裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

233話



警戒しながら進むのも疲れるが、俺としては徒歩に変わってくれて助かった。正直、体力の限界を迎えそうだったからな。

軽量の加護と駿足の加護を持ってるのに最初にバテるという恥ずかしい思いをするとこだったが、疲れを顔に出さないように我慢したし、なんとか威厳は保てただろう。

それにしても、あの変な膜の中に入ってから一度も魔物にあっていない。べつにテンコの言葉を疑っていたわけではないが、あの膜は本当に結界のようなものだったのかもな。

しばらく歩いたところでセリナが木の陰に隠れるようにして止まったから、俺らも真似して隠れた。

そこより少し先には草原が広がる空間になっていて、真ん中あたりに一際目立つ巨大な木があり、その周りを白やピンクの花が飾り立てるように生えていた。

時間的にはそろそろ暗くなり始めているはずなのに、そのあけた空間はやけに明るかった。その不思議な光景をしばらく見ているうちに気づいたが、陽に照らされてキラキラと光って見えるのかと思ってたが、それらそのものが光っているから明るいみたいだ。
あれは前にゴブキン山で大精霊とかいわれていた光に似てるな。
目を凝らさなくてもしっかりと光っていて、それらがかなりの密度で漂っているからか、十分に明るい。

「なんで隠れた?」

俺の感覚では周りに危ない気配はないと思うんだが、俺よりも感知に長けたセリナには何か感じるものがあるのか?

「あれが精霊樹だと思うんだけど、気配が強すぎるから様子を見ようと思って。」

小声で答えたセリナの言葉を聞いて、改めて精霊樹に目を向けた。

たしかに多少のプレッシャーを感じる気はするが、木に意思なんてあるのか?もしかして精霊樹ってのはトレントのような魔物なのか?

「テンコはなんかわかるか?」

「あの木、精霊いる。周りより、強い。テンコより、強い。」

周りってのはうようよと飛びながら光ってる大精霊たちよりってことだよな。まぁあいつらが本当に強いのかはわからんからなんともいえないが、テンコより強いってのはちょっと気をつけた方がいいかもな。
だが、ここで時間を潰したところで何にもならねぇんだよな。

そろそろ夜になっちまうし、行くなら早く行くべきだし、迷うくらいなら一度帰るべきか。

ここはもともとテンコのために来た場所だし、精霊関係ならテンコに選ばせた方がいいか。

「テンコはどうしたい?このまま進むか、一度帰って明日出直すか。」

「このまま、問題ない。」

そういって、テンコはフヨフヨと飛びながら進んでいった。
同じ精霊であるテンコが問題ないっていうなら大丈夫ってことだろ。

この辺りは魔物はいないみたいだし、多少夜になっちまっても問題はないか。帰りはここから直接村まで帰れるから、テンコの感覚に任せることにして、俺らも精霊樹に近づいていった。

近づくにつれて精霊樹の存在感が増していく。
木ってこんなに大きくなるんだなという感想しか俺には抱けなかったが、信心深いやつらだったら跪いてそうだな。
それくらいに精霊樹とやらのプレッシャーが強い。大きいから威圧的に感じるってだけではなく、確かに生きていると感じれるほどの生気に満ちているって感じだな。しかもこの空間自体が神秘的といえる雰囲気だし。

精霊樹の周りに咲く花々はなぜか俺らが来た側だけ咲いていない場所があり、まるでここを通って近づいてこいといわんばかりの道となっていた。

まぁべつに花を踏み潰すことに抵抗はないが、通れる場所があるのにわざわざ踏み潰すように進みたいとは思わないから、そのまままっすぐ進んで精霊樹に近づいた。

近づくにつれてハッキリと見え始めた根もとの歪な形。いや、繊巧な形というべきか。

精霊樹の根もとがなぜか人間のような形となっていた。まるで木に埋め込まれているような、もしくは人間から木が生えているかのような。

ただ、人間の形をしてる部分も見た目は木だ。木の根がたまたま人のような凹凸となっているだけかもしれない。

なんとなくその人型の根に手を伸ばそうとしたところで、視線を感じた気がして上を向いたら、目があった。

さっきまで普通の幹だった部分に人の顔が浮き出ていた。

急なことに驚いたというのもあったが、気持ち悪いという思いが強く出て、俺は咄嗟に後ろに下がって構えた。

アリアたちも俺の行動で異変に気づいたのか、アリアたちが戦闘の構えをとった空気を感じたが、俺の横に着地したテンコはよくわかってなさそうだ。
同じ精霊には危険と思えるようなことではないってことか?

