裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

234話



「国を建てて王になりたくはありませんか?」

「嫌だよ。」

ローウィンスからの第一声がこれだ。意味がわからん。

アリアとの話し合いのために夕食後、ユリアたちの訓練はイーラやセリナに任せ、アリアたちとなぜかローウィンスの家で話し合うことになった。

メンバーはアリア、ヒトミ、ニア、そしてローウィンスと護衛のエイシアだ。
ローウィンスが関わってるのは予想外だったが、わりと大事な話らしく、周りに聞かれないようにとローウィンスの家で話し合うことになった。

それで全員がテーブルについて、いざ話し合いとなったときのローウィンスの第一声が「王にならないか?」だ。意味がわからねぇし、嫌に決まってんだろ。

「興味がないではなく、嫌なのですね。断られるとは思いましたが、少し予想外でした。」

ローウィンスがなぜか嬉しそうに返してきた。
というかアラフミナの王はこいつの父親だろ?国を乗っ取る気か?たしかこいつに王位継承権はもうないようなことをいってた気がするし、つまりは自分の父親を殺す気ってことだよな?ローウィンスがそういうやつだとは思わなかったわ。

「お前こそ地位のために父親を殺そうとか考えるのは意外だったわ。」

俺が冷めた視線を送ると、ローウィンスは驚いたように慌てだした。

「言葉が足りず、申し訳ありません!私が提案したのはアラフミナの王ではなく、新たにリキ様の国を建てませんかという意味です!」

そういや国を建ててといってたな。勘違いしたわ。

「どちらにしても、王になんかなりたくねぇよ。ある程度決められたルールの中で自由に生きる方が楽だからな。王なんかになったらやりたくねぇ仕事も増えるだろうし、そもそも俺はそんな器じゃねぇよ。」

「リキ様は十分に王の器であるとは思いますが、無理強いするつもりはありません。戯言たわごととして聞き流していただければ幸いです。」

「そもそもなんでそんな話になってんだ?今アリアが何かやってるのはそれに関してなのか?」

今日はアリアが何かやってることについての話し合いだったはずだ。俺の知らないところでそんなことを進めてたのか?ふざけんなよ。

「いえ、アリアさんの話とは関係なく、今でしたら国を建てることが出来ると思い、話を持ちかけただけです。」

「ここにか?」

こんなアラフミナ王都の間近に国を建てるとか喧嘩売ってんだろ。

「いえ、悪魔が荒地にしてしまったクルムナの領地にです。今ならクルムナの兵は疲弊しているので、リキ様たちでしたらそこを手に入れるのも難しくないと思ったのです。」

「つまり、戦争をしかけろと?なおさら嫌だよ。」

「今でしたら戦争にすらならないと思いますよ。クルムナとケモーナの戦争が先日終わったばかりですので、わざわざ荒地を取り返そうとするほどの余裕はありませんから。それにクルムナは元ニクイヨツの領地もあるので、荒地を取り返すためにリキ様たちと戦うくらいでしたら、領地を譲り、友好国となる道を選ぶかと思います。」

「そこは国のプライドとかあるだろ。奪われてんのに何もしなかったら、周りの国からナメられるだろうし。」

「そこはクルムナの支援のもと建国したという形を取れば、問題ありません。」

「よくわかんねぇけど、俺は王になる気なんてねぇし、国を建てたいなら他のやつに声をかけてくれ。」

ローウィンスが考えてアリアが否定しないなら、実際に出来る可能性があることなのかもしれないが、わざわざ自分の国を作るメリットがわからん。べつに踏ん反り返って偉そうにしたいとは思わねぇから、王になっても仕事が増えるだけでいいことなさそうだし。そもそも他人のために身を削るとか俺には無理だ。

「リキ様の国でなければ意味がないので、この話は忘れてください。」

「…あぁ、わかった。それで、アリアの…ちょっと待て、今クルムナとケモーナの戦争が終わったとかいったか?」

「はい。」

戦争が始まってたことすら知らなかった。いや、そんな話をされてたか?関係ないから気にしてなかった可能性もあるが、たぶん聞いてないはずだ。

「じゃあ今度はアラフミナが狙われるんじゃねぇのか?」

「それについては大丈夫です。クルムナからの使者がきて、アラフミナと争うつもりはないという旨は伝えられていますから。どうやらクルムナが欲していたのは領地ではなく復興のための人材だったようなので、ケモーナの住民だけで足りるようです。そもそも国民ごと悪魔に大半を消滅させられたクルムナにこれ以上の余裕はありませんから。クルムナがケモーナに勝てたのもリキ様のおかげのようなものですからね。」

