裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

205話



ゴスロリ少女はおとなしくなったから、話を始めてもかまわないんだが、アリアを呼んだ方がよくないか?
なんの話かにもよるが、内容によっては俺が忘れてることや聞いてなかったことが多々出てくる可能性もあるしな。

「放置してすまなかった。話を聞くのはかまわないが、アリアを呼んでもいいか?」

「問題ありません。」

仮面の男から許可を取り、アリアに繋がる以心伝心の加護に魔力を注いだ。

「アリア。戦いは終わったからちょっと来てくれ。マルチのときの件で話があるんだとさ。」

「…無事で良かったです。今すぐ向かいます。」

アリアとの通信を切ってから、待ってる間どうしようかと思ったら、左手を持ち上げられた感覚がした。見てみると、ゴスロリ少女が俺の左手を持ち上げて、自分の頭の上に乗せてニヤついている。何してんのかわからないが、ガントレットをつけたままだから動かして怪我をさせても面倒だし、好きにさせることにした。
そしたらイーラまで近づいてきて、俺の右手で同じことをし始めた。べつに対抗しなくていいから。
イーラなら怪我はしないかと思い、右手を左右にぐわんぐわんと動かして遊んでいるとアリアが来た。

「…お待たせしました。」

アリアだけではなく、他のやつらもついてきたみたいだ。

「べつに待ってないから大丈夫だ。それで、あいつらが話があるらしいんだが、アリアがいた方がスムーズに進むと思ってな。任せていいか?」

「…はい。…話とはなんですか?」

アリアは俺に返事をしたあと、仮面の男に向き直って確認した。

「ありがとうございます。さっそく本題に入らせていただきますが、フルーリャ様の仮死状態を治していただけないでしょうか?治していただけるのであれば、マルクローネ伯爵が出来る限りの願いを叶えるとのことです。お金が良いのであれば、金貨2000枚まででしたらどうにか用意できるとのことでした。それで足りなければ時間をいただければ用意するとのことです。」

金貨2000枚とかこの世界に来て初めて聞いた気がする。神薬が金貨100枚で高いなんて思ってたが、それを20本も買えるじゃねぇか。
それだけ家族を助けたいってことか?もしくはそのくらいの金なら余裕で払えるくらいに稼いでいるのか。

「そんだけ金があるなら神薬を使えばいいじゃねぇか。」

「神薬はすぐに試されたそうなのですが、効果がなかったそうです。」

神薬で治らなかったものを俺らがどうにか出来るわけがねぇだろ。
でもアリアならなんか知ってるかも……ってさすがに期待しすぎか。まぁ一応聞いてみるか。

「アリアは治す方法を知ってたりするか?」

アリアに確認すると以心伝心の加護を通して返事がきた。

「…イーラが『禁忌魔法:暴食』を使いこなせるのであれば、状態異常だけを食べる・・・ことが出来るかもしれません。」

「食べる?」

「…イーラのスキル効果の申告と本の記述が本当なのであれば『禁忌魔法:暴食』はなんでも食べることが出来るはずです。ただ、数あるものの中から一部だけを食べるのは簡単なことではないと思うので、イーラ次第になります。」

イーラがそんな細かいことが出来るとは思えねぇから、任せるのはちょっと心配だ。下手したらフルーリャとかいうやつごと食っちまいそうだ。

「他には?」

「…あくまで推測なのですが、フルーリャ様の仮死状態というのは呪いの類だと思うので、解呪のスキルを持つ方なら助けられるかもしれません。ただ、わたしたちの中にそのスキルを持っている人はいません。」

アリアは全員のスキルを把握してるのか?それにフルーリャを見てた時間はそこまで長くなかったと思うが、推測とはいえここまで見抜けるのは凄いというか異常だな。さすがアリアって感じか…。

「…………………わたしの命を使い潰せばなんとかなるかもしれません。」

俺がアリアの有能さに感心していたら、アリアが以心伝心の加護を使わずにボソッと呟いた。ただ、声が小さくてハッキリとは聞こえなかった。それにアリアはこっちを見てすらいないからただの独り言か?

