裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

168話



朝食を終えて、盗賊狩りメンバーが外に集まったんだが、俺も含めて10人だとけっこうな人数だな。

イーラの変身する龍はデカイから9人くらいはかるく乗れるし、乗るときはイーラの体内に腰くらいまで入って固定されるから落ちる心配もないし、問題はないんだがな。

「僕は自分で飛んでいくよ。」

ヴェルはイーラに乗るつもりはないようだ。まぁ龍が龍もどきに乗るのは抵抗があるのかもな。

「好きにしろ。イーラについてくれば問題ない。」

とくに事前に決めておくこともないから、イーラに龍に変身させ、俺はその背中に飛び乗った。
俺が乗るとアリアから順にイーラに乗り、ヴェル以外は全員乗ったようだ。ヴェルも既に龍になっている。人間形態よりはデカイがイーラに比べると小さいな。イーラが大人サイズならヴェルは子龍…いや、幼龍っていえるくらいにサイズの違いがある。

「んじゃ行くか。方向指示はアリアに任せる。」

「…はい。」





飛び立って30分もしないうちに目的地に着いたようだ。着いたといってもまだ上空なんだが、真下で馬車が汚らしい人間に襲われてるらしいから、たぶんあいつらが目的の盗賊だろう。らしいというのは距離のせいで俺には米粒というか虫が動いてるようにしか見えないから、イーラとセリナの2人が教えてくれたためだ。

よく目を凝らすと、そこそこ広い森と狭い範囲で木が生い茂っている場所の間に通る道でうにゃうにゃと人と思われる粒が動いている。

少し遅れているヴェルを待ってから地面に降り立った。本物の龍がスライムに負けてるのはどうかと思ったが、サイズが違うんだからしゃーないか。

近づいたら俺にも見えたが、どうやら馬車の護衛と盗賊が戦ってたみたいだな。護衛は既に1人倒れているが、盗賊は怪我すらしてなさそうだ。俺らが降り立ったらすぐに距離を取ったところを見るにけっこうな手練れなのかもしれない。護衛は驚いて固まっているから、護衛が弱いだけな可能性もありそうだ。

俺が飛び降りると、アリアたちも全員降りて、イーラとヴェルは人型になった。

「戦いの邪魔して悪い。念のための確認なんだが、馬車の近くで馬鹿面晒してんのが護衛で、汚らしいやつらが盗賊で間違いないか?」

俺が間違ってないなら護衛が倒れてるのも含めて6人で盗賊が10人か。

「だとしたらなんだって……。」
「馬鹿野郎!あいつは『歩く災厄』だ!仲間もいるから勝ち目がねぇ!逃げるぞ!散れ!」

武器の名前はわからないが、肉厚でかなり反っている脇差くらいの刀身の片刃の剣を持った男が俺を睨みつけて威嚇してきたかと思ったら、仲間がそいつの口を塞ぎ、わけわからないことをいって逃げる指示をだした。

「逃すな。殺さずに捕まえろ。」

まだどちらが盗賊なのか聞けてないから、念のため俺は護衛だと思われるやつらを警戒しながらとくに指名をせずに指示を出すと、アリア以外が一斉に動きだした。

そして、捕まえるのは本当に一瞬だった。
イーラは鎌で盗賊の足を刈り、セリナは短剣で盗賊2人の足を切り落とし、テンコは地面を尖らせて盗賊2人の足を串刺しにし、ヒトミはモーニングスターで盗賊の足をひしゃげさせ、サーシャは血の弾丸で盗賊の足を撃ち抜き、ウサギは盗賊の足を蹴り折って、ヴェルは盗賊の足を掴んで膝のあたりを引きちぎり、ニアは盗賊の足を握りつぶした。

それぞれが初めから狙う相手を決めていたかのように分かれ、即座に盗賊だと思われるやつらを10人とも行動不能にするとか予想以上だ。しかも全員が足を狙うとか、どこで覚えたんだよ。まぁこれなら実は盗賊じゃなかったとしてもアリアが治せる範疇のはずだから許されるだろう。

近くにいる護衛っぽいやつが短く息を吸う音が聞こえたが、気持ちはわかる。俺もこの光景には若干引く。
俺よりも年下のやつらが盗賊の足を何のためらいもなく切ったり潰したりするんだから、普通のやつからしたら異常だろ。まぁ俺の命令なんだけどさ。

