ケーキなボクの冒険
その206 湖のほとりで
リーフは小次郎の車の中で、ずっとうつむいて考えている。
(ボクは何かとても大切なことを忘れている・・・)
今の状況はどう考えても狂っていると思うのだ。
平凡な(というより気弱な)高校生だった自分。小次郎さんに出会い、女の子になって、瞬さんに襲われ・・・
(あれ?その前は何してたんだっけ、ボク?)
クラスの女子に取り入るために毎日毎日お菓子を焼いていた。そうだ。
そして・・・
あの日はクッキーを焼いていた。
たくさん・・・アイスボックスクッキーを・・・。
父さんも母さんもいない時間なのに、ボクは誰かと会話した。
目線が随分下の・・・おじさんがいて・・・・ボクは・・・
「リーフ君!」
小次郎さんの声ではっと我に返る。
「小次郎さん・・・」
「すまない、驚かせて悪かったね・・・。キミがまた、消えそうな顔をしていたから・・・。」
リーフは何とか微笑んで答える。
「大丈夫です。小次郎さん、助けていただいてありがとうございます。あの・・・瞬さんもなのですが、美紀さんは大丈夫なのですか・・・?」
小次郎は平然と言った。
「キミは何も心配しなくていいんだよ。誰が死のうが死ぬまいがね。なるべく事を荒立てずに済ませたかったのだけどそうもいかなくなったきたから、少し手荒な真似をしてしまったが。」
2人を乗せた車は、少し山奥、川沿いの別荘のようなところに着いた。
その別荘の前には、弧を描くようにウロウロ歩き回って、興奮を隠しきれない兵頭がいた。
小太りの身体は汗だくになっている。
兵頭は車から降りたリーフを見るなり、すごい勢いで駆けよってきて、大げさなほど握手を求めた。
「これが!この子が小次郎君のお姫様なんだね!おおおお、お会い出来て光栄だよ!
しかも今さっき・・・いやいやこれはまだ後にしよう、とんでもないお楽しみだからね!
ああ、小次郎君、ボクは無粋なアイスコーヒーは飲まない主義なんだけど、今もの凄く飲みたい気分だよ!
喉がものすごく乾いていて、コーヒーが飲みたいんだからね!」
小次郎は興奮で死にそうな兵頭の肩を優しく叩いて落ち着かせた。
「そう思って、缶コーヒーを買ってきました。」
小次郎はよく冷えたショート缶を手渡す。
「おお、何たる奇跡!」
兵頭は慌ててプルトップを開け、ごくごくと飲んだ。
半分ぐらいを飲み干しあ後で、フッと冷静になる。
「・・・・ということは、キミのところにも来たんだね、小次郎君」
別人のような口調で。
「ええ。」
小次郎はキョトンとしているリーフを見つめた。
「来た・・・どなたが来たんですか?」
なぜか、小次郎は悲しそうな顔をした。
「今日は半月。キミが知りたいことは全て今夜分るよ。」
夜まで、リーフたちは静かに過ごした。
兵頭は、最初の興奮はどこへやら、ずっと無言で考え事をしていたし、小次郎は常にリーフのそばにいるものの多くは語らなかった。
リーフは色々聞きたいことがあったが、夜になればすべてわかるという小次郎の言葉を信じてジッと待っていた。
とは言っても、別荘の前にある湖はとても美しくて、花や木や昆虫がたくさんいて、散歩するだけでも退屈はしなかったのだが。
夕日は山に遮られて見えなかったが、辺りをピンク、オレンジ、紫に染めて次々に幻想的な雰囲気を醸し出している。
空には大きい半月が登り始め、少し肌寒くなってもリーフは湖を飽きることなく眺めていた。
小次郎はリーフに薄いブランケットを肩から掛けてくれる。
「リーフ君・・・」
「小次郎さん、あの、・・・」
リーフには分からないことばかりで、質問することさえ何から聞けばいいのか分からなくなっていた。
「・・・覚えていてほしい、リーフ君。今日これから何があっても、ボクはキミを愛しているということを。」
そう言うと小次郎は、ポケットから大きい緑色の石、ペリドットを取り出した。
それを草の上にそっと置く。
いつの間にか兵頭も後ろに立っていた。
「始まる・・・!」
ペリドットが月の光に照らされて、大きく光を放った。
(ボクは何かとても大切なことを忘れている・・・)
今の状況はどう考えても狂っていると思うのだ。
平凡な(というより気弱な)高校生だった自分。小次郎さんに出会い、女の子になって、瞬さんに襲われ・・・
(あれ?その前は何してたんだっけ、ボク?)
