裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
212話
声のした場所に着くと、困った顔のジャンヌとピグレ、目を見開いて固まっているユリア、よくわからなそうに首を傾げているクレハとヒトミ、そしてその対面に同じく首を傾げたテンコがいた。
ジャンヌたちがなにかをやらかしたのかと思ったが、そういうわけではなさそうだな。
声を聞いてからここに来るまで少し時間がかかっているのに、いまだにユリアが固まってるってことはテンコがなんかしたのか?でもテンコもよくわかってなさそうだ。
「どうした?」
誰ともなしに確認を取ると、ユリア以外がこっちを見た。
「どうしたんだろ?テンコを見た瞬間、ユリアちゃんが急に大声出して固まっちゃったんだよね…。」
困った顔で笑ったヒトミが答えてくれたが、けっきょくよくわからないな。
「テンコ、なんかしたのか?」
「何もしてない。リキ様、忙しい、聞いた。だからテンコ、畑行こう、思っただけ。」
まぁテンコが他人に何かをするイメージがそもそもねぇな。
本人に聞くのが一番早いか。
「ユリア。どうした?」
「…。」
無視か?
急にビクッと肩を跳ねさせたユリアが勢いよく俺の方を向いた。
なんか怯えているようにも見えるが、俺は何もしてねぇし、気のせいだろう。
「どうした?」
こっちを向いたユリアにあらためて確認をした。
「あ、あの…いえ、その…えっと……この方とはカンノさんが契約しているのですか?」
この方ってのはテンコのことか?テンコが可愛らしい見た目をしてたから一目惚れ的な?…ねぇか。
「そうだが、それがどうした?」
「凄い…。」
俺は理由を聞いたのに、なぜか尊敬するような眼差しを向けられた。
さっきまでユリアには悪い印象はなかったんだが、もしかしてこいつは痛い子なのか?
本人に確認しても要領を得ないから、ジャンヌを見てみたら困った顔で軽く肩を上げて首を傾げられた。ジャンヌも何が何だかわかってないみたいだ。
「今喋りませんでした!?」
ユリアがまた驚いて固まったが、なにいってんだ?俺はさっきの謁見でも普通に喋ってたじゃねぇか。どんだけ無口なクールキャラだと思ってたんだ?いや、違うな。ユリアが今見てるのは俺じゃねぇ。
ユリアの視線を追うと、テンコを見ているようだ。
ユリアはテンコが喋るのを不思議に思ったってことか?ぱっと見獣人にしか見えないテンコが。
「テンコが喋るのがそんなにおかしいか?」
「おかしいというか、初めて見ました!一時的な具現化でしたら私も出来るので、常に具現化するだけなら契約者次第で出来るのは知っていますが、言葉を発する存在は見たことがありません!」
今度は俺の質問にすぐに答えたユリアだが、なぜかかなり興奮してやがる。
それにしてもこの返答からしてテンコが何かを理解してるみたいだな。見ただけで気づいたやつは初めてかもしれねぇ。もしかしてユリアも俺の観察眼みたいなものを持ってるのか?