「これで落ち着いて話が出来るな。アリアはこいつらが逃げないように見ていてくれ。俺はさっきの逃げる指示を出したやつと話をしてくる。」

「…はい。」

俺が護衛っぽいやつらを指差してアリアに指示を出すと、既にロッドを装備していたアリアが護衛っぽいやつらから少し距離をあけて、全員が視界に入る位置にズレた。

さて、確かあのおっさんだったはずだ。

俺の目的のおっさんはニアが担当して、足を握りつぶされたやつのようだ。

「おい。さっきのはどういう意味だ?」

俺が男の視界に入って確認を取ると、ビクッと体を震わせ、俺を見るなりどんどん顔が青ざめていくのがわかる。

「こ、殺さないでください!」

会話がなりたたないとイラッとくるな。

「俺は質問してるんだ。答えろ。」

「も、申し訳ない!ぐっ…。ふぅ………。そ、それは、どの部分に対する…質問ですか?」

足が痛いのか、ずいぶん苦しそうにしている。俺の質問にすぐに答えなかったからか、ニアがかなり不機嫌そうだ。

ニアは右足をあげ、男の足を踏みつけた。

「ギィァーーーーーッ!!!!!」

甲高い獣のような声を盗賊があげたが、ニアは構わずグリグリと踏みつけてる足を捻った。

「とっとと答えてください。リキ様の貴重な時間を無駄にするなら殺しますよ?」

「やめろ。それじゃこいつが喋れないし、うるさい。」

「申し訳ありません。」

ニアが足をどかしても盗賊は大量に汗を流しながら苦しそうな顔をしていた。

「お前は俺らを見るなり逃げる指示を出してたが、俺らを知ってるのか?」

盗賊が苦しそうにしているせいで返事が少し遅れたら、ニアがまた不機嫌になった。その変化に気づいた盗賊が慌てて答えようとするが、痛みのせいか途切れ途切れだ。

「あなたは有名…なんです。『歩く災厄』という二つ名…付いて…近寄ることすら…危険だといわれてます…。」

「『歩く災厄』?『少女使い』じゃなくてか?」

そんな二つ名で呼ばれたのは初めてだ。人違いじゃねぇのか?それとも俺の知らないところで勝手に二つ名が変わったのか?そもそも『少女使い』が勝手につけられた二つ名だしな。

「はい。まだ…一部でしか知られて…ないが、ある程度の情報…収集できる伝手が…あるなら…知ってるはずだ…。」

誰がそんな二つ名を流したのかは知らないが、こいつを見る限り顔と名前が一致してるっぽいな。二つ名が変わっただけだから、もともと知ってたやつは顔と名前が一致して当たり前か。

「知られてるのは俺だけか?」

「あとは…『無慈悲の幼女』…アリアと『無邪気な殺戮者』イーラと…『残された良心』…セリナを聞い…たが、そいつらの本名…も見た目も…俺はわからない…です。」

俺以外にも恥ずかしい二つ名がついたことは恥ずかしさを分かち合える仲間ができて喜ばしいが、セリナだけおかしくないか?あいつも俺らと変わらねぇだろ。何が良心だ?肉親殺しだぞ?…まぁ俺がやらせたんだが。
しかも残されたってなんだ?セリナ以外の仲間は全員良心のかけらもないってことか?

馬鹿にしてんのか?

いや、こいつに当たったところで、二つ名を考えたり広めたりしたのはこいつじゃねぇから無意味だな。

「というか二つ名って冒険者につくものじゃねぇのか?」

「そうとは…限らない…。冒険者が付けられ…やすいというだけ…で、他にもいる…。この国なら…『色欲の巫女』や『笑う影』…は冒険者じゃない。でも…奴隷に二つ名が付く…のは珍しい…です。」

色欲の巫女って二つ名だったんだな。

さて、こいつらはどうするか。

馬車の周りにいる護衛っぽいやつに聞きたいことができたから歩いて戻ると、護衛っぽいやつはなぜか顔色が悪くなっていった。

「質問なんだが、盗賊を退治した場合生死にかかわらず金がもらえるって聞いたんだが、殺した場合は五体満足の死体が必要なのか?それとも首から上があればいいのか?」

「え!?あ、えと、懸賞金がかかっているなら顔さえわかれば大丈夫なはずです。」

「そうか。あと、あんたらは護衛か?」

「はい。」

さっき倒れてた護衛の仲間に視線を向けると、傷口をタオルで止血され、ポーションのようなものを飲ませようとしているけど、飲んでくれてないみたいだ。このままだともうすぐ死ぬだろうな。

「護衛ってことは成功報酬があるんだよな?その額をくれるんなら、そいつを治してやってもいいぞ?」

「本当か!?是非頼む!」

即答か。

「じゃあ先払いだ。依頼主を呼んでこい。」

「いや、依頼内容はファリルカートまでの護送のため、まだ成功報酬はもらえないんだ。だから、俺らがもらう予定の銀貨50枚だ。」

そういって銀貨50枚を渡してきてからなんかの紙を見せられた。もちろん読めないが、もしかして依頼内容と報酬が書いてあんのか?