今回の悪魔の襲撃は国民ごとだったのか。悪魔の再来とかいわれていたから、てっきり、200年前と同じく土地だけ荒らされたのかと思ってた。
あの悪魔はやっぱりヤベェやつだったんだな。目をつけられなくてマジで良かった。

「というか、俺のおかげってなんだ?」

「リキ様がケモーナ王国騎士団の部隊を2つも全滅させたおかげで、他の騎士たちの戦意も落ち、同時期に城内で第一王女が殺されたため、ケモーナは混乱していて、まともな指揮も取れなかったようですよ。でも、そのおかげで死者もあまりでず、互いに利のある終わり方が出来たようです。ケモーナの愚かな王は処刑されましたが、ケモーナ王国自体は残され、第一王子が新たな王となったようです。これでケモーナがリキ様に迷惑をかけるようなことはもうないでしょう。」

それは俺のおかげっていうか、ケモーナが弱すぎただけだろ。まぁこんな大災害っていう人類の危機とかいわれてるときに私情で俺らに戦争を仕掛けるような馬鹿な王様は死んだみたいだし、めでたしでいいのかな?

「そういやこのことってセリナは知ってんのか?」

「…はい。」

俺がアリアに視線をずらして確認したら、頷かれた。
一応そんな愚王でもセリナの父親だからな。落ち込んでる様子は全くなかったが、さすがに思うところはあるだろう。いや、むしろ自分を陥れたやつが死んだんだから、スッキリしてる可能性もあるのか?俺じゃねぇんだからそれはねぇか。

予想外な話があったから、だいぶ本題とズレちまったな。というか俺はまだ本題が何かすらわかってねぇっていうね。

「まぁ他国のことは俺らに害がなさそうだからもういいだろ。それよりアリアが今やってることについて聞かせてくれ。」

「…はい。」

俺がローウィンスとの話を終わらせてアリアに話を振ると、若干空気が変わったような気がする。
わりと真面目な話になるのか?

「…現在、アラフミナのスラム街で“ハッピーシガー”というものが流行っています。それを流行らせている人間を調べているところなのですが、恥ずかしながら情報を持つ売り手すらまだ見つけられていません。」

ハッピーシガー?幸せの葉巻?
流行ってるのが良くないみたいないい方に聞こえるから、全くの別物か?

「ハッピーシガーってなんだ?」

「いつ頃かは定かではないのですが、昔の勇者が戦闘前に吸っていたものと伝えられています。乾燥させた薬草や香草などを紙で巻いたものの先端に火をつけ、反対側から煙を吸うことで、多幸感が得られるといわれています。」

アリアに確認したんだが、なぜかローウィンスが答えた。まぁ勇者関係ならアリアよりローウィンスの方が詳しいか。
聞いた感じだと紙タバコみたいだが、麻薬の一種か?そんなものを伝える勇者とか碌でもねえな。

「法律で禁止しているものを使ってるから取り締まりたいってことか?」

「いえ、もともと一部の貴族が嗜んでいるものなので、法律上の問題はありません。」

「は?…害があるとか中毒性が高いとかじゃないのか?」

「確かに中毒性が高く、吸い続ければ害はあります。ただ、魔法をかければ依存することも体を害することもありません。」

ん?

「じゃあなんで流行らせてる犯人なんてわざわざ探してるんだ?」

「流行らせている場所がスラム街なのが問題なのです。」

「悪いがよくわからねぇ。法律上問題なく、魔法で完治出来るのに何が問題なんだ?わかりやすく教えてくれ。」

「まず、ハッピーシガーは高価なものです。本来ならスラム街に住む方々が買えるようなものではありません。」

それをスラムで流行らす意味がわからねぇな。そもそも買えないやつらのところに持っていってもなんの儲けにもならないだろ。

「それに回復魔法は誰でも使えるわけではありません。教会や神殿で受けることも出来ますが、お金がかかります。」

ん?SPで誰でも手に入るんじゃねぇの?そもそも冒険者でもなければSPがないって意味か?いや、そういや前にセリナが『フレアバウンド』がSPで取得できるところにないっていってたな。相性とかがあるってことか?