「なんでわかった?」
「え?私はこれでも精霊使いなんです…。」
なぜかユリアがあからさまに落ち込んだ。
今落ち込むとこあったか?ただ、なんでわかったか聞いただけなんだが…。
「ねぇ、さっきから2人で何を話しているのかしら?全く話が見えてこないのだけれど。」
ユリアの意味がわからない反応に俺が眉根を寄せていたら、ジャンヌが話に割り込んできた。
まぁ普通のやつからしたらテンコが精霊だなんてわからないだろうし、今の会話じゃ意味わかんねぇよな。ユリアが気づいているわけでなかったときに余計な情報をあたえないために、わかるやつにしか伝わらない話し方をあえてしたんだし。
だが、ユリアが気づいてるのは確実っぽいし、どうせあとで話されるなら今話しても変わらねぇか。
「テンコは精霊なんだよ。だが、初見で気づいたやつは初めてだったから、なんでユリアがわかったのかを聞いただけだ。」
ジャンヌはあらためてテンコを見てから俺に視線を戻し、鼻で笑いながら「なにいってんの?バカなの?」と書いてある顔で見てきた。
いちいちムカつく女だな、こいつは。
「テンコ、精霊。初めまして。」
テンコはジャンヌの目配せを自己紹介の催促ととらえたのか、簡単な自己紹介をしてペコリと頭を下げた。
「初めまして、ジャンヌよ。よろしくね〜。」
「ピグレよ。よろしくね。」
「クレハです。よろしくお願いします。」
「ユ、ユリアです!よろしくお願いします!」
ジャンヌが俺に向けたのとは質の違う笑顔をテンコに向けて自己紹介をし返すと、ピグレ、クレハ、ユリアと続いた。
ジャンヌはテンコの精霊だというあいさつには俺がいったときと違って笑顔で答えているが、信じてはいなさそうだな。まぁ信じないならそれはそれでべつにかまわないんだけどな。
「あの!テンコさんはなんの精霊なんですか?」
自己紹介が終わってすぐにユリアがテンコに質問をしたが、テンコは意味がわからず首を傾げてから俺を見た。
なんの精霊ってどういう意味だ?たしか大精霊だったと思うが、質問のニュアンス的にこの答えは違う気がする。
「どういう意味だ?」
テンコが聞き返さないから、代わりに俺が確認を取った。
「えっと、テンコさんの属性を聞きたかったのですが、やっぱり秘密ですよね…ごめんなさい。」
俺は意味の確認をしただけだったんだが、何か勘違いしたっぽいユリアが謝ってきた。
テンコの属性ってなんだ?べつに隠してるわけじゃなく、そんなものがあるのを俺は知らなかっただけなんだが。
本人なら知っているかとテンコを見るが、首を傾げたままだ。
「秘密もなにも属性ってのを知らなかったんだが、それって火とか水とかのことか?だとして、精霊に属性なんてあんのか?」
テンコを見ても狐タイプの普通の獣人にしか見えない。だから属性とかいわれてもピンとこない。もしかして善とか悪とかの属性か?それとももふもふ的な…それは違うだろうな。
「その属性です!精霊は使える属性が限られます。精霊には火、水、土、風、光、闇の属性があって、どれにも当てはまらないのを無属性と呼んでいます。大精霊は一時的に具現化させることは可能ですが、普通はその属性に適したものを使用する必要があります。なので、見れば属性がわかることが多いのですが、テンコさんは全くわからないうえに聞いたことない名前でしたので、気になってしまいました。あっ、私も大精霊と一体だけですが契約しているんです!」
そういって、ユリアは服の中にしまっていた首からかけた紐の先端に付いた小瓶を取り出した。中には液体が入っているみたいだな。
「ウンディーネ、挨拶。」
ユリアが小瓶の蓋を開けて呟くと、小瓶の中の液体がウネウネと出てきて、ユリアの手首で集まり蠢き、徐々に人型になっていった。
シルエットや頭身的には大人の女性の姿だが、体長が10から15センチ程度なうえに半透明だから、裸体なのになにも嬉しくない。
俺がそんなことを考えていたら、ウンディーネと呼ばれた液体がペコリと頭と思われる部分を下げてきた。
水でできた人型か。なんか精霊っていうかスライムみたいだな。
「俺はリキだ。よろしくな、ウンディーネ。」
「テンコ。ウンディーネ、よろしく。」
俺に続いてテンコが自己紹介すると、ウンディーネがまたペコリと頭を下げた。そういや普通の精霊は喋れないんだったな。
「えっと…ウンディーネは私たちが水の大精霊のことをそう呼んでいるだけで、この精霊の名前なわけではないんです。カンノさんは師匠からそういうことは教わらなかったのですか?」
「師匠?教わるもなにも俺に師匠なんていねぇぞ?だから精霊に関しては全くわからん。」
精霊に限らずこの世界のことはまだほとんどわからねぇがな。
「え!?自力で精霊使いになったんですか!?す、凄いです…。」
「凄いことなのか?勝手にテンコから近づいてきて契約したら精霊使いのジョブが増えてただけだから、いまいち実感がないな。」
「え?初めて触れた精霊が大精霊なうえに力を借りる前に契約したんですか?よっぽど精霊に好かれやすい体質なんですね…羨ましいです。」
ユリアは驚いたかと思うといきなり悲しげな顔をしたり、ずいぶん忙しないやつだな。俺としては本当にあったままを話しただけなんだが、もしかして嫌味に聞こえたか?
