ケーキなボクの冒険

丸めがね

その182

クルクルはリーフの血が落ちた土をすくい上げて黒い袋に入れた。
目の前から心臓を刺されたリーフがいなくなったことで動揺するマーリンとララ。
「2人とも落ち着いて。ボクは森の大賢者クルクル。出来ることを全てするから。」クルクルはてっぺんの金色のくせ毛をなびかせながら言った。

随分前にリーフの前から姿を消して以来、森の大賢者クルクルはこの世界を救う方法を模索しながら旅していた。どんな難問にも必ずヒントがあるように、クルクルが預言者メリッサに出会ったのもそれだった。森の動物が彼女の存在を教えてくれたのだ。
(わかる人間がいる)、と。

クルクルは、シャルルとヒュー、リーフがかつて尋ねたメリッサの家に行った。
もちろん、預言者メリッサにはこの出会いが分かっていた。戸口に立って今や遅しと待っていたのだから。「ようこそ、ようこそおいで下さいました、賢者様。あなたもまた、運命の輪の中にいらっしゃるのですね。」
メリッサは、クルクルが”今出会うべき人物”が見えると言った。
「ツルギの国の酒場に紅い髪の王子がいます。その王子と会うと、一人の男と一人の女がついてくるでしょう。その人たちがリーフちゃんを救う鍵となります。」「うん、わかった。じゃあ行かなきゃね。ああ、でもメリッサさん、その前に、この美味しそうな匂いのスープを一杯分けてもらえないかな?」クルクルに会うことで緊張していたメリッサは途端に笑顔になった。「もちろん、食べて下さいまし!賢者様に食べていただけるなんてどれほど光栄か・・・!たくさん召し上がって下さい!」
スープを美味しそうに食べるクルクルを見ながらメリッサは言った。「私はおこがましくも預言者を名乗っていますが、賢者様に私のスープを召し上がっていただくということは見えていませんでした。賢者様、未来を読むということは、昨日見た夢を思い出すようで、本当に不確実でよく分からないことなのです・・・。そして、私がどんなに恐ろしい未来を見ても、私自身は手を出せないということが分かってきました。”運命”に任せるしかないのです。どうして、誰が私のような傍観者を作ってしまったのか分かりませんが、これは私が”やらねばいけないこと”だと言うことも分かります。」
クルクルはただ一言だけ言った。「すべて一つ」と。
その後、クルクルはツルギの国の酒場でアーサーと出会った。崖の下の町で、ジャックと記憶喪失になっていたリーフが数日間夫婦になっていたことを知り、ショックを受けて姿を消したアーサー。
アーサーは、時折感じるリーフの”気”から逃げるように酒を飲んでいた。逃げれば逃げるほど、大きくなるその気配に苦悩する日々。
ある日・・・クルクルがその酒場に顔を出した日、その時、アーサーは苦しさから酒におぼれ、叫んでしまったのだ。
「リーフ!リーフ!!」
「リーフぅ?」
人の多い酒場で椅子から立ち上がる二人の人間。「今お前、リーフと言ったか?!」
それは、スカーレットとベイドだった。
「みなさん、お揃いで。メリッサさんの予言通りだなぁ。」そう言ったのはもちろんクルクル。
クルクルはいぶかしげな顔をする3人を集めて事の次第を話し始めたのだった。

そして話の後、クルクルはメリッサから聞いたもう一つの予言を伝える。「リーフが死ぬかもしれない。」メリッサには見えていたのだ。心臓を刺されて姿を消すリーフが。


クルクル、アーサー、スカーレット、ベイドが出会い、4人はすぐにホシフルの国に向かった。しかし時すでに遅く、リーフはヒューによって心臓を刺され、消えた後。
森の大賢者クルクルは分かっていた。リーフの行き先は”異世界”であることが。
クルクルは大賢者の知恵と魔力を持って異世界からリーフを救い出そうとしたが、アーサーとスカーレットを一瞬届けるのが限界だった。


「くっそう、リーフはどうなるんだ・・・!」再び机をドンと叩くアーサー。
クルクルは目を閉じた。「待つしかないね。この世界を動かしている大きな力が、必要ならばリーフを返してくれるだろうから。必要ならば、リーフを生かしてくれるだろうから。」
「世界なんか知るか!!リーフが必要なのは俺だ!!」
アーサーの叫びをリーフは知らなかった。

*****

「美紀さん・・・」隣のベランダで微笑む美紀を、大ちゃんは茫然として見た。
「ゴメンナサイね。私は小次郎が好きなの。瞬も、血が半分しかつながっていないとはいえ弟だし、願いをかなえてやりたいわ。つまり、あなたを瞬に差し出すということは一石二鳥なのね。」
「美紀さん、ボク、小次郎さんの前から姿を消すのは、そうした方がいいと覚悟しているんです。でも、瞬さんのところに連れて行くのは止めてください。もう・・・嫌なんです。」
「だめよ。あなたは苦しまなくちゃ。」「え?」「だってこの私を苦しめたんだもの。」「そんな・・・」
大ちゃんの言葉は、いつの間にか後ろに立っていた、大きな男に打たれた打麻酔注射によって遮られた。一瞬にして男の腕に倒れ込む大ちゃん。
美紀はひらりとベランダの柵を乗り越えて、大ちゃんの側に来た。意識のないピンクの頬をそっと撫でる。
「大丈夫、安心して。瞬にたっぷり可愛がってもらえるから。」

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