「人間の子どもがここまでくるなんて珍しい!いや、初めてなんじゃないかな?」

幹の表面に浮き出ていた顔が俺の後ろを見ながらそんなことをいったと思ったら、ニュルッという感じで木から出てきた。

現れたのはゴブキン山にいたドライアドを子どもにしたような姿のなにかだった。
魔族とも木の精霊ともとれる雰囲気だ。

ただ、確かにテンコよりも強いだろうな。敵意はなさそうだが、今の状態で戦闘時のニアよりも強そうな気配が漂ってやがる。
なんの警戒もしてなさそうな状態でこのプレッシャーだと、敵対したらめんどくさそうな相手だな。

「ちょっと邪魔してるけど、いいか?」

なんて声をかければいいかわからないから、とりあえず普通に話しかけてみた。

「べつにいいよー。でもタケルに触るのはダメ!タケルは僕のだから!」

「タケル?」

「そう、タケル!僕のパートナーだよ!カッコイイでしょ!」

いや、タケルがなんなのかを聞きたかったんだがと思ったら、こいつが人型の木の根を見た。もしかしてそれのことか?
だとしたら、さっき触ってたら敵対することになってたわけか。危ねぇ危ねぇ。

それにしてもあれがパートナーねぇ…ちょっと嫌な予感がするな。

「お前はなんなんだ?」

「僕?僕はドラコ!大精霊だよ!もしかして人間だと思った?この姿はね、タケルが好きな姿なんだ♪この姿でいると可愛いっていってくれるんだよ♪」

木から出てきた時点で人間だとは思ってねぇわ。

12歳程度の見た目の女の子に木の根や蔓だけを体に巻きつけさせた姿が好きとかいっちゃってるタケルは間違いなく危ないやつだ。
アリアたちは精霊樹に近づけたくねぇな。

「そういえば、君はなんでパートナーに入ってないの?それともこの人はパートナーじゃないの?」

俺がタケルについて確認したいことを聞く前にドラコがテンコに話しかけた。
だが、テンコは意味がわからないようで、首を傾げるだけだった。

「あれ?もしかしてまだ喋れないの?僕と同じくらいの大精霊かと思ったけど、違った?」

どうやらテンコを精霊とわかったうえで質問していたみたいだが、それにしても俺に入るってどういう意味だ?パートナーになるって意味なら、精霊紋をしてるし、既にパートナーなはずなんだが。

「テンコ、喋れる。でも、入る、わからない。」

「テンコっていうんだね♪ずいぶんカタコトだけど、まだ生まれたてなのかな?それなら入れることを知らなくても仕方ないね。でもそういうときはパートナーの人が教えてくれるはずなんだけど…もしかしてお兄さんは精霊使いじゃないの?」

ドラコは今度は俺に質問してきたが、俺もこいつが何をいってんのかわからねぇんだが。

「ジョブという意味では精霊使いでもあるが、お前がいってることはよくわかんねぇ。俺に入るってどういう意味だ?」

「もしかしてお兄さんも勇者?」

こっちが質問してんのに質問で返してきやがった。

「いや、違うが、なぜだ?」

「さっきのお兄さんのいい方だと複数のジョブを持ってるようだったから勇者なのかなって思ってさ。もしかして今の人ってみんな複数のジョブを持ってるの?それともお兄さんは勇者のパーティーメンバーだったり?」

マジか…自分で気づかないうちに失言してたか。
今さら誤魔化しても意味はないよな。まぁこいつは複数ジョブを持てることを知ってるみたいだし、そもそも隠す必要がないのか。こいつのいい方的にしばらく森の外に出てなさそうだし、俺らが複数のジョブを持ってることを知られても困らなそうだしな。

「確かに俺らは複数のジョブを持ってはいるが、たまたま気づいただけで、勇者でも勇者のパーティーメンバーでもない。それにほとんどのやつらはいまだにジョブは1つだけだと思うぞ。」

