ケーキなボクの冒険

丸めがね

その171

イキナリ入ってきた美女は、半裸の大ちゃんとその上に乗っかる小次郎を見て一瞬で顔を真っ赤にした。
「美紀」小次郎が美女の名前を呼ぶ。
「アタシの小次郎に何してんのよ、アンタ!」美紀が大ちゃんに向かって突進してきた。
いくらニブイ大ちゃんでも、この美女は小次郎の彼女(?)かなにかで、今のこの状況を誤解しているということは分かった。
「違うんです!誤解です!」小次郎の体の下で叫ぶ大ちゃん。しかし美女は、止めようとした小次郎を押しのけて大ちゃんに掴みかかってきた。「このドロボウ・・・」美紀が手を振り上げたので、ぶたれる!!と思い大ちゃんは目をつぶった。
しかし数秒経っても痛みがやってこない。
「・・・?」大ちゃんがおそるおそる目を開けると、明らかに困惑している美紀の顔がそこにあった。
「あれ・・・男の子じゃない、この子・・・。男の子なの?」「え?」美紀が見ている自分の胸に目を落とすと、白い巨乳が消えていた。


「ごめんなさいね。なぜだろ・・・大くんが女の子に見えちゃって。小次郎が事故を起こしたあ相手だったなんてね・・・。本当にスミマセン!」大柄な気の強い美女は、カールした長い髪を揺らしながら大ちゃんに頭を下げた。
「いいんです、いいんです!紛らわしい状況だったんだし!」大ちゃんは手をワイパーさせながら笑顔を作る。作ると言っても笑顔は本心だった。男に戻れたのだから。
一番困惑していたのは多分小次郎で、眉間にしわを寄せて難しい顔をしていた。実は小次郎、大ちゃんが「初めから女の子」だったという説を捨てきれずにいたのだった。何かの事情で男の子として生きてきて・・・というマンガみたいな展開かも、と。
しかし今、大ちゃんは確実に女の子だっ体から男の子になった。自分の目で、見てしまった。一体これは、本当にどういうことなんだろう・・・。
小次郎の考えを遮るように美紀が話しかける。「でも、どうして小次郎がこの子に乗っかってたのよ?」「それは・・・あの時のケガの様子を知りたくて。医者を目指す者としてね。」
小次郎はそつのない答えを口にした。
「そうね、小次郎ならその辺の藪医者より、よっぽど優秀でしょうし。でも、あれじゃどう見ても襲ってるようにしか見えなかったわよ。目撃したのがアタシじゃなかったら誤解されたわよ。通報よ通報!」
自分も誤解したくせに、という一言をグッと飲み込む大ちゃん。しかし美紀は大輪の花のような笑顔を見せて全てを帳消しにするのであった。
「そうそう、アタシ、謝っただけで自己紹介がまだだったわよね!神奈川 美紀、といいます!小次郎と同じ大学の同じ学部の同い年、21歳よ!」「ボクは、山本 大と言います・・・。」「もしかして大くん、美紀の顔どこかで見たことあるかもしれないよ。海外ブランドの日本モデルとかしてるから。広告のポスターがデパートとかに貼ってあるしね」と小次郎。「やーね、父の会社のコネみたいなもんで採用されたのよ。一年だけだし、モデルなんてただの暇つぶしなの。」一生に一回は言ってみたいセリフである。あいにく大ちゃんはブランドにもデパートにも縁がない生活をしているので、アハハ凄いですねとお愛想笑いをするしかないのであった。生まれながらのスーパーリア充美紀vsダメダメ高校生大ちゃん。普通なら何の接点もなさそうな二人だ。
「で、何の用なんだ美紀。」「え?」「用があるからここに来たんだろう?」美紀はちょっとムッとした顔をした。それすらも絵になる。「用がなきゃ来ちゃいけないのかしらね・・・。この私にそんな言い方するなんて、この辺りの大学全部合わせても小次郎ひとりよ。・・・まあ、いいわ。そうそう、用はあるの、残念ながら。週末にアメリカのM大と、イギリスの0大に留学している日本人20人くらい知り合いが一時帰国するの。で、軽くパーティーするつもりなんだけど、小次郎にも参加してほしいなって。みんなあなたに会いたいって言ってるのよ。」「パーティーは苦手なんだよ、美紀。」「ヤダそんなこと言わないで。私がこうしてわざわざ誘いに来るのは小次郎しかいないのよ?あ、そうだ、この子!大くんもお誘いするわ!パーティー楽しいわよ・・・。ね、いいでしょう?」大ちゃんに向かってウインクする美紀。”いや”とは絶対言えない雰囲気が漂う。そもそも大ちゃんに勝ち目があるわけはなかった。数秒の沈黙を「イエス」と取って、美紀は手を叩いて喜んだ。「よし、決まりね!じゃあ週末、金曜日の夜、小次郎と大ちゃんのウチまで車を回すから待っててね。あ、そうそう二人にはお揃いのスーツをプレゼントするわ!それを着て来てね!」
絶対やめてください小次郎さんととお揃いなんて公開処刑です勘弁してくださいと言う間もなく、美紀は意気揚々と帰っていった。後に残ったのは茫然とする大ちゃんと苦笑いする小次郎、それに甘い香水の香り。
「しかたないね。今週末は大くんをパーティーにエスコートするよ。」小次郎は超イケメンの顔で微笑んだ。

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