リスミナがソワソワとしながら声をかけてきた。
俺にとっては変装してるとはいえホームだからなんも思わなかったが、よそから来たら何もわからないのが当たり前だし、緊張するのが普通か。

「そうだね。でも、どちらかといえば俺は楽しみが勝ってるかな。」

「それはわかる!」

俺らが雑談をしている間もチラホラと人が入ってくる。

ほとんどが前から座っているのに、俺とリスミナだけ1番後ろの奥に座っているから目立っているのか、新しく教室に入ってくるやつらがみんな俺らを二度見してから空いてる席に座って行く。

みんな前の入り口側から順番に座っているようで、残りが俺らの前2席と最後列の4席のみとなったところで、まさかの知ってるやつが教室に入ってきやがった。

さすがに予想外過ぎてガン見しちまったら微笑まれた。

俺以外にもあいつのことを知ってるやつがいるみたいで、呆けた顔をしてるやつの横顔が視界に入ったが、たぶん俺もそんな顔をしていたのだろう。

教室に入ってきたのは朝練の時と同じ格好をしているローウィンスだ。

さっきまでローウィンスを見て驚いていた俺の列の1番前のやつは訝しむ顔で首をひねっていた。
革鎧なんて着てるから人違いかもしれないと思ったのかもな。まさか王族があんな格好でこんなところに来るとは思わねぇし。

まぁ俺もかなり驚きはしたが、今の俺はテキーラだからローウィンスとの関わりは一切ないし、無視でいいだろうと視線を逸らしたのに、ローウィンスは迷うことなく俺の前の席に来やがった。
順番に座るならリスミナの前の席に座るはずなのになぜか1つ空けて俺の前の席にだ。

なんでそこに座るんだと思いながら見ていたら、ローウィンスが椅子を引いたところで目があった。
俺が見ていたせいなのもあるが、なんか違和感があったぞ。ローウィンスは自然な流れでチラリと振り向いてきただけのはずなのに、なんで違和感を得たんだ?
こいつのことだからとか穿って見過ぎなだけで、勘違いかもな。

「初めまして、アインと申します。よろしくお願いします。」

目が合ったからといった感じでローウィンスが微笑みながら挨拶をしてきて、そのままの流れでリスミナにも視線を向けて会釈した。

本当に目が合ったからってだけだよな?バレてるとかじゃねぇよな?
もし門番から情報が漏れたとしても、仕事があるこいつがこんなすぐに対応出来るわけないだろうし、たまたまなはずだ。

「よろしくね。」

俺だと気づかれないように、念のため出来るだけ爽やかな笑顔を意識したら、イーラに笑われた。

纏ってるはずなのにイーラに見えてんのか?

「おい。」

「ごめんなさ〜い!リキ様らしくなくて面白かったの!」

「テンコも、見たかった。」

イーラは謝ってはいるが、全く悪いとは思ってなさそうだ。
まぁ自分自身で今のはねぇなと思ってるから、笑われてもちょっとイラッとしただけだし、べつにいい。

「よろしくね!私はリスミナです!同年代の女の子の冒険者って初めてかもしれないです。」

なら俺の隣にいないで、俺らが来た時には既にいた、前の方に座ってる女の子二人組に話しかけに行ってくれば良かったんじゃねぇかと思わなくもないが、やけにテンションが上がってるところに水をさすのも悪いから、黙っておくことにした。

これで話が終わりかと思ったら、ローウィンスはまだ座らずに俺を見ていた。

「どうしたの?」

「お名前をおうかがいしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、テキーラだよ。よろしくね。」

「リスミナさんとテキーラさん。よろしくお願いします。」

最後にペコリと頭を下げてローウィンスは椅子に座って前を向いた。

それからしばらくリスミナと雑談していたら、さっきサラに質問していた優男が入ってきて、続いてサラが入ってきた。

もしかして今まで一緒にいたのか?

