ケーキなボクの冒険

丸めがね

その189

浜辺に倒れていた男はリーフの後ろに回り込み、剣を持つ手の上から握りしめた。
「振れ!」
風のレイピアを力強く上から下に振り下ろす。
かまいたちのような鋭い風が肉の塊の化け物を縦に真っ二つに切り裂いた。
ブシャッ
返り血がリーフの全身に浴びせかかる。
「うわあああああ!」リーフが叫んだ。
男がもう一太刀浴びせると、化け物は4分割された。
「やめて!やめてよ!この・・・この人たちはまだ生きているんだよ!」「お前は馬鹿か!よく見ろ!顔だけになった人間が生きているわけない!」
すでに倒れてバラバラになっている化け物から、ゴロンゴロンと人間の頭部が転がり出てくる。何十体あるだろうか、そのすべての顔は苦痛に歪み切っていた。
「どうして・・・こんな・・・」眩暈とともにその場に崩れ落ちるリーフ。
「さあ、祈れ」男はリーフにレイピアを握らせた。「え?」この時、リーフは初めて海に倒れていたこの男の顔をしっかりと見た。
精悍な顔立ち、たくましい体、そして紅い髪と優し気な茶色の瞳。(アーサーさんに似ている・・・)この人は信用できる、リーフは直観でそう思った。
「で、でも祈るって、どうすればいいか分かりません」「お前は知っているはずだ」「・・・・」これ以上聞いても無駄だと感じたリーフは、自分なりに祈ってみた。
剣を握り、目を閉じる。
するとすぐ、指先から全身が暖かくなってきた。と同時に青い光がリーフを包む。(この感じ・・・これは・・・覚えてる・・・。大きなハエになったエリー姫に向かった時、同じ光が出てきたんだ・・・)
青い光はうごめく肉塊に届き、優しい川の流れのように広がっていった。
さっきまで苦しげな表情をしていたたくさんの頭部は、眠るような穏やかな顔になり、やがて消えた。
「・・・出来たの・・・?みんな行っちゃった・・・」「よし、じゃあ俺たちも行くぞ!」男はぐったりしているリーフの腕を引っ張って言った。
「え・・・・?行くってどこにですか・・・?!ていうかどうして・・・・って、あなたは誰ですか?!!」男は振り返ってニヤリと笑った。
「俺の名前はダグラス。ツルギの国の第一王子だ。」
「王子・・・ツルギの国・・・・。・・・
・・・
えええええーーーーっ!じゃあアーサーさんのお兄さん?!」
ダグラスは赤く長い髪を揺らしながら高らかに笑った。



不思議なもので、ダグラスの後をついて歩くと、永遠に続くかと思われたうっそうとした森もすぐに開けた道に出ることができた。道中リーフは、ダグラスにいろいろ聞きたいことがあったのだが、質問するとダグラスは面倒くさそうに「黙って歩け」と言うだけで答えてくれなかった。
小高い丘の、心地よい風を浴びながらダグラスがリーフの方を方を向いて言った。「よし、もうすぐ街に出るな。で、お前どっちがいい?」「どっちって、何がですか?」「場所だよ」「場所?」「街か、外か。」「・・・・???」「ったく分かってないのかよ。どこで俺に抱かれたいのかって聞いてんだよ!選ばしてやるから早くしろ!」
「えーーーーーっ?!!!」リーフの開いた口はしばらく塞がらなかった。

しかしようやく気を取り直して言う。「あの、どうしてボクがあなたに抱かれなきゃいけないんですか!そりゃ、化け物から結局助けてもらったし、森から出してもらったけど、そもそも浜辺で倒れているところを助けてあげたのはボクなんですけど!」「ふーん。お前、気が付かないとでもいうのか?」「・・・え・・・?」「気が付いてるはずだ、そうだろ?」図星だった。
この偶然にしても出来過ぎている出会い方、アーサーの兄という事実。考えたくなかっただけだった。
「それじゃあ、ダグラスさんも・・・。赤の欠片を宿す者、なんですね・・・」「そういうこと。俺にはでっかいのがあるぜ。多分、一番デカいんじゃないか?そして多分、唯一・・・」
ダグラスはおもむろに皮の手袋を脱ぎ捨て、手のひらをリーフに向けた。
「あっ・・・!」リーフに、今まで感じたことがないほどの衝撃が走る。
両方の掌に、ドラゴンの目が付いていた。しかも体内に埋まっているのではなく、半分浮き出ている。
その、紅いドラゴンアイは、静かに目を開いてリーフを見た。
「わわわ!」後ずさるリーフ。尋常ならざる熱気も感じる。「こいつを出したままだと熱くてね。氷ネズミの皮で出来た手袋をしてないとなんにも出来ない。悪いが、手袋をしたまま抱くぞ。」バッリーフはほぼ反射的に、ダグラスが落とした手袋を拾った。「何やってるんだお前は」「て、手袋がないとエッチできないんでしょう?!」
リーフは手袋を抱えて走り出した。

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