「なんかいったか?」

「…なんでもないです。」

アリアはそういって俯いた。独り言が聞かれて恥ずかしかったのか?ならこれ以上聞くべきではないだろう。

「そういや邪龍の鱗になんかしてたやつは?」

「…あれは『浄化』です。既に試しましたが、効果はありませんでした。」

そうするとイーラに任せるしかないのか?
いや、そもそも依頼を断ればいいのか。金貨2000枚とかいわれたから断るという選択肢が頭から抜け落ちてたわ。

俺は仮面の男に向き直った。

「悪いが神薬でどうにもならないことを俺らじゃ治しようがない。」

「それは本当でしょうか?」

男は仮面をしているから表情は見えないが、なぜか疑っているように聞こえた。

「どういう意味だ?」

「いえ、これは失礼いたしました。前ドルテニアの情報担当がリキ・カンノさんたちであれば治せる可能性があると報告を上げていたので、聞き返してしまいました。申し訳ございません。」

前ドルテニアの情報担当ってマルチのことか?前ってことは俺らのせいでどっかに飛ばされたのか?それとも俺らにバレたから殺されたとか…。いや、それはさすがに考えすぎか。

「そいつは今はどうしてるんだ?」

「それは私どもには知らされておりません。ただ、リキ・カンノさんにそのことを聞かれた場合は生きてはいると伝えるようにいわれておりました。ただ、顔を見られてしまっているので、二度とリキ・カンノさんがお会いすることはないとは思います。」

生きているならいいか。
二度と会えないってのはちょっと寂しいとも思うが、まぁもともと一時的な関係の予定だったしな。

「そうか。まぁいい。あと、俺らはフルーリャを治せはしないが、治せる可能性を教えることはできる。お前らはその情報をいくらで買う?」

俺らがどうにも出来ないなら、情報だけ売ってこいつらに『解呪』を使える人間を探させればいい。

「…リキ様。『解呪』で呪いを解くことは可能だと思いますが、そのあとすぐに蘇生、回復を行わなければそのまま死んでしまうかと思います。仮死状態が呪いなのではなく、その状態を維持する呪いだと思うので。」

俺が何を考えているかに気づいたらしいアリアが慌てたように以心伝心の加護で伝えてきた。

「それなら呪いを解いたらすぐに神薬を飲ませればいいんじゃないか?」

「…自力で飲めない可能性があります。なので腕のいいヒーラーの方も探してもらった方がいいと思います。」

「そうか。わかった。」

俺らが以心伝心での話を終えると、それを見計らったように仮面の男が話し出した。

「その情報を教えていただけるのであれば今回の報酬は全てお渡しいたします。ただ、すぐに支払えるのは前金として預かっている金貨500枚だけとなります。申し訳ございません。」

情報だけで報酬全部くれるとかマジかよ。
情報を得てから必要な人材を集めなきゃならないのに、話を聞く前にそんなこといって大丈夫なのか?
まぁもらえるんならもらっておくけどさ。

「一応聞いておきたいんだが、その金は領民から絞り上げる予定なのか?」

確か相手は領主だったはずだ。ならその可能性もあるだろう。正直俺に関係ないとこの税金がどうなろうとどうでもいいんだが、自分は何もせずに金を集めようとするようなやつなら気にくわないから断ろう。

「いえ、マルクローネ伯爵はそんなことはしない方だそうです。金貨2000枚は屋敷中のものを売った場合に得られるお金の予想額だろうと伺っています。そのため、金貨2000枚を超えて請求する場合は時間がかかるとのことでした。しばらくは平民以下の生活になる可能性もありそうですが、それでもフルーリャ様に目覚めて欲しいという様子だったとのことです。」