本当にあの男はサラのことを狙ってるのかもな。

その優男は教室を見回してから、俺の斜め前の空席へと座り、一瞬アインを見て訝しげな顔をした。だが、すぐに爽やかなスマイルに変わった。

「初めまして、スミノフです。よろしく。」

「アインです。よろしくお願いします。」

後ろからだと2人の横顔しか見えないが、どこぞの物語の王子様とお姫様って雰囲気がにじみ出るような美男美女だな。あぁ、ローウィンスは実際にお姫様だったな。

微笑み合うだけで絵になる光景なのに、なぜか2人の笑顔がどちらも仮面に見えちまった。

まぁ、たまたま隣の席になったから挨拶しただけなら、作り笑顔に見えてもおかしくねぇか。なんて思っていたら、優男は反対側の男には挨拶しなかった。
どうやら女にしか挨拶しないやつなのかもな。もしくはローウィンスの知り合いだったか。

最初にローウィンスを見て首を捻ってたやつは、アインと名乗ったのを聞いてからはもう見ていなかった。

名前が違うだけで納得するものか?いや、ここは入るときにステータスチェックまであるから、いくら似ていようが勘違いだと納得せざるをえないのか。まぁ、それで納得するってことはローウィンスがここの領主とまでは知らないんだろう。

踏み台を使って黒板に文字を書いているサラを眺めながら、冒険者基礎の先生もサラがやるんだなと思っていたら、遅れてアリアとセリナが入ってきた。

冒険者基礎は3人体制なのか?

アリアとセリナはそのまま出入り口の扉を閉めたところで立ち止まっている。

「時間になったので、冒険者基礎の授業を始めるのです。」

黒板に文字を書き終えたサラが、俺たちの方を向いて話し始めた。

どうやら今回のクラスは32人みたいだな。
男が27人の女が5人か。

「今回、補佐をしてくれるのはアリアさんとセリナさんなのです。このクラスには自分では教えることが何もない方がいるようなので、急遽この村で実力の高いお二人に参加してもらったのです。」

サラが2人を紹介するのに合わせ、アリアとセリナは会釈をした。

クラスの中を見回してみると、たしかに戦闘能力だけならサラより強そうなのが4人くらいいるようだが、何も教えられないってことはないだろ。

「…あれが『無慈悲』と『良心』かよ……。」

視線をアリアとセリナに戻したところで誰かが呟くような声が聞こえた。

そういやあいつらにも二つ名があるんだったな。でも、前に聞いたときはもうちょい長かった気がするんだが。

「イーラだって『無邪気』って二つ名あるもん!」

「テンコ、ない。テンコも、欲しい。」

イーラにも男の呟きが聞こえたらしく、なぜか張り合っている。
それを聞いたテンコが羨ましがっているが、二つ名なんていらねぇと思うけどな。

「イーラたちの二つ名ってもっと長くなかったか?たしかイーラだと『無邪気な殺戮者』だったか?」

「知らな〜い。イーラがアリアから聞いたのは『無邪気』だったよ。二つ名がつくほど有名になったから、変なことはしないようにいわれたけど、イーラは変なことなんてしないもん!」

俺が『少女使い』から『歩く災厄』に変わったように、案外簡単に変わるもんなのかもな。

それにしても、さっきからずっとアリアとセリナを見ているんだが、あいつら一度も俺のことを見ねぇな。
アリアのことだからもしかしたらバレてんのかと思ったのは間違いじゃねぇかもしれない。
不自然に俺にだけ視線をよこさないから、意識して目を合わせないようにしてる気がする。いや、俺の考えすぎな可能性もあるが、ローウィンスがいる時点で俺の行動がけっこう前から予測されてた可能性は高いと思うべきだろう。
そんで、日中出かけるとか詮索するなといったことで、今日から通うだろうと確信を持たれたといったところか。そんなに俺ってわかりやすいか?いや、アリアの観察力が凄いだけなはずだ。

まぁアリアたちが知ってて気づいてないふりをしてくれてんなら、そこまで気にする必要はねぇか。それなら俺も今はテキーラとして楽しむだけだ。

アリアたちに気づかれると気を使われるかもと思って変装しただけで、他の生徒に俺が村長だとバレなきゃとくに問題はねぇしな。

「それではまずは冒険者としての考えを自分たちに合わせてもらうのです。そのうえでここでの学習内容が合わないと思った方は明日から授業を受けるのをやめるのも他の授業を受けるのも自由にしてほしいのです。」