というか護衛って銀貨50枚なのか…6人でそれなりの時間を取られるのにその程度しかもらえないのかよ。金額聞いてからにするべきだったが、まぁいっちまったもんは仕方ねぇ。

「確かに受け取った。アリア、治してやれ。」

あの程度なら俺の『ハイヒール』で十分だと思うが、アリアに任せた方が確実だろう。

「…はい。」

怪我人はアリアに任せ、俺は改めてニアのところにいるさっきの盗賊のところに向かった。

今までの盗賊のようにかしら以外は放置して、金が貯まった頃にまた回収に来るのが一番なんだろうが、今回はローウィンスからの情報提供だ。ハッキリと頼まれたわけではないが、たぶん全滅させて欲しいんだろう。他にわざわざ盗賊の情報を教えてくる理由が思い浮かばない。
まぁローウィンスの思惑通りに動いてやる必要はないんだが、もしかしたらラクラスとかいうやつ以外にも懸賞金がかかってるやつもいるかもしれねぇからな。

「お前らは俺に攻撃してこなかったから二択から選ばせてやる。生きたままファリルカートに連れていかれるのと首から上だけファリルカートに連れていかれるのはどっちがいい?」

さっきの盗賊の前にしゃがみ込んで話しかけると、盗賊は目を見開いた。
その後、しばらく悩んだ素振りを見せてから口を開いた。

「生きたまま…がいいです。」

「なら自分で歩けよ。あと、所持品は全てもらうからな。」

『ハイヒール』

俺がハイヒールをかけると握りつぶされたはずの足が徐々に元の形へと戻っていった。あともう少しか?

『ハイヒール』

「サーシャ!」

足が完全に治った盗賊の首裏を掴んで持ち上げ、強制的にサーシャの方を向かせてからサーシャを呼んだ。

「なんじゃ?…あぁ理解した。これでよかろう?」

本当に意図が伝わっているのか不安だったから、盗賊に鑑定を使ってみたら、ちゃんと状態異常が魅了になっていた。

「他のやつらにも選ばしてやる!お前らをファリルカートに連れていくことは絶対だが、生きたまま連れていかれるのと首だけ持っていかれるののどっちがいい?生きたままがいいやつは手を上げろ!」

俺が少し声を大きくして確認すると全員が手を上げた。

ちょっと意外だ。この世界の罪人の扱いがわからないが、奴隷なんてあるくらいだから日本みたいに優しいものではないだろう。だったら楽に死ねるなら殺されるのを選ぶやつもいるかと思ったが、全員が生きる方を選んだみたいだ。

「じゃあサーシャ、全員にかけろ。」

「心得た。」

サーシャは盗賊全員を見たあと、目が合わなかったやつには近づいて無理やり目を合わせていた。

「終わったぞ。あとはどうすれば良い?」

盗賊の3人目の顎を持ち上げて数秒目を合わせたあと、サーシャは俺を見て終わったことを告げてきた。
残り9人を2分程度か?最初の6人に関しては20秒もかかってなかったっぽいが、それで自殺までさせられるほど凶悪な魅了を発揮できんのかよ。魅了のスキルはなんかズルいというか危険すぎるな。

「アリア。足が切り離されてるやつは頼む。俺は折れてるやつとかの治療をするから、サーシャは盗賊が全員歩けるようになったら馬車のところに集めろ。」

「「はい。」」

俺とアリアが手分けして盗賊の足を治し、自力で歩けるようになったところでサーシャが盗賊たちを馬車の方へ動かしている途中、道から外れた森から1人の男が飛び出してきた。

男は俺の方にまっすぐ向かってきた。長い柄の先に甲羅を2つくっつけたような丸いものがつき、甲羅が合わさる部分からは360度グルリと刃が円形に取り付けられた武器を振りかぶり、近づく勢いそのままに甲羅のような部分で殴りつけるように振り抜いてきた。

急な敵の出現ではあったが、思いのほか焦ることなく、腰のガントレットを装着したら、俺と男の間にニアが入ってきて素手で構えた。男の武器がニアに当たる寸前で、さらにニアと男の間にイーラが滑り込むように入り、大きな盾で受け止めた。