…。

「そうか。まぁあとで取りに行くのも面倒だし、前金で渡されてるとかいう金貨500枚だけで充分だ。そもそもその情報通りに人を集めても必ず治る保証はねぇしな。」

「よろしいのですか?必要ならばまたお持ちいたしますよ。」

「いら……いや、そういや報酬は金じゃなくていいんだよな?」

そういやちょうどいい報酬があるじゃねぇか。

「はい。マルクローネ伯爵が叶えられる範囲内であれば何でもいいとのことです。」

「ならあのトラップだらけのダンジョンのコアだけ欲しい。土地も貴族位もいらん。」

「そういえば最下層まで行っているとのことでしたね。かしこまりました。問題ないかと思いますので、依頼完了次第お持ちいたします。」

完了次第ってことはさすがに失敗したらもらえないってことか。まぁ当たり前だよな。
不確かな情報だけで金貨500枚もらえることが珍しいのだろう。

「あぁ、よろしく頼む。それで、情報なんだが……アリア、頼んでいいか?」

「…はい。」

アリアは返事をしてから仮面の男に近づいていった。

アリアから聞いた俺が話すよりアリアが直接話した方が間違いないだろう。べつに面倒とか何が必要か忘れたとかではない。

アリアが話しているのをボーッと見ていたら、視線を感じて顔を向けた。なんかサーシャが俺の左手をずっと見ていた。
ん?左手というかゴスロリ少女を見てるようだな。

「どうした?」

「いや、すまぬ。ただ、こやつは我のことは既に眼中にないのだなと思ってのぅ。」

サーシャがいっている意味がわからず、なんとなくゴスロリ少女を見たら、首を傾げながらサーシャを見ていた。

そして、何かを思い出したような顔をした。

「なんで吸血鬼がここにいるの?」

「やっと気づきおったか。お主からしたら我などその程度よな。」

サーシャにしては珍しく顔を歪ませ、自嘲するかのように鼻で笑った。

「知り合いか?」

「マナたちが捕まえてラフィリアの奴隷商に売ったやつだと思う。」

「ラフィリア?」

「イーラ知ってるよ!アラフミナの王都の名前だよ!」

最初にいた町なのに今初めて名前を知った気がする。まぁ王都で通じるからどうでもいいんだけどさ。
イーラが褒めてオーラを出してきたからまた頭をぐりぐりした。褒めたわけではないけど、イーラは嬉しそうにしてるからいいか。

じゃあ俺らがサーシャと出会ったのはゴスロリ少女とその仲間が王都の奴隷商にサーシャを売ったからなのか。
まぁ10人がかりでも倒せないような化け物相手じゃ捕まってもしょうがねぇな。殺されなかっただけラッキーだろう。

「こやつの人形は血が流れておらぬし、魔眼も効かぬ。一体ずつなら問題ないが、複数に連携を取られたら今の我でも勝ち目がなかったのだから、前に捕まったのは仕方がないのじゃろう。その時は憎んでおったが、結果今の日々があるのじゃし、リキ様が敵対する気はなさそうじゃから我ももう特に思うところはない。と思っておったのじゃが、戦っていても気づかれないというのは腹が立つのぅ。我はそこまで弱くはないと思うのだが。」

いつも馬鹿みたいなことしかいわないサーシャが珍しくムッとした顔をしている。
まぁ気持ちはわからなくもないが、サーシャはべつに弱くねぇし、ただただ相性が悪いだけだろう。実際、ケモーナの騎士たちはほぼ皆殺しにしてたしな。