サラが話し始めたから、俺はアリアとセリナを見るのをやめて、サラへと視線を移した。
教壇に立つ6歳児というのにまだ慣れないが、真剣に話すサラの話に耳を傾けた。

「まず、冒険者には大まかに分けて2種類の仕事があるのです。」

2種類っていうと薬草採取系と討伐系か?でもそれだと調査とかもあるから2種類ではないか。

「町や村の中での仕事か外での仕事かの2種類なのです。そして、ここでは外での仕事をするための戦闘の基礎を身につけてもらう授業なのです。」

外での戦闘っていうと基本は討伐系ってことか。

「戦闘というと魔物や盗賊の討伐依頼を想像する方が多いのですが、村や町の外で仕事をすれば、どこでも魔物と遭遇する可能性があるのです。だから、比較的安全な場所で何かを採取してくるという依頼だからと軽い気持ちで向かって、命を落とすこともあるのです。みなさんは魔物がどうやって生まれるか知っていますか?」

サラが話しかけるように質問をしてきたが、誰も答えない。と思ったら、優男が手を挙げ、サラが優男に目を向けた。

「瘴気が溜まると魔物が生まれると聞いたことがあります。」

そういやマッドブリードが生まれるのは邪龍の瘴気がウンタラカンタラといわれた気がするな。

「その通りなのです。では、瘴気とはなんなのですか?」

「強い魔物や魔族から溢れる黒い靄のことだと思います。」

「そうなのですが、リキ様が以前殴り殺した邪龍からも黒い靄が溢れていたのです。邪龍は堕ちた龍なのですが、龍族とエルフ族は堕ちても魔物や魔族にはならないのです。だから、瘴気は魔族特有のものではないのです。」

知らない事実を勉強出来てありがたいんだが、一つだけいいたい。

邪龍を殴ったのは確かだが、殺したのは俺じゃねぇと。

「魔族や堕ちた者が発する黒く染まったものを瘴気というだけで、瘴気と魔力とMPは同じものなのです。つまり、魔力がいきわたっているこの大陸のどこでも魔物は生まれるのです。」

「ですが、町中で魔物が生まれたという話はあまり聞いたことがありません。」

優男が驚きながらサラに質問をした。

「それは町では大量の魔力を地中から吸い上げて使っているからなのです。みなさんは町中で使われている光や水がどういった仕組みで出来ているかは知っていますか?」

今度は優男も含めて全員が沈黙した。

「全てが魔道具なのです。町で使われるあれだけの光や水を生み出す魔道具が消費する魔力は膨大な量になるのはわかると思うのです。でも、みなさんは部屋の明かりをつけるときや水を使うときに少しでも魔力を取られた感覚はあったですか?」

サラが生徒たち全員に視線を送り、返事がないのを肯定ととったようだ。

「当たり前に使っているものなので、気にならなくても仕方ないのです。地中から魔力を吸い上げているのをよく思わない方もいるかもしれないのですが、そのおかげで町中や村の中に魔物が生まれることなく、安全に暮らせるということは知っておいてほしいのです。」

ざわざわとしだした声の中に「だから畑は外に作ってるのか…。」という呟きが聞こえたんだが、この世界の畑に魔力が必要なこと自体その呟きで初めて知ったわ。

「ただし、例外として町中に生まれる魔物もいるのです。見たことある人もいるかもしれないのですが、スケルトンなどが生まれることがあるのです。なぜなら、人間にもMPがあり、MPを残したまま死んで放置された人がスケルトンなどになることがあるのです。墓地のように管理されているところではまず起こらないですが、スラム街と呼ばれるところで生まれることはたまにあるのです。だから、町中の仕事でも絶対に安全というわけではないのですが、それをいったらキリがないので、その話はおいておくのです。」

見えない箱のようなものを横にズラす仕草をしたサラがちょっと微笑ましかった。

「それではいくつか質問したいことがあるのです。まず、主に前衛をしていて、パーティーを組んで活動しているという方、手を挙げてほしいのです。」

サラの質問に俺も含めて半数以上が手を挙げた。他は後衛なのか、もしくはパーティーを組まないやつなんだろう。
ちなみにリスミナもローウィンスも挙げていない。2人とも剣を使ってんのに挙げないってことは決まったパーティーがいないってことだろう。