ドラを叩くような音が響いたあと、爆発音が響いて煙が上がったが、イーラはピクリとも動かなかった。

煙が晴れたときには変な武器を持った奴は離れたところに立っていて、その後ろの森からは男がもう1人、大きな斧を担いで歩いて出てきた。

「救援があったからわざわざ来たのにガキばっかじゃねぇか。んで、どいつが『歩く災厄』だ?」

なんか偉そうなのが出てきたな。こいつがラクラスか?それとも幹部的なポジションか…一応警戒はしておくか。

「イーラさん。その盾を貸してもらえませんか?」

「ん?いいよ〜。」

俺が警戒している隣で緊張感のない声が聞こえるが、気にするだけ無駄か。

「ニアは衝撃爆発のハンマーでいいか?」

「いえ、今回は盾だけに徹しようかと思ってます。」

最後にボソッと「そしたらリキ様を守るという理由でそばにいられるので。」って言葉はしっかりと聞こえたが、スルーだ。

「無視してんじゃねぇよ!」

斧を持った男が怒りをあらわに俺に向かって攻撃してきた。

俺らは喋ってはいたが、べつに警戒を解いたわけではないから余裕を持って攻撃を受けた。ニアが。
男の狙いは俺だったから受け流すつもりで構えたのに、間にニアが入ってきたから俺は見学だ。

男が斧を振り回して連続して攻撃してくるのをニアが全て盾で受け止めている。といっても俺の位置からだと男がほとんど見えていないから、斧を振り回してるってのは盾とぶつかる音からの予想なんだけどな。

俺から見えないんだからニアにはもっと見えないと思うんだけど、ニアは微妙に盾をズラしたりして攻撃を受けている。…見えてんのか?それとも感覚?

俺にはほとんど見えないし、退屈でしかない。だけど、退屈な時間は唐突に終わった。

ニアが盾を左に90度向きを変えて斧の攻撃を受けたことによって、男の姿が見えたと思ったら、ニアが黒くなった右手を男の脇腹に突っ込んで、内臓を引きずり出しやがった。
かなりグロい。

男の顔は驚愕に染まっていたが、すぐに腰にさしていたポーションのようなものを飲んで脇腹を押さえて後ずさった。

「…化け…物…っ。」

あっ。

いつのまにか男の後ろに回っていたイーラが大鎌で、男の首を刈り落とした。

ゴトッと頭が落ちたあと、遅れて体が崩れ落ちながら血を撒き散らしている。
この世界にきてから死体は見慣れてきているとはいえ、内臓が飛び出てるのはさすがに気持ち悪いな。モザイク必須の映像だろ。
そんなものを掴んで引き抜けるニアは異常なんじゃねぇか?いや、もしかしたらこの世界だと異常というほどではないのかもしれない。…そう思っておこう。

そういやもう1人の変な武器を持った男は襲ってこないんだなと思って周りを確認すると、既にセリナたちに殺されていたようだ。
というか、こいつら人間相手でも殺すことに躊躇がなさ過ぎる気がするが、もしかして俺のせいか?
躊躇して反撃をくらうくらいなら躊躇せずに殺せた方がいいんだからいいのか。深く考えるのはよそう。

「とりあえず武器は回収しろ。首はこのまま持っていくのは…。」

どうしようかと考えていたら、まだ馬車が進んでいないことに気がついた。逃げるタイミングを逃したか…俺らと一緒にいる方が安全だっていう打算か?いや、俺がアリアに逃がすなっていったんだったわ。

こいつらもファリルカートに行くんだったよな?ならせっかくだから荷物だけ乗せてもらうか。

盗賊の死体はとりあえず放置して馬車に向かって歩くと、護衛の顔が青ざめていってるような気がする。

「具合悪そうだけど大丈夫か?」

「え?あっ…大丈夫です。」

最初に話しかけた護衛に声をかけたんだが、なんか青を通り越して白くなってる気がする。まぁ本人が平気だっていうなら平気なんだろう。

「ならいいんだが、この馬車の持ち主と話をするのは可能か?」

「す、すぐに呼んできます!」

護衛のやつが走って馬車に向かい、本当にすぐに持ち主を連れてきた。
小太りで金を持ってそうな男なんだが、足が子鹿のようにプルプルしていて、護衛に肩を借りて歩いているが、今にも崩れ落ちそうだ。そんなに盗賊が怖かったのか?

