ワールド・ワード・デスティネーション

抜井

10

 休みが明けると僕は学校の事務と連絡を取ってあかりのことを聞いてみることにした。あかりがいなくなって一か月と少しが経っていた。そろそろ具体的に行動してもいい頃だと思ったのだ。

 事務室につくと地政学が担当の教師が出てきて僕を会議室まで引っ張っていき、そこの椅子に座らせた。
「あかりさんのことですが、」と彼は言った。
「学校側としてはだいたいのことをつかんでおります。現在は家に戻られ、そこで普通の生活を送っております。」
僕は彼の言うところの普通の生活というのがどういうことか気になったが何も言わなかった。
「ご両親とは何度か話し合いの場を設けて、そこでいろいろな話を聞かせていただきました。あかりさん本人とは今まで数回会って話をしています。彼女は今のところ学校に行くつもりはないが辞めるつもりもないということですので、現状休学という形の対応をとっております。あなたのほうでは、何か彼女から連絡はありましたか?」
僕はないと答えた。居なくなってから誰もそのことで連絡してきたものはいない。
 どうしてか、いつの間にか僕はあかりとの時間を共有した人から、何の関係もない赤の他人として枠の外へ放り出されてしまっていたようだった。そして何より、僕が何も知らない間に彼女が学校と連絡を取って話し合っていたことがなぜか悲しかった。僕はもう彼女に必要とされていないということを、目の前から言われたような気がした。
「僕が今あかりの家を訪れたとして、彼女が会ってくれるという可能性はありますか?」
「その確率は、ほとんどないでしょうね。」と彼は答えた。

 家に帰って冷たい廊下に転がり、天井を眺めた。いつの間にか蜘蛛の巣はバラバラに壊れてしまっていて、埃のような灰色の塊が隅のほうに引っ付いているだけだった。
 僕は彼女のそばで、人並みに彼女を愛そうと努めた。そのことについて今ここで語ろうとは思わない。人が人を愛す上で得る感情は誰もが知っていることだし、それを失ってしまったときの喪失感も誰もが知っていることだからだ。
 どうして彼女が僕の前からいなくなってしまったか、僕にはわからなかった。ただ僕のせいだと言われると理由はいくらでもあげることが出来たが、理由は他にあるといわれても思いつくものは何もなかった。

 とりあえず生きているのだ、と思った。彼女はとりあえず生きているし、僕も生きている。死んでしまわない限りは話はそれなりの着地点を見つけてそこへ落ち着くことになるだろう。僕はそう考えることにした。

夕方になると激しい雨が降って、すぐにやんだ。雨がやってきても7月のけだるい暑さは改善しなかった。
 僕は廊下に転がったまま目を瞑り、そのまま眠った。






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