「その中で少しでも回復魔法を使える方は手を下げてほしいのです。」

ここで手を下げたのは俺と優男だけだ。

「では、あなたに質問なのですが、あなたのパーティーで回復魔法を使える人は何人いますか?」

「俺か?ウチは1人だが、前衛3人魔法使い2人に支援1人とバランスの良いパーティーだと思うぞ。」

男の言葉に他に手を挙げてる2人が頷いているから、同じパーティーっぽいな。

「では、不意に魔物が生まれて、急遽戦闘となったさいに前衛の3名から少し離れた位置に支援タイプの方がいたとして、その支援タイプの方の真後ろにもう1体の魔物が生まれた場合、どうしますか?」

「そんなことありえ……いや、さっきの話が本当なら、ありえないとはいえないのか。だとしたら間違いなく助けようと動くだろうが、間に合わない可能性が高いな。」

ウチならアリアが狙われるってことか。
よっぽどじゃなきゃアリアがやられるとは思えないが、それでアリアが殺されるほどの敵なら、助けに行こうとしたところで間に合わねぇだろうし、俺らも全滅する可能性が高そうだし、どうしようもねぇな。

「では、申し訳ないのですが、その支援タイプの方が魔物に殺されてしまったと思ってほしいのです。そのときにあなたは助けようと動いたせいで隙ができて深い傷を負ってしまったとするのです。その場合どうするのですか?」

「とりあえずポーションを飲んで、それで治ればよし、治りきらなくても余裕があるなら傷薬を塗るなりの治療をするが、余裕がないなら血を流しすぎて意識を失う前に魔物を殺そうとするだろうな。」

「即時判断が出来るのは素晴らしいのです。その判断力があれば、その戦闘は問題なく乗り切れると思うのです。でも、それだけ考える力があるのなら、回復できる人が1人もいない状態で近くの町や村まで帰る大変さが想像できると思うのです。なので、今回はみなさんにヒールを覚えてもらいます。今のを聞いても自分は前衛だからヒールを覚える必要はないという考えを変える気がないのであればそれはそれで構わないのです。それでは手を挙げてくれていた方々、ありがとうなのです。」

ずっと挙げっぱなしだったやつらが手を下げた。

「次はパーティーを組んでいて、回復や支援を担当している方は手を挙げてほしいのです。」

こっちは5人か。前衛に比べて少ないな。

「この中でパーティーメンバーと同じ程度の近接戦闘能力がある方は手を下げてほしいのです。」

誰も手を下げなかったが、これは当たり前な気がする。
あのアリアですら、対魔物の戦闘能力だけでいうなら、イーラやセリナやアオイと比べたら少し劣っちまうしな。

「それでは、あなたに質問なのですが、不意に目の前に魔物が生まれたときに対処する術はありますか?」

「…ないです。」

「それなら戦闘訓練の重要性は理解してもらえるですね?」

「…はい。」

「良かったのです。それでは手を挙げてくれた方、ありがとうなのです。最後に、ここまでの話を聞いて、近接戦闘の訓練や全員が回復魔法を覚える必要性がわからない方は手を挙げてほしいのです。」

ここまでいわれて空気を読まずに手を挙げるやつはさすがにいなかった。
まぁサラがいってることはもっともだしな。

ただ、サラやサポートに入るアリアが回復魔法を使えるのは知っているがセリナってヒールなんて使えたか?
教える側が使えないのはさすがにマズいんじゃねぇの?

「わかってもらえて良かったのです。それでは今日はこのヒールの詠唱を覚えてもらうのです。」

サラはニコッと笑ってから、黒板に書かれている文字を指した。

最初に書いていたのはヒールの詠唱文だったのか。だが、書かれている文が2つある。どっちがヒールだ?それに文の下にフニャフニャっと書かれている、上下に不規則にグネグネしてる横線も意味がわからん。

「上の文が一般的に知られている『ヒール』の詠唱なのです。下がソフィアさんが作った省略詠唱なのです。まずは上の文で覚えてからの方が下の省略詠唱を覚えやすいのです。」

サラが説明している途中で、獣人っぽい男が手を挙げた。

「はい。なんですか?」

「あの…重要性は理解してるんだが、ほとんどの獣人は魔法を覚えられないと聞いたんだが。」

「たしかに一般的にはそういわれているのです。ですが、それは半分間違いなのです。種族や才能によってSPで覚えられるスキルと覚えられないスキルが存在するのも事実なのですが、それはSPで取得する場合の話なのです。といっても信じるのは難しいと思うので、セリナさん、お願いするのです。」

「は〜い。」

「傷を癒せ。」

『ヒール』

セリナは質問した獣人の男にヒールを使ったようで、男が淡い光に包まれた。

そして、なぜか教室が静かになった。

セリナが魔法を使えることは俺も知らなかったが、そこまで驚くことか?

