裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
243話
ダンジョンから外に出ると太陽が真上より西側に少し傾き始めてるから、昼を少し過ぎちまったみたいだな。
まぁあとは町に行って飯食って神殿によって帰るだけだから急ぐ必要はねぇけど、予定よりはちょっと遅れたみたいだ。
それにしてもここのダンジョンは人気なだけあって、外にも人がいっぱいいるな。
「あれ?リキさん?」
ダンジョンの入り口近くで地図を売ってる男をなんとなく見ていたら急に名前を呼ばれ、声がした方に顔を向けると、木に寄りかかって座っている女がいた。
「げっ。」
「その反応は酷くないですか!?」
あんま会いたくないやつだったから、無意識に嫌そうな声が漏れちまった。
なぜかマリナがそこにいた。
マリナは固形タイプの携行食を座って食べていたみたいだが、俺の反応が気に食わなかったのか、立ち上がって抗議してきた。
というか、俺が会いたくない以上にマリナの方が俺に会いたくないと思うんだが、なんで声をかけてきた?
「そりゃ出来ればマリナに会いたくなかったからな。」
「ハッキリいいますね…リキさんらしいというか、変わっていないようでなによりです。私みたいな無能のことなんて思い出したくなかったですよね…すみません。」
なぜか物凄く落ち込んだマリナが苦笑いを浮かべて、また木に寄りかかるように座り込んだ。
「たしかにマリナは弱かったが、べつにそんなのは気にしてねぇよ。付与師の秘密を聞くために利用した相手と会うのはさすがに気まずいってだけだ。」
なんか話が噛み合ってない気がしたからハッキリといったら、なぜかマリナはキョトンとした顔をした。
「たしかに最初はリキさんの意図が読めなくて悲しかったですけど、わかった今では私も母も感謝してますよ。でも私が無能だから売られたのは確かなので、お礼に行く勇気はなかったですけど…。せっかくここで会えたので、ありがとうございました。」
マリナがまた立ち上がって頭を下げてきた。
売られて感謝するとか頭おかしいんじゃねぇか?いや、こいつはそもそも奴隷志願する頭のおかしいやつだったな。
「十分な対価はもらってるから礼はいらねぇよ。」
「リキさんらしいですね。えっと…その子たちは新しい奴隷の子ですか?カレンちゃんとアオイさんはもしかして…。」
マリナがアリアたちに小さく手を振ったあとにクレハとユリアを見て質問してきた。
そういやマリナが奴隷になったのはテンコと会う前だったな。
「カレンとアオイは村にいる。あと、こいつらは奴隷じゃねぇよ。預かってるだけだ。」
「え?…リキさんも奴隷以外とパーティーを組むようになったんですね。それならちょっとお願いしたいことがあるんですけど!」
…ん?
そういや、普通にクレハたちとパーティー組んでたな。しかも抵抗感は特になかった。なんでだ?
アリアに頼まれて、特に考えずに許可したのは覚えているが、今までなら間違いなく拒否して、チームにしてただろうな。むしろその方が経験値分配的にも良かったはずだ。
「そういやなんでパーティー組んでんだろうな。こいつら程度なら不意に攻撃されても殺されない確信があったからか?それともこいつらなら裏切られたときに躊躇せず殺せるからか?」
「リキ様怖いよ!」
俺がクレハとユリアを見ながらマリナに答えたら、セリナがチェインメイルを引っ張って俺の体をセリナの方に向けさせた。
俺が奴隷以外とパーティーを組まないようにしてることは全員が知ってたはずだ。なのにアリアは今回パーティーでレベル上げをすることを提案してきた。
どうしてなのか純粋に気になってアリアを見るとアリアと目があった。
「…ごめんなさい。ですが、リキ様は近いうちに知らない人とパーティーを組まなければいけなくなるときがきます。なので、リキ様が奴隷以外でパーティーを組んでも苦痛になりづらい相手としてクレハさんとユリアさんはちょうどいいと思い、提案しました。理由を知ったら間違いなく断られると思ったので、意図を伝えませんでした。ごめんなさい。」
アリアがいってることがイマイチわからなかったが、実際に許可したのは俺だ。
これでアリアに文句をいうのはダサすぎんだろ。
それに今回の探索中に不快感がなかったのは事実だ。
俺はこの世界に来たばかりのときほど他人とパーティーを組むことを忌避してないみたいだ。
もちろん今回は油断してても勝てるだろう2人だったからそこまで気にしなかっただけで、俺を殺せるやつに背中を任せるのは今でも嫌だけどな。
それにアリアたちを奴隷から解放するのはまだ無理だ。
数ヶ月の付き合いではあるが、俺はアリアたちを完全に仲間だと思ってる。だから、もし裏切られたらもう俺は立ち直れないだろうから、アリアたちがそんなことしないとわかっていても奴隷紋は外せない。
「いや、気づかなかった俺が悪い。それに気づかなかったってことはクレハやユリアと組むことはそこまで嫌なわけじゃなかったってことだろうしな。あと、奴隷以外とも人によっては組めるようになったし、気を使ってくれてありがとな。」
「…ごめんなさい。」
「リキ様、逆ににゃんか怖いよ?」
「なんでだよ!?…いや、まだ納得しきれてなかったからかもな。悪い、気にすんな。」
無理に拘る必要がないことは理解したが、やっぱり誰とでもパーティーを組むのはまだ無理だろうな。
そんな考えが表に出てたのか、無理に感謝したようになっちまったせいで変に怖くなっちまったのかもしれん。
これ以上話を続けても余計にこじれそうだから、この話はここまでにしとくか。
俺は何でもかんでもを急に変えられるほど大人じゃねぇからな。
「そういやなんかお願いがどうとかいってなかったか?」
話を変えようと思ったときにマリナが俺になにかをいっていたことを思い出し、マリナに問いかけた。
「えっと、出来ればなんですけど、私のレベル上げに付き合ってもらえないですか?もちろん依頼料は払います!」
もしかしてここにいるのはレベル上げするためか?でも1人だよな?
