裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

143話



村についてすぐに応接室に行くと、第三王子が座っていて、その後ろに護衛の騎士っぽいのが4人、あとはグローリアにもいた秘書っぽいのが1人横に立っていた。
あの新人くんはいないんだな。

さて、前に金貨をもらったから多少はサービスしておくか。
だがさすがにサービスで跪くのは嫌だから、右手で拳を作って胸の前におき、軽く頭を下げた。

「お待たせしてしまい申し訳ございません。」

俺が思ってもいない謝罪を真顔でした瞬間、サラがすごい速さでこっちを振り向いた。何に驚いているのかはわからねぇが、目を見開いて口が半開きになってやがる。

「いや、私が早く来ただけだからかまわない。それではさっそく本題に入りたいから、秘書と護衛は下がってくれるか?」

「「「「「はっ!」」」」」

全員が扉の外に出ていった。
俺としては助かるが、秘書まで外に出したらダメじゃねぇか?

「カンノくん。悪いが君の仲間も下げてもらえるかい?もし必要ならアリアローゼくんだけは残ってもらってもかまわないよ。」

なんだ?よっぽどの機密事項なのか?
アリアだけ残してもかまわないってのはアリアに関わる話ってことか?

「真面目な話みたいだな。アリアを残してもらえる気遣いには感謝する。…悪いがアリア以外は退出してくれ。」

またサラが驚いた顔を向けてきたが、俺の命令にすぐに従い、イーラやセリナを連れて出ていった。

「我願う。秘する言の葉を逃す道を塞ぎ、音を隔てる壁となせ。」

『サウンドアイソレイション』

部屋に俺とアリア、第三王子の3人だけとなったときに第三王子が魔法を発動した。

「これでよほど大きな声を出さない限りはセリナアイルくんの耳にも届かないだろう。」

どこまでかはわからねぇが、第三王子は俺の仲間について調べてるっぽいな。

「魔法まで使って聞かれたくない話ってのはなんなんだ?」

「聞かれたくない話ではあるけれど、ここまでしたのはカンノくんに正直に話してほしいからだよ。」

「どういうことだ?」

第三王子は両肘を膝あたりにおき、手を組んで前かがみになって覗き込むように見てきた。

「実は3日ほど前にケモーナ王国の使者が手紙を持って来てね。その内容が“リキ・カンノとその奴隷のセリナアイルを差し出せ”だったのだが、心当たりはあるかい?」

心当たりがありまくるんだが、正直に答えていいものか?というかやっぱりバレたか…。
所詮は高校生が練った計画だ。完全犯罪なんて夢のまた夢だったか。

だが後悔はしていない。

まぁでも一応ごまかしてはみるか。

「心当たりといえば、セリナがケモーナ王国の元第二王女ってこととかか?んでそれを奴隷にしたから難癖つけてきたとか?」

このいい方なら第三王子が嘘を見抜けるスキルを持っていたとしてもわからないだろ。だって嘘じゃねぇし。

「!?」

こちらを観察していた第三王子の目が見開いた。

「だが、勘違いしてもらっちゃ困るぞ?セリナをアラフミナの奴隷商に売ったのはケモーナの王族だし、俺はちゃんと奴隷商から正規の手順で買い取っている。それで恨まれたんだとしたらさすがに意味不明だ。」

「その奴隷商の名前はわかるかい?」

名前?そういや前に名乗ってたな。…あの時はカレンのことでいっぱいいっぱいだったから覚えてねぇぞ。

「…ガイトス・デニーロさんです。」

そうそう、そんな名前だ。
さすがアリアだ。ちゃんと覚え…あれ?あの時アリアは近くにいなかった気がするが…まぁいいか。

「彼から買ったのであれば間違いはないだろう。そしたら違う理由があるのだろうな。」

名前を聞いただけで納得されるとか、あの奴隷商って実は凄いやつなのか?

「ちなみに俺たちを差し出さなかった場合はどうなるんだ?」

「武力行使も辞さないとのことだよ。」

それって戦争ってことだよな?
たかが俺ら2人のためにアラフミナと戦うつもりがあるってことか?
セリナを陥れやがったあのクソ野郎にそんな価値があるっていうのか?

ヤバい…イライラしてきた。

「…アラフミナの王族としてはどうするつもりだ?」

「それはこれからカンノくんに王城まで来てもらって、父が直接話をしてから決めるとなっているけど、拘束して引き渡すということにはまずならないだろうね。」

「なんでだ?たかが村民2人の命で戦争が避けられるんだぞ?」

戦争を実際にしたことないからわからないが、やらないにこしたことはないだろう。
王族からしたらたかが村民2人の命と国とでは天秤にかけるまでもないことだろうになぜそうしない?

まぁそうするつもりなら俺は死ぬまで抵抗してやるがな。

「カンノくんは妹のお気に入りだからね。そうでなくとも邪龍の討伐に魔王の討伐と功績を残しているんだ。そんな有望な村民をこの大災害の時期に失うような真似をする馬鹿は私の家族にはいないだろう。それに君の性格を多少なりとも知っている私の意見としては、君を捕まえようとしたら君はアラフミナ王国とケモーナ王国の両方を敵に回そうが関係なく抵抗するだろう?その場合の被害を考えたら君と敵対するよりケモーナ王国と敵対する方を選びたいね。もともとケモーナ王国とは仲が良いわけではないし。」

なるほどね。打算的ではあるが好意的なわけか。

「ならケモーナと戦争するのか?」

第三王子はニヤリと笑った。

「どうやら君は勘違いをしているようだ。戦争ではない。戦争のようなものだ。君が先陣切って相手の大将の首を落としてくれれば終わりだ。」

は?そんな簡単に終わるようなことじゃねぇだろ?しかもなにしれっと俺が戦争に参加することになってんだ?それも先陣だと?

「寝言は寝ていえ。」

「これは寝言でも冗談でもない。実は既に父とは話がついているんだ。この戦争のようなものはカンノくんのチームだけで戦ってもらうことになるだろう。それで勝てばアラフミナは無傷だ。負けてもそのまま君たちを差し出せばことを収められる。その場合は多少こちらも戦わなければならない可能性もあるがね。」

「そんな簡単に済むことじゃねぇだろ?そもそも俺らだけで戦えとか死ねっていってるようなものじゃねぇか!」

第三王子はもっと話がわかるやつだと思ってたが、さっきからわけわからねぇことばかりいいやがってイライラするな。

「私はカンノくんなら勝算が高いと思っている。そもそもこれを発案したのは妹のローウィンスだ。妹が君が死ぬしかないような発案をするとは思えない。それにこれは戦争であって戦争ではないから相手の大将の首さえ取れば終わると断言してもいい。ケモーナには戦争を継続するほどの余裕がないのだよ。」

イライラしているせいか、意味がいまいち理解できない。

「…クルムナですか?」

無言で話を聞いていたアリアがいきなり第三王子に質問をした。どういうことだ?

「本当に君は8歳なのかい?妹がいっていた通り、ずいぶんと賢い子のようだ。それに耳が早い。まぁその通りだよ。クルムナはケモーナに戦争をしかける可能性が高いという噂があってね。だからケモーナは戦力を下げるようなことはできない。そのため、負けるもしくは長引くとわかればすぐに引く。」

俺だけ話についていけてないみたいだな。
一応第三王子にも考えがあってのことだってのはなんとなく理解できたが…。

「アリア。わかりやすく説明してくれ。」

「…はい。私の推測が混じっていますが、クルムナは悪魔に襲われるとなった時点で悪魔に抵抗するよりも失った分の土地を他国から奪うことを考えたのだと思います。その標的となる可能性が高いのがケモーナ王国なのでしょう。なので、ケモーナ王国としては国を護るための戦力は残さなければならない。そのため、負けるとなった戦争で無駄に戦力を失うような選択はとらないだろうという考えで、大将の首を取ったら終わりだとルモーディア様はいったのだと思います。そして、私たちの勝算の話ですが、確かにケモーナ王国全てを敵に回した場合の勝ち目は高くないかもしれません。ですが、今回は大将…つまり指揮をとっている人の首を取るだけなので、勝算が高いと思います。」

大将の首を取るだけって、ずいぶん簡単にいっているが、そんな簡単なわけねぇだろ。
結局こっちは少人数で大人数を相手にしなきゃなんねぇんだから、勝算うんぬんの前に死人が出る可能性だって高い。
そんなことに仲間を巻き込めるかよ。

「アリアくんは本当に凄いな。ほとんど君がいった通りだよ。補足をするとすれば既にクルムナは悪魔の襲撃を受けて、ほとんどの町や村を失ったということくらいだろう。あとはカンノくんが勘違いしないように先にいっておくが、今回の戦争のようなものに必ず参加してもらうのはカンノくんとセリナアイルくんだけだ。他は君の自由にしてくれ。もちろん村に残した村民についてはカンノくんに何があったとしても生活を保障すると誓おう。」

まぁそもそも俺に拒否権はねぇな。
第三王子は戦争のようなものといっているが、戦争に変わりはねぇ。
だから連れて行けるのは簡単には死なないイーラとサーシャくらいだろう。それに今回は対人間だ。他のやつらはいざという時に躊躇しかねないしな。まぁ連れて行くのは2人が了承すればだが。

「他の選択肢よりはマシなんだろうし、その条件を飲むことにする。ちなみに期間はどれだけある?」

「まだ本決定ではないからね。これから私と一緒に王城まで来てもらって、父と話したうえで決定がくだされる。そして10日後の昼頃が開戦となるだろうね。」

「わかった。」

もう覚悟を決めるしかねぇな。
最初からこうなる可能性があることはわかってたんだ。アラフミナまで敵に回らなかっただけ良かったと思うべきだろう。


俺の返事を聞いた第三王子は立ち上がった。

「それじゃあ行こうか。」

「あぁ。」

俺は第三王子の後について王城へと向かった。

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