「そして、なぜか高価なハッピーシガーを何者かが無料でスラム街の住人に配ったようなのです。」

「…意味がわからねぇな。」

「はい。何がしたいのでしょうね。」

「でもそれだけなら特に問題もねぇだろうし、放置しときゃいいんじゃねぇか?」

わざわざアリアたちが動く必要ないだろと思っていたら、ローウィンスが困った顔をした。

「それが、既に問題が出始めているのです。」

「何が問題なんだ?」

「アラフミナのスラム街に住む方々のほとんどはなるようにしてなっただけなのですが、それでも自分は不幸だと思っているようです。なので、多幸感を得られるハッピーシガーに簡単に手を出してしまったのでしょう。吸ったあとに治療するお金がないことも継続してハッピーシガーを買うお金がないこともわかりきっているのに。」

なかなかに辛辣だな。

「ハッピーシガーってそんなに有名なものなのか?知らずに吸っちまったやつもいるんじゃねぇの?」

「はい。本来一部の貴族以外は知らないものなので、スラム街の住人のほとんどが知らなかったでしょう。なので、最初に発覚したさいにスラム街を回り、一度全員を魔法で治療いたしました。そして、二度と手を出さないようにと忠告したのですが、無意味だったようです。」

「なら放っておけよ。」

「個人がただハッピーシガーに毒されるだけなら自業自得と切り捨てられるのですが、無料で配布されたのは最初の数回だけで、以後は有料となったようです。」

あぁ…。

「あとはリキ様でしたら容易に想像つくとは思いますが、ハッピーシガー欲しさにスラム街での奪い合いが始まり、今ではハッピーシガーを買うためのお金欲しさにアラフミナの国民や商人を襲う事件が増え始めています。」

「だが、それは国の問題だろ?なんでアリアが動いてんだ?」

アリアに目を向けると、スッとテーブルに何かを置いた。ぱっと見、普通のタバコだな。
これがハッピーシガーってやつか?というかなんで持ってる?

「…カンノ村の人がスラムの住人と思われる人間に襲わるということが何度かありました。もちろん全て返り討ちにしているので、1人も怪我人は出ていません。それと、これは村人が教会に行く途中で「吸うと幸せになれる」といわれて渡されたそうです。ローウィンス様に確認していただいたところ、ハッピーシガーで間違いないそうです。被害といえるほどではありませんが、カンノ村の住人も迷惑をかけられているので、ローウィンス様と協力して大元を見つけてやめさせようと思って動いていました。」

「なんですぐに俺にいわなかった?」

「…ごめんなさい。現在、アラフミナの王都で、愚かな方々が反対運動を起こしているため、リキ様に不快な思いをさせたくなかったからです。」

「反対運動?ハッピーシガー関係か?」

「…いえ、奴隷制度を撤廃させようとしている団体です。」

ちょっと待て、情報が多すぎてわからなくなる。
たまにはアリアの手伝いをしてやるかくらいの軽い感覚だったんだが、思いの外面倒なことに首を突っ込んでるっぽいな。というか俺はそういった報告を一切受けてねぇんだが、アリアに信用されてねぇのか?

「その反対運動とやらは何をやってんだ?」

「…城門前に居座って大声をあげ続けたり、奴隷を連れている人に奴隷を解放するようにいいながら、しつこくつきまとったりしているだけです。」

王族にたいして反対運動を起こすのはまぁわかるが、法律に従って買ったものを解放しろとかいいながらつきまとわれるのは想像しただけでウザいな。
というか、王国で王族にそんなんやったら不敬罪になったりしないのか?まぁ反対運動が続いてるってことは許容されてるってことか。

「人魔協定だったか?そもそもそれで決まったことなんだから、アラフミナの王族にだけ文句をいっても意味ねぇだろ。そんなに本気で撤廃したいなら、魔族領にいって人狼皇帝を殺してからにしろよな。そういやあいつは皇帝たちっていってたから、似たようなのが他にもいんのか。大変だな。」

「…反対運動を起こしている団体は楽して正義を語りたいだけなので、そういった行動どころか、奴隷制度がなくなった場合にどうなるかすら考えていないでしょう。それに人魔協定については知らないと思います。」

なんかアリアが少し怒っている気がする。
アリアは人にも自分にも厳しいやつだからな。思うところがあるのだろう。

「リキ様は人魔協定をご存知なのですか?」

ローウィンスが少し驚いた顔で確認してきた。
そういやローウィンスに人魔協定のことを確認しようと思って忘れてたな。

「詳しくは知らねぇよ。前に人狼皇帝にあったときに少し聞いただけだ。そんときに奴隷制度は人狼皇帝たちのためにできたって聞いたくらいだな。」

「人狼皇帝と話したのですか!?個人で人狼皇帝と仲良くなれるとはさすがはリキ様ですね。」

「あんないきなり殴りかかってくるようなやつと仲がいいわけねぇだろ。あいつは軽くやったつもりだろうが、こっちは死にかけたからな。成り行きで喋りはしたが、あいつは敵だ。今は勝てねぇから退いたが、再戦する予定だ。」