「体質に関してはわからねぇが、俺の場合は本当にただの偶然だ。だから羨む必要はねぇだろ。現にテンコ以外の精霊と契約出来てねぇし。それにユリアだって大精霊と契約出来てんだから、凄いじゃねぇか。」
まぁ他の精霊と契約する必要性を感じなかっただけだが。
「この子はおばあちゃんから譲り受けただけなので、私は凄くなんかないです。譲り受けて6年も経つのにまだ精霊術で少しだけ傷を癒すことしか出来ませんし。」
「ユリアは今何歳だ?」
「え?12歳です。」
「12歳でそれだけ出来れば十分だろ。俺の周りで精霊を扱えるやつなんて今までいなかったし、俺自身12歳のときなんて魔法は一切使えなかったぞ。だから、そんな落ち込む必要はねぇよ。まだユリアは成人してすらいねぇんだし、これから成長すりゃいいってのに、落ち込んでたら成長するのが遅くなるだけだぞ。」
俺が12歳のときは日本にいたから魔法が使えないのが普通だったが、それをいう必要はねぇだろ。
確かにユリアはうちのガキどもより弱いかもしれないが、“乙女の集い”のパーティーメンバーとして連れてこられてるくらいだから、ある程度の才能はあるだろうし、自信を持たせれば成長できるだろ。なにより目の前でウジウジされるのが好きじゃねぇ。
「っ!?はい!」
子どものうちは素直なのは利点だろう。少なくとも俺は嫌いじゃない。
どうせ暇だし、本人が望むならカンノ式戦闘訓練でもしてやるか。いや、アリア式戦闘訓練の方がガキどもという実績があるからいいか。んで、対価として精霊について教えてもらえばいい。対価としてといえば、弟子にしか教えられないことがあっても少しくらいなら話してくれるかもしれないしな。
「お前らはどのくらいここにいるつもりだ?」
ジャンヌに視線を移して確認を取ると、ジャンヌは少し考えるそぶりをして答えた。
「とくに決めてはいないけれど、一月はいると思うわよ。私も受けてみたい授業があるのだけれど、それが2日後から5日間あるみたいだし、それが面白かったらそのあとの応用編とかいうのも受けてみたいしね。それにクレハやユリアが今受けている冒険者基礎もそのあとがあるみたいだから、もしかしたらもっといるかもしれないわ。私指名の緊急依頼が入らない限りは“乙女の集い”の指揮はゼノビアに任せてあるから問題なく長期休暇を取るつもりよ。」
思ったよりも長くいるつもりみたいだな。まぁ迷惑かけなけりゃいいか。それにしてもSSランク様が興味を持つような授業まであるのか。
「そうか。…ユリアは強くなりたいのか?」
ジャンヌにてきとうに返事をしてから、ユリアに視線を向けて確認を取った。
「はい!」
「なら、戦闘訓練をしてやろうか?ここのガキども程度にならすぐになれると思うぞ。もちろん対価はもらうが。」
「ちょっと!ユリアになにするつもり?」
「戦闘訓練だっていってんだろ。」
「違うわよ。対価で何をさせるつもりかって聞いてるのよ。」
いちいちうるせぇが、まぁグループリーダーだから保護者みたいなもんだし仕方ねぇか。
「精霊について知ってることを話してもらうだけだ。」
「目的はユリアの身体じゃないのね。でも、あなたが私たち以上に指導がうまいとは思えないのだけれど?」
こいつ今サラッと俺が変態だと思っていたかのようなことをいわなかったか?俺はロリコンじゃねぇぞ?