「な、なんでしょうか?」

「これから盗賊狩りをする予定なんだが、荷物が増えそうなのに運ぶ手段がなくてな。だから、荷物を一緒に運んでくれないか?もしくはこの馬車をくれ。」

命を助けてやったんだから、馬車くらいくれてもいいと思う。もし馬車を手放すわけにいかないとかなら、せめて盗賊の首くらいは一緒に運んでほしいというか、運ばせるつもりだ。

「申し訳ありません。この馬車は商売道具ですのでお譲りできません。でも、荷台にまだ空きはあるので、乗せられる量であるならば運ぶのはかまいません。」

このおっさんは商人なのか。
とりあえず許可は得たけど、商売道具なら汚さない方がいいか。

「全員一回こっちこい。」

「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」

アリアたちが全員集まった。
武器も生首もちゃんと回収してきたみたいだから、武器は俺が受け取った。
最初に受け取った変わった武器の方はよく見ると甲羅みたいな部分には魔法陣のような模様が浮かんでいた。持った状態で加護を確認するが、増えた加護はなさそうだから、あの爆発はこの魔法陣の力かもな。覚えてたら試してみようと思いながらアイテムボックスにしまった。
次に大きな斧を受け取って、加護を確認するとダメージ貫通がついていた。ん?ダメージ貫通の斧の攻撃をニアは盾で受けていたけど大丈夫なのか?

「ニア、この斧にはダメージ貫通の加護があるみたいだが、大丈夫だったのか?」

「人間にしては重い攻撃でしたが、特には…。」

…。

俺は斧もアイテムボックスにしまった。

「イーラ、その首を馬車に乗せる許可を得たんだが、汚すのは困るから血が垂れないようにして突っ込んどいてくれ。」

「は〜い。」

イーラが体の一部を首の断面につけて、馬車の荷台に放り投げたら、中から「ヒィッ。」と小さな悲鳴のような声が聞こえた。まぁビックリはするだろうが、許可は得てるから問題はないはずだ。

「それじゃこれから残りの盗賊を狩りに行くつもりだが、アリアはここに残るか?それとも行きたいか?」

「…行きたいです。」

「じゃあ俺が残るから、盗賊狩りの指示は任せる。」

「…え?リキ様は行かないのですか?」

アリアが驚いた顔をした。よくよく考えたら、確かに俺が行かないのは珍しいかもな。
でも、馬車の確保は大事だから、俺かアリアが見張るつもりで、アリアが盗賊狩りに行くなら俺が残るしかないだろ。

「こいつらが襲われたり逃げたりしないように誰かしらが残らなきゃだから、アリアが盗賊狩りに行くなら俺が残るってだけだ。アリアがいれば俺も安心して任せられるから頼むな。」

「………………はい。」

なんか不満顔に見えるが、行きたいといったのは自分なんだから、そんな顔されても困る。

「他はちゃんとアリアの指示に従えよ。攻撃を仕掛けてきたり敵意を向けるやつは好きにしていいが、無抵抗のやつにはさっきと同じ選択肢を与えてやれ。」

宝は全部ちゃんと持ってこいといおうと思ったが、商人や護衛のやつらに聞かれてあとで面倒なことになったら嫌だからやめた。
アリアに任せておけばいわずともわかるだろう。

「自分はここに残ります。」

「テンコも、残る。」

テンコは盗賊狩りがしたかったんじゃないのか?…まぁいいか。

「好きにしろ。ただ、ニアはまず手を洗え。」

ニアの右手はあの男の脇腹に突っ込んだせいで血まみれだ。手を振って血をビシャッと払ってはいたが、それだけで綺麗になるわけがない。

「はい。」

ニアは盾を地面に刺して立てて、水をアイテムボックスから取り出して洗い始めた。
ん?いつのまにか冒険者のジョブも手に入れてたんだな。

「リキ様。あれは食べてもいいの?」

イーラが倒れてる盗賊2人の首のない体を指さして聞いてきた。

「好きにしろ。今回は首から上さえあればいいらしいからな。」

「は〜い。」

イーラはすぐに死体のもとまで行って、捕食した。

「じゃあ行ってこい。」

「「「「「「「はい。」」」」」」」

アリアはいつも通りだし、セリナとウサギは少し緊張してるようにも見えたが、魔族組とヴェルは本当に楽しそうに向かって行った。

俺はどうしようかと思ったら、いきなり地面がモコモコと盛り上がり、椅子と四角いテーブルのようになった。椅子は全部で3つある。

「休憩、する?」

どうやらテンコが作ってくれたみたいだな。

「ありがとな。」

テンコに礼をいいながら頭をわしゃわしゃと撫でてから、椅子に座った。
今日は俺はとくになんもしてないから疲れていないんだが、たまにはこういうのも悪くないかもな。ここにコーラとポテチがあれば文句ないんだけどな。

…久しぶりにポテチ食いてぇな。

残りの椅子にテンコとニアが座り、アリアたちの帰りを待つことになった。

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