裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚

葉月二三

20話



朝の光が眩しいな。

今日もアリアを抱き枕にして寝ていたのだが、そういや夜中に叫ばなくなったな。

もう別で寝ても問題なさそうだ。


ってかそんなことはどうでもいい。
昨晩は寝ようとするとクリアナが浮かんできて、ほとんど寝られなかった。

ムラムラは眠さのおかげで治ってはいるが、毎晩こんなのは困る。

自分で抜くにしてもアリアが近くにいる状態でなんて嫌だし、アリアを1人残して娼館に行くのもな…。


ここはもう1人奴隷を買うか。


もっと難易度の高いダンジョンに行くには2人じゃ厳しいだろうしな。


条件としてはアリアの面倒が見れるようにアリアより年上の女で、俺より年下のやつを探すか。
俺より年上だとなんか扱いにくそうだからで、ロリコンなわけではない。
というか奴隷に手を出すつもりはない。

ある程度の戦闘経験があると楽そうだけど、死にかけのアリアでもここまで強くなったから、問題はないだろ。



今日の行動方針を決めていると、アリアが目を覚ましたようだ。

「おはよう。」

「…おはようございます。」

「今日は奴隷市場に行くぞ。新しく戦闘奴隷を買う。」

「………はい。」

またなんか勘違いしてそうだけど、なんもいってこないならこっちから聞くのもおかしいだろうし、スルーしよう。




あんまり早く行って、まだやってないってなったら馬鹿らしいから、朝飯を食べてから行くことにした。

冒険者ギルド横の宿では朝飯が出ないからな。


「アリア。何か食べたいものはあるか?」

「…ないです。」

ないことはないだろ。

どこがいいかわからないから、適当な定食屋っぽいところに入った。

席についてメニューを見るが、文字が読めないから全くわからない。
写真とかないからな。


「アリア。値段は問わないから、この中から美味しそうなのを選んでくれ。アリアは遠慮しそうだから、同じものを2つ頼むんだぞ。いいか?」

「…はい。」




しばらくして料理が運ばれてきた。
アリアが頼んだのは分厚いステーキだった。
なんの肉かはわからないが、朝からステーキかよ。
まぁ俺は余裕でいけるけど、アリアは大丈夫なのか?

…うん、アリアは目をキラキラさせてるから大丈夫そうだな。



「これは奴隷解放の代わりの褒美だ。好きなだけ食え。おかわりしたければしてかまわないが、食べきれなさそうなら無理する必要はないからな?」

「…はい。」

「いただきます。」

食べ始めようとしたら、アリアが俺を不思議そうに見ていた。

そういやクリアナの家ではいわなかったからな。

「これは俺の国での食べる前の挨拶みたいなものだ。ちなみに食べ終わったらごちそうさまでしただ。アリアもやるか?」

「…はい。いただきます。」

チラチラと俺を見る。
やっぱ普段は落ち着いていようが、8歳の子どもだからな。
目の前に好きなものがあればこうなるわな。

「それであってるぞ。もう食べてかまわない。」

俺の許可を得たら、右手で持ったフォークをぶっ刺してかぶりついた。

女の子の食い方じゃねぇな。

そういや食べ歩きを除いたら、スプーン以外で飯を食う姿を見たことなかったな。

もしかしてナイフを使えないのか?

まぁ好きなものくらいは好きに食わせてやるか。

俺はちゃんとナイフとフォークを使うがな。

アリアは好き嫌いがないのか、付属の野菜とスープとパンもちゃんと食べていた。
あれだけ食べたのに苦しそうではなく、満足げだ。

俺でちょうどいいくらいの量だったから心配だったが、問題なかったな。

「「ごちそうさまでした。」」

飯を食い終わって外に出たが、まだ8時だ。
とりあえず行ってみて、まだやってなければ城門通りでも歩いてみるか。
今のアリアとなら歩いても問題なさそうだし。






「お久しぶりでごさいます。」

奴隷市場の前に奴隷商が立っていた。
こいつはいつも外にいるのか?


「ああ、4日ぶりくらいか?」


たいして久しぶりってほどではないはずなんだが、久しぶりに来た気がするから不思議だ。


「今日はどういったご用件で?」

奴隷商はアリアをチラ見した。
それに気づいたアリアは俺の後ろに隠れる。
どうやら奴隷商が苦手みたいだな。

「今日は新しい奴隷を探しに来た。」


「でしたらちょうどいいのが入荷しております。こちらへどうぞ。」


奴隷商の案内に従ってついていく。
連れて行かれたのは前回も最初に連れてこられた、性奴隷の広場だった。

そういや戦闘奴隷とはいわなかったな。失敗した。

今さら訂正するのも面倒だし、とりあえずオススメを見てから条件を出せばいいか。

それにしても今の俺をこの広場に連れてくるというのは嫌がらせか?
綺麗な人がいたら衝動買いをしてしまいそうだ。
まさかそれが狙いか!?いや、さすがにそこまで見極める目は持ってないと信じたい。

よし、考えを変えよう。
ここは美術館で周りは裸の彫像であり、芸術作品だ。芸術に性的興奮を覚えるのは冒涜だ。うちの近くの公共施設にもあったじゃねぇか。わざわざ見入ったりなんてしなかったし、視界に入ったところで興奮なんかしなかったはずだ。だから気にしなければいい。

よし。これで大丈夫なはずだ。あと10分くらいなら。





「お待たせしました。こちらが今朝届いたばかりのオススメ品になります。」


奴隷商が止まって檻を示すから、檻の真正面に立って中を見る。


檻の中にいる女はショートヘアで猫のような耳と芯のありそうな長めの尻尾が生えている。毛は全部黒だ。
パッと見での年齢は15歳には満たないだろうくらいに見える。

もちろん性奴隷の広場にいるから裸だ。

小ぶりな胸でスタイルがいいから動きやすそうだ。
細いのに腹筋は若干割れているっぽいし、これで柔軟性があれば戦闘の役に立ちそうだ。
しかも元の育ちが良かったのか、やけに綺麗な肌をしてるな。

年齢的にも条件に当てはまってる。

ただ、唯一気になるのは諦めた目をしてるくらいか。
他の性奴隷なんて比べものにならない目だ。
買ったときのアリアに近い。

せっかくいい体をしてるのに、このままじゃなんの役にも立たなそうだ

どこを見ているのかわからない目をしていたが、ずっと見ていたら一瞬目があった気がした。
その瞬間、猫女の顔が青くなった。
全てを諦めて、何も感じないようにしていたようなやつが、俺を見て青ざめるってなんでだ?


「こちらはケモーナ王国の元第二王女です。魅了の魔女として囚われて、死刑予定だったのですが、命だけでも助けようと奴隷として売られた次第です。」

「魅了の魔女?」

「はい。第一王女の婚約予定者を魅了の魔法で誑かしたとして、魅了の魔女という二つ名をつけられました。」

それは嘘だろうな。
本当に魅了が使えるなら、奴隷として売られてもこんな諦めた目はしないだろう。
だって魅了を使って金持ちに買わせて、好きに生きることだってできるだろうしな。
姉の怒りを鎮めるための尻尾切りといったところだろう。


「なんでわざわざ自国でなくこっちの奴隷商に売ったんだ?」

「それは自国では魔女として怖れられてしまい、奴隷となったらどんな酷い仕打ちにあうか明らかだったため、我が国の王城に最も近い私のところに売られた次第です。」

なんかおかしい気がするが…
こういうときはとりあえずアリアを見る。

「…アラフミナ王国の貴族様には人間至上主義の方が多いからだと思います。」

「どういうことだ?」

「…この人間というのは獣人と分ける意味での人間です。人間至上主義の貴族様は人族以外は魔物と変わらない扱いをするので、死刑より辛い思いをすると思います。」


なるほど。
死刑じゃ生ぬるいから奴隷にしたってことか。
できるだけ苦しむように他国に売って、自分たちはそれなりの理由をつけて偽善者ぶれるというわけか。

しかも金も入るし一石三鳥だな。

「こいつはいくらだ?」


「今のところ金貨5枚です。」

「今のところってのはどういうことだ?」

「これから買っていただけそうな貴族様に知らせを出して、ちょっとしたオークションのようなものにしようと思いまして。」

なるほどね。
人間至上主義のやつにとっては一切罪悪感を感じることなく虐待できるからな。
しかもそいつらからしたら人外の国の元王女だ。さぞ楽しめそうだな。

とりあえずは使いものになるようでなければ、金貨5枚はさすがに払えないな。


檻に近づくと猫女は一歩下がった。
さらに近づくとまた下がろうとした。

「下がるな。」

下がろうとした体勢で立ち止まった。
顔が真っ青で今にも吐きそうだ。

膝もガクガクして、立ってるのが辛そうだ。

「なんでそんなに怖がる?俺がお前に何かしたか?」

口をパクパクさせているが、言葉が出てこない。
いおうかいうまいか迷っているようにも見える。

鑑定を使った。


セリナアイル 獣人 12歳(奴隷)
獣人族LV1
状態異常:恐怖


異常状態になるほどの恐怖ってどんだけだよ。

「思ったことをいえ。」

「悪魔…。」

俺のことか?
初対面で悪魔は初めていわれたが…
とりあえずアリアを見るが、首を横に振られた。さすがになんでもわかるわけではないわな。

奴隷商を見ると俺の頭を見てから視線を戻した。

「たぶんその髪の色のせいでしょう。」

「どういうことだ?」

「今から約200年ほど前の大災害で現れた悪魔がケモーナ王国の8割を破壊したという話がありまして、その悪魔の髪が黒髪で、毛先が赤かったと伝えられているのです。」

確かに夏休みになったら美容院に行って、切ってから染め直そうと思ってたから、今はつむじあたりは黒で残りが赤っぽい茶色ではあるが、その悪魔と違って俺の髪はほとんどが赤茶だぞ?

なん…あぁ、空気すぎてすっかり忘れてたが、イーラが頭に乗ってるから、イーラ越しに見ると黒っぽく見えるわけか。んで毛先は出てるから赤っぽく見えるわけだ。

だからって怖がりすぎだろ。
普通に考えて、悪魔が奴隷を買いに来るかよ。


奴隷商に礼をいって、セリナアイルに向き直る。

「セリナアイル。」

セリナアイルの肩が跳ねる。
名乗ってもいないのに知られていることに驚いたのだろう。
隣の奴隷商も驚いている。

「確かにお前にとっては俺は悪魔かもな。」

檻に触れる間際まで進む。

「お前を陥れたやつらに復讐がしたくないか?」

「…。」

「お前が望むなら、復讐できるだけの力を与えてやる。だが、代わりに一生俺の奴隷として働いてもらう。」

「…。」

「俺はお前の命や魂を取るつもりはないが、死ぬまでの時間を全てもらう。代わりにお前の願いを叶えてやる。悪魔である俺と契約しようじゃないか?」

「…。」

いまいち反応が悪いな。
あまり家族を憎んでないのか?

あんま使いたくない脅しだったが、方向性を変えるか。


「いっておくが、俺が必要としているのは戦闘奴隷だ。だからお前が戦えなくなるようなことはしない。だが、ここで俺との契約を断れば、この後お前を買う貴族様たちはさぞやお前を可愛がってくれるだろうな。」

「…。」

ポロポロと無表情のまま、涙を流し始めた。
せっかく感情を殺してたのに、それすらも上回る恐怖で感情が戻ってしまったのだろう。
ここまでいってもダメならもう引き下がるか。


「俺は無理やり連れて行く気はない。だからお前の返事が聞きたい。ついてくるのか断るのか。好きな方を選べ。」





「…復讐の機会をくれるのですか?」





やっと喋ったと思ったら復讐か。
やっぱり自分を陥れた相手は憎いよな。

「お前がそれを望むのならな。」

「連れて行ってください。お願いします。」

セリナアイルは片膝をついて、頭を下げた。


「奴隷商。金貨5枚で良かったよな?」

奴隷商に金貨5枚を渡す。

「ありがとうございます。奴隷紋はいかがいたしますか?」

「今回はこのままでいい。」

奴隷契約のスキルを使ってみたいからな。

「かしこまりました。それでは権利譲渡いたします。」


奴隷、セリナアイルの所有権の譲渡申請がきています。許可しますか?

首輪の場合はこうなるのか。
もちろん許可だ。

許可をすると、奴隷紋ほど細かくはないが、禁止項目が設定できるみたいだ。
あと、首輪の場合は簡単に解放ができるようだ。


奴隷商が譲渡をできたことを確認するとセリナアイルの檻の鍵を開けた。

セリナアイルは恐る恐る近づいてくる。

アイテムボックスからローブを出して着せてやる。
そしてローブ越しに肩を掴んで目線を合わせる。

「そんなに怖がるな。奴隷からしたら主はみんな悪魔かもしれないけど、俺はセリナに戦闘以外を強要することは滅多にない。だから普段から気構える必要はない。」

「…。」

「だが、俺のいうことが絶対なのは他の主と変わらない。だから返事は必ずしろ。わかったか?」

「はい。」

せっかく止まった涙がまた流れそうなくらいに目に涙がたまってきた。

最初は俺と同い年くらいだと思ってたが、こうやってみると12歳で納得だな。

「既に呼んでしまったが、これからお前のことはセリナと呼ぶ。いいか?」

「はい。」

アリアを呼ぼうとしたら、既に隣にいた。
もう名前を呼ぶ前に通じるレベルになったのか?


「…アリアローゼです。リキ様の第一・・奴隷です。これからよろしくお願いします。」

なんだろう。今日のアリアはなんか違う。

「セリナアイルです。よろしくお願いします。」

「…リキ様は悪魔ではないです。とても優しい方です。なので怖がらないでください。」

「ありがとう。」

なんかいい感じだからほっとこう。


ん?頭の上のイーラが自己紹介をしたがってるっぽいな。
でもお前喋れないじゃん。

さっきまで空気だったくせにプルプルとウザいから、代わりに紹介してやることにした。


「一応この頭の上にいるやつも仲間だ。名前はイーラ。俺の使い魔のスライムだ。」

「セリナアイルです。よろしくお願いします。」

なんだかイーラが嬉しそうにしている気がする。
けっきょくプルプルとウザいな。



もうやることもないから、奴隷商に別れを告げて外に出た。


とりあえずセリナの服でも買いに行くか。


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