裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚
90話
冒険者ギルド側にある防具屋でテンコとサラの防具を買った。
さすがに魔鋼糸の防具は高いから、2人とも魔法繊維の服にした。
他にも魔鉄のチェインメイルとか魔鉄の鎧とかあったが、サイズが合うのがなかったし、2人にはゴテゴテしすぎてるのは邪魔だろう。
そういや前にアリアに頼んだ被膜の加護のことを思い出し、アリアに確認を取ると3つはできてるとのことだったから、セリナとテンコとサラの防具に付与させた。
頼んだ俺が忘れてたことをちゃんとやっておくとはさすがアリアだ。
でも前に聞いた時には1つに10日はかかるっていってた気がするが、クリアナの魔法陣のおかげか?だとしたら本当にいいものを手に入れたな。
あと、防具を買ったときに気づいたんだが、テンコはなんで靴を履いてるんだ?
サラはもともとボロい靴を履いていたが、テンコは裸足だった気がする。むしろ素っ裸だったからな。
疑問に思って確認したら、アリアが服と一緒に買い与えたらしい。
防具としての靴でなければ服屋でも普通に売ってるとのことだ。
知らなかったが、よくよく考えたら当たり前だな。
そんなあれこれがあったが、今は薬屋の前にいる。
もちろんドアには小さな看板がかかっていた。
しかもドアには初めて鍵がかかっていた。
アリアがお休みみたいなことをいっていたが、無視してドアをガチャガチャやっていたら観察眼が反応した。
咄嗟に下がると、ドアが勢いよくこちら側に開いた。
危なくぶつかるとこだったな。
「うっさいわよ!看板の文字が読めないの!?」
「あぁ、読めねぇ。」
「…読めなくても鍵がかかってたらわかるでしょ!」
まぁ今日はやってないんだなってのは薄々気づいちゃいたが、こいつなら出てきてくれるだろうというよくわからない信頼があったからさ。
「悪いな。薬が買いたくてさ。」
「なら冒険者ギルドに行きなさいよ。まぁもう開けちゃったから売ってあげるけどさ。」
なんだかんだ対応してくれるんだな。
「助かる。ってかなんで今日は休みなんだ?」
ファンタジー世界のお店って年中無休じゃないのか?
「この前、魔王が生まれたって話をしたじゃない?その魔王を討伐するために必要な薬とかの準備にお婆ちゃんが駆り出されているの。だからしばらくは休みにしているわけよ。私が暇なときは開けてるんだけど、今日は調合作業をしてたから閉めてたのにガチャガチャとうるさくて何かと思ってビックリしたじゃない。恐る恐る窓から覗いたらあんただったから良かったけど、ビックリするから本当にやめてよね。」
女は話しながら中に入り、カウンターの上の荷物をどかしていた。
俺らも続いて中に入る。
「それはすまなかった。これからしばらくこの国を出るから挨拶も兼ねてだったからさ。」
「そうなの?1年くらい旅でもするの?」
「いや、10日くらいだ。」
「は?どこの国に行くのかわからないけど、馬車で行ったら首都にすら行くことなく帰ってくることになるわよ?それともドライガーを人数分買うほどのお金の余裕ができたの?」
ドライガー?
わからないからアリアを見る。
「…イーラが移動時に変身している元になった魔物の名前です。高速移動をしたい際は1人一体に乗って移動します。荷車をつけたドラ車というものもありますが、それは馬車より少し早い程度です。」
馬車以外にも移動手段はあるわけね。
知らなかったが、普通に考えたらこれだけ魔物がいて、テイムとか使い魔契約とかのスキルがあるんだから、当たり前っちゃ当たり前だよな。
「うちには移動にイーラがいるからそこまで時間はかからないだろ。」
「何をいってるのかわからないんだけど。イーラって確かその青い娘のことだよね?移動魔法でも使えるの?」
なんか勘違いしてるな。
話すより見せた方が早いか。
「イーラ。この店のものを壊さない程度のサイズのドライガーになれ。」
「は〜い。」
一度半透明の青になってから、小ぶりなドライガーになった。
「こういうことだ。俺らが全員乗れるくらいのサイズにもなれるし、ケモーナの首都程度なら1日で行ける。」
「ガウッ!」
たぶんドヤ顔なんだろうが犬だからわかりづらいな。
「…もうあんたのことでいちいち驚くのがバカらしくなるわね。また増えた奴隷の娘も鱗族なんて珍しい娘を連れてるし、あんたはよっぽど運がいいのね。」
まぁ出会いに恵まれてることは否定しないが、未だに幸運の加護は手に入れてねぇんだよな。
「自分はサラクローサなのです。よろしくお願いしますなのです。」
サラが勝手に自己紹介を始めた。
親にちゃんと教育されたんだろうな。
「テンコ、お願いします。」
真似してテンコも自己紹介をした。
「よろしくね。サラちゃん、テンコちゃん。私はフェイバー・ディバインよ。」
そういやこいつの名前は初めて聞いたな。
これは俺も自己紹介しとくべきだろうな。
「なんか今さらだが、俺は神野力だ。力が名前だ。」
「あらためまして、アリアローゼです。」
「大食変異スライムのイーラだよ〜。」
「獣人のセリナアイルです。よろしくお願いします。」
「鬼人のカレンです。よろしくお願いします。」
「鬼のアオイじゃ。よろしくのぅ。」
「テンコ、精霊。」
「自分は鱗族なのです。」
俺に続いて全員が自己紹介した。
イーラが種族をいったからか、全員丁寧に自分の種族を紹介していた。
「いやいやいや、ちょっとおかしい。待って。」
フェイバーが右手を突き出して首を振っている。
この世界での自己紹介の仕方を間違えたのか?