「お前らがどんな訓練をしてんのか知らねぇが、ここのガキどもは数日から数ヶ月で今の実力になったな。その中で冒険者になったやつは確かCランクになったっていってたな。」
「…フレドさんたちのことでしたら、既にBランクになっています。」
すかさずアリアが訂正してきた。そういやあのオークたちと戦う前に昇級を考えてるようなことをいっていたな。もう昇級してたのか。
「だそうだ。」
「私より高い…。」
「あんな小さな子たちがBランクとか、どんな無茶なことをさせているのよ…。」
ユリアがボソッと悲しげに呟き、ジャンヌが呆れた顔で答えた。
正直いうとフレドたちの戦闘訓練にはほとんど関わってねぇから、どんな訓練内容かを俺は知らねぇんだよな。
ガキどもはアリア式戦闘訓練だったからなとアリアを見るとコクリと頷かれた。
「…リキ様の意思を尊重して、一人一人に合った無理のない戦闘訓練にしているつもりです。少なくともわたしやセリナさんが受けた戦闘訓練よりは楽な訓練内容になっていたと思います。」
なんだろう。少し言葉に棘を感じたぞ。
確かに今思えばアリアはレベルだけ上げて魔物といきなり戦わせるとかいう訓練とはいえない訓練だったし、セリナは泣いていようが構わず殴り続けて回避を覚えさせるとかいう虐待ともいえる戦闘訓練だったからな。もちろん治癒魔法はちゃんと使ったし、そもそもあの頃は俺自身に全く余裕がなかったから強くなってもらわなきゃならなくて仕方なかったんだよ。
結果、戦闘なんてしたことないただの少女だった2人がここまで強くなれたんだし、あれはあれで2人に合った戦闘訓練だったってことだろ。
結果良ければ全て良しだ。だからジャンヌのジト目は無視だ。
「それで、どうすんだ?学校通ってるって話だったから訓練できる時間は限られるけど、多少は強くなれるはずだ。だが、俺の訓練は優しくねぇみたいだから無理強いはしない。好きに選べ。」
「お願いします!」
即答かよ。
「私もご一緒させてはいただけませんでしょうか?」
さっきまで会話に参加していなかったクレハが会話に入ってきた。
「なんだ?クレハも強くなりたいのか?」
「はい!」
ずいぶん力強い返事だな。
お淑やかなイメージだったが、案外力に貪欲な性格なのか?
だが、クレハはたぶんフレドたちほどではないが普通のガキどもくらいの実力は既にありそうなんだよな。
ちょっと訓練しただけでこれ以上強くなれるか?レベル上げさせるにしてもあのダンジョンは使えないし、午前中だけとなると遠くに魔物を狩りにも行けないしな。
それでも多少は強くなれるだろうかと確認するようにアリアを見ると、またコクリと頷かれた。
「…先にいくつか確認したいことがあります。まず一つ、確実に強くなれる方法として、リキ様と奴隷契約を結ぶという方法があります。」
「それはダメよ。」
アリアはまだ説明の途中だったが、間髪入れずにジャンヌが否定した。
まぁ自分のグループのやつが他のグループのやつの奴隷になることを許容出来るわけねぇわな。
「…わかりました。それではもう一つですが、クレハさんには訓練の対価として先に契約魔法を受けてもらいますが、いいですか?」
「契約魔法とはなんでしょうか?」
「…契約を破ると罰を受ける魔法です。今回はクレハさんとユリアさんが受ける戦闘訓練の内容を2人とも一切他言しないと約束してもらい、違反した場合はクレハさんに罰を受けてもらうつもりです。」
「ユリアが話してしまった場合でも私が罰を受けるのですか?」
「…はい。ユリアさんからは既に精霊の話を聞くという対価をもらうことになっているというのもありますが、その方がユリアさんがウッカリ話してしまうということもないかと思いました。」
「………罰の内容を教えていただけますか?」
「…今は教えません。命を奪うものではありませんし、日常生活を送るだけならできる程度の罰ではありますが、戦うことは二度と出来なくなると思ってください。ただ、これは話してしまった場合の結果なので、話さなければ何も起きません。」
「私が約束を守れば何も起きないようなことが対価となるのですか?」
「…はい。理由はいえませんが、こちらとしては十分な対価となります。契約内容は魔法の詠唱に含まれ、クレハさんの同意が必要となるため、不正な契約はできないので、安心してください。契約してでも訓練を受けますか?」
クレハもずいぶんしっかりしてる子だな。何も考えずにいわれるがままではなく、ちゃんと考えて確認したりしてる。話の内容だけを聞いてると子ども同士の会話には聞こえないな。
というか、クレハは既に出会った頃のマリナよりは強そうだし、無理して俺らの訓練を受けずに“乙女の集い”の方で頑張ればいいと思うけどな。まぁ本人はこの条件でも悩むくらいだから、よっぽど早く強くなりたいのかもな。ならいっそジャンヌと対人戦をやりまくればいいんじゃないかとも思うが、そう簡単な問題でもねぇのか?