「へぇー勇者以外で気づく人がいるなんて珍しいね!この世界だとジョブが1つなのが当たり前だから、異世界からくる勇者でもないとそんな発想すら出てこないと思ってたよ!って話が逸れちゃったね!お兄さんは師匠とかに教わって精霊使いになったんじゃなくて、たまたま精霊使いになった感じなのかな?」

「テンコと契約したから精霊使いになっただけで、精霊のことはほとんど知らん。」

「精霊使いでもないのに顕現できる大精霊と契約したんだ。」

ドラコが目を細めて、探るように見てきたかと思ったら、また笑顔に戻った。

「お兄さんは精霊に好かれやすい体質なのかもね!僕は何も感じないけど!」

「それで、最近知り合った精霊使いも精霊が入るだのって話はしてなかったんだが、どういう意味なんだ?」

「そのままの意味だよ?テンコがお兄さんの中に入るってこと!タケル風にいうならフュージョンだね!」

「溶け合って1つになるってことか?」

「フュージョンがわかるの?やっぱり勇者だよね?なんで嘘つくの?」

ドラコが笑顔を消してゆっくり近づいてきた。やべぇミスったわ。

「いや、テンコが俺の中に入るっていったからそう思っただけで、フュージョンは意味わかんねぇから無視しただけだ。」

「そうなの?」

「普通に考えて、勇者が奴隷だけとパーティーを組むわけがないだろ。そんなこと国が許さねぇだろうし。」

「んー。確かにそうだね。ごめんね。」

俺がアリアたちを顎で指すとドラコが目を細めて確認し、奴隷紋を見て納得したのか笑顔に戻った。

「初対面だから、疑うのは仕方ねぇよ。それで、溶け合って1つになるってことなのか?」

「んー…間違ってないけど、ちょっと違うかな?完全に1つになったら僕ら精霊は消滅しちゃうからね。僕がタケルとしてるのは一時的な合体だよ!」

フュージョンっていうから融合して1つの生命になるのかと思ったが、タケルってやつが某アニメに影響されてただけみたいだな。

「フュージョン、どうやる?」

俺が某アニメの再放送をよく見たなと懐かしみながら、タケルとドラコがフュージョンしたらタラコになるのかと思っていたら、テンコがドラコに確認をとっていた。

「どうって、ただ入るだけだよ?見本見せようか?」

そういってドラコが俺に手を近づけたところをテンコが邪魔した。

「ダメ!」

「へぇー。お兄さんも精霊は一体だけしか持たないタイプなんだね。テンコも落ち着いて、冗談だよ♪僕はタケル以外に入るつもりなんてないから!」

ドラコはクスクスと笑いながら俺から少し距離を取った。

べつに一体だけしか仲間にしないと決めてるわけではないが、テンコ以外に見た精霊は光ってるだけだし、仲間にしたいと思うやつに会ったことねぇんだよな。

「そしたらテンコはお兄さんに触って、中に入るように意識してみて。お兄さんが拒まなければそれで入れるはずだから!でも、一緒になろうとしちゃダメだよ!あくまで中に入って力を貸すだけだからね!」

ドラコのことがイマイチわからないが、少なくとも敵対する気はなさそうだ。むしろ積極的に協力してくれてるというべきか?

テンコはドラコにいわれたとおりに俺の手を握って入ろうとしてきた。
そう、入ろうとだ。テンコが触れてる部分から何かが体に入ってくる不思議な感覚があるんだが、これがテンコ自身なのだろう。
俺はそれを無意識に拒んだみたいで、テンコがさらに力を込めて入ろうとしてきてる。

これって受け入れていいんだよな?

