裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

218話



後悔先に立たず、か…。

こんな結果になるとは思わなかった。知らなかったのだからこの結果になるのは必然だったのだろうが、受け入れがたい不快感が俺の精神を蝕んでくる。

まさか…まさか刺身がこんなに重たい食べ物だったとはな……。

最初はサッパリとした味だと思って勢いよく食っていたんだが、途中で違和感があった。でも刺身だけでこんなすぐに腹いっぱいになるわけないし、まだまだ大量に残ってるからと食い続けたら、取り返しがつかないほどのダメージを胃に受けた。
気持ち悪っ…。

吐きそうだが、せっかく久しぶりに食った刺身を吐くのはなんか嫌だからと我慢した。

帰ったら寿司も作ってみるかと思っていたが、刺身はしばらく見たくもねぇからナシだな。

「魔物を生で食べるにゃんてと最初は思ったけど。美味しかったね〜。」

隣を歩くセリナが声をかけてきた。

「あぁ、そうだな…。」

セリナも俺と同じくらいの量は食ったと思うんだが、ケロっとしてやがる。イーラはなんでも食うからこんぐらいはなんでもないのはわかるが、セリナもなんでもないみたいだ。さすがは猫型の獣人ってところか?

テンコもいつも通りみたいだし、俺だけこの程度でダウンしてると思われるのはなんかなと思い、平常を装うことにした。

イーラに乗ったら揺れに我慢出来なくなりそうだったから、時間もあるし散歩しながら帰ろうかと提案し、今は歩いて村に向かっている。

気持ち悪いからというのもあるが、もうすぐ夕飯だから少しでも腹を空かせようという悪足掻きでもある。

今はちょうど半分くらいを進んだところ。つまりはゴブキン山の頂上だ。

普通に考えたら散歩というより登山なんだが、レベルを上げてステータスがかなり上がっているためか、この程度の登山はとくに疲れもせずに散歩感覚で登れるから、日本人経験のある俺からすると不思議でならない。

といってもだいぶこっちの世界に慣れちまったから、あらためて考えなきゃそこまで気にならなくなっちまってるんだがな。

…あれ?

「なぁセリナ。この辺はけっこうな範囲で黒焦げになってたと思うんだが、わざわざ綺麗にしたのか?」

ここは前に邪龍のブレスや魔術組合のやつらの魔法のせいで、木々は倒れるは焼け焦げるわと悲惨な光景になっていたはずだ。なのに今見たら焦げた部分はなくなり、倒れた木々は回収されたみたいで綺麗になっていた。
さすがにこんな短期間で自然に綺麗になるってことはないだろう。

「倒れた木々は紙づくりに使うってアリアがいってたからみんにゃで回収したけど、焦げ跡はわからにゃい。トレントやドライアドが綺麗にしたんじゃにゃいかにゃ。」

あいつらって木の妖精みたいな見た目や名前だけど、この世界では魔物だろ?そいつらがわざわざ綺麗にするのか?

「精霊、戻ってる。だから綺麗。」

セリナの返答に疑問を感じていたら、テンコが話に入ってきた。

「どういうことだ?」

「ここにいた邪龍、瘴気出してた。弱い精霊、生きられない。でもこの山じゃないとこ住む、思いつかなかった。だから川までみんな逃げて、集まって、まとまった。まとまる時間長い、離れられなくなる。まとまる時間短い精霊、またわかれてここに戻った。だから綺麗になってる。」

テンコが頑張って説明してくれてるんだが、何がいいたいのか全然わからん。精霊の力で綺麗になってるって意味なんだろうが、それ以外の説明部分がわけわからん。

いつもならアリアに確認するんだが、今日はアリアがいないからダメ元でセリナを見てみた。

「えっと…邪龍の瘴気から避難してた精霊が戻ったから山が綺麗ににゃってるってことだと思うよ。」

「それはなんとなくわかってる。それ以外の説明部分のことを聞きたかったんだ。」

「たぶんだけど、前に川のところに大精霊たちがいっぱいいた理由じゃにゃいかにゃ?避難した精霊が瘴気に負けにゃいためにまとまって力をつけたとか?ずっとまとまってると大精霊っていう1つの存在ににゃっちゃうからもとに戻れないけど、大精霊ににゃる前の精霊の集合体がまたもとに戻ったから山が正常化してるっていいたいんじゃにゃいかにゃ?私は精霊についてはお兄様から少し聞いたり、見せてもらったくらいの知識しかにゃいから間違ってたらごめんにゃさい。」

あまり期待はしていなかったんだが、思った以上に噛み砕いた説明をしてくれた。
セリナもやれば出来るんだな。そういやセリナは王族だったから、最上級の教育を受けていてもおかしくないのか。
まぁセリナの解釈が合ってるかはまだわからないんだがな。