「今、セリナさんが使ったのはここに書いた省略詠唱をさらに省略したものなのです。冒険者基礎ではそこまでやらないので、詳しく知りたい方は魔法基礎を受け終えた後に魔法応用を受けてほしいのです。」

なるほど、黒板に書かれているのより、さらに短縮されてたから驚いていたわけか。

でも、セリナの詠唱の方が簡単で覚えやすそうなんだが、なんでそっちを教えないんだ?

「魔法を使ったことがない方は詠唱文が短い方が簡単なのではと考えてしまうと思うのですが、スキルで覚えていない魔法は詠唱しただけでは使えないのです。この黒板に書いた詠唱文の下にある線が魔力を込める強弱とタイミングなのですが、詠唱文が短ければ短いほど刺々しく見えるほどに強弱の切り替えが激しいのです。だから、初めての人はこの短縮が限界だと思うのです。…でも一応セリナさんが使ったヒールの強弱線も書いておくのです。」

俺の浅はかな考えを見透かされたかのように捕捉された。
しかもなぜかサラは最後に俺を見てから、セリナが使った詠唱文と強弱線を書き足した。
メッチャ刺々しい線だ。魔力を使う強弱なんてあんなに調整できるもんなのか?いや、実際セリナは出来てるんだから不可能ではないんだろう。そうとう努力したんだろうな。

「1つ注意しておくのですが、スキルでヒールを覚えている方は詠唱文を短くいっても発動しないのです。自力で魔力を込めないと使えないので、既に使える方がこれを覚えるかどうかは各自判断に任せるのです。それではまずは詠唱文を覚えてほしいのです。この強弱線を見ながら自分で出来る方は各自練習してほしいのです。強弱線の意味がわからない方は詠唱文を覚えてから、自分かアリアさんのところに来てほしいのです。直接魔力を流して、感覚を教えるのです。ヒールの原文を覚えるのは必須なのですが、短縮詠唱は覚えられなくても次の授業には進めるのです。それでは、始めてほしいのです。」

サラが話を終えた瞬間、半分以上の生徒が紙に何かを書き始めたのが見えた。たぶん詠唱文を書き写してるんだろう。

紙に書いてないやつもいるにはいるが、そいつらもブツブツと詠唱文を呟いているせいで、教室内が地味にうるさくなってきた。

こういう風に全員が真面目に勉強してるってのも凄えよな。

俺が高校に通っていたときは金払って通っているのにここまで本気で授業に取り組んでるやつなんて半分くらいしかいなかったからな。

さて、俺はどうするべきか。

ぶっちゃけスキルのおかげで『ヒール』というだけで使えちまうから、短縮詠唱を使う方がむしろ長くなる。

だからといって教えてない無詠唱を使うのはさすがにおかしいよな。

どうしようかとなんとなくクセでアリアに視線を送ると目が合った。そんで誘導するようにアリアがセリナを見たから、釣られてセリナに視線を移すとウインクされた。

やっぱバレてんじゃねぇか…。

いや、周りは今のやり取りに気づいてないみたいだからセーフか?
ただ、アリアの今の行動はどういう意味だ?………あぁ、もしかして、セリナが使った詠唱文を使えってことか?そのために授業でやる予定がないにもかかわらず、俺でも覚えられそうな短さの詠唱をしてくれたのか?

セリナにしては気がきくじゃねぇか。いや、セリナはもともと気の利くタイプだったな。

ん?もしかしてサラが黒板に書き足したのもそういうことか?そうだとしたらサラにもバレてんじゃねぇか。

まぁ今回は助かったし、もうバレててもいいや。気にせずテキーラとして楽しもう。

コメント

  • 葉月二三

    学校編は途中からお酒の名前でいこうかなって思ったのですが、2人目で気づかれたのは驚きですw
    なので、今後も出てきますw

    ちなみにアリアは他の名前をもじっただけなので、もしお酒に同名があるとしてもたまたまです_:(´ཀ`」 ∠):

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  • ユーノ

    テキーラにスミノフ・・・
    お酒の名前だ・・・(歓喜)

    今思ったけど、アリアも確かお酒の名前であったな・・・

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