有り体にいうとちょっと気持ち悪い感覚だから、受け入れていいのか迷う。
迷いながらテンコを見たら、なんか凄く落ち込んでいた。

「入れない…。」

いや、あからさまに異物が自分の中に入ってくるのがわかったら、反射的に止めちまうだろ。それがたとえ仲間だとしても。

「すまん、テンコ。ちょっと待ってくれ。」

俺がテンコに声をかけるとテンコは一度首を傾げたが、しばらく目を合わせていたら頷いた。

テンコが頷いたことを確認してからドラコに視線を向けた。

「精霊が入ってきた場合、人間はどうなるんだ?」

「どうなるって、ステータスが上がるだけじゃない?僕は人間じゃないから知らないよ。でもタケルは僕が入ると最高に元気が出るっていってたよ!でも、僕が入るのもいいけど、いつかは僕に入れたいとかいってたなー。人間が精霊に入るなんて無理なのにね!」

タケルは間違いなく変態だな。まぁ言葉の意味をちゃんと説明してないうえに実行しなかったところをみるに変態だけどヘタレだったのかもな。もしくは冗談でいっただけか。できれば冗談でいっただけであってほしいが。

「精霊を受け入れた後に俺の意思で出すことは出来るのか?」

「だからわからないよー。タケルは無理やり出そうとしなかったし!でも一緒になりすぎると僕が曖昧になってきちゃうから、戦闘のとき以外はフュージョンしなかったし、戦闘終わったら僕から外に出てたしね。でも今は僕も強くなったし、タケルが力をそこまで必要としなくなったから、ずっと一緒にいれるけどね!」

「…そのタケルさんは……。」

アリアが俺の隣まで歩いてきて、ドラコに喋ろうとしたのを咄嗟に手で口を塞いで止めた。
ガントレットをつけた状態で咄嗟に口を塞いだから痛かったかもしれないが、アリアが質問しようとした内容に嫌な予感がしたから、許せ。
せっかくいろいろ教えてくれてるから、全部聞き終わるまで余計なことを聞くべきではないだろう。

アリアは驚いた顔で俺を見ていた。

「痛かったよな、すまん。だが、もう少しだけ待ってくれ。」

「…はい。」

アリアの口を塞いでた手をどけて、そのままアリアの頭へとずらして撫でながら謝ったら、納得してるかはわからないがとりあえず質問はやめてくれたみたいだ。

「タケルが何?」

ドラコが俺たちのやり取りを不思議そうに見ていたが、アリアがいいかけたことが気になったのか、確認してきた。

「いや、そこまでお前に好かれるタケルは果報者だなってな。」

「んふふ。だよね、だよねー♪でもお兄さんもテンコに好かれてるんだから、タケルを羨んだらテンコが嫉妬しちゃうよ!気持ちはわかるけどさ!」

ドラコが凄く幸せそうにクネクネしてやがる。こいつは本当にテンコと同じ精霊なのか?普通の人間にしか見えなくなってきた。

「そうだな。すまんな、テンコ。そしたらもう一度さっきの試してみてくれるか?」

「わかった。」

テンコはさっきから繋ぎっぱなしだった手からまた入ってこようとしてきた。

俺は今度はそれを受け入れてみると、テンコの体が光だし、形を失って徐々に消えていく。いや、俺の中へと入ってくる。
しばらくするとテンコは完全にいなくなり、俺の手首にガントレットの上からリボンが巻かれていた。

マジで中に入ってきやがった。

若干の異物感はあるが、それ以上に力が漲る感覚がある。

なるほど。俺はべつに変態ではないが、タケルがいう気持ちいいって感覚もわからなくはない。

俺は右手を握ったり開いたりと確かめてから拳を握り、軽く素振りをしてみた。
うん、動きに支障がないどころか、確実に動きやすく強くなってるな。

「フュージョン、凄くいい。落ち着く。気持ちいい。」

俺の中にいるからか、テンコの言葉が直接頭に響いた。念話や以心伝心の加護と近いが、少し違う感覚だ。

「あんまりいると自分が曖昧になるらしいから気をつけろよ。」

俺は口に出さずに話しかけられた時の感覚を真似て話しかけてみた。

「大丈夫。感覚、わかる。危なくなる前に、出る。」

どうやら今ので会話が出来るみたいだな。それに感覚でわかるなら問題ないか。

「成功したね!おめでとう!そしたらお兄さんはテンコの力を借りて、なんかの力を使ってみて!」

なんかって…とりあえず身体強化でもしてみるか。

「テンコ、身体強化を頼む。」

「はい。」

頼んだらすぐに俺の体が薄い光の膜に包まれた。
そうか。テンコは俺の中にいるんだから、ずっとかけ続けられるし、前みたいに多めにかける必要がないわけか。必要最低限をかけ続ければ結果的に長くもつだろうしな。

