裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

62話



この世界に来てから朝起きるのが早くなったが、日が昇る前に起きるとさすがに眠い。

昨日はけっこう遅くまでダンジョンでマリナのレベル上げをしてたからな。

4時間寝れてないんじゃねぇか?
同じ条件なのにちゃんと俺を起こしてくれるアリアは本当に出来たやつだ。

それに比べてセリナとカレンはアリアが起こしても起きないってことで俺にベッドから蹴り落とされてやっと起きるとか舐めてんのか。

イーラがちゃんと起きてることには逆に驚いたがな。

マリナのレベル上げで一番戦ってたのがイーラなんだが、こいつの体力は底なしなのか?



マリナが奴隷になってから昨日の夜まではSPでチーム設定を取得して、チームでの戦闘を行っていた。

1つは俺がリーダーでセリナとマリナの3人パーティー、もう1つはアリアがリーダーでイーラとカレンとアオイの4人パーティーだ。

今回はマリナの戦闘訓練はほとんど行わず、俺とイーラが先頭に立ってひたすら魔物狩りをし続けた。

この数日で地下15階から40階まで攻略したおかげか、マリナはもちろんだが、他のやつらもレベルがけっこう上がってる。

俺は冒険者LV95、奴隷使いLV80、魔術師LV73、魔導師LV37、調合師LV60、魔物使いLV65、戦闘狂LV24、調教師LV60だ。

奴隷使いと調合師がカンストしたが、他に取得できるジョブがなかったから、そのままにした。

スキルは『奴隷解放』だけ新しく手に入れていた。たぶん奴隷使いのジョブによるスキルだろう。

アリアは冒険者LV82、巫女LV55、付与師LV55、魔法使いLV30、魔術師LV18、魔導師LV11だ。

もちろん新しくスキルも覚えていた。


ヒプノティック…指定した相手を眠らせる魔法。

マジックキャンセル…自身が発動中の
魔法を強制的に無効化する魔法。


マジックキャンセルって必要か?
まぁいい。


セリナは獣人族LV56、冒険者LV51、復讐者LV60になっていた。

昨日は異常なくらい魔物に対して攻撃的だと思っていたら、殺意上昇なんてスキルを覚えてやがった。

カンストした復讐者を外したらそのスキルもなくなったからよかったが、デメリットになるスキルもあるんだな。
一緒に不屈の闘志と精神強化までなくなったのはちょっと痛いけどな。

復讐者の代わりにジョブをと思ったら、暗殺者なんていうジョブが増えていたらしく、それをサードジョブに設定した。
なんかかっけぇな。

セリナもジョブとは関係ないスキルを覚えてやがった。

消音…自身が発生させる音を消すことのできるスキル。

影操作…影を意のままに動かすことができるスキル。

影移動…影の中を移動することができるスキル。

消音ってスキルもあるのか。そしたら加護はいらねぇじゃん。

というか影操作って上級魔法じゃねぇの?でも魔法じゃなくてスキルってなってるからMP消費なしで使えるってことか?
なんか忍者どころか人間離れしていくな。

カレンは鬼人族LV38、冒険者LV41だ。

新しく覚えているスキルはダンジョンマップ以外はなかったな。

アオイは鬼族LV139と1だけ上がっていた。

もちろんスキルの取得はない。

マリナは冒険者LV52、人族LV32だ。

セカンドジョブってのを知らなかったらしいから、指示して人族をセカンドジョブにつけさせた。

あとは詠唱省略を覚えさせたくらいで、他にスキルは覚えていない。




昨日まで行っていたダンジョンは人気があるからかそこまで魔物自体は多くなかった。だからこそこんな短期間で地下40階まで行けたのかもな。

ちなみにミノタウルスはいなかった。
自分がどのくらい成長出来たのかのいい目安になると思ったんだがな。

まぁそんな感じで昨日の夜までやってたんだが、それなのに今朝の起きた順番はイーラ、アリア、俺、マリナ、セリナ、カレンだ。

俺とマリナはアリアに起こしてもらったけど、イーラはアリアが起きたときには既に起きていて、俺の寝顔を見てたらしい。
寝顔なんて見たって面白くないだろうにな。



いや〜、人が多くてイライラしすぎて、無駄に回想モードに入っちまったわ。

一種の現実逃避だな。

今は第三王女が指定した場所で日が昇るのを待っている。
もうすぐ朝日が昇ると思うんだが、まだ始まらないみたいで、俺のパーティーは全員無言でボーッとしてる。
いや、俺がイライラしてるせいで会話しづらい雰囲気になってんのかもな。

そんな空気を割ったのはまさかのマリナだった。

「…リキさん。早くクエストに向かわないのですか?」

「いや、ここが依頼主に指示された集合場所なんだよ。だから人が多かろうと朝日が出るまで待つしかねぇんだよ。」

「え?じゃあもしかして、ここにいる人たちは同じクエストを受ける人たちなんですか?」

「いや、知らねぇし興味もねぇよ。でも依頼主は10日前の時点で俺ら以外に13のパーティーが来るっていってたから、そうなんじゃねぇの?」

「え!?ちょっちょっ。待ってください!」

「ちょっちょっ?」

マリナは深呼吸を1つついて、少し落ち着きを取り戻したようだ。

「私が知ってるくらい有名なAランクパーティーだけじゃなく、誰でも知ってるんじゃないかっていうくらい有名なSランクパーティーまでいるじゃないですか!これって本当にEランクのクエストなんですか!?」

