ケーキなボクの冒険

丸めがね

その205 1つの魂、2つの体

「瞬君が、世界の歪み・・・」

小次郎は唸った。
瞬が、あまりにもリーフに固執するので無関係ではないと思っていたが・・・。

「たぶん彼はこちらの世界とあちらの世界に”存在”する唯一の人間だ。1人なのに2人。違う人物だが、彼らを構成する”核”は同一なんだ。1つの魂に肉体が二つあって、それがそれぞれ違う世界に存在している、ただそれだけさ・・・」

「なぜそんなことが?」

「多分なのだが、集めるべき欠片の1つを集められなくするために、何らかの力が働いて二つの世界に引き裂いたのだと思う。そして引き裂かれた欠片は一層強くリーフ君を求めるようになっているんじゃないか。自分のあるべき姿を探すかの如く、執着と憎しみと・・・愛を感じるね。」

「それで瞬君は執拗にリーフ君を手に入れようとしているのか。」

小次郎は納得出来た気がした。瞬のリーフに対する感情と行動に狂気を感じていたからだ。

「瞬君は、リーフ君をどうしたいんだろう・・・」

そう問われて、兵頭はジッとコーヒーカップの中に残ったインスタントコーヒーを見た。

「瞬君は、世界を壊してみたいんだと思う・・・。それはきっと純粋な興味なんだ・・・。世界を亡ぼす者を見てみたいだけかもしれない。つまり・・・」

「瞬はリーフ君を・・・」

「生贄にするつもりだろうね。二つの世界の終焉の。そして世界が滅びた時に唯一生き残るとしたら、どちらにも所属することのない瞬君ただ一人だろう。彼は混沌の世界の王になるんだ」

「仕方ない。あまり使いたくなかったが最終手段だ。」
小次郎は酷く冷たい瞳でそうつぶやく。


*****


「ねえ、リーフ。ボクは何も大したことをしたいと思っている訳じゃないんだ。ただ、面白いことをしたいだけ・・・。」
瞬は怯えるリーフにアイスティーを勧めながら話し始めた。

輪切りにしたレモンと、少量のお酒が入っている。

「小さいころから、いつも何か足りないと思いながらボクは生きてきた。全てに恵まれていたけれど、どこかに何かを置き忘れたような気分なんだ・・・。分かるかな?」

リーフはお酒が入っているとも知らず、今まで飲んだこともないほど美味しいアイスティーを少しずつ口に含む。
(とにかく・・・あの電話の後からは瞬さんが襲ってこなくなって良かった・・・)
と思いながら。

「研究をしたり、商売をしたり、どんなに成功してもやっぱり満たされない。そうだね・・・魂が半分迷子になってる感じ。すごく変に聞こえるだろうけど、結局それは当たっていたんだよ。」

「え?」

リーフはいつでも微笑んでる瞬の顔を見た。
(あれ・・・この感じ・・・どこかで・・・知っている。瞬さんではない誰か・・・)

でも記憶に霧がかかって思い出せない。

その時、瞬のスマホに電話がかかってきた。

「瞬・・・」
姉、美紀の声。
「小次郎が・・・」

小次郎は新婚の妻に、強力な自白剤を使い瞬の居場所を聞き出していた。

「おやまあ。小次郎さんもついに切れたかな。じゃあ、もうすぐ・・・」

言い終わらないうちに、瞬とリーフがいる部屋の扉が開いた。

小次郎が立っている。

「都内にいてくれて助かったよ、瞬君」
小次郎の口調は穏やかだが、大きな怒りを含んでいるのが分かる。

「小次郎さん!」
「リーフ君・・・!無事だったのか」

小次郎は驚くリーフの手を取った。たまらずそのまま抱き締める。

「さあ、ボクと行こうリーフ君。安全なところへ。文句はないだろう、瞬君。
そうだ、早くいかないとキミのお姉さんは二度とまともに話せなくなるよ。少しばかり強い薬を使ったからね」

「ふうん。昨日結婚してばかりの新妻に酷いことするんだね。まあ、ボクは別に彼女がどうなってもいいんだけど。」
と言いつつ、瞬はリーフを連れて出ていく小次郎を止めなかった。

「リーフを抱くといいよ、小次郎さん。欠片は集めるほど、世界の終わりが美しく、絶望的になるのだからね。」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く