ケーキなボクの冒険

丸めがね

その150

リーフのことをとても心配するミナに、丁寧にお礼を言い、別れを察して大泣きする赤ちゃんのボルトを慰めて、リーフとロザロッソは崖の下の町を後にした。
「大丈夫よ。アーサーとジャックは、時期が来たらきっとあんたの前に姿を現すから。とにかく今は二人で進みましょう。」いつになくリーフにやさしいロザロッソ。
崖の上の町まで登る地下道は、どこまでも暗く長い長い階段が続いて体力的につらい行程だったが、リーフは日の光が差す出口で仔馬のクロちゃんに会うまであまり記憶が残ってなかった。
記憶喪失の影響なのか、ジャックとの出来事が衝撃的過ぎたためなのか分からない。
ただ、汗を流して体力の限り階段を上り続けるという行為は、体も心もかえって癒してくれた様だった。

クロちゃんと抱き合って再会を喜び、気持ちの良い日差しと風を浴びると、リーフは少し元気になって前向きな気持ちになれてきた。

「落ち込んでるだけじゃ、ダメな気がするんだ。」リーフはロザロッソに、崖の下の町であったことを覚えている限り全部話した。ロザロッソはうんうんと、母親みたいにうなずきながら聞いてくれた。
2人とクロちゃんは崖の上の町で必要な物を揃え、ツルギの国に向かって出発している。その道中、ゆっくりと歩きながら話し合っていた。
「あんたも、ホントここ数日でいろいろあったのね。・・・体は、大丈夫ね?」「うん・・・」「そのクロードって医師に無理矢理乱暴されたのはショックだったでしょう。初めてがそれだなんて可哀想すぎるわね・・・」「うん・・・・。でも、どうしてかな、ジャックさんと・・・しちゃったってことの方が、思い出すとショックなんだ。」「そうなの?でも、アンタの話を聞くと、ジャックに迫ったのはあんたからじゃない。」「うう・・・そうなんだけど・・・。」「そりゃあ、ジャックだって男だもの、好きな女が抱いてくれって言ったら抱くわよ。」「だってボクは記憶を・・・」「あ~、自分だけ被害者ぶるのって嫌いよ、アタシ!ジャックはあんたをかばって大けがしたし、アンタを守ろうと必死だったんでしょ?わかんない?」「わかってるけど!!」

ロザロッソの言葉はきついが、リーフは彼と話していると心が軽くなるのを感じていた。思っていることを全部聞いてくれて、言いたいことを言える相手。そしてちゃんとアドバイスをくれる。
「アタシはね、体は男、心は女よりだからどっちの気持ちも分かるのよ。ねえ、アンタがクロードに襲われた後、ジャックはなんて言ったって?」「・・・たとえ何があっても、ボクのことを愛してるって・・・」「それなのよ!愛ってそういうことなのよ!!アンタは確かに記憶をなくしていたけれど、そのジャックの愛を受け入れただけ。その気持ちはホンモノだった、でしょ?」
「うん・・・」「ショックだったってことは、心が動いたってこと。アンタは、ジャックのことが好きなんじゃない?」
「・・・」まだ、それはよく分からないリーフだった。

「でもさ、実はそんなにたいしたことじゃないでしょ、アレって。」ロザロッサはカラッと言う。「ええっ?」リーフは色々思い出して真っ赤になる。
「やったからってさ、自分や世界が変わるわけでもなくて。ただ知らなかってことを知っただけ。知るってことは、悪いことじゃないわ。」
「・・・そうだね・・・。実は、確かに、ジャックさんと何度も・・・しているうちに、特別なことじゃなくて普通のことだって思えるようになった気はしてたんだ・・・。好きならあたりまえなんだって。」
「でしょ?!たいしたことじゃないんだって!!てか、あんたたち何度もしたの?!で、ジャックはどんな感じだったの~!!」
「もう聞いてらんないよ!!」たまりかねて仔馬のクロちゃんが怒り、ロザロッソの髪にかみつく。「なにすんのよ~」とロザロッソがクロちゃんを追いかけまわす。それを見て、リーフは久しぶりに声を上げて笑った。


隣の町まではまだ遠いので、その晩は野宿することになった。「野宿って言ってもね、この街道はツバサの国からツルギの国へいく旅人が多いから、寝泊まりするのによく使われてる快適な洞窟があるのよ。」
さすが商人の息子、旅の道には詳しいロザロッソ。
たしかにその洞窟は、ちゃんと入口に簡単ではあるが木の扉が付けてあって、獣が入らないように出来ていた。中の地面は平らにならしてあり、焚火をする穴もあって過ごしやすそうだった。岩肌には旅人たちの落書きもしてある。
「アタシ水を汲んでくるから、アンタは火を起こしてて。」
「は~い」リーフはロザロッソに言われて火を起こそうとするが、相変わらずうまくいかない。「ううっ、手のひらが熱い・・・」「やだ、アンタまだできてないの?」30分ほどしてロザロッソが川から帰ってきた時にもまだリーフは火起こしと格闘していた。
「ほんっとに不器用ね、ちょっとどきなさい!こんなんじゃ夜になっちゃうわ!」ロザロッソはリーフの代わりに木の棒をこする。するとどういうわけかあっという間に煙が上がった。
「すごーい!ロザロッソさん上手だね!」きゃっきゃとはしゃぐリーフ。「これぐらい当然よっ!」フーフーと煙を仰いで火をつける。パッと赤い炎が、リーフの顔を照らした。
「・・・よかった。あんたはやっぱり、何も変わってないわよ・・・。」「ロザロッソさん。」リーフは顔を赤くしたまま、ニコッと笑う。
その時、ロザロッソに不思議な感情が芽生えた。心と体が熱くなる、あの不思議な感情・・・。
「きっと焚火のせいね。」独り言のようにつぶやいた。

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