「そうなのか?」

「そう。」

念のためにテンコに確認を取ったら、コクリと頷かれた。

「テンコも最初、精霊たちだった。瘴気に耐えるため、まとまって強くなった。長い間まとまってた、だから、意思が混ざって1つになった。今度は精霊食べる魔物でた。食べられないため、もっとまとまった。でも意思強い精霊、ちゃんとまとまれない。でも精霊食べる魔物いなくなれば、まとまる必要ない。だからちゃんとまとまれない、問題なかった。でも、精霊食べる魔物いなくならない。そしたら、リキ様見つけた。リキ様、魔物と戦ってた。見てるだけ、気持ちよかった。またリキ様見つけた。アリア、綺麗にしてた。またリキ様見つけた。倒れた子ども、助けてた。またリキ様見た。カレン綺麗にしにきた。テンコたち、リキ様といたい、意思まとまった。テンコたちまとまって、もとに戻れなくなった。またリキ様きた。テンコ仲間がいい、お願いした。リキ様、受け入れてくれた。」

…なるほど。なんか知らんがテンコはいきなり自分語りを始めていたわけか。

テンコがこんなに話すこと自体珍しいのに自分のことを話すなんて初めてじゃねぇか?聞き取りづらかったが、いいたいことはなんとなくわかった。…と思う。

「つまりはテンコももとに戻りたいってことか?俺のせいでまとまっちまったんだから、責任とってもとに戻せと。」

「ん?」

「違うよ!リキ様、それ絶対違うと思うよ!」

テンコが俺の返答に首を傾げたと思ったら、横からセリナの否定が入った。

「じゃあどういうことだよ。」

「リキ様の影響で今の状態ににゃったってのはただ話したくにゃっただけじゃにゃいかにゃ?テンコの気持ちは普通にこれからも一緒にいたいんだと思うよ?」

「うん。ずっと一緒にいたい。」

べつに手放すつもりなんてないし、テンコにも解放しないって最初にいった気がするんだが、わざわざそんなことを今俺にいう必要あったか?

もしかして、いろいろやってるのになんの見返りもないから、実は役に立ててないんじゃないかと不安にでもなったのか?

実際テンコはかなり役に立っている。

畑がうまくいってるのもテンコのおかげらしいし、今回の俺の強化にもかなり貢献してる。

たまには労ってやるべきか。

「テンコがあとあとで嫌になろうが、俺が死ぬまでは一緒にいさせるから心配すんな。そんなことより、今回の訓練の報酬は何がいい?」

「訓練の報酬?」

ちょっと端折り過ぎたせいで、テンコには伝わらなかったようだ。

「わりぃ。テンコが今まで頑張っていろいろやってくれたから、何かしてほしいことがあったらいってみろってことだ。今いっとかねぇと気が変わるかもしれねぇから、遠慮すんな。」

「テンコ、リキ様と一緒。仲間も一緒。他、いらない。」

「お、おう。」

「イーラもリキ様と一緒〜!」

俺がテンコの極端な返事に言葉を詰まらせていたら、イーラが腕に抱きついてきた。

「私も〜!」

「テンコも。」

セリナがイーラと逆の俺の腕に抱きつき、テンコが首に抱きついて後ろ側に垂れ下がってきた。
イーラを引き剥がすのが遅れたせいで、セリナとテンコまで真似しやがって鬱陶しい。

イーラとセリナを振りほどこうと腕を振ったが、こいつらガッチリホールドしてて離れる気が全くねぇ。試しにかなり強めに腕を振ってみたが、腕にくっついてやがる。そのせいで腕がミシッてなったぞ!?しかも2人ともアトラクション感覚で楽しそうにしてるのが腹立つな。

PPも無駄にガッツリと消費しちまったし、もう抗うのは諦めよう。相手すんのも疲れるし、これ以上本気出したら刺身をリバースしかねない。
それにセリナは半月くらい近寄らせなかったから、この程度なら村までなら許してやるか。テンコもべつに重くねぇし、イーラはイーラだし。

俺は諦めて両腕をイーラとセリナに抱かれながら、テンコを首から後ろにぶら下げて山を下り始めた。この両側が綺麗な女性なら気分も違ったんだろうが、現実はこの2人だから子守感が半端ない。まぁ気を使わなくてすむからいいんだけどな。

理想と現実のギャップを憂いていたら、肩越しにテンコがにゅっと顔を出した。
テンコの髪が頰にあたって少しくすぐったかったから首をそらして避けたらテンコがくっついてきた。

…。

数歩歩いて、テンコが離れる気がないのを確認し、首を傾けたまま歩くのは疲れるから、テンコの顔を押しやって元に戻した。

テンコはいつも何考えてんのかよくわからん。
さっきも俺にしてほしいことを聞いたらテンコは何もいらないっていってたが、どうすっかな。

ユリアは精霊使い歴長いっぽいし、精霊が喜びそうなことでも聞いてみるか。

なんか頰を擦り付け始めたテンコを無視して、俺らは散歩感覚の下山を続けた。

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