「お願いします。」
しばらく考えていたクレハが俺に向かって頭を下げた。
話してたのはアリアなのに…まぁ主である俺に頼むのが普通か。
「わかった。」
「…それでは2人を10日間わたしたちに預けてはもらえませんか?クレハさんは既に並みの冒険者ほどの実力があるようなので、午前中の訓練だけでは強くなるのが難しいからです。あと、10日間はジャンヌさんは一切口出ししないと誓ってもらいます。いつでも連絡が取れるように以心伝心の加護がついた指輪はお貸ししますので、お2人には無理だと判断した時点で中止にしてもらってかまいません。ジャンヌさんが口出しした時点で訓練終了にします。ただ、以心伝心の加護を通してでも訓練内容を教えると契約魔法が効果を発揮してしまうので気をつけてください。」
アリアは今度はジャンヌに向かって話しかけた。確かにちょいちょいジャンヌに口出しされると面倒だからな。
だが、まだ子どもの2人をよく知らない相手に預けるってのは了承しかねると思うが。
「わかったわ。2人をよろしくね。」
いいのかよ。
「…はい。それでは今日の授業が終わりましたら、クレハさんとユリアさんは2人だけでここに来てください。部屋は貸し出しますので、こちらで寝泊まりしてもらいます。」
「「はい。」」
「私とピグレもこっちで寝泊まりしたらダメかしら?ちゃんとお金は払うから。」
なんかジャンヌがワガママをいいだしたな。
アリアが無表情ではあるが若干困った感じで俺を見た。
べつに部屋は余ってるけど、こういうのはハッキリいっておかねぇとな。
「ダメだ。」
「ケチね。」
ケチではねぇだろ。
だが、そこまで本気ではなかったのか、それ以上なにもいってはこなかった。
というか立ったまんまずいぶんと話してたみたいだな。もうすぐ昼じゃねぇか。
クレハとユリアは午後の授業があるからと村の案内を中止して、アリアに渡された以心伝心の加護つきの指輪を持って、ジャンヌたちは昼飯を食いに宿に戻っていった。
俺らも昼食にするか。
というかあいつらに完全に午前中を潰されたな。まぁどうせ暇だからいいけど。
短いため息をついて歩き出そうとしたら、テンコがずっとこっちを見ていた。
「どうした?」
「リキ様、暇になった?」
「午後は暇っちゃ暇だが、夕方からは予定が入っちまったな。」
「テンコ、一緒いい?」
そういや今回は精霊に関して知ってるやつが相手なんだし、むしろテンコがいた方がいいかもな。
「そうだな。今回の訓練にはテンコも一緒に参加だ。」
「一緒!」
テンコがニコニコしながら俺の腰の右側に抱きついてきた。
そういやテンコとまともに戦闘訓練はしたことなかったな。テンコはもとからけっこう戦えたし。今回は精霊に詳しそうなユリアがいることだし、もっとテンコが強くなれたらいいな。
「アリアも戦闘訓練に付き合ってもらいたいんだが、いいか?」
「…はい。」
テンコの獣耳を揉みほぐしながらアリアに確認したが、予定が空いてるようでよかった。カンノ式戦闘訓練だとジャンヌからクレームがきかねないからな。
「早く行こうよ♪」
ヒトミが左腕に絡みついて引っ張ってきたから、食堂に向かうためにテンコを腰から離した。そしたら右手を握られたが、まぁ食堂はすぐそこだしいいかとテンコと手を繋いだまま食堂に向かった。
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