「サーシャは弱くねぇよ。ただ頭が悪いだけだ。いや、間違えた。ただ相性が悪かっただけだ。だから気にするな。」

「ぬ?馬鹿にしておるのか?」

「馬鹿にしてるわけじゃねぇよ。馬鹿だと思ってるだけだ。」

「ん???」

サーシャは理解できてないのか首を傾げた。

「やはり馬鹿にしておるよな?」

「そうだな。」

サーシャがまたムッとした。もしかしてサーシャも少しずつ成長してるのか?だとしたらあんま馬鹿にすんのも可哀想か。

「悪い悪い。ちょっと反応がいつもと違って面白かったから、からかっただけだ。気にするな。」

「べつに冗談ならかまわん。」

冗談ではないが、これ以上余計なことをいって不貞腐れても面倒だから何もいわない方がいいだろう。

「吸血鬼はリキの使い魔なの?」

サーシャとの話が終わったらゴスロリ少女が話しかけてきた。

「あぁ。」

「リキは魔族も飼ってるんだね。」

…。

「サーシャも他のやつらも俺の仲間だ。飼ってるなんていう表現を使うんじゃねぇよ。」

ちょっとイラッときたから語気を強めていっちまったが、たまにイーラをペットのように思ったりしたことがある俺が文句をいえる立場じゃなかったな。

「ごめんなさい。」

一度ビクッとしたゴスロリ少女が即座に謝ってから落ち込み始めた。

「わかればいい。さっきもいったが、失敗してもそこからちゃんと学べりゃいいんだよ。だから次から気をつけろ。」

「わかった。吸血鬼もごめんなさい。」

「調子が狂うのぅ。魔族が人間にどう思われとるかは知っておるから気にするでない。リキ様が変わり者なだけじゃからの。」

案外素直なガキだな。
これなら戦闘訓練中にイラつくこともなさそうだ。俺から頼んだことではあるが、余計なところでストレスなんか感じたくねぇからな。

どうやらアリアたちの話も終わったようで、アリアが戻ってきた。

「…終わりました。これが金貨500枚です。確認してあります。」

「ありがとう。」

俺はとくに確認することなくアイテムボックスにしまった。アリアが確認したなら間違いないだろう。

「それでは、私どもは失礼させていただきます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。」

俺が金をしまったのを見計らっていたのか、仮面の男が別れの挨拶をし、登場時と同じように男が頭を下げ、女がスカートを摘んで軽くかがんだ。そういや後ろの女は最後まで喋らなかったな。べつにいいけど。

「あぁ、じゃあな。」

俺が返答すると仮面の2人は歩いて離れていき、建物の陰へと消えていった。

「じゃあ俺らもあの偽者を衛兵に預けてから宿に戻るか。…そういやお前は1人なのか?」

アリアたちにこの後の予定を告げてから、ふと気になったことをゴスロリ少女に聞いてみた。
二つ名が付くようなやつだから一人で行動しててもおかしくないのかもしれないが、どう見てもまだ子どもだ。
アリアと並ぶと若干ゴスロリ少女の方が年上に見えなくないが、それでも9歳10歳程度のガキが1人で行動しているのには違和感がある。それは俺が日本人だからか?

「あっ……ガルを置いてきちゃった。」

「ガル?」

「マナの仲間。ついてくるっていってたから案内してた。でも国境に置いてきちゃった。ベルに1人で行動するなっていわれたのにどうしよう。怒られる…。」

一応保護者っぽいやつはいたんだな。ただ、保護者の責任を果たせてはいなさそうだが。
というかこいつが恐れるような相手がいるのかよ。そういやこいつは黒薔薇の棘のメンバーだってアリアがいってたな。ってことはこいつのとこのリーダーはSSランクってわけか。そりゃ化け物だろうな。

「そいつと連絡は取れないのか?」

「そうだ。以心伝心の指輪がある。ちょっと確認してみる。」

俺はなんでこいつの世話なんか焼いてるんだ?

「べつにこの後なにかあるわけじゃねぇんだし、俺らは先に宿に帰るから、お前は勝手にすればいい。じゃあな。」

こいつを待つ理由がないことに気づいて、宿屋に向けて歩こうとしたらゴスロリ少女に左手を引っ張られた。

「なんだよ?」

「戦闘訓練はいつからやるの?どこでやるの?まだ決めてないよ?」

そういやそうだったな。

「お前はいつ暇だ?」

「マナにはマナドールって名前があるよ?」

「…マナドールはいつ暇だ?」

「ガルがここまで5日はかかるっていってた。だからそれまで暇だよ。」

仲間が来るまで暇って…迎えに行ってはやらないんだな。まぁ俺には都合がいいけどさ。

「場所はどこかいいとこ知ってるか?」

「外の草原でもここでもマナはいいよ。」

ここはダメだろ。人がいなくても一応町の中だし。

「その草原はどこの門から出ればいい?」

「ん?どこの門から出ても草原はあるよ?」

…。

「アリア。」

「…明日の昼頃に東門の外で待ち合わせでいいと思います。」

「それでいいか?」

「わかった。」

やっと話が終わったから、マナドールに別れを告げて、俺らは宿に向かって歩き出した。

マナドールは空間から出した人形を戻さなきゃならないらしく、それが終わってから帰るそうだ。その人形の中に大量に動かなくなったのがあって大変みたいなことをいっていたが、俺らは無視して先に帰った。

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