「知らねぇよ。マリナが勝手にEランクっていっただけで、俺は一言もそんなことはいってねぇぞ?そもそも俺は依頼主からランクの話なんか一切されてねぇよ。」

俺が聞いていなかっただけって可能性もあるかもと思ってアリアを見るが、頷いてるから実際にいってなかったのだろう。

「お!にいちゃんもこのクエストに参加するのか?」

マリナが何かをいおうとしたのに被せるように声をかけられた。

マリナの後ろから歩いてくる人物を見るとどこか見覚えがある男だった。




…。




…あぁ、酒場で地図を売ってくれた冒険者か。


「あのときはどうも。」

「にいちゃん、今絶対俺のこと忘れてただろ!?」

「悪い悪い。記憶力があんまよくないからさ。あんたもこのクエストを受けるのか?」

「おうよ。にいちゃんもか?」

「まぁな。報酬が良かったから、とりあえず参加することにした。」

本当は奴隷以外と共闘なんかしたくないんだけどな。

「確かにこれだけのメンツなら1日で終わるだろうし、それで金貨数十枚はいいよな。他にもクエスト中に得たアイテムはもらっていいみたいだし。ただ、コアが金貨200枚ってのは少なすぎる気もするけどな。」

「あんたならコアなんか自力で手に入れられるだろ?」

こいつは強さを隠してるっぽいが、それでも俺より強いのは間違いない。
隠しててこれなら本気を出したら化物級なんだろうな。

いいやつなんだが、あんま関わりたくねぇわ。

「まぁパーティーで挑めば出来ないことはないけど、攻略後に領主にならなきゃならないのが性に合わないんだよな。」

「それは俺も同意だ。」

なんで貴族なんて面倒そうなのにならなきゃならないんだか。

「やっぱにいちゃんとは気が合いそうだ。…後ろにいる娘たちがにいちゃんのパーティーか?」

「あぁ、そうだ。」

「ずいぶん若い娘ばっかだな。しかも全員女の子とかハーレムじゃん!」

この世界でもハーレムなんて単語があるのか。

「いや、こいつらは戦闘奴隷だ。手を出すつもりは一切ない。それに自分より年下の方が扱いやすいってだけだ。」

なんか背後から怖気を感じて振り向くが、何もなかった。
背後じゃ死角だから観察眼が反応したわけじゃないが、なんだったんだ?
まぁいいか。

「年下ってにいちゃんは何歳なんだ?」

「16だ。」

「マジで!?俺と10も違うのかよ!?それならその娘たちともそこまで年は違わないのか。それにしても獣人に鬼人、いい娘たちを揃えてるね。」

「たまたまだ。俺は弱いから、強くなれる奴隷を集めただけだ。」

「弱いなんて謙遜するなよ。戦ってるところは見たことないけど、にいちゃんがそこそこ強いのは見ればわかるぞ。」

こいつも観察眼を持ってるのか?

「まぁ化物にそこそこ強いといってもらえりゃちょっとは自信が持てそうだ。」

「はっはっはっ。にいちゃんはやっぱ面白いな。面と向かって悪意なく化物っていわれたのは初めてかもしれねぇわ。その化物が保証するよ。にいちゃんは強くなる。」

「あんがと。」

上位ランカーって性格が悪いイメージがあったが、ずいぶん話しやすいやつだな。

「クラン!こんなとこにいた!先輩が待ってるから早く来てよね!」

男の後ろから女が走ってきた。

こいつも酒場にいたな。

「あら、あの時の。今日はよろしくね。」

「あぁ。よろしく。」

「にいちゃんまたな。」

「先輩に挨拶とか面倒そうだな。」

「本当それ!」

クランとかいう名前の男は笑いながら女に連れて行かれた。

ずいぶん騒がしかったな。

「リリリリリキさん!今の人と知り合いなんですか!?」

「まあ知り合いか?この前ケモーナの情報収集をしてるときに一緒に酒を少し飲んだだけだな。」

「あのクランさんとあんなに遠慮なく話せるとかリキさんは何者なんですか!?」

「あのクランってなんだよ。」

「超有名なSランク冒険者ですよ!龍すら1人で倒せるんじゃないかといわれてるクランさんですよ!」

この世界には龍もいるのか。
ってか龍すら倒すといわれても龍の強さがわかんねぇわ。

「知らねぇよ。酒屋に冒険者っぽいのがいたから声をかけたらあの男たちだったってだけだ。」

「な!?…本当にリキさんはこの人たちと同じクエストを受けるんですか!?」

「まぁ話が一致したからそうなんだろうな。」

「いったいこれは何ランクのクエストなの…。」

俺に聞いても無駄だとわかっているからか、言葉尻が小さくなっていた。

周りを見ると微かに明るくなり始め、騎士っぽいやつらが集まり始めてる。
そろそろ移動か?

「このクエストはSランクですわ。」

不意に後ろから声をかけられた。

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