「これであとは精霊使いのレベルを上限まで上げれば、お兄さんも『精霊術師』だね!」

「は?」

「やっぱりお兄さんは知らないか。今まで来た精霊使いの人たちも正しい取得条件は知らなかったくらいだし、師匠を持たないお兄さんが知るわけないよね!」

ドラコがしているのがジョブの話だと気づいて、ジョブ取得で確認してみると、確かに『精霊術師』が取得可能になっていた。もちろん取得だ。

『精霊術師』の上限は200レベルか。
精霊使いの上位互換だろうからジョブを入れ替えておいた。

「精霊使いのレベルを上限まで上げるのと精霊とのフュージョン。この2つを満たすと『精霊術師』のジョブを取得出来るようになるんだよ!嘘だと思うなら精霊使いのレベルが上限まで上がったら神殿に行ってみなよ!」

「いや、べつに疑ってねぇよ。ただ、なんでそんな親切にしてくれるんだ?」

「暇だからだよー。それにこの森の精霊たちがお兄さんを受け入れてるみたいだし、テンコにも好かれてるみたいだから教えてもいいかなーって!タケルもこれらは教えてもいいって前にいってたしね!もちろん僕やタケルに害をなすようなやつには教えたりしないけどね!」

最初にあの木の根に触らなくてよかったな。帰ったらユリアに知ってたか確認してみるか。

とりあえずもういいだろうと、テンコを体外に出した。
どうやら俺の意思で外に出せるみたいだな。

テンコは俺の意思で出されても慌てることなく、俺の手首にあったリボンを回収して、人型になると同時に服を着ていた。

これなら問題なさそうだな。

「もしかして他にも精霊について教えてもらえたりするのか?」

「お兄さんに教えられることはもうないかなー。でもテンコには1つ教えておいてあげる!僕は今でも幸せだけど、ほんのちょっとだけ後悔してるからさ。」

「なに?」

テンコが首を傾げながら確認を取った。

「もしそのお兄さんとずっと一緒にいたかったら、悪魔に墜とした方がいいかも!植物だと喋れなくなっちゃうみたいだからさー。タケルを木にする前に悪魔のことを知ってたら、タケルを悪魔に堕としてたかもしれないけど、人間を悪魔に堕とせるって知ったのは木にしちゃったあとだったんだよねー。でも悪魔だと魔族だし、フュージョンできないかもしれないから、木にして正解だったかな?ハハッ、教えてあげるとかいっといて本当に悪魔に墜とした方がいいのかは僕にもわからないんだよね。僕と同じくらいに強い大精霊に会ったのはテンコが初めてだったからさ!だからテンコは後悔しないように決めてね!もしかしたら他にも選択肢があるのかもしれないけど、僕からは少なくともその2つの選択肢があることを教えてあげようと思ってね♪」

もしかしてとは思っていたが、思った通りだったとはな。ただ、てっきり死んでから木になったのかと思ったが、今のいい方だと生きたまま木にされたのか?

「テンコ、リキ様のまま、いい。」

「本当にいいの?それだと100年も一緒にいられないんだよ?」

「一緒、いたい。でも、迷惑、かけたくない。」

「なんで迷惑なのさ!僕らと一緒にいられれば人間だって嬉しいでしょ!?タケルは僕を好きっていってくれてたもん!」

視線を感じて横を見たら、テンコが俺を見ていた。
これはそこまでして一緒にいてくれるかっていう確認の視線か?だとしたら答えはノーだ。
一度死んでる俺がいえたことじゃねぇが、俺は俺のまま死にてぇからな。もし生まれ変わったのが寿命のない生物だったなら、そのまま生活しただろうが、わざわざ不老不死になりたいなんて思わねぇよ。だって、いつか俺に子どもが出来たとして、その子どもより長生きなんかしたくねぇからな。

「悪いな。」

俺はテンコの頭を撫でながら、ドラコに視線を戻した。

「タケルのことはわからねぇが、少なくとも俺はそこまでして一緒にいてやる優しさはねぇよ。」

「なんで?じゃあ、先に死んでテンコを見捨てるの?」

ドラコは笑顔を消して、首を傾げながら、見開いた目を俺に向けてきた。

さっきより威圧感が増したな。
こうなるかもと思ったから、タケルとやらの話には極力触れたくはなかったんだよ。

「俺が死んだあとでも楽しく生きられる環境を作ってやるつもりだ。それに俺の仲間には他にも寿命がないらしいやつらもいるからな。俺がいなくなっても寂しくなることなんてないだろ。」