「私は人狼皇帝について詳しくは知りませんが、完全武装のエドワードさんと素手で同等の強さの魔族と聞いています。そんな相手に攻撃されて生きていられるとはさすがはリキ様です。」

そんなキラキラした目で見るな。
生きてたのはたまたまだし、全く何もできない完全な敗北だった。生き残っただけで凄いとか思われても嬉しくもなんともねぇよ。

「というか、エドワードって誰だ?」

「二つ名の方が有名なので、『人類最強』といえばわかりますか?」

「わからん。」

凄え二つ名だな。だが、人狼皇帝とやり合えるような化け物なら確かに最強を名乗ってもいいかもな。
人狼皇帝と比べたらケモーナ最強の戦士とかいわれてたあの獣人も霞むからな。

「…クランさんが前に所属していたグループのリーダーです。」

俺の返答にローウィンスが困っていたら、アリアがフォローしてきた。
クランがいたとこのリーダーってたしかSSランクの冒険者だったか?まぁその程度の知識しかないから、けっきょくなんもわかんねぇんだけどな。

「ありがとな。」

「…はい。」

「話が逸れちまったが、けっきょく俺は何をすればいい?」

反対運動をしてるやつを潰せばいいのか?それともスラムのやつらを一掃すればいいのか?いや、それは今のところ冗談だが、うちの村人にちょっかい出してるみたいだから、そのうち冗談ではなくなるかもな。

「…リキ様は今まで通り、しばらくは自由に過ごしてください。」

「は?」

「…リキ様は有名過ぎるので、探りを入れるような行動を取ると、相手に気づかれて隠れられてしまう可能性があります。裏で手を引いている人間がわかったときに手を貸してほしいです。」

俺は必要ないどころか邪魔みたいだな。
いや、もともとアリアが何をしてるか聞いただけだから、手伝うことがないならないでいいんだが、ここまで大きな話になってんのに必要ないっていわれんのもなんだかな…。

まぁいいか。
今はユリアたちの訓練があるし、それが終わったら俺は俺でやりたいことがあったし、ちょうどいい。

「俺が必要になったら、遠慮せずにいつでも声をかけてくれ。あと、無茶はするなよ。」

「…はい。この件はローウィンス様とリキ様の奴隷であるわたしたちだけで動いています。まだ相手が誰かは予想しか立てられていないうえに目的もわかっていないので、感づかれて隠れられたら困るため、少数で動いています。なので、村人たちを含め、誰にも伝えないようにお願いします。」

今ここにいる面子だけで動いてるってことか?アリアとヒトミとニアか。珍しい組み合わせだな。まぁこの3人ならそれなりに強いし頭も悪くはないだろうから、よっぽどのことがなければ大丈夫だろ。
ニアはこっちを手伝っていたから精霊樹の森にはこなかったわけね。

「わかった。無茶さえしなきゃ好きにしろ。ヒトミとニアはアリアが無理しないようにフォローしてやってくれな。」

「「はい!」」

「ローウィンスも俺の仲間に無理させんなよ。」

「もちろんです。」

「じゃあ、この件はひとまずよろしくな、アリア。」

「…はい。」

これで話し合いは終わり、解散となったんだが、俺が自分の部屋に帰って寝る準備をすませたときにふと思った。

スラムのやつらが一般人を襲っているなら衛兵を増やせばいいだろうし、あまりに酷いならそれこそスラムを一掃するのも手だろ。どっちにしろ間違いなく国の仕事だ。

村人が襲われたといっていたが、1人でスラムの方に近寄らないことを徹底させたり、ハッピーシガーには手を出さないように周知させるだけでいいはずだ。

わざわざ俺らがハッピーシガーを広めた犯人を探して潰す必要がないだろ。

話し合いのときはアリアに説明されて納得しちまったが、よくよく考えたらおかしくねぇか?

いや、もう好きにしろっていっちまったから止めるつもりはねぇんだが、なんでアリアは今回の件に首を突っ込んだのかとちょっと疑問に思った。俺にいわなかったのも止められたくなかったからなのか?

もしかしたら、アリアは何か別の目的があって動いてるのかもな。

俺はベッドに横になりながら、今回の件でアリアが考えそうな別の目的って何があるかなと想像しながら、眠りについた。

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