「依頼料払うつもりなら、1人でレベル上げしてないで最初からどっかの冒険者にでも頼んで混ぜてもらえば良かったんじゃねぇか?」
「ちゃんとギルドに依頼してましたよ!最初は銀貨50枚で依頼を出しても誰も受けてくれなくて、少しずつ金額上げてたら、気づけば金貨5枚ですよ!それでも誰も受けてくれないんですよ!どうしろっていうんですか!依頼受けてくれる人を待ってる間にここのダンジョンの1人で行けるところまででコツコツとレベル上げしてたら、付与師のレベルがもう30レベルになっちゃいましたよ!」
だいぶ鬱憤が溜まっていたのか、まくし立ててきた。
「レベル上げの依頼ってそんなに金かかんのか?」
「何レベルかとか日数とかで変わりますけど、私の依頼内容なら人によっては銀貨30枚で受けてくれますよ。でも私はこの辺りの冒険者の間で悪い意味で有名になってしまったので、念のため銀貨50枚から始めたのに、まさか金貨5枚でも誰も受けてくれないことに驚きですよ!そんなにパーティーで1人だけが生き残るのはおかしいことなんですか!?」
せっかく落ち着いたっぽいのにまた語気が強くなってきた。
「もしかしたらみんにゃがマリナちゃんを避けるのはリキ様の仲間だったせいもあるかもね〜。」
セリナが俺のせいのようないい方をしてきたが、そんなこと知ったこっちゃない。俺の奴隷になりたがったのはマリナの方だしな。
「生き残ったことで冒険者に邪険にされて大変だってのはわかったが、死ぬよりはいいだろ。」
「そうなんですけど…それで、金貨5枚でレベル上げを手伝ってもらえないですか?」
「明日もこいつらのレベル上げをする予定だからタイミング的にはちょうどいいんだが、こっちはちょうど6人だから空きがねぇんだよな。だから、金貨は惜しいが無理だ。」
「…わたしは今回魔物討伐に参加せずについていくだけなので、わたしを外してマリナさんを入れたらいいと思います。」
俺がマリナの依頼を断ったら、アリアが自分の代わりにマリナを入れろといってきた。
この際マリナがパーティーに入ることはかまわないんだが、アリアを外すのはどうなんだ?
いや、今回は俺らのレベル上げじゃなくてクレハとユリアのレベル上げなんだから、そのついでに金も入るなら受けるべきか。
「じゃあアリアには悪いが、それでいくか。マリナはそれでいいか?」
「はい!ありがとうございます!」
「そんじゃ、明日は日が出始めたくらいにここで待ち合わせでいいか?」
「え?今日はもう入らないんですか?」
「俺らはこれから町の神殿に行く予定だから、それが終わったら今日はもう帰るつもりだ。」
「それなら私も依頼取り消しに冒険者ギルドに行くので、町まで一緒していいですか?」
「好きにしろ。」
「ありがとうございます!」
マリナは俺に頭を下げたあと、視線をクレハとユリアに向けた。
「はじめまして、昔リキさんにお世話になった付与師のマリナです。」
「はじめまして、“乙女の集い”所属のクレハです。」
「はじめまして!同じく“乙女の集い”所属のユリアです!」
「え!?乙女の集い!?…え!?」
マリナが驚いた顔でクレハとユリアをあらためて見てから俺を見た。
「え!?リキさんと一番縁がなさそうなグループじゃないですか!なんで一緒にいるんですか!?」
なんか失礼なことをいわれてる気がするが、気のせいだよな?
「こいつらが俺の村に来て、たまたま面倒を見ることになっただけだ。前にこいつらのリーダーに絡まれたこともあるし、仲良いわけじゃねぇ。」
「『戦乙女』に絡まれるって何したんですか?」
なんで俺がなんかした前提になってんだよ。
「なんもしてねぇよ。勝手に勘違いして攻撃してきたから返り討ちにしただけだ。」
「SSランク冒険者を返り討ちって…まぁ『歩く災厄』なんて二つ名をもらうリキさんですもんね。」
「相手がこっちを舐めてたから出来ただけだし、やったのは俺じゃなくてセリナだ。」
「今にゃら最初から本気出されても死ぬ前に一発当てられる自信があるよ!」
ん?むしろ本気出されたらセリナでも一撃しか与えられないことに驚きなんだが。あいつってそこまで強いのか?
「リキさんたちは普通じゃないですもんね。そういえばクレハちゃ…さんってもしかして魔族に育てられたって話のクレハさんですか?」
「その話はあまりしないでもらえると助かります。」
今度はマリナがクレハに話しかけたみたいだが、クレハは話を断ち切った。
魔族に育てられたってそんなことあるんだな。まぁ魔族にだっていろんなやつがいるし、ありえない話ではねぇか。
「ごめんなさい…。」
「いえ、広まってしまった話なので仕方がないとは思うのですが、“乙女の集い”の一員としては相応しくない話だと思うので、すみません。」
なんか空気が悪くなったな。
ユリアもアワアワしてるし、ここはあれだな。
「さっさと町に行くぞ。」
俺は面倒ごとを避けるためにアリアたちの返事を聞く前に町に向かって歩き出した。
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