「お前は何もわかってない!そんなんで精霊使いになぜなった!僕らにはパートナーしかいないんだ!」

「そんなことねぇだろ。」

「お前もか!お前もタケルのようなことをいうのか!タケルはずっと一緒にいてくれるっていった!僕を見捨てたりしないっていった!ずっと好きだっていった!なのに先に死ぬことを受け入れてた!おかしいじゃないか!ずっと一緒にいるっていったのに先にいなくなるなんて!だから僕はタケルがずっと生きられる方法を探したんだよ!それで他の精霊から人間が木になれることをきいた。木なら僕が力を貸せば人間の何百倍も何千倍も生きられるから、タケルをここに連れてきて、その話をしたんだ!きっと喜んで受け入れるてくれると思って!そしたらなんていったと思う?そんなの嫌だっていいだしたんだよ?おかしいよね?おかしいよね??ずっと一緒にいるっていったから、ずっと一緒にいられる方法を見つけたのに断るなんておかしいよね?そのときの僕はきっとタケルは照れてるんだと思ったんだ♪タケルは本当は嬉しいのに照れて恥ずかしがってるんだって♪だって、そのとき僕がタケルの中に入ることを拒まなかったもん!いつもより入りづらかったけど、本当に拒んでいたら入れないはずだし!だから受け入れてくれたと思って、徐々にタケルの体を植物に変えていったんだ♪僕は土属性の大精霊だから、木を育てるのは得意だからさ♪そしたらタケルはなぜか泣き出してさ、止めろって叫ぶんだよ。僕が狂ってるとかいいだすんだよ。酷いよねー。でもそんなふうに少し僕を罵ったくらいで僕はタケルを嫌いになったりなんてしないからね!僕はそのくらいタケルが好きだから!今ではタケルは僕を受け入れてくれてるし、一時の気の迷いだったんだろうから、あの暴言は聞かなかったことにしてあげたんだ!ただ、もうタケルは喋れなくなっちゃったし、最後の言葉が暴言だったのは悲しいけどね。でも、それまでの楽しかった冒険の思い出があるから大丈夫だったんだよ?幸せだったんだよ?……なのにお前が余計なことをいうから!思い出しちゃったじゃないか!!!」

怒ったり笑ったり悲しんだりとコロコロ表情が変わる危ないやつだなと思っていたら、急に掴みかかろうとしてきやがった。

咄嗟に半身を引いてドラコの手を避け、すれ違いざまに殴ったんだが、重たい。
吹っ飛ばすつもりだったのに中途半端にドラコの腹に俺の拳がめり込んで止まりやがった。

一瞬嫌な予感がしたから咄嗟に飛び下がると、俺の拳がめり込んでいたドラコの腹付近から、触手のような木の枝のようなものが蠢いていた。
判断が遅れたら掴まれていたかもしれねぇ。

俺がドラコから距離を取れたことに安堵した一瞬の隙をつくように、俺の足もとの地面から木の根が出てきて俺の足に絡みつき、周りの地面が尖って伸びてきた。

ヤベェ…。

『上級魔法:土』

とりあえず土壁を作りつつ足もとの木の根を掴んで引きちぎろうと思ったが、魔法が弾かれた。
まさかここの土の主導権を握られてるっていうのかよ。土の大精霊を相手に地面の土を使おうとしたのが失敗だったわ。

急いで木の根を引き千切ったが、終わった。

いや、イーラが飛び込んできて俺に絡まり、そのまま包んだ。さらに俺の足もとの棘が俺に当たらず、なぜかそのまま上まで伸び、平べったくなっていくと思ったら、俺を包む壁となった。

ゴッと硬いもの同士がぶつかる音がしたが、俺が穴だらけになることはなかった。たぶんイーラにすら棘は触れてねぇな。

「イーラ、ありがとな。」

「うん!」

しばらくして、俺を包んでいた壁が地面へと戻っていき、視界があけるとアリアたちが殺気立っているのが見えた。

「なんで邪魔するの?」

「リキ様、大事、当たり前。ドラコ、タケル、護るでしょ?」

「当たり前じゃん!」

ドラコはまだ怒っているように見えはするが、なぜか攻撃はしてこないみたいだ。

「今の攻撃は精霊について教えてくれたからなかったことにしてやるが、次攻撃する気なら良く考えろよ。」

「何を考えろっていうの?僕は君たち程度に負けたりなんてしないよ?」

自信があるのはいいことだが、たぶんお前じゃ俺たちには勝てねぇよ。
油断してやられた俺がいったところで説得力はないだろうけどな。

だが、俺がいってんのはお前の実力どうこうじゃねぇよ。いや、一瞬で俺らを殺せるほどの実力差があればまたべつか。

「俺の魔法は範囲攻撃が多いからな。お前の大事なタケルが巻き込まれるぞ。」

「なっ!?」

ドラコから発せられる威圧感が爆発的に増した。
なるほど。たしかにこいつが本気を出したら俺らが負ける可能性もなくもないかもしれねぇ。予想以上に力を持ってそうだ。
やっぱり戦わずにすませた方が楽そうだ。

ただ、話し合いが上手くいくとは限らねぇから、今度は一切油断をしないように構えたまま、話を続けた。

「べつにタケルを狙う気はねぇし、お前が攻撃してこなければ戦う気もねぇよ。」

「お前が嘘をつくかもしれないだろ!」

「なら攻撃してこいよ。そしたらタケルごとお前を殺してやるから。」

顎を上げて挑発したが、ドラコは俺を睨むだけで攻撃はしてこなかった。

しばらく睨み合いをしていたが、ドラコは体から力を抜いた。

「前に来た人間たちのパートナーの精霊に何度かこのことを教えてあげたことがあったんだけど、そのときの人間たちはなぜかタケルを助けるとか意味がわからないことをいって僕を殺そうとしたのに、お兄さんは違うんだね。」

「俺はタケルがどうなろうと知ったことじゃねぇからな。お前がタケルをどう思ってタケルに何をしたとしても興味もねぇ。勝手に幸せになってくれって感じだ。精霊について教えてくれたことに感謝こそすれ、余計な口出しをする気はねぇよ。ただ、俺や俺の仲間に敵意を向けるなら、殺さざるをえないがな。」

タケルが俺の前世の知り合いとかだったら、話が違ってきたかもしれないが、俺の知り合いにタケルなんていなかったから、関係ない。
タケルの心配より、仲間が怪我せずに済ませる方が大事だ。

ここはドラコのテリトリーだから、出来れば戦闘は避けたい。あくまで出来ればだから、攻撃してくるなら、先にタケルを狙って攻撃してでもドラコの隙を作って殺すがな。
卑怯とか知らん。

「そう。じゃあ帰って。お兄さんのせいで嫌なこと思い出しちゃったから、しばらくタケルと2人になりたい。」

「悪かったな。いろいろ教えてくれてありがとう。」

「うん。10年くらいしたらまた来てもいいから。じゃあね。」

これは10年後にまた来いってことか?
まぁこんなところで1人じゃ話し相手がいなくて寂しいのかもな。

まぁ俺はもう二度と来ないと思うが。

「あぁ、じゃあな。」

わざわざ二度と来ねぇよという必要もないから、てきとうに返事をして帰ることにした。

しばらく警戒していたが、けっきょくドラコが攻撃してくることはなく、少し離れたところで『超級魔法:扉』を使って村に帰った。



価値観が違うのは仕方がねぇことなんだが、なんだかモヤモヤした終わりかたになっちまったな。

いっそ出会い頭に攻撃されてれば精霊樹ごと消滅させて、ある意味スッキリしてたのかもしれない。その場合俺らが怪我とかしたかもしれないが、仕方がないと思えただろうし。

中途半端に良くされるのが1番困る。
まぁ終わったことだから、考えるだけ無駄か。

実際テンコがドラコの話を聞いて、どう思っているのかはわからねぇが、もしドラコと同じ考えだったとしても応えてやることはできない。だから、確認するつもりはない。
ただ、テンコを疑うわけではないが、俺はタケルと同じ運命を辿らずに済むように気をつけないとな。

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