「今、鬼って聞こえたけど、どこにいるの?あと、テンコちゃんが精霊は無理があるから。」
アオイは刀だからまぁわからないだろうな。テンコもパッと見は獣人だし。
「アオイはカレンの刀に憑依してる。持てばわかるけど、精神乗っ取られる可能性があるからオススメはしない。」
「妾はリキ殿の知り合いを乗っ取るほど、恥知らずではないわ。」
ん?アオイならむしろ俺の害になることを進んでやる可能性もあると思ってたんだが、仲間と思ってもらえるくらいにはなったのか?
「そうか、すまん。んで、テンコは…どうやったら証明できるんだろうな?」
そもそも精霊ってのがよくわからねぇからな。何ができたら精霊なんだ?
腕を組んで首を傾げていると、テンコが光りだした。
光が収まると、元の4本尻尾のデフォルメ狐になっていた。ただ、最初の頃にはつけていなかったリボンが首輪のようについている。
なんだよ。元に戻れるのかよ。
てっきり名前をつけたから人型になっちゃったとかかと思ってた。
「うん。わかった。もういい。獣人はそんな変身できないから、精霊として認めるよ。あんたはもうなんでもありみたいだから、疑うだけバカだわ。」
凄く投げやりに納得された。
なんでもありなのは俺じゃなくて周りのやつらなんだがな。
フェイバーが納得したのを見て、テンコは人型に戻った。
服はちゃんと着ているようだ。
「その服って変身したときはどうしてるんだ?」
「リボンにした。」
「そんなことできるのか?」
「テンコ、精霊だから。布の力、借りた。」
どういうことだ?
「テンコは布の精霊なのか?」
だとしたら戦闘では役に立たなそうだな。
「違う。テンコ、なんでもできる。だから、凄い?」
テンコが頭を差し出してきたから、てきとうに撫でる。
「凄いな。じゃあ火とかも使えるのか?」
「火があれば、使える。あるもの、なんでも使える。」
試しに火を出してみるか。
「あんた。ここで魔法を使おうとかふざけたことしないわよね?」
使う前に釘を刺されてしまった。
なんでわかったんだ?
「…たぶんですが、魔法で作られたものはテンコさんは扱えないと思います。テンコさんは精霊なので、自然にあるものに限定されると思います。」
アリアが補足してきた。
服のような加工されたものは使えてもゼロから魔法で作り出されたものはダメってことか。
アイテムボックスから水の入った瓶を取り出して、蓋を開けて床に置いた。
「これならどうだ?」
テンコが両手をかざすと、水が重力に逆らってウネウネと上昇した。
水が空中で剣の形となり、俺の前で止まった。
持てってことか?
右手で柄を掴む。
水なのにちゃんと掴めるな。
振ってみるが形は崩れないし、鉄より軽い。
振り向きざまにイーラに斬りかかったが、うまく切れなかった。
ぶつかった瞬間に衝撃が消えた感覚があり、水の剣もイーラもどちらも弾けたりとか凹んだりとかせずにそのままだ。
「あんた何やってんの!?」
「なんか今の苦しかったよ〜。」
珍しくイーラが辛そうにしている。
物理無効なのにダメージを与えられたのか?
外傷はないし、痛いってわけでもなさそうだ。
苦しいってことはPPを少し削ったとかか?
イーラのPPを確認するとけっこう減っていた。
イーラのPPが目に見えて減ってるなんて初めてなんじゃねぇか?
物理無効だからってイーラで試すのはやめた方が良さそうだな。
「すまん。物理無効だから大丈夫だろうと思ってたが、この剣は別物だったみたいだ。これからは気をつける。あとで美味いもん食わしてやるから許せ。」
「うん!」
痛いのとか痺れるのは喜ぶくせに苦しいのはダメなんだな。
よくわからん。
「スライムの魔族だから物理無効なのね。でも精霊の力で作られた剣だからダメージが入ったわけか。なんか凄いパーティーメンバーね。」
フェイバーがブツブツと独り言をいっていた。
「テンコ。これを瓶に戻してくれ。」
「はい。」
水の剣をテンコに向けると形を失っていき、瓶の中に流れるように戻っていった。
瓶に蓋をしてアイテムボックスにしまう。
さて、かなり無駄に時間を使っちまったが、この後も予定があるからとっとと薬を買わなきゃな。
アリアを見ると既に買う予定の商品を持っていた。
さすがアリアだ。
アリアがフェイバーに商品を渡してお金を払おうとしていたから、手をかざしてアリアを制止させた。
「この薬は戦闘用だからアリアの小遣いから払う必要はない。自分の金は自分のために使え。」
なんせ冒険で得た金のほとんどは俺がもらってるからな。
冒険に必要なものまで少ない小遣いから使わせるのはさすがに可哀想だ。
「あんたは相変わらず変わってるわね。」
「そうか?当たり前のことじゃねぇか?」
「それがあんたのいいとこなのかもね。」
なんかよくわからないことをいってきたフェイバーに金を渡して、買った薬はアリアに渡した。
「じゃあな。」
「はいはい。」
俺が別れの挨拶をしてかるく手をあげると、追い払うような仕草で手を振られた。
次は奴隷市場だな。
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