クラスの女子に取り入るために毎日毎日お菓子を焼いていた。そうだ。
そして・・・
あの日はクッキーを焼いていた。
たくさん・・・アイスボックスクッキーを・・・。
父さんも母さんもいない時間なのに、ボクは誰かと会話した。
目線が随分下の・・・おじさんがいて・・・・ボクは・・・
「リーフ君!」
小次郎さんの声ではっと我に返る。
「小次郎さん・・・」
「すまない、驚かせて悪かったね・・・。キミがまた、消えそうな顔をしていたから・・・。」
リーフは何とか微笑んで答える。
「大丈夫です。小次郎さん、助けていただいてありがとうございます。あの・・・瞬さんもなのですが、美紀さんは大丈夫なのですか・・・?」
小次郎は平然と言った。
「キミは何も心配しなくていいんだよ。誰が死のうが死ぬまいがね。なるべく事を荒立てずに済ませたかったのだけどそうもいかなくなったきたから、少し手荒な真似をしてしまったが。」
2人を乗せた車は、少し山奥、川沿いの別荘のようなところに着いた。
その別荘の前には、弧を描くようにウロウロ歩き回って、興奮を隠しきれない兵頭がいた。
小太りの身体は汗だくになっている。
兵頭は車から降りたリーフを見るなり、すごい勢いで駆けよってきて、大げさなほど握手を求めた。
「これが!この子が小次郎君のお姫様なんだね!おおおお、お会い出来て光栄だよ!
しかも今さっき・・・いやいやこれはまだ後にしよう、とんでもないお楽しみだからね!
ああ、小次郎君、ボクは無粋なアイスコーヒーは飲まない主義なんだけど、今もの凄く飲みたい気分だよ!
喉がものすごく乾いていて、コーヒーが飲みたいんだからね!」
小次郎は興奮で死にそうな兵頭の肩を優しく叩いて落ち着かせた。
「そう思って、缶コーヒーを買ってきました。」
小次郎はよく冷えたショート缶を手渡す。
「おお、何たる奇跡!」
兵頭は慌ててプルトップを開け、ごくごくと飲んだ。
半分ぐらいを飲み干しあ後で、フッと冷静になる。
「・・・・ということは、キミのところにも来たんだね、小次郎君」
別人のような口調で。
「ええ。」
小次郎はキョトンとしているリーフを見つめた。
「来た・・・どなたが来たんですか?」
なぜか、小次郎は悲しそうな顔をした。
「今日は半月。キミが知りたいことは全て今夜分るよ。」
夜まで、リーフたちは静かに過ごした。
兵頭は、最初の興奮はどこへやら、ずっと無言で考え事をしていたし、小次郎は常にリーフのそばにいるものの多くは語らなかった。
リーフは色々聞きたいことがあったが、夜になればすべてわかるという小次郎の言葉を信じてジッと待っていた。
とは言っても、別荘の前にある湖はとても美しくて、花や木や昆虫がたくさんいて、散歩するだけでも退屈はしなかったのだが。
夕日は山に遮られて見えなかったが、辺りをピンク、オレンジ、紫に染めて次々に幻想的な雰囲気を醸し出している。
空には大きい半月が登り始め、少し肌寒くなってもリーフは湖を飽きることなく眺めていた。
小次郎はリーフに薄いブランケットを肩から掛けてくれる。
「リーフ君・・・」
「小次郎さん、あの、・・・」
リーフには分からないことばかりで、質問することさえ何から聞けばいいのか分からなくなっていた。
「・・・覚えていてほしい、リーフ君。今日これから何があっても、ボクはキミを愛しているということを。」
そう言うと小次郎は、ポケットから大きい緑色の石、ペリドットを取り出した。
それを草の上にそっと置く。
いつの間にか兵頭も後ろに立っていた。
「始まる・・・!」
ペリドットが月の光に照